中国の日本人ビザ免除停止は一種の「セルフ経済制裁」
外務省は中国に対し入国ビザを安易に緩和すべきでない
朝日新聞の報道によると、中国外交部・領事局長が21日、現在中断している日本人向けの15日間の短期滞在ビザ免除措置の再開を巡り、「相互主義の原則に基づいて進めたい」などと発言したそうです。インバウンド観光産業においても中国人観光客の戻りが鈍いなかではありますが、外務省におかれては、くれぐれもビザに関する原理原則を逸脱し、安易に「中国人に対するビザ免除」などと言いだすようなことがないようにお願いしたいところです。
目次
意外にも「インバウンド大国」となった日本
現在の日本は、意外と「インバウンド大国」です。
昨日の『訪日外国人は189万人:「インバウンド大国」の日本』で「速報」的に取り上げたとおり、日本政府観光局(JNTO)が21日に発表した『訪日外客統計』によると、2023年5月における訪日外国人は1,898,900人に達しました。
訪日外国人が過去最大だった、2019年7月の2,991,189人と比べれば、まだ63%ていどの戻りですが、それでも外国人が日本に大挙して訪れているということは間違いありません。
これに対し、法務省が今月15日に公表した『出入国管理統計』によると、日本から海外に出国した日本人(日本人出国者数)は675,661人(速報値)で、過去最大だった2019年8月の2,109,568人と比べて3分の1以下という状況です。
そして、「外国を訪れる日本人」は「日本を訪れる外国人」と比べて数分の1、という状況は、かなり続いています。日本政府が外国人観光客の受入を条件付きで正常化した昨年10月以降で見ると、2022年10月を除き、いずれの月も、訪日外国人が出国日本人の2~3倍です。
訪日外国人vs出国日本人
- 10月…訪日外国人**498,646人vs出国日本人349,557人(1.43倍)
- 11月…訪日外国人**934,599人vs出国日本人379,196人(2.46倍)
- 12月…訪日外国人1,370,114人vs出国日本人432,193人(3.17倍)
- 01月…訪日外国人1,497,472人vs出国日本人443,105人(3.38倍)
- 02月…訪日外国人1,475,455人vs出国日本人537,705人(2.74倍)
- 03月…訪日外国人1,817,500人vs出国日本人694,292人(2.62倍)
- 04月…訪日外国人1,949,100人vs出国日本人560,178人(3.48倍)
- 05月…訪日外国人1,898,900人vs出国日本人675,661人(2.81倍)
(【出所】インバウンドはJNTOデータ、アウトバウンドは法務省データ)
インバウンド大国の落とし穴
日本が外国人にとっての人気の観光地となったのか、それとも日本人が外国に行かなくなってしまったのか。
これについては、短期的には円安などの影響も考えられるため、日本が「旅行収支の黒字国」になった、などと現時点で結論付けるには、まだ少し早そうです。
しかも、現状において、この「インバウンド大国」論には、大きな落とし穴がいくつかあります。そのひとつが、日本に入国している外国人に、国籍で大きな偏りがある、という事実でしょう。
たとえば、2023年5月の事例でいえば、入国した1,898,900人のうち韓国人が515,700人で全体の27%を占めており、台湾、米国、香港などがこれに続いていることがわかります(図表)。
図表 訪日外国人(2023年5月、速報値)
国 | 人数 | 割合 |
1位:韓国 | 515,700 | 27.16% |
2位:台湾 | 303,300 | 15.97% |
3位:米国 | 183,400 | 9.66% |
4位:香港 | 154,400 | 8.13% |
5位:中国 | 134,400 | 7.08% |
6位:タイ | 80,700 | 4.25% |
7位:フィリピン | 49,900 | 2.63% |
8位:シンガポール | 49,700 | 2.62% |
9位:ベトナム | 45,800 | 2.41% |
10位:カナダ | 42,300 | 2.23% |
その他 | 339,300 | 17.87% |
総数 | 1,898,900 | 100.00% |
(【出所】JNTOデータ)
とくに韓国では2019年7月、日本政府が韓国に対する輸出管理の適正化措置を講じた際に国民が激高し、日本にやって来る韓国人観光客が激減したという経緯もあります(これがいわゆる「ノージャパン」です)。
あれだけ激しい「ノージャパン」運動を展開しておきながら、今度は都合よく「ゴージャパン」というのも驚きますが、インバウンド観光産業がそんな不安定な相手国から収入に依存することは、望ましいことではありません。
(※といっても、韓国人観光客はそのほかの主要国出身者と比べ、観光支出額が極端に少ないことでも知られているため、韓国で再び「ノージャパン」が発生しても、日本にはさほど大きな影響はないのかもしれませんが…。)
