需給両面から締め上げられるロシア経済巡る来年の展望

今年、ロシア経済を襲う2つのショックとは、「供給面」と「需要面」から説明できるようです。供給面は欧州からのサプライチェーンが寸断されたことであり、需要面とは長引くウクライナとの戦争の影響で生産力が軍需品の生産に充てられていることです。また、西側諸国による経済制裁を受け、ロシアの中国からの輸入が増えているようですが、欧州製品などを中国製品が代替することは困難でもあります。

予想外に長期化=ウクライナ戦争

早いもので、今年もあと100時間もしないうちに終わります。

後世の人が振り返るなら、安倍晋三総理大臣の暗殺と並ぶ今年の最も大きな事件のひとつが「ロシアによるウクライナ侵攻」であることは、おそらく間違いないでしょう。

この戦争、どうも当初、ロシアとしてはごく短期での決戦を意図していたフシがあります。

ロシアのウクライナ侵攻の目的は「キエフ公国回復」?』でも取り上げた、ロシアによる軍事侵攻からちょうど48時間後に相当する2月26日午前8時(※モスクワ時間)に国営メディアが「誤配信」した記事の話題なども、その典型例でしょう。

あるいは『中国外交は「戦争長期化」で修正を余儀なくされたのか』でも取り上げたとおり、どうもロシアのウラジミル・プーチン大統領は、中国の習近平(しゅう・きんぺい)国家主席に対し、この戦争が局地的なもので終わるとの見通しを示していた可能性があるのです。

しかし、現実には、戦争は長引いています。

一部では、「ロシアがウクライナに軍事侵攻すれば、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領が首都・キーウから逃亡する」との観測もあったのですが、こうした観測に反し、勇敢なことに、ゼレンスキー大統領は逃亡せず、キーウにとどまり応戦するウクライナ軍の指揮をとり続けました。

それどころか、『ゼレンスキー宇大統領、訪米し上下両院合同演説を実施』でも取り上げたとおり、ゼレンスキー大統領は今月、米国を訪問するためにウクライナを離れたのを除けば、ただの一度も国外に出ず、ウクライナにとどまり続けたのです。

西側諸国の経済・金融制裁と中国という「穴」

この間、西側諸国は戦争に介入はしなかったものの、ウクライナに対してさまざまな武器を供与しているほか、ロシアに対しては相当厳格な経済・金融制裁を課しており、これによりロシア経済も少しずつ疲弊してきたように思えます。

しかし、ここに難点があるとしたら、ロシアが国連安保理常任理事国でもあるという事情もあり、国連を通じた経済制裁を科すことが難しい、といった点にあります。実際、西側諸国の制裁には、中国だけでなく、インドなどの地域大国も参加していません。

これに加え、ロシアは資源国ですので、ある程度は「内に籠る」ことができてしまいます。あの北朝鮮ですら(辛うじて)経済制裁に耐えているくらいですので、こうした事情を踏まえるならば、「西側諸国の制裁でロシア経済が直ちに崩壊するに違いない」などと楽観視すべきではありません。

もっとも、西側諸国の制裁は、ロシアに対しては間違いなく打撃を与えていることも事実です。

ロシア経済に「2つのショック」=研究員

こうしたなか、ウェブ評論サイト『JBプレス』に三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社・調査部副主任研究員の土田陽介氏が、こんな論考を寄稿していました。

2つのショックに見舞われるロシア経済、2023年にどこまで持つか?

―――2022.12.28付 JBプレスより

土田氏の論考の優れた点は、西側諸国がロシアに対して経済制裁を行った効果を「数字で」検証するという試みをしていることにあります。といっても、「ロシアは2022年1月分を最後に貿易統計の公表を停止している」(土田氏)ため、ロシアの数値を使った分析はできません。

そこで土田氏が実施したのは、「相手国のロシア向け輸出データ」を逆引き的に使い、ロシアがどの国・地域から輸入しているかを検証する、という手法です(※この手の「逆引き分析」、当ウェブサイトでもときどき実施するのですが、なかなかに面倒な手法です)。

