「日露2+2会合」再開のインパクト

ほとんどのメディアは注目していませんが、今週、ドイツで「G20外相会合」が行われました。そして、この会合は日本にとって、2つの重要な成果をもたらしました。このうち、本日は「日露2+2会合の復活」について取り上げてみたいと思います。

形骸化著しいG20会合

ボンのG20外相会合はメディアがスルー?

ドイツの地方都市で、旧西ドイツ時代の首都でもあったボンで、現地時間木曜日から金曜日にかけて、G20外相会合が開催されました。

G20ボン外相会合(2017年2月17日付 外務省ウェブサイトより)

ただ、近年「G20会合」の形骸化は激しく、日本を含めた各国の主要メディアはほとんどこのニュースを報じていません。G20とは、G7に加えて、ロシア、中国、インドネシア、トルコ、豪州、インドなどの「地域大国」から構成される組織ですが、リーマン・ショック直後のような金融危機の時と違い、現在ではすっかり目立たなくなっている格好です。

いちおう、今回のボン外相会合に関しての報道を調べてみたのですが、私が契約している英フィナンシャル・タイムズ(FT)や米ウォールストリートジャーナル(WSJ)には特段の報道はなく、米国主要メディアの中で目立ったのは、ワシントン・ポスト(WP)の次の報道くらいでしょう。

Tillerson, in diplomatic debut, urges Russia to pull back in eastern Ukraine(2017/02/16付 WPより)

WPは「ティラーソン国務長官にとっては初の外交デビューとなったボンでの外相会合で、ロシアに対して東ウクライナからの撤収を要求した」と報じていますが、「要求した」だけであって「合意」ななされていないため、米国にとっても今回のG20に何らかの「成果」があったわけではなさそうです。

日本にとって重要な2つの成果

ただ、日本にとっては重要な成果が2つありました。

一つは、韓国の尹炳世(いん・へいせい)外相との「慰安婦像」を巡る会談が物別れに終わったことであり、もう一つは、岸田文雄外相がロシアのラブロフ外相と3月20日に東京で「2+2会合」を行うことで合意したとするものです。

このうち、「慰安婦像設置問題」について、岸田外相が取り合わなかったことは、とりあえずは良かったと思います。私は、2015年12月の「慰安婦合意」自体が日本にとっては大きな失敗だったと見ているのですが、遅くとも来年に発足する韓国の新政権は、ほぼ間違いなく慰安婦合意を覆そうとするでしょう。この問題で日本は今後、韓国には一切譲歩する必要がありません。

ところで、もう一つの「2+2会合」が、どうして「日本にとって重要な成果」といえるのでしょうか?本日は「日露関係」に焦点を絞って、その概要を確認してみることにしましょう。

日露関係、新たな展開へ

2+2会合の現状

日本のメディアはあまり報じませんが、最近、日本は多くの国と「2+2会合」を開催し始めています。これは2カ国間の外相と防衛相が4人で会談するというものであり、外交と軍事両面にわたり突っ込んだ意見交換が期待されるものです。

日本が行っている「2+2会合」としては、日米外相・防衛相会合が有名ですが、実は「2+2会合」は米国のみを相手に行っているものではありません(図表1)。

図表1 日本と外国との主な「2+2会合」
相手国日付・回数概要
オーストラリア2007年6月6日に第1回会合が行われ、2015年11月22日に第6回目の会合が持たれた今年1月には安倍総理自身が訪豪し、ターンブル首相と首脳会談を行っている
フランス2014年1月16日に第1回会合が行われ、今年1月6日には第3回目の会合が持たれた日仏防衛装備品・技術移転協定が発効するなどの多大な成果が上がっている
英国2015年1月21日に第1回会合が行われ、今年1月8日には第2回目の会合が持たれた英国側から日本の国連常任理事国入りに対する強い支持が表明されるなどの成果があった

(出所)外務省ウェブサイトより著者作成

つまり、日本には憲法第9条第2項という「欠陥条項」の制約があるにもかかわらず、外国との間で、防衛担当の閣僚による「2+2」会合を旺盛に開催しており、多大な成果を上げているのです。

安倍政権の、地道だが重要な成果

ところで、日本が「2+2」会合を様々な国と開催することができるようになった大きな要因としては、2007年1月9日に、それまでの「防衛庁」が「防衛省」に格上げされたことが挙げられます。

当時の政権は、小泉純一郎政権の後継政権として発足したばかりの安倍晋三政権でした。そして、2007年6月には、早速、麻生太郎外相(当時)らがオーストラリアの外相・国防相と会談を行ったのです。

もちろん、「2+2」会合自体は、防衛省が発足する以前から、米国との間では行われていました。しかし、やはり「防衛庁長官」よりも「防衛大臣」の方が、国際的な発言力も高まりますし、外国との交渉においても効果を発揮することは間違いありません。

