AIIBと通貨スワップ・最新版

本日2本目の配信です。子供が生まれてから「超多忙」ですが、それでも、どうしても触れておきたい記事があるからです。

え?日本がAIIBに加盟!?

発信源は「レコードチャイナ」

どうもインターネット上では、日本が「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」に加盟するのではないかとの報道が流れているようです。といっても、その「情報源」は、この記事だけのようです。

日本政府、中国主導のAIIBや一帯一路への参加を決心した可能性―米華字メディア(2017年5月5日(金) 18時40分付 レコードチャイナより)

レコードチャイナによると、2017年5月4日付で米華字メディア『多維新聞』は、日本がAIIBや「一帯一路」構想に参加する「可能性を議論」する記事を掲載したそうです。

リンク先の記事は、どこまでが多維新聞の議論で、どこからがレコードチャイナの議論なのか、定かではありません。ただ、「日本のAIIB入りがかなり現実的」との論拠は、

  • 黒田東彦(はるひこ)日銀総裁が5月2日に、多くの国がAIIBに参加していることは「良いことだ」と述べたことが、日本政府のAIIBに対するかつてないほど前向きな発言であること
  • 5月14日に中国・北京で開かれる「一帯一路」サミットに日本特使として出席する予定の二階俊博・自民党幹事長は4月27日、「一帯一路」構想に「最大限協力する」と述べたこと

の2点であるようです。

どちらも「日本政府」ではありません!

ところで、あくまでも私の理解ですが、レコードチャイナの記事は、どちらかといえば中国の報道を日本語で要約して紹介するものであり、「レコードチャイナとしての主張」ではないとは思います。

ただ、その前提のうえで、あえて記事を批判すると、黒田氏や二階氏がAIIBないしは「一帯一路」構想に前向きな発言をしたということが事実であったとしても、「日本政府が」これらへの参加に前向きである、という論拠にはなりません。

記事にも明記されているとおり、「日本のAIIB加入がかなり現実的」との見方は、あくまでも「中国の時事ウォッチャー」によるものです。そして、黒田氏は日銀総裁であり、二階氏は自民党幹事長であり、どちらも「日本政府」ではありません。中国の場合、「中国政府」と「中国人民銀行」と「中国共産党」は事実上、一体ですが、日本の場合、「日本政府」と「日本銀行」と「自由民主党」は全く別の存在です。

まったく、いい加減な記事だと思わざるを得ません。

改めて問う、日本がAIIBに参加するメリットとは?

ただ、黒田氏自身、アジア開発銀行(ADB)の前総裁でもあり、整備が遅れているアジアのインフラ事情を考えるならば、「資金源」が多ければ多いほど良い、という認識を持つのも当然でしょう。そして、AIIBは、ADBが引き受けないようなリスクの高いインフラ金融を担う主体としては、ちょうど良いのかもしれません。

ただし、日本がAIIBに参加する最大の(そして唯一の)「メリット」(?)といえば、財務省の官僚の天下り先が増えることです。逆にいえば、日本が参加するメリットは、それしかありません。

日本はADBを初めとする数多くの国際開発銀行(MDB)への出資実績があり、これらのMDB出資を通じて、日本には官民問わず、途上国に対するインフラ金融のノウハウが蓄積されています。そして、これらのノウハウは、日本が中国に対する競争力を保つ源泉なのです。それを、軽率にもAIIBに流出させるメリットなど、日本にとっては全くありません。

将来、日本が出資するとしても、あくまでもAIIBに対する「少数出資」ないしは「オブザーバー」的なポジションに留めるべきでしょう。

「ADBは日本が主導して設立されたMDBであり、AIIBは中国が主導して設立されたMDBである」―。

これだけで十分でしょう。実際、金融庁の「銀行自己資本比率告示」を読んでみても、「標準的手法でゼロ%リスクウェイト」が適用されるMDBの中に、AIIBは指定されていません。

AIIB自体がリスクの高いインフラ金融を担い、ADBがリスクの低いインフラ金融を担うことで、アジア全体のインフラ整備を加速させる効果が得られるならば、結果的には良いことです。

通貨スワップについて

ところで、これとは別に、日本がアジア諸国と新たな「二国間通貨スワップ取極」(BSA)を締結したそうです。

昨日、タイとの間で、「自国通貨と米ドルを交換する双方向のスワップ協定」が成立。マレーシアとの間でも、スワップ協定の発行に向けた基本合意が締結されています。これにより、日本が現時点で保有するスワップ協定は、次の通りです(図表1図表2図表3)。

図表1 通貨スワップ協定(未発効含む)
相手国契約条件契約日
インドネシア(片方向)日→尼 227.6億ドル2013年12月12日
フィリピン(双方向)日→比 120億ドル
比→日 5億ドル
2014年10月6日
シンガポール(双方向)日→星 30億ドル
星→日 10億ドル
2015年5月21日
タイ(双方向)日→泰 30億ドル
泰→日 30億ドル
2017年5月5日
マレーシア(双方向)日→馬 30億ドル
馬→日 30億ドル