その結果、たとえば欧州連合(EU)からロシアに対する輸出(つまり「ロシアのEUからの輸入」)は、侵攻前の2021年の平均値を100とすれば、2022年10月時点では47.1にまで下落しています。

大まかにいえば、ロシアの輸入の半分を占めるヨーロッパからの輸入が半減したことになり、ロシアの輸入はウクライナとの戦争を受けて25%減少したことになる」。

では、これがロシア経済にどういう影響を与えるというのでしょうか。土田氏は続けます。

ロシアは一定の工業力を持つ一方で、国内で完成品を生産するに当たっては、海外から中間財や資本財を輸入する必要がある。そして、そうした中間財や資本財の多くをヨーロッパからの輸入に依存してきた」。

そのため、国産化率の引き上げはプーチン政権の悲願であり、様々な政策も打たれたが、目立った成果を上げることはできなかった」。

(余談ですが、この記述、「ロシア」を某国に、「ヨーロッパ」を日本に、「プーチン」を某国大統領に置き換えれば、まるでどこかの国のこととまったく同じではないでしょうか?)

すなわち、欧州から素材、部品、装備といった「モノを作るために必要なモノ」がロシアに入ってこなくなれば、さまざまな戦略物資の供給に支障をきたすようになることは、想像に難くありません。

需給両面から締め上げられるロシア経済

この点、土田氏によると、欧州からの輸出の落ち込みをカバーするかのように、中国やインドなどからのロシアに対する製品輸出が増えているのだそうですが、同時に「ロシアがこれまでヨーロッパから輸入してきたモノを、中国など新興国からの輸入で代替できているわけではない点に注意する必要がある」とも指摘します。

発展目覚ましい中国やインドだが、ヨーロッパと同等の品質の中間財や資本財を生産できるわけではない。そもそも、サプライチェーンの再構築には長期の時間を要するものだ。ヨーロッパのサプライチェーンに組み込まれていたロシアの製造業が、短期のうちに新興国との間で新たなサプライチェーンを構築できるわけがないのである」。

まったくそのとおりでしょう。

そうなると、いったい何が生じるのか。

外国から生産要素(ヒト、モノ、カネ)が入ってこなくなれば、現に国内に存在する生産資源で間に合わせるしかなくなりますし、国内に入ってこなくなった輸入品を国産品で代替させるしかなくなります。しかし、高い技術力を必要とする高付加価値品の代替生産には、限界があります。

これに加え、長引く戦争の影響で、軍需品の需要が急増しているという問題もあります。「投入できる生産要素が増えない環境下で軍需品の増産を図るなら、一方で民生品の清算は後回しにせざるを得ない」(土田氏)のです。

つまり、この「西側からモノが入ってこなくなったこと(=供給面)」、「戦争が長期化していること(=需要面)」という2つのショックがロシア経済を「戦時経済」化している、というのが土田氏の指摘、というわけです。

結局は中国次第だが…

このあたり、残念ながらロシアが主要な経済指標を公表しなくなったなどの事情もあり、断片的にしか分析することができない部分もあります(土田氏の論考でも軍服の需要急増をアパレル産業の生産高から推計する手法を使っています)。

ただ、それでも土田氏は「ロシアの経済ではモノ不足の問題が今後徐々に深刻化する」としたうえで、ウクライナとの戦争に「落としどころが見えない」以上、ロシア経済のほころびは「2023年に入ると着実に大きくなるはずだ」と予想します。

この予想が正しいかどうか――。

個人的には、中国がどこまでロシアを支えるかという要素ともかかわってくるとは思うものの、もし戦争が長期化すれば、ロシアがますます苦しい立場に追い込まれていくことに関しては間違いないと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. はにわファクトリー より:

    ハイテク電子部品電子装備の対ロシア制裁は非 EU 国たるトルコが豪快な抜け穴になっているそうです。エネルギープア(商材がそれ以外に残っていない)ロシアを段階的に締め上げていく計画はずいぶん前に立案され計画通りに実行に移されてきました。ロシア後の世界を協議する集まりはそこここで開催されているようですが、次第次第にその内容が明らかにされていくのでしょう。

    1. 伊江太 より:

