為替スワップで外貨準備減少:不良債権も深刻か=韓国

韓国銀行が5日公表したデータによると、韓国の8月末時点の外貨準備高は前月比で35億ドルも落ち込んだそうです。為替介入に加えて「国民年金との為替スワップ」なども影響したそうです。ただ、そもそも韓国の外貨準備はコロナ禍以降、大変不自然な動きをしており、これに加えて同国の「第2金融圏」と呼ばれる金融機関を中心に不良債権問題が深刻化しつつあるとの報道もあります。そこで本稿では、いくつかのデータをもとに、隣国の金融市場の状況をざっと眺めておきます。

外貨準備は前月比

またぞろ、隣国の資金フローがなんだか怪しくなってきたようです。

韓国銀行は5日、8月末の外貨準備の状況を公表しました。

2023年8月末の外国為替保有額

―――2023.09.05付 韓国銀行HPより

これによると、韓国の外貨準備高は4183億ドルで、前月と比べて35億ドル落ち込みました。韓国銀行のデータをまとめたものが、図表1のとおりです。

図表1 韓国の外貨準備(2023年8月末)
項目2023年8月末前月比
外貨準備合計4183.01億ドル▲35.03億ドル
 うち金47.95億ドル±0.00億ドル
 うちIMF-RP45.94億ドル▲1.19億ドル
 うちIMFSDR150.46億ドル+2.40億ドル
 うち現金預金+有価証券3938.66億ドル▲36.25億ドル

(【出所】韓国銀行データをもとに著者作成)

IMFリザーブポジションやSDRについては金額的割合は少なく、また、短期的に変動するものでもありません(なお、金が前月比横ばいである理由は、韓国が金を時価評価していないためですが、これも金額的には少ないので、とりあえずは無視しておいて差し支えないでしょう)。

国民年金との為替スワップ

問題は、「現金預金+有価証券」の金額です。

これについて韓国銀行は「米ドル以外の通貨建ての資産の米ドル換算額の減少」と「外為市場の変動制緩和措置」(要するに為替介入でしょうか?)を挙げていますが、とくに為替介入については「国民年金との外国為替スワップ」という記述があります。

この「国民年金との為替スワップ」は、以前の『韓国通貨当局が再び国民年金と「為替スワップ」を締結』でも取り上げた、「年金基金が外貨建資産に投資する際にウォン安になることを防ぐための協定」のことだと考えられます。

これは、国民年金が外貨建ての資産に投資するのに先立って発生する、外為市場でのウォン売り・外貨買いという取引を抑制するために、韓国銀行が直接、外貨準備から外貨を国民年金に提供する、というものだそうです。

こんな協定を必要とするということは、たかだか個別の外貨取引でウォン安に振れてしまうほど韓国の外為市場が脆弱だ、という意味なのでしょうか。いずれにせよ、私たち先進国(あるいはハード・カレンシー国)の国民にとっては、どうにも理解に苦しむ協定ですが、それが発動されたというのは興味深いところです。

この数年で「増えて減った」韓国の外貨準備

ちなみに韓国の外貨準備高の推移は、韓国の資金フローの状況を考察するうえで、非常に良い材料でもあります。

韓国の外貨準備高はコロナ禍直後の2021年10月に4692億ドルと過去最高を記録しており、また、外貨準備のなかでも「現金預金+有価証券」に限定した値は、21年7月に4457億ドルと過去最高を記録しています(図表2)。

図表2 韓国の外貨準備高の推移

(【出所】韓国銀行データをもとに著者作成)

韓国の外貨準備高で「現金預金+有価証券」の部分と「外貨準備合計」の部分のピークがそれぞれ異なっている理由は、コロナ禍への対応として国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)が2021年8月に追加配分されたことに伴うものです。

ただ、韓国の外貨準備の動きは、非常に不自然でもあります。

というのも2020年4月以降、急増し始め、21年7月頃にピークを付け、その後は急減し、とくに「現金預金+有価証券」の金額は、22年10月には3906億ドルと、20年4月頃の水準に戻ってしまっているからです。要するに、500億ドルほど、「増えて減った」のです。

だいたい米FRBのせい

ではなぜ、韓国の外貨準備が「増えて減った」のか――。

その理由の大部分はおそらく米国の金融緩和で説明が付きます。

図表3は、韓国ウォンの対米ドル相場(USDKRW)の推移を示したものです(上に行けばウォン安、下に行けばウォン高を意味します)。

図表3 USDKRW(2019年8月~)