中国人観光客は激減したまま
ただ、それ以上にコロナ前と比べて大きな変化が生じている部分があるとすれば、それは中国人観光客の激減です。
コロナ以前の、たとえば2019年5月時点だと、訪日外国人総数は2,773,091人であり、現在よりも100万人近く多かったのですが、それだけではありません。人数別内訳を出してみると、入国者の27%に相当する756,365人が、中国人だったのです(図表2)。
図表2 訪日外国人(2019年5月、確報値)
国 | 人数 | 割合 |
1位:中国 | 756,365 | 27.28% |
2位:韓国 | 603,394 | 21.76% |
3位:台湾 | 426,537 | 15.38% |
4位:香港 | 189,007 | 6.82% |
5位:米国 | 156,962 | 5.66% |
6位:タイ | 107,857 | 3.89% |
7位:フィリピン | 59,578 | 2.15% |
8位:豪州 | 46,223 | 1.67% |
9位:マレーシア | 42,629 | 1.54% |
10位:ベトナム | 39,900 | 1.44% |
その他 | 344,639 | 12.43% |
総数 | 2,773,091 | 100.00% |
(【出所】JNTOデータ)
逆にいえば、訪日観光客を「コロナ前の水準に戻す」ためには、中国人入国者数が元に戻る必要がある、というわけです(「元に戻す」必要があるかどうかは別として)。
中国人の日本入国にはビザ必要:中国は日本人向けビザ免除を停止中
こうしたなかで、中国人の入国者数が復活しない理由としてはいくつかのものが考えられるのですが、その最たるものは、ビザ制度にあります。
じつは中国人が日本を観光目的で訪れるためには、ビザの取得が義務付けられます。
コロナ禍直前の2019年1月1日付で公表されている外務省の『中国団体観光・個人観光ビザ』によれば、基本的には添乗員なしの自由な行動が認められない「団体観光」が中心であり、この場合は旅行会社を通じて団体観光ビザを申請することになります。
一方、中国人観光客が添乗員なしに自由に日本国内を旅行するためには、「十分な経済力を有する」などの条件を満たしたうえで特別なビザを申請することが必要であり、したがって、ビザ免除対象国(米国、韓国、香港、台湾など)の人と比べ、中国人が気軽に日本に来るのは難しいというのが現状です。
その一方で、少し気になる話もあります。
中国はビザ免除復活を 白書で要望―日系企業団体
―――2023年06月14日21時00分付 時事通信より
時事通信によると、北京などに拠点を置く日系企業団体である「中国日本商会」14日、中国当局に対し、日本人向け短期ビザ免除措置の復活などを求めたのだそうです。
じつは、コロナ禍以前であれば、中国は日本人に対し、15日以内の短期滞在を目的とした場合には入国ビザの免除措置を講じていたのですが、コロナ禍以降、この措置が停止されているのだそうです。
時事通信によると現在、ビザの発給も滞っているのだそうであり、同商会の本間哲朗会長(パナソニックホールディングス副社長)は「日中経済交流の最大の阻害要因」だとして改善を訴えた、などとしています。
中国が「相互主義」を持ち出し日本側に「対等な措置」要求
ところが、これにこんな「続報」も出てきました。
コロナ禍前のビザ免除再開、中国側「対等な措置を」 日本側に求める
―――2023/06/22 08:00付 Yahoo!ニュースより【朝日新聞デジタル日本語版配信】
朝日新聞の22日付の報道によれば、中国外交部の領事局長は21日、日本人向けのビザ免除措置再開を巡り、日本側との交渉を「相互主義の原則に基づいて進めたい」と述べたのだそうです。
これについて朝日新聞は「中国側が日本に対等な措置を求めていることを表明した形で、日中間の新たな懸案になる可能性がある」、などとしています。
観光産業において中国人訪日客が伸びていないこと。
日本人向けの短期ビザが武漢肺炎・コロナ禍以降停止したままであること。
こうした状況を踏まえ、最も懸念される点のひとつは、外務省あたりが「中国人向けにビザ免除措置を導入しよう」、などと言いだすことではないでしょうか。
この点、日本政府は中国国民に対し、さまざまなビザを設けていますが、ビザ免除措置そのものは設けていません。その意味で、中国が日本国民にだけビザ免除措置を講じるのは、「相互主義」ではない、との考え方はそのとおりでしょう。
しかしその反面、とても当たり前の話ですが、入国ビザ制度は経済格差がある国同士での不法就労などを防ぐうえで必要なものであり、日本以外の先進国でも一般的に、「自国と比べてひとりあたりの所得水準が低い」などの相手国からの入国にはビザを要求することが行われています。
(※個人的には、日本に入国した後の犯罪発生率が高い国や、難民申請を不当に繰り返す者が多い国の場合は、ビザ免除措置を安易に導入すべきではないとも考えています。)
