中国外交は「戦争長期化」で修正を余儀なくされたのか

習近平(しゅう・きんぺい)中国国家主席はロシアのウクライナ侵攻以降、すっかり鳴りを潜めてしまった感がありますが、これに変わって最近、じつに精力的に仕事をこなしているのが、王毅(おう・き)外相です。ウェブ評論サイト『現代ビジネス』に先日、中国はロシアのウクライナ侵攻を事前に承知していたものの、予想外に戦争が長引いたことで、中国が軌道修正を迫られているのではないか、といった仮説が掲載されていました。

近藤大介氏「中国が対米・対露外交で軌道修正」

ウェブ評論サイト『現代ビジネス』に先日、同編集次長の近藤大介氏が執筆した、こんな記事が掲載されていました。

中国・王毅外相の「超絶過密日程」が示す、対米・対ロ外交の軌道修正と焦燥感

―――2022.04.05付 現代ビジネスより

これによると、中国の王毅(おう・き)外相が「すさまじくエネルギッシュな外交を展開している」、というのです。

その証拠として、近藤氏は中国外交部が公表した、2月22日から4月3日までのおもな活動を具体的に列挙しているのですが、たしかに「超多忙」です。

たとえば、2月22日にはトニー・ブリンケン米国務長官との電話による意見交換を行ったほか、国連安保理改革会議、セルゲイ・ラブロフ露外相との電話、ジョセップ・ボレル欧州連合(EU)外務・安全保障政策上級代表との電話など、ほぼ毎日のように、何らかの対外活動を行っています。

また、3月に入って以降も、1日にソマリアのモハメッド・ファッラ・アイディード外相やウクライナのドミトロ・クレバ外相と電話会談を行ったのを皮切りに、(若干のバラツキはありますが)毎日のように外国の外相・外交当局者らとの精力的な電話会談などをこなしています。

近藤氏の納得の仮説「中国はウクライナ侵攻を事前に知っていた」

では、どうして王毅氏がここまで精力的に「超過密スケジュール」をこなしているのでしょうか。

王毅氏の「超過密スケジュール」だけを見ると、「じつは王毅(氏)はロシアによるウクライナ侵攻を事前に知らされていなかったのではないか」、「ロシアによるウクライナ侵攻後、泡を食った王毅(氏)が慌ててさまざまな国の外相らと会談をしているのではないか」、といった仮説が浮かびます。

しかし、近藤氏はこうした説を取らず、中国側がロシアからウクライナ侵攻について事前に知らされてはいたものの、それと同時にロシアは「今回の特別軍事行動は、局地的かつ短期間で収束する」と中国に説明していたのではないか、と指摘するのです。

たしかに、そのように考えると、中露双方の動きはさまざまな点で整合的に説明が付きます。

たとえば、ウラジミル・プーチン露大統領は北京冬季五輪にあわせ、2月4日に訪中して習近平(しゅう・きんぺい)中国国家主席と会談しているのですが、その際両国は15項目に達するあらたな協定に署名したそうです。これについて近藤氏は次のように説明します。

いま振り返れば、これらは『プーチンの戦争対策』とも言えるものだ。すなわち、今後ウクライナに侵攻すれば、米欧などの厳しい経済制裁を喰らうことは必至なので、その『抜け穴』を中国側に築いておこうということだ」。

したがって、これらの項目に署名する中国の側としても、ロシアの「局地戦」「短期決着」という意図を了解したうえで、侵攻を開始するなら「平和の祭典」である五輪が終了する2月20日以降にしてくれ、と依頼した可能性がある、というわけです。

当てが外れた中国

実際、プーチン大統領がテレビで55分間もの「国民向け演説」(近藤氏によると「事実上の宣戦布告」)を行ったのは22日のことであり、実際に軍事侵攻を開始したのが24日のことですので、こうした動きは「習主席との『信義』を守った」ものと考えると、すっきりと整合します。

こうした近藤氏の仮説が正しければ、パラリンピックの開会式が3月4日であることから、ロシアは最長でも2週間で短期決着を目指していて、中国もこれを事前に承知していた可能性がある、というわけでしょう。

ところが周知のように、ウクライナ側の予期せぬ激しい抵抗に遭った。その結果、戦争は泥沼化していった。パラリンピックはさっぱり盛り上がらず、世界の目はウクライナに注がれた」。

だからこそ、中国外交が修正を余儀なくされた、とするのが、近藤氏の説明です。大変に納得がいくストーリーでしょう。

ただし、中国外交が修正を余儀なくされたといっても、べつに「ロシアから離れ、米欧に寄った」というわけではなく、また、中国共産党内の権力争いも密接に関わってくるというのですが、このあたりの解説については、是非とも近藤氏の元記事でご確認いただきたいと思います。

なぜ最近、メディアで習近平氏の姿を見ることが少ないのか、なぜ3月19日に開かれた米中オンライン会談で、「外交担当国務委員」である楊潔篪(よう・けつち)氏の姿が見られなかったのか、などに関する非常に具体的な解説が加えられています。

