【夕刊】本職ジャーナリストによる優れた論考

本日も少し早いですが、「夕刊」をお送りしたいと思います。ただし、当ウェブサイトとしては珍しく、本日は「記事評論」の形式です。

優れたジャーナリストの論考3つ

待望の鈴置説

優れた論考には読む価値があります。

本日の日経ビジネスオンライン(NBO)に掲載された、非常に優れた論考を、本日は3つばかり紹介しておきたいと思います。

NBOの「大人気連載シリーズ」といえば、何といっても鈴置高史・日本経済新聞社編集委員の手になる『早読み深読み朝鮮半島』です。掲載が不定期であるという短所はあるものの、論考は優れており、私自身も「鈴置論」を深く参考にしている人間の1人です。

そんな「鈴置論」の最新版が、これです。

「文在寅の仲人口」を危ぶむ韓国の保守/騙されたと気がつけば、トランプは激怒する……(2018/03/15付 日経ビジネスオンラインより)

「仲人口」とは、「なこうどぐち」、と読みます。鈴置氏によれば、「縁談をまとめようと仲人が双方に都合の良い話をする」ことに例えて、現在の韓国が「仲人口を駆使する」と表現しているのです。

「『金正恩(きん・しょうおん)が非核化を前提として米朝対話に応じる』と韓国政府が述べた」――。これについては、実は当ウェブサイトでも紹介して来た話ですし(たとえば『【夕刊】対韓不信:ワシントンに流れる微妙な空気』)、韓国がリスクを負いすぎているという点については今朝も『日本の左翼の限界と非科学的議論の危険性』の『韓国がリスクを負い過ぎている「米朝首脳会談」』で指摘したとおりです。

今回の記事では、内容的に「まったく新しいもの」は、とくにありません。あくまでも、断片的な情報を鈴置氏の技能でまとめたというものでしょう。ただ、私がいくつもの記事で詳細に指摘してきた内容も、鈴置編集委員の手にかかれば、ウェブページにしてわずか6ページ分に収まります。さすがはプロです。

それから、鈴置氏はジャーナリストとして一流であるだけでなく、歴史にも詳しいらしく、豊臣秀吉の朝鮮侵攻の際、明の対日交渉使節を務めたものの、万歴帝により処刑された沈惟敬(しん・いけい)のエピソードなども必読でしょう。

何度も繰り返しですが、リンク先の記事を読むには日経IDの取得が必要ですが、鈴置編集委員の文章を読むためだけであっても、わざわざ手間をかけてまで日経IDを取得する価値は十分にあります(なお、日経IDの取得方法については日本経済新聞社にお問い合わせください)。

松浦氏の議論の続き

一方、同じNBOには、こんな記事も掲載されています。

原発を造る側の責任と、消えた議事録/失敗のプロセスこそ周知徹底すべき(2018/03/15付 日経ビジネスオンラインより)

この記事は、科学技術ジャーナリストの松浦晋也氏が執筆したものであり、今朝『科学に勝るものはない』のなかで紹介した『考え続けている。原子力発電は本当に危険か?/非常事態を日常の視点で考えてはいけない』の「後編」という位置付けの論考です。

ヒトコトで申し上げれば、「優れている」としか言いようがありません。先ほど私は「鈴置氏の論考を読むためだけに日経IDを取得する価値がある」と申し上げたばかりですが、早速訂正です。「松浦氏の記事を読むためにも、是非、日経IDを取得すべき」、です。

詳しい内容についてはリンク先でご確認いただきたいのですが、簡単にいえば、福島第一原発の事故は、「東京電力の責任だ」と指摘するものです。その論拠として、松浦氏が列挙している要因は、

  • 東北電力・女川原発が福島第一原発と同レベルの地震・津波に直面していながら、事故を起こさず安全に停止したこと
  • 2007年の原発耐震基準見直しに際して東電は、貞観地震よりもはるかに規模が小さい塩屋崎沖地震を前提として発電所施設の評価を行い、問題なしとしていたこと

などです。とくに後者については、経済産業省・産業技術総合研究所の地質学者・岡村行信氏が、「貞観地震という巨大な地震が実際に過去に起きており、しかも大津波すら到達していたことがはっきり分かっているのだから、こちらを前提にして検討すべきだ」と主張したにも関わらず、東電側は「貞観地震は歴史的な被害があまり見当たらない。地震の評価としては塩屋崎沖地震で問題ない」とするあいまいな答弁でごまかすなどして逃げてしまったことを、当時のワーキンググループの第32回会合議事録から明らかにしています。