じつは中国の側にこそ打撃が大きい
それに、日本人に対するビザ免除措置を停止していることのデメリットは、じつは中国の方に生じます。
中国に渡航する日本人の渡航目的別の正確な人数は不明ですが(※中国政府が関連統計を公表していないため)、中国には多数の日本企業が進出しており、中国に渡航する日本人の多くはそれらの日本企業の中国事務所に出張に訪れている人たちであるという可能性は濃厚です。
しかし、ビザ免除措置が中断されているなかで、日本人が気軽に中国に渡航できない状況は、日本企業にとって中国拠点との連携を円滑化することを妨げますし、ゆくゆくは日本企業の中国拠点の縮小・撤退という意思決定にもつながりかねません。
その意味で、中国政府の措置は一種の「セルフ経済制裁」であり、中国が国家主権に基づいて自国に対する経済制裁を課すと決めたのであれば、それに対して私たち日本人としては何も言い様がありません。
よって、日本の外務省も中国との「相互主義に基づくビザ免除」なる要求は撥ねつけて良い(あるいは跳ねつけなければならない)話ですし、また、人件費水準も著しく上昇している中国に、日本企業もいつまでもしがみついているべきではありません。
いずれにせよ、昨今の日中間では半導体製造装置の供給制限などでも何かと話題が多いなかで、ビザ問題は短期的に見て、日本企業や日本の観光産業の頭を悩ませている問題ではありますが、日中の経済関係が縮小していくのだとしたら、それはそれでやむを得ない話でもあります。
まずは製造業や観光業を中心に、脱中国の流れが続いていくのかどうか、注目する価値があることは間違いないといえるでしょう。外務省におかれては、くれぐれもビザに関する原理原則を逸脱し、安易に「中国人に対するビザ免除」などと言いだすようなことがないようにお願いしたいところです。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
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相互主義に基づいて、中国人スパイを容赦なく逮捕してほしいものです。
相互主義に基づいて、中国人および中国法人による日本国内の土地所有を禁止してほしいものです。経過措置3年くらいかけてもいいので。
「お困りの国」が、なんか騒いでいますね。
■韓国、新車から生ビールまで…「メイド・イン・ジャパン」の空襲
https://japanese.joins.com/JArticle/305761
「ノージャパン」キャンペーンはもう終わったみたいなことを言ってますね。韓国人の好きな言葉「プライド」があるならノージャパン運動を是非続けていてほしいですね。
中国との関係は複雑ですから私ごとき不勉強な人間はこれといった意見が言えないのですが、韓国を甘やかしてきた要因=日韓基本条約(事実上の友好条約)が日本がビンボーくじを引き続けているように、中国とは「日中平和友好条約」(これも友好条約、法律なので今も有効に働いています)を結んでしまっています。韓国が小鬼なら中国は上を行く大ボスですからこいつらも約束事を全く守りません、またいつものように日本ばかりが譲歩しなければなりません。まあ韓国と違って、アメリカ様が中国と対決姿勢なのが救いというか。
国と国の相互主義は土地でも適用してほしい。
日本人が中国の土地が買えない(使用権は買える?)
中国人は日本の土地を買える(森林、軍施設周辺も)
昭和の昔は、日本の土地の時価総額で「アメリカが四つ買える」!!
今は、中国のマネーで日本の土地が合法的に中国の領土に!なったりして・・・
https://surfvote.com/issues/4ipvsiyyajuy
> ビザ免除措置が中断されているなかで、日本人が気軽に中国に渡航できない状況は、
そうかなぁ。
中国に入国出来ても、日本に帰国できる保証がない点が大問題なのでは?
「大体の方は無事日本に帰国出来てます。」では駄目でしょう。
100%でないのならば、ビザ発給停止のままの方が良い。
現状でも、中国側が必要とする日本人(製造装置のメンテ技術者とか)が、ビザ等で困る事なんて皆無なのだから。
はい。その通りです。
赴任者家族の心配は最高潮ですよね。
仰る通りですね。
相互主義を挙げるなら拉致監禁被害者解放が先。
国民の安全よりも私利私欲・己の安寧を優先し、拉致被害者を見て見ぬふり、または、掛け声だけ勇ましい政治屋・小役人・守銭奴に政府が引きずられないか監視が必要ですね。
日本に対してあからさまな、歴史を捏造してまでの反日教育を行うような国に対してはビザ免除などして欲しくない。日本政府は国民の安全を考えてもらいたいものです。
中国は社会主義国であり、何かと日本との間でトラブルを起こしがちです。訪日中国人観光客が以前の数値よりも遥かに少ないのは、規制しているからです。それは日本の街の空気の浄化が保たれていて、結構な事だと思います。安易に「中国人に対するビザ免除」などと言いだすようなことがないようにお願いします。