安倍晋三総理大臣(当時)は2006年9月に就任し、矢継ぎ早に、防衛庁の省への昇格や改憲手続法の制定などの多大な成果を上げたのですが、残念ながら「消えた年金問題」などで朝日新聞社からの猛攻撃を受け、難病である潰瘍性大腸炎を発症し、2007年9月には退陣してしまいました。

「安倍晋三政権がもう少し長続きしていれば、日本も今のような惨状になっていなかったのに…」。

私はその後の日本政治の迷走を見て、何度そう思ったかわかりません。その意味で、2012年12月に、安倍晋三政権が奇跡の復活を遂げたことを、わがことのように嬉しく感じたことは言うまでもないでしょう。

ロシアとの「2+2会合」

さて、「2+2会合」は、外交・国防分野で深く突っ込んだ議論ができるため、相手国次第では、とても有意義な会合です。そして、今回のボン外相会合では、ロシアのラブロフ外相との間で、来月、東京で「日露2+2会合」を開催することで合意しました。

不思議なことに、日本語のメディアはこのニュースをほとんど取り上げていないようですが、これは極めて重要な会合です。

前回の「日露2+2会合」は、2013年11月2日に東京で行われたものの、翌年にロシアによるクリミア半島併合とウクライナ危機などが発生したことなどを受けて、中断されたままになっています。これを、およそ3年半ぶりに再開し、東京で「2+2会合」を開催するというものであり、私はこの決定を素直に歓迎したいと思います。

ロシアと中国のメディアの報道

日本の新聞などがあまり報じていないこのニュースについては、ロシアの「タス通信」、さらには中国共産党の機関紙である「環球時報」の英語版が、それぞれ短く伝えています。

Russia-Japan talks in 2+2 format to be held in Tokyo on March 20(2017/02/17 16:45付 タス通信英語版より)
Foreign, defense ministers of Russia, Japan to meet in Tokyo(2017/2/18 7:54:42付 環球時報英語版より【新華社配信】)

このうち、タス通信については、

  • ロシア外務省は金曜日、来月20日に日露両国が東京で「2+2形式」の会合を持つことを明らかにした
  • 両国はこれ以外にも、第一副大臣レベルでの実務者レベル会合を、3月30日に東京で開催する
  • 3月18日には南クリル諸島での共同経済活動を巡って、両国の副外相級での実務者協議を行う

としています。また、タス通信は、今回の両国外相会談が2016年12月に行われた日露首脳会談で合意された内容に基づくものであると説明。さらに、アジア太平洋地域の安定に関しても意見交換が行われたとしています。

一方、このニュースに「食いついた」もう一つのメディアは、中国共産党の事実上の機関紙である「環球時報」の英語版(Global Times)です。

環球時報は事実関係として、日露外相が「2+2」開催で合意したことを紹介しつつも、

「2+2会合」が開催されることの目的については開示されていない(It did not disclose purposes of the “2+2 format” consultations.)

と、警戒感をにじませています。また、環球時報は

日本が北方領土、ロシアが南クリルと呼ぶ地域を巡る対立は、第二次世界大戦後の両国間での平和条約締結や外交、通商関係を阻害している

としており、また、両国による対話が続く一方で、ロシア側が北方領土の5つの無人島に島名を付けたことに対し、日本が抗議したことを紹介しています。

北方領土問題の「解決」急ぐな

日露2+2会合の3つの目的

ところで、環球時報は「2+2会合の目的は不明だ」としていますが、「日露2+2会合」には、日本側から見て、明らかに2つの目的があります。それは、

  • 北方領土での人的交流を進めること
  • 日露両国が関係を改善し、中国を牽制すること

です。

私の理解だと、安倍晋三政権の外交上の最優先課題は、中国の軍事的暴発リスクを抑止することに置かれています。先日の日米首脳会談では、尖閣諸島に日米安保条約第5条が適用されること、中国を名指ししなかったものの、中国の東シナ海や南シナ海への進出を強く牽制するなど、多大な成果があがりました。

そして、安倍政権は、日米の結束の強さを見せつけたうえで、改めてロシアとの関係強化を推進するつもりなのです。

着々と進む「日露交流」

ところで、改めて外務省のウェブサイトを確認してみたのですが、日露関係では、非常に興味深いことに、現地レベルでの交流は進んでいます(図表2)。

図表2 最近の日露交流
項目概要備考
患者の受入れ北方四島住民支援事業の一環として、人道的見地から、択捉、国後などの患者を北海道の病院にて受け入れるなどの支援を行っている北方四島からの患者受入れは1998年度から実施しており、2015年までに延べ214人の患者を受け入れている
医師・看護師の受入れ四島交流の枠組みにより、北方四島から来訪する医師・看護師らを受け入れ、研修を実施する2008年度から実施されており、北方四島住民側から高い評価と要望を受けている
日露査証簡素化協定日露経済交流の拡大を受け、日露間の人的往来を拡大させるために査証(ビザ)制度を簡素化させるもの2013年10月23日に発効し、査証(ビザ)審査期間を短縮するなど、手続きを簡素化するもの

