米韓為替スワップ終了で韓国の外貨準備はどうなるのか
米FRBのテーパリング局面において、韓国通貨当局が為替介入を行っている証拠が出て来ました。本日公表された2021年12月時点の韓国の外貨準備高は、前月比8億ドルほどの減少となりました。減少幅は個人的な想定よりも少ないな、と思いましたが、先月に600億ドル分の米韓為替スワップが終了してしまったなかで、韓国がウォン安局面でどう対応するのか、今年の隠れたテーマのひとつかもしれません。
韓国の外貨準備高は前月比7.9億ドル減少
韓国の中央銀行に相当する韓国銀行は本日、2021年12月時点の同国の外貨準備統計を公表しています。これによると、外貨準備高は4631億ドルで、前月と比べて7.9億ドルほど減少しています。
これを細目別に展開したものが、図表1です。
図表1 韓国の外貨準備高(2021年12月時点)
項目 | 2021年12月 | 前月比増減 |
---|---|---|
外貨準備高合計 | 4631億ドル | ▲7.89億ドル |
うち金 | 48億ドル | ±0.00億ドル |
うちSDR | 154億ドル | +0.19億ドル |
うちIMFリザーブポジション | 46億ドル | +0.04億ドル |
うち現金預金・有価証券 | 4383億ドル | ▲8.12億ドル |
(【出所】韓国銀行)
これに関し、韓国銀行は次のような説明を加えています。
「ドル以外の外貨建資産の米ドル換算額は増加したが、外為平衡債基金債券を償還したことで外貨準備高は減少した」(韓国銀行『2021年12月末の為替保有額』【※韓国語】より)。
おそらく、この説明には、かなり重要な要素を無視しています。
それは、「為替介入」です。
じつは、韓国の通貨当局は日常的に、外為市場に対して為替介入を行っており、これについては米財務省も認めています(『米国財務省が「韓国は為替介入を行っている」と認める』等参照)。
つまり、今回の外貨準備高の減少も、為替介入の結果、という可能性がありますが、個人的な印象を申し上げるならば、減少額自体は意外と少ない、という気もします。
現金預金・有価証券の前月比増減
一般に外貨準備統計は「金」「SDR」「IMFリザーブポジション」「現金預金」「有価証券」などの項目で構成されているのですが、このうち注目に値するのは「現金預金」と「有価証券」です。外貨準備として自由に利用できるのが、基本的にはこの「現金預金」と「有価証券」だからです。
韓国銀行の過去統計データは、この「現金預金」と「有価証券」が分けられておらず、一本で表示されているのですが、この点については分析上、あまり大きな問題とはなりません。
どうも、この「現金預金・有価証券」の前月比増減を眺めていると、興味深いことに気付きます(図表2)。
図表2 韓国の外貨準備高のうち「現金預金・有価証券」の前月比増減
(【出所】韓国銀行)
2020年3月に100億ドル近く減少しているのが確認できますが、これは、コロナ禍初期で金融市場が混乱した際、韓国市場から巨額の外貨資金が流出したことによる影響と考えられます(私見)。
ただ、2020年4月以降は、韓国の外貨準備高については2021年1月、3月、6月にマイナスを記録したものの、それ以外の月に関しては、基本的には増え続けていました。
韓国資産バブルFRB主犯説
これについては、「韓国の資産バブルと米FRBなどの主要国中央銀行によるコロナ禍を受けた金融緩和には関係がある」、という当ウェブサイトなりの仮説が参考になるでしょう。この「韓国資産バブルFRB主犯説」とは、次のような流れです。
韓国資産バブルFRB主犯説
- ①FRB等、主要国中央銀行による金融緩和
- ②為替市場で韓国ウォンを含めたEM(※)通貨高
- ③韓国の通貨当局が「ウォン高になり過ぎれば輸出業者が困る」と判断
- ④韓国のウォン売り・ドル買い介入(→外貨準備の増加)
- ⑤市中のウォン流通量が増大(→マネタリーベースの増加)
- ⑥金融機関の家計向けローンが増大(→家計債務の増大)
- ⑦カネを借りた家計がリスク資産(株式、不動産、暗号資産など)に投資
- ⑧韓国ウォンがビットコイン取引通貨の第3位に浮上
(【出所】著者作成。なお、「EM」とは “Emerging Markets” 、つまり「新興市場諸国」のこと)