(【出所】The Bank for International Settlements, “Download BIS statistics in a single file”, US dollar exchange rates (daily, vertical time axis)  データを参考に著者作成。データは8月29日まで)

これで見るとUSDKRWは21年1月頃には1ドル=1080ウォン前後を付けていましたが、これはおそらく米FRBによる旺盛な金融緩和の結果、韓国を含む新興市場諸国に投機資金などが流れ込んでいた証拠でしょう。

実際、韓国ではコロナ直前、国内不動産市場でバブルがはじけるのではないか、といった懸念もあったようですが、コロナ禍が始まってFRBが資金を市場に放出したこと投機資金が韓国にも流入し、それで不動産バブルが息を吹き返したような状況となっていたようです。

ただ、FRBは2022年以降、インフレ対策もあり、急速な利上げに踏み切り、USDKRWが上昇(=ウォンの価値が下落)し、一時、リーマン・ショック時に並ぶ1ドル=1450ウォン前後にまでウォンが急落したのです。

外貨準備が「増えて減った」理由も、このFRBの金融緩和でだいたいの説明がつくのではないでしょうか。

国内金融市場ではきな臭い動きが続く

もっとも、通貨危機もしくは金融危機が懸念されていた昨年と比べ、昨今、韓国の金利・債券市場は落ち着きを取り戻しているものの、なにやらきな臭い状況が続いています。

図表4は韓国銀行のデータをもとに、主要な金利指標の推移を示したものですが、全体的に「金利が無限に上昇していく」などの状況は生じていないものの、金利水準は高止まりしていて、とりわけ格付けの悪い「BBB-3年債」の利回りは10%を超過している状況が続いています。

図表4 韓国の金利・債券市場

(【出所】韓国銀行データをもとに著者作成)

こうしたなかで懸念されるのは、韓国国内で「第2金融圏」と呼ばれる、銀行以外の金融機関(協同組織金融機関やノンバンクなど)の不良債権の増大です。韓国紙『中央日報』(日本語版)に5日付で掲載されたこんな記事がその典型例でしょう。

韓国、「9月危機」ないというが…第2金融圏の延滞率急騰に緊張

―――2023.09.05 09:04付 中央日報日本語版より

記事によると金融監督院が4日に公表した相互金融組合(農協、水協、信用協同組合、山林組合)の6月末の延滞率は2.8%で、昨年末の1.52%と比べ1.28ポイント上昇。不動産市場不振の影響で不動産プロジェクトファイナンス(PF)を中心に延滞が増えたため、などとしています。

また、相互金融の企業向け貸付延滞率についても5.12%で、昨年末の2.3%から1.98ポイント上昇したほか、他の「第2金融圏」(貯蓄銀行やカード会社、行政安全部傘下の「セマウル金庫」やなど)の延滞率も上昇傾向にある、というのが中央日報の説明です。

このあたりはかつての日本の不良債権問題(たとえば1990年代の住専問題など)とも、状況自体はよく似ています。

日本も無関係ではいられない

ただ、もしも金融危機が表面化した場合は、それが韓国の金融圏に留まれば良いのですが、ケースによっては同国からの資金流出を通じ、通貨危機に直結するという可能性についても懸念されます。

とくに日本では日韓諸懸案がまったく解決していないなかで、韓国に対する通貨スワップを復活させると表明した政権があったようです。

報じられている日韓通貨スワップの規模自体は100億ドルと、韓国の通貨危機を抑止する水準には足りませんが、一般に通貨スワップ協定はいったん締結しておけば増額が容易であるため、どこかの国の首相は財務省にそそのかされて、「一時的に1000億ドルに増額する」、などと言い出しかねません。

恐ろしい話です。

いずれにせよ、日本も愚かなことに通貨スワップを通じて再び韓国の金融システム不安にコミットすることになってしまった以上、韓国の通貨安や不良債権問題などに無関心でいることはできなくなってしまったのです。

現時点において財務省や日本銀行のウェブサイト上、日韓通貨スワップに関する追加の発表は見当たらず、したがって、現時点ではスワップ協定はまだ発効していないものと考えられます。秘密裏に発効しているのでしょうか?(というか、国民に秘密でそのような協定を発効させることは許されませんが…。)

日本の金融システムの安定という観点からは、日韓通貨スワップ協定が発効する前に岸田文雄首相、鈴木俊一財相らが辞任し、後任がそれらにストップをかけるということに、一縷の望みをかけても良いかもしれません。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    こうして
    こころ優しいキシダちゃんは
    韓国を救ってあげました。
    