もちろん、終戦のドサクサに紛れて南樺太や千島列島を強奪したソ連と、その後継国家であるロシアに対し、日本国民の感情も一貫して悪い状況が続いていることは間違いありません。ただ、それと同時に、とくに北方四島では、先進的な日本の医療を受けたいというニーズや、文化交流、経済交流をさらに拡大させたいというニーズもあるようです。

また、私自身も以前、北海道根室市に行ったことがあるのですが、街中でロシア人の姿を見かけることも多く、現地では確実に交流が進んでいることは間違いありません。

北方領土の「日本化」を進める共同経済活動

こうした中、私は昨年のロシアのプーチン大統領による訪日を、ほぼ完璧な成果だったと見ています。安倍総理は賢明にも、北方領土問題の解決を急がず、また、ロシアに対して有利な条件での経済協力を与えることもせず、ただ、日露の「和解」を強く演出することに成功したからです(詳しくは『今回の日露首脳会談は日本にとって大成功』もご参照ください)。

思うに、「外交交渉を通じて四島を取り返す」という、外務省の外交戦略は、最初から破綻しています。ロシア政府は「南クリル諸島は第二次世界大戦の結果、我々が獲得した領土だ」という立場で一貫しており、こうした姿勢はロシア国民も強く支持しています。憲法第9条第2項という、日本に交戦権を禁じた欠陥憲法を放置したままで、外交交渉により四島を取り返すことなど、最初からできっこないのです。

いずれにせよ安倍総理が昨年、北方四島の帰属問題を「棚上げ」にしたまま、北方領土での共同経済活動を進めることで、プーチン大統領と合意したことは、非常に賢明でした。というのも、この地域での共同経済活動が進めば、現地人と日本人との交流が活発化し、それと同時に北方領土の「日本化」も急速に進むと考えられるからです。

日本が憲法第9条第2項を直ちに廃止し、国軍を復活させたうえで、北方領土を取り返すためにロシアに攻め込む―。

現状では、残念ながらこのようなことは非現実的です。しかし、北方領土の「日本化」が進めば進むほど、情勢は日本にとって有利に働くことは間違いありません。その意味で、ロシアに対して「果実」を与え過ぎない程度に、日露交流を拡大することは、将来の日本が北方領土・千島列島・樺太を取り戻すための布石としては重要でしょう。

最大の目的は対中牽制

ただ、日本にとっての最大の目的は、実は他にあります。それは、「対中牽制」です。日本がロシアとの関係を強化すればするほど、中国の軍事的暴発リスクを抑え込むことができるからです。

外交とは、一種の「挟み撃ち」のようなものです。地図を広げてみると、中国から見て日本列島は、中国が太平洋に進出することを防ぐ「不沈空母」のような存在です。そして、北方に位置するロシアが中国の敵対国になってしまえば、中国は非常に困ってしまいます。さらに、南方の大国・インドを仲間に引き込めば、日本にとっては「中国包囲網」がほぼ完成します。

日露間で緊密な外交・軍事対話が進めば、それはそのまま中国にとっての脅威となります。つまり「2+2会合」の開催自体が、中国にとっては非常に脅威なのです。

おそらく、中国の外務省は、これから近いうちに、日本を批判する声明を出すのではないでしょうか?そして、中国が日本を批判すればするほど、今回の「2+2会合」の開催に意味があるということなのです。

ロシアは衰退し、日本は永続する

少子高齢化は世界的な潮流です。日本も例外ではありません。ただ、意外と知られていませんが、ロシアも平均寿命は短く、少子高齢化により衰退基調にあります。

それだけではありません。ロシアの場合は旧ソ連時代の軍事技術の更新が遅れており、民生技術は全く進んでいません。ロシア国内を走る自動車の多くは日本製だといわれています。

一方、日本も少子高齢化が進んでいることは間違いありませんが、日本の場合、莫大な資本と技術の蓄積があります。長期的に見て、日露の技術格差は、開くことはあっても縮まることはありません。

そして、「コワモテの指導者」であるウラジミル・プーチン大統領にも寿命は来ます。北方領土が急速に「日本化」し、ロシアが衰退していけば、ロシアが極東地域を領土として維持することも困難になるかもしれません。

実際、ロシアも極東地域における中国からの人口圧力に苦しめられています。将来的には、日本が再び中国と友好関係を結び、ロシアを極東地域から追い出す、ということもできるかもしれません。

いずれにせよ、ロシアは衰退する国であり、日本は永続する国です。領土問題も時が解決します。私は、将来に向けて重要な布石を打った安倍政権の今回の対露外交を、とても高く評価したいと考えています。

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