これこそ、ジャーナリストの仕事でしょう。

さらに、松浦氏は重要な事実を指摘します。それは、この「ワーキンググループ第32回会合の議事録」が、所管の官庁のホームページから削除されてしまっている、ということです。折しも財務省が文書の改竄で揺れていますが、日本の官公庁・官僚機構は文書の改竄、隠蔽などのスキャンダルにまみれています。松浦氏は

公文書は国の記憶である。保管と公開を徹底しなければ、国は記憶喪失症となり、一貫性と継続性を失う。それは国の死を意味するのだが……

と述べていますが、私も全く同感です。

福島香織氏の論考も見逃せない

さて、NBOといえば、昨日掲載されたこの記事についても見逃せません。

王毅外相が「精日は中国人のクズ」と激怒した訳/「精神的日本人」の増加に焦る習近平“終身”政権(2018/03/14付 日経ビジネスオンラインより)

この記事は、やはりNBOの人気シリーズである『中国新聞趣聞~チャイナ・ゴシップス』の最新版であり、いわば、習近平(しゅう・きんぺい)中国国家主席が「終身政権」を目指していること自体、中国の余裕のなさだ、と喝破するものです。

ちなみに「精日」とは、「精神的な日本人」を名乗る中国人のことであり、「王毅(おう・き)外相が激怒」とあるのは、「全人代会期中の恒例の外相記者会見」で、江蘇省紙の現代快報記者が『精日分子』について尋ねたところ、王毅外相が「そいつは中国人のクズだ!」と吐き捨てたことをさします。

ただし、この一連のやりとりは、人民日報の公式報道では書き起こされていないのだそうです。福島氏はこのやりとりと、王毅外相の憤怒の表情に、「今の中国の焦り」を見た気がしたと述べています。

そして、ウェブページで5ページに及ぶこの論考の末尾は、次の文章で締められています。

だいたい、“精日”によって中華民族の尊厳が傷つけられた、のではなく、中国人をやめてしまいたいと多くの人民が思うような状況を作り出した今の政権に“偉大なる中華民族”を指導する力や正統性の方に問題があるのだ。いちいち、何でも日本のせいにしなければ、その正統性が維持できない政権ならば、いずれその脆弱性は表面化すると、私は見ている。

私はいつも思うのですが、だいたいいいつも福島氏の記事の末尾に付記される彼女自身の感想は、読んでいて同意せざるを得ないことばかりです。

先ほど私は、「鈴置氏と松浦氏の論考を読むために、日経IDを取得すべき」と申し上げましたが、もう1度、訂正します。正しく申し上げるならば、「鈴置氏と松浦氏と福島氏の論考を読むために、日経IDを取得すべき」、でしょう。

オチはこれですか(笑)

このジャーナリスト3名による優れた論考を紹介したところで、最後は同じ「ジャーナリスト」を名乗る人物が執筆した、これで締めておきましょう。

マスコミが安倍政権への忖度を続ける不思議/森友学園の籠池氏の長期拘留は人権侵害以外の何物でもない(2018/03/15付 日経ビジネスオンラインより)

違う意味で「大人気」(?)のシリーズ『田原総一朗の政財界「ここだけの話」』の最新作がこれです。のっけから驚きます。

日本は今、大変なことになっている。/森友学園問題において公文書が改ざんされていたことが明るみに出た。もしもこれが韓国ならば、「打倒・安倍内閣」を掲げた100万人規模のデモが、連日のように繰り返されるだろう。日本でも首相官邸前でデモが行われたが、規模は1000人程度と非常に小さいものである。そういう意味では、日本人は非常に大人しいと言える。

「打倒・安倍内閣を掲げた100万人規模のデモ」(!)田原さん、ここは日本ですよ?私たちの国・日本を、よりにもよって、挺隊協などの親北系団体に国を乗っ取られている韓国と比べるとは、田原さんはいったい何をおっしゃっているのでしょうか?