中国・インドには注目しておく必要がある

近藤氏の議論における結論は、こうです。

ともあれ、ロシアのウクライナ侵攻が長期化するにつれ、ロシア外交の通奏低音のような中国外交の動きも注目しておく必要がある」。

まったくそのとおりと言わざるを得ません。

とくに、「中国が対露制裁を部分的に無効化する」という懸念(『ロシアは中国とのブロック経済圏形成で制裁を逃れる?』等参照)を踏まえると、中国の動きはむしろますます警戒しなければならないはずです。

これに加え、近藤氏の論考では、日米豪印「クアッド」に加わりながらも、「上海条約機構(SCO)」に参加し、ロシアとの結び付きを強めるインドの動きにも言及されているのですが、このあたりもインドが100%、日本にとって信頼に値する相手なのかを見るうえでは重要といえるかもしれません。

(※そういえば、『国連総会、ロシアにウクライナからの無条件撤退を要求』でも概観したとおり、インドは国連総会でロシアにウクライナからの無条件撤退を要求する決議案で棄権をしていたことも思い出します。)

その意味では、ウクライナ戦争のドサクサに紛れ、我々の目がどうしてもロシアに向かいがちな昨今であっても、中印両国の動きには注目しておく必要があることは間違いないと思う次第です。

読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    この中印の動きによってFOIPが形骸化しないよう日本はしっかり手綱を握らねば。
    ロシアだけではない。

  2. くろだい より:

    中国といえば、ウクライナが核攻撃を受けた時に相応の安全保障を提供するという合意のお話がありましたね。

    中国の約束「ウクライナを核から守る」は今も?
    https://news.yahoo.co.jp/articles/2bcabf601219a4815130762b3eb9e70c6a46f7cc

    中国のメンツとしては、プーチンが核を使うのは困るでしょう。事前にそこまで話をしたのかどうか。

    はたまた、いざという時は、「ウクライナの現政権の思想は、当時の政権とは全く異なる」とかロシアよりの苦しい理由をつけることになるのかもしれません。

    1. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

      ロシアとしても核兵器は最後の切り札だから
      戦況が思わしくなくても使うつもりは無いかもしれないが
      一番使えそうなのは生物兵器
      赤痢や病原性大腸菌あたりが自然発生と区別しにくいので有用だと思われる
      実は、アメリカ側もモスクワで撒こうとしているかもしれんけど

  3. はにわファクトリー より:

    インドは中国との最終戦争を覚悟していると当方は考えています。
    低価格生活物資において中国頼み、交戦力において外国兵器頼みという構図が改まったら、踏み切る可能性があります。

  4. PASSERBY より:

    国家として参加できないのに、わざわざオリンピックの開会式にきて、すぐに帰国し、オリパラ期間中に攻め込んだ。考えられた動きであり、これを蜜月関係というのは確かに違うだろう。ウクライナは一帯一路でも重要な拠点であり、ここ最近の投資額でも目を引くものがある。ロシアはNATOの東方拡大と同時に、中国の影響力の拡大とも戦っているようにみえる。

  5. j より:

    お疲れさまです。
    バイデン大統領に、一抹の不安を抱いているのは私だけでしょうか?
    日米安保条約を発展して、憲法を改正して、NATO加盟はどうなんでしょうか?
    ウクライナ難民を受け入れるということは、そこまで手を打って欲しい。

  6. 元日本共産党員名無し より:

    現時点で弱ったロシアの手を取れば資源輸入や何かの輸出でロシアの足元を見て莫大な利益があると思います。そのあたりが諦められない中共とインドはダメですね。せめて岸田首相が交渉して、かろうじて人道に反する行為があれば問題ぐらいのモノイイになりましたけれども。それは中共も言い出したレベル。

  7. 理系初老 より:

    先のG7で岸田首相は独仏欧州勢に対し中国を仲裁者に入れるのに反対した(出典サンケイ)そうだが、同じく本日のサンケイによれば、
    「林芳正外相は7日、訪問先のベルギーのブリュッセルで北大西洋条約機構(NATO)外相の関連会合に出席した。林氏はロシアによるウクライナ侵攻に関し「侵略を直接・間接的に支持している国がいることは憂慮されるべき事態だ。中国は、ウクライナ侵略について、いまなおロシアを非難していない」と述べ、中国の対応を名指しで批判した。」とのこと。
    —-こんなことを言うのは初めてですが、岸田さんも林さんもちょっとは頑張ってる?

    1. YT より:

       岸田総理も林外相も最初から媚中ではないのに、そういう印象付けをしている動画チャンネルに影響を受けているだけでしょう。ここはまだニュートラルな読者が多いですが、ヤフコメの偏向なんてひどいものですよ。少しでも岸田内閣を評価する投稿があれば、ブーイングアイコンのカウンターが一斉に上がります。
       確かにSNSはマスコミの洗脳を解くメディアですが、そこがもう一つの洗脳メディアになりうるというだけで、情報のバランスは読者が判断するしかありません。

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