      はにわファクトリー様

      あと、イランですね。ロシアより以前から西側諸国の経済制裁を喰らって、それでも持ちこたえてるこの国の、密輸に関するノウハウは馬鹿に出来ないでしょう。

      ついでに、戦略物資の横流しなんかで、この国との変な腐れ縁が疑われた半島国家なんかも(笑)。そういえば、チュニジアなんて目くらましを利用して、ロシアからのナフサの輸入を継続しているというはなし。何かお咎めみたいなものはあったのでしょうか。

    2. はにわファクトリー より:

      伊江太 さま

      首都テヘランはカスピ海の対岸でロシア・イランの長い結びつきからすると簡単には切り離せそうにありません。
      バイラクタール無人機の技術はトルコがかつてアメリカから技術制裁を受けていたことを挽回するために加速されたとのことで、エルドアン大統領は入れ込んでおり、事実娘をバイカル社創業者の片方に嫁がせていますから彼は TB2 機のお義父さんです。
      チェニジア経由で韓国がこっそり輸入したナフサは、余っているはずの市況を考えるイミフでしたが、それが北朝鮮に瀬取りで渡ったらしいとの話を紳士蟻さんが書いていたと記憶します。

  2. 元日本共産党員名無し より:

    https://youtu.be/sMGMufYgemc
    中共からの浸透圧は激しい様です。遅れて韓国も日本も手を伸ばして居たらしい。人口もこのままでは減少必至ですし、単なる自然減では無く兵役で失われるのは最強の労働力になったはずの屈強な若い男性労働者。耕作放棄地が買われて植民地的に蚕食されていくのは間違いない。
    歯舞色丹と千島列島を取り戻すにはロシア軍を圧倒する軍事力を背景に、キチッと日本の産業に組み込んで実質的に取り込めれば最も良いのですが。ロシア側の反日的態度と韓国や中共の暗躍で簡単には行かない気がする。

    1. はにわファクトリー より:

      北方領土獲得の暁には北極海航路海上交易の最重要拠点として整備活用するのがいいと思います。治世権は別にいらんのですが、樺太全島を経済圏に組み入れることも視野に入れるべきです。ご指摘のように中韓が全力を挙げて介入妨害を図るであることは自明ですね。

  3. 古いほうの愛読者 より:

    ロシアを間接的に援助している国は中国だけではないです。イランも武器輸出をしています。インドはロシア原油を大量購入していますが,1バレル60ドルよりかなり安い価格のようです。EUだったら60ドルで買ってくれそうなのに,ロシアはEUには売らないと言っています,
    ロシアが欧米や日本の先端部品を大量購入できないのは事実なので,高品質製品のロシア国内での供給は難しいでしょう。自動車生産も間に合わないようです。その他,欧米品質の商品は,全般的に入所困難でしょう。ロシア品質でも生活できないわけで,そこをどう考えるか。
    それに,農産物自給率は100%以上なので,ロシア国民が飢える状態にはならないでしょう。
    戦争は,ハイテク兵器が作れないのでジリ貧でしょう。

    1. 古いほうの愛読者 より:

      追記です。
      今日知ったのですが,2022年1~11月の日本のロシアからの輸入額が約1兆8252億円で,2021年の同時期とほぼ同じか微増だそうです。輸入品目は,LNG, 石炭,水産物などです。岸田総理が食べていたカニはロシア産じゃないでしょうね。1~11月の対ロ輸出は5423億円で,こちらは減少しているようです。中古車輸出が好調のようです。どうも,日本すら,あまり真面目に対ロ制裁してないようですね。

  4. 人工知能の中の人 より:

    ロシア銀行が労働者不足で経済回らなくなりだす可能性があると警告したとbloombergが報じてました。まだ可能性の話とはいえヒト、モノ、カネのうち国内のヒトの不足も現実味を感じる段階なってきたようです。
    ロシアは資源国ですからある程度の復活は短時間で済みそうですが、今でさえ外国部品頼りな製造業がさらに技術的後退することになるでしょう。

  5. オタク歴40年の会社員です、よろしくお願いいたします より:

    近所のスーパーで
    ウクライナのお菓子を買いました、
    チョコのたっぷりかかった甘いウェハース、
    食べて応援。

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