(【出所】財務省ウェブサイト「アジア諸国との二国間通貨スワップ取極」等より著者作成。ただし、マレーシアとのスワップ協定は基本合意段階であり、現時点で協定は発効していない)

図表2 為替スワップ協定
相手先契約条件契約日
FRBニューヨーク連銀無制限(円と米ドルの交換)2009年4月6日に締結
→2013年10月31日常設化
※日米英欧瑞加の6中銀
→金額・期限は無制限
カナダ銀行(BOC)無制限(円と加ドルの交換)
欧州中央銀行(ECB)無制限(円とユーロの交換)
スイス国民銀行(SNB)無制限(円と瑞フランの交換)
イングランド銀行(BOE)無制限(円と英ポンドの交換)
豪州準備銀行(RBA)200億豪ドル、1.6兆円2016年3月18日(※)
シンガポール通貨庁(MAS)150億星ドル、1.1兆円2016年11月30日(※)

(【出所】日本銀行『海外中銀との協力』。なお、RBAとの協定は2019年3月17日まで、MASとの協定は2019年11月29日まで。)

図表3 チェンマイ・イニシアティブ・マルチ化協定(CMIM)
拠出額引出可能額
日本768億ドル384億ドル
中国(※)768億ドル405億ドル
韓国384億ドル384億ドル
インドネシア
タイ
マレーシア
シンガポール
フィリピン
各 91.04億ドル各 227.6億ドル
ベトナム20億ドル100億ドル
カンボジア2.4億ドル12億ドル
ミャンマー1.2億ドル6億ドル
ブルネイ
ラオス
各0.6億ドル各3億ドル
合計2400億ドル2400億ドル

(【出所】財務省・2014年7月17日付ウェブサイト「別添2」。ただし、中国については香港との合算値。また、香港はIMFに加盟していないため、中国の引出可能額に占める「IMFデリンク」の額は他の国と異なる)

これについては、近いうちに、詳しいアップデートを行いたいと思います。どうかお楽しみに!

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. めっちゃわかりやすい! より:

    ニュースで「日本政府がAIIBに出資」と知って、検索している内にこのサイトに辿り着きました。めちゃめちゃわかりやすいです!ニュースを読んでいても今一つピント来なかったんですが、なるほどそういうことなのかと良くわかりました。ポイントは中国が日本政府と日本銀行と自民党を一緒くたに見てしまっているということですね。
    でも多聞、朝日新聞当たりが数日後、2階が中国に行くタイミングに合わせて「外国の新聞がこう報じた!」とか言って、「日本はAIIBに参加することになった」とか飛ばし報道をして来る予感ですかねー・・・(藁)

  2. めがねのおやじ より:

    いつもこのブログを楽しみにしております。5月14日からの一帯一路サミットに特使で参加する二階氏が(しかし外交上儀礼とはいえ参加する必要があるのか?ドタン場で代理に替えるとか)、要らぬ言質を与えぬか危惧します。二階氏は南賎大使召還時に、早いうちに戻したほうがよいと発言、日本国民の感情を逆なでした。自民のボスで首相も扱いにくいだろうが、もう年齢的には終末、党を割って出たこともあるヒトであり、親韓で信用できません。昔タイプの党人派という奴でしょうか。AIIBは「新宿会計士」様の言われる通り、日本のメリットは天下り先を増やすだけ。敵に手の内をさらけ出す必要はありませんね。45周年か何か知らぬが所詮同盟国、友邦になったことのない国、警戒は十分必要です。超多忙!寝不足MAXの「新宿会計士」様、お嬢様の顔を見ると疲れも吹っ飛ぶでしょうが、ご自身も少しは休養を取って下さい。失礼しました。

  3. 黒猫のゴンタ より:

    この子よう泣く おとんばいじる♪
    おとんはオロオロ オロロンバイ
    ぼんがはよ寝りゃあ (おとんは)はよ寝れる
    ゴンタは、竹田~島原~五木の替え歌子守歌をよく唄ってました
    ちなみに、効き目はあまりありませんでした(泣)
    ********************************************************
    子守歌といえば、世界的には「Summertime」ですね(そうか?)
    なぜか子守歌はマイナースケール(短調)になるの法則なのですよ
    頼むから寝てくれ、頼むよぉという親の心情の吐露が自然哀切な音調に?
    「赤ん坊をあやして寝かしつける母の子守唄」
    http://www.tapthepop.net/song/4448
    ちなみに、リンクが切れてるジャニス・ジョプリンはこちら、名曲です
    https://www.youtube.com/watch?v=guKoNCQFAFk
    ジャニスのじゃ、寝た子起こして泣き叫ばせるCry Babyだけど
    http://sakisaki0920.jugem.jp/?eid=137 *********************************************************
    AIIBの日本の顧問といえばあの人ですね
    抗日(自称)の聖地、西大門刑務所跡地でカムドゲザーした鳩山サブレ
    謝罪の挙句に「賠償金」10万円自腹で払ったという由紀夫だか友紀夫だか
    10憶円じゃなくて10万円・・・ちぇっ!スンシル被告かよ、いや寸志かよ

    ほんと、げんなりするなぁ、こういう売国奴見ると

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告