田原さんは「今回の事件は、民主主義の根幹を揺るがす大事件である。問題は極めて根深く深刻だ。メディアはもっと批判すべきである。」と述べていますが、私に言わせれば、官僚の暴走を「民主主義を揺るがす大事件」と述べるのは、筋が違います。むしろ、批判すべき相手は官僚機構であり、政権ではありません。

いちおう、リンク先の記事を読むためには日経IDの取得が必要ですが、田原氏の文章を読むために、わざわざ日経IDを取得する価値は一切ありません。鈴置氏、松浦氏、福島氏などの文章を読むために日経IDを取得された方が、「ついでに」田原氏の記事を読む、というのなら、あえて否定はしませんが…。

ただし、「田原氏の文章を読んで時間を無駄にした」と言われても困ります。あくまでも自己責任でどうぞ(笑)

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. めがねのおやじ より:

    < 連日お邪魔します。また夕刊発信ありがとうございます。
    < 田原総一朗氏は失礼ながら、軽度の認知が入っているのではないですか?『韓国なら100万人のデモ』『日本なら1,000人』(笑)。韓国の民度と日本国民と同じ物差しで言うかな?田原氏が恥ずかしい所は、『日本人がおとなしい』という発言。おとなしいじゃなくて、あのバカげた報道と野党のしょうもない攻撃に皆さん辟易してるんですよ。財務省の理財局、近畿財務局という官庁の酷さには憤慨するものの、麻生副首相財務大臣の預かり知らぬ(たどればそこだが、何か所もチェック機能がある)のは当然だ。理財局長、長官が腹を切るべきこと。それで財務省を解体、官庁の更に上の官庁という組織をバラせばいい。
    < 田原氏はお歳もあるし、自分で原稿を全部は書いてないのではないか。スマホやタブレットはキーも画面も見えにくいだろうし、アシスタントやらに口述筆記させているのではないかと思う。だから推敲もせずに、そのまま発信、文意がよく分からないものが掲載される(テレビの発言もそうだが)。
    < 松浦氏のNBOのコラムは先ほどの朝刊でコメントしましたので省略しますが、いかにも理系らしい事実を淡々と冷静に論じている。なんでも「原発ハンターイ」ではないし、「原発命」でもない。私も代替エネルギーが無い中で、今後100年前後原子力は重要と思う。東京電力は2007年の見直し時、貞観地震を参考に想定しなかった。もっと規模の小さい塩屋崎沖地震を想定した。どこでも被害の算定は少なめにするきらいがある。
    < 今となってはもう、企業として東北・関東住民の方に対しても、現東電など潰して他の地域電力会社+旧東電による新会社設立、または国との半官半民あるいは他業種参入オール民間で再スタートさせるべきではないでしょうか。気の遠くなる負債は東電の有休資産払い出し保有預金、株式も売却。社員の給与減額、年金三分の一に減額、従業員早期退職推奨、そしてプラス国で払っていき、新会社の利益から少しずつ返すしかないでしょう。今までさんざんTEPCOって大きな尊大な態度でしたから、退役した役員でも関係者は、何らかの金銭でのペナルティを与えればいい。私、他地域だが、非常に怒ってます。
    < 「仲人口」—懐かしい表現ですね。文大統領と金正恩の会談はどうせ北ペースで仕組まれるし、たいした関心ないですが、トランプ大統領や安倍首相への特使、これは話が自分の都合のいいように曲げられてますよ。韓国にこの手のパイプ役などできるはずがない。北の言った事以上にてんこ盛りにして、耳触りの良い条件を伝えてます。米朝会談ができても、内容ではお互いの意見の齟齬が生まれ、決裂しますね。状況は更に悪くなる。絶対間違いないです。鈴置氏の分析は相変わらず鋭いですね。
    < 福島香織氏の王外相の「精日」に対する暴言、興味深く読みました。あれが共産党体制の限界だね。
    < 失礼します。

  2. 関澤 より:

    原発について、想定していた地震の規模を小さいままにしていたこと、曖昧な答弁で放置していたことを初めて知りました。改めて災害、安全管理に科学的思考が欠如(依拠する根拠の選択、被害への保険、見積もりに対する金融理論的考察など全ての面で)していると感じました。理論、化学、合理性が無いのは、政府に限らず国民にも昔から変わっておらず、情け無いですが、変えるにはアメリカ等の合理主義を教育に持ち込む必要があると思います。思考訓練の場としてネットが拡大しているので、今後は変わっていくのかもしれません。
    根拠、証拠となる文章、記録を改竄、消去、元からしない行為(震災の菅内閣とか)については、規則で定めるので無く、変更が難しい法律で厳しく義務付け、重い罰則を設けて監査組織まで作らないといけない気がします。
    論理的考察をする論客、議論する場がまだある今がチャンスで、潰そうとするマスゴミスクラムは破壊され無ければいけないと思います。

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