先ほどの図表2で見た外貨準備(のうち「現金預金+有価証券」部分)の前月比増減の要因は、だいたいがこの「韓国資産バブルFRB主犯説」の③で説明がつきます。
ということは、FRBがテーパリングに踏み切った前後あたりから、この逆回転が生じているはずなのですが、ここでもう1度、図表2を眺めてみてください。2021年8月、11月、12月には外貨準備高がマイナスとなっていることが確認できるでしょう。
韓国の外貨準備高の増減要因のすべてがこの「FRB主犯説」のみで説明できるというわけではありませんが、基本的には韓国の外貨準備高は韓国の通貨当局における為替介入と、かなり密接な関係があると考えられます。
為替スワップの終了がどう影響するか
こうしたなか、韓国には今月以降、心配な材料もひとつあります。
コロナ禍を受けて米FRBが韓国銀行を含めた世界の9つの中央銀行・通貨当局(FIMA)と締結した為替スワップ協定が、先月末で終了してしまったからです。
米FRBが為替スワップを締結する相手と流動性供給上限
- 常設・無制限…日本銀行、欧州中央銀行、イングランド銀行、カナダ銀行、スイス国民銀行→継続中
- 時限的・上限600億ドル…豪州準備銀行、ブラジル中央銀行、韓国銀行、メキシコ銀行、シンガポール通貨庁、スウェーデンリクスバンク→2021年12月末で失効
- 時限的・上限300億ドル…デンマーク国立銀行、ノルウェー銀行、ニュージーランド準備銀行→2021年12月末で失効
(【出所】著者調べ)
これらの為替スワップについては、『9本の時限的為替スワップは予定どおり12月末で終了』でも触れたとおり、基本的にはFRBにとっては金融緩和の一環という側面もありましたので、FRBが金融緩和の段階的縮小(テーパリング)を開始したいま、金融緩和ツールとしての米FRBから見た必要性は薄れています。
だからこそ、FRBとしては、日欧英加瑞5ヵ国・地域の中央銀行との常設型のスワップを残して、それ以外の9つのスワップについては終了させたのでしょう。
こうした為替スワップの消滅が金融市場でどう評価されるかについては、今後の韓国の金融政策、マクロ経済環境その他の状況次第でしょう。
個人的に少し気になる状況があるとしたら、韓国ウォンの対米ドル相場が年初以来、じわじわとドル高・ウォン安方向に動いており、昨日は瞬間的に1200ウォンの大台に近付く局面もあったことです。
韓国の通貨当局は、急激なウォン高局面では「ウォン売り・外貨買い」の為替介入を、逆にウォン安局面においては「ウォン買い・外貨売り」の為替介入を常態化させているものと考えられます。おそらく、1ドル=1200ウォンは韓国通貨当局にとって、心理的な「節目」として意識されているのではないでしょうか。
少なくとも500億ドルの余裕はあるはずだが…
いずれにせよ、600億ドルの為替スワップが消滅した現在、隣国の通貨危機という懸念については、2022年の金融市場の「隠れたテーマ」といえるかもしれません。
ただし、韓国通貨当局はコロナ禍以降、2020年4月からに限定しても、500億ドル前後の外貨を購入していると考えられるため、これをすべて吐き出すまでは、韓国に通貨危機は到来しないと考えても良いでしょう(※この500億ドルが奇妙な資産に化けていなければ、ですが)。
今年を通じて韓国の外貨準備がコロナ禍以前の状況に戻るような事態が到来するかどうかには、個人的には注目したいと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
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【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
11:25現在でドルウォンは1199.2程度です、最安値では1199.76まで行ったようですので、今日中には瞬間的に1200を越えるところまで行きそうな感じで、52週安値である1200.9を更新するかもしれません。これまでの動きを見る限りでは、韓銀は1200を絶対防衛ラインに設定していたように思われるのですが、年明け早々そのラインを試す展開になってますね。
他の通貨を見ると、円が大方の通貨に対して下げてますので、ドル高という感じではなく、単に円安ウォン安に振れているようです。
さて、今日はまだ水曜日なので、今週はどのような展開になるやら。
韓銀が必死に為替介入しているようですね。
黒字倒産のようなことを許さず、韓国の産業全てが、製造装置などは屑鉄として売り払い、後頭部を叩き割ってもキムチ汁さえ出ないほど干涸らびてからウォンが飛ぶのが理想です。
韓国の外貨準備は、高利回りの理財商品に化けているのではないでしょうか。中国の不動産会社が発行したものとか、利回り10%超は魅力的でしょうから。
USD/KRWは13:40現在1199ウォンを挟んで揉み合っていますね。
2022年の初日、即ち1月3日の夕方頃は1193ウォンぐらいだったと思いますので、やはり韓国当局にとって1200ウォンがどうしても越えたくないデッドラインということなのでしょうか。
ところで外貨準備高の話が出たので、我が国の外貨準備高が現在どうなっているのか、確認のため財務省のHPを訪ねたところ、令和3年12月7日付けのデータを見ることができました。
https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/reference/official_reserve_assets/data/0311.html
日本が保有している外貨準備高に於ける外貨の金額は、米財務省の資料に記載されている米国債の保有残高(2021年10月)とほぼほぼ合致しております。
https://ticdata.treasury.gov/resource-center/data-chart-center/tic/Documents/mfh.txt
なんと外貨準備高に占める米国債の割合は91%というわけです。翻って韓国はというと1254億ドルで27%程度でしかありません。ただこれに関しては、日本が異常なぐらいに米国債を保有しているだけだということだけなのかもしれません。何しろ中国も外貨準備高に占める米国債の割合も26.6%に過ぎないからです。
しかし、中国も韓国も米国債以外の有価証券として一体どのような金融資産を有しているのか、その辺りの実態というかその中身が気になるところですね。
普通の国として中国は基準にならんだろ
は? 中国を「普通の国」だなんて認識しておりませんが?
日本は「異常な国」と言って別の国を例に挙げた場合
それが「普通の国」なニュアンスだと普通は考えるのでは?
>外為平衡債基金債券を償還したことで外貨準備高は減少した
外為平衡債基金債券は、為替介入のための準備資金。国内外の投資家あてに米国債+αの金利で発行され、総額100億ドル弱の残高があったはずです。
*国内投資家に対しての償還を、ウォンでしちゃえばドルを使い込んだ事実が隠せてしまうのかな?
ウォンドル、今日のお昼は、凌いだようです。
アメリカ時間は、どうなりますやら。
外貨準備の定義として「通貨当局の管理下にある、直ちに利用可能な対外資産」
韓国のその他有価証券ってこの定義に合致するの?
韓国が、外為市場に対して為替介入を行っていることを婉曲に肯定しているTHE KOREA ECONOMIC DAILY 2021年6月22日の記事。
https://www.kedglobal.com/newsView/ked202106220006?lang=jp
証券市場で、MSCI (モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)の指標の構成国分類で、韓国は新興国(Emerging Markets)に分類されていて、何年間も、先進国(World Index)分類に入ることが出来ません。
毎年、韓国が先進国編入を申請してもそれが否決されている理由のトップに来るのが 「域外外国為替市場がない」こと。
何故なら、韓国が域外現物市場を開設すれば、為替相場の急変動に介入するのが事実上不可能になるためであり、韓国の業界の関係者は、「「『外為市場介入』と『先進国指数編入』のうち政府は前者を選ぶ雰囲気なので、・・・」 と話していると、記事にあり。
韓国の空売り規制も問題になっているそうです。
こういう面でも、韓国は先進国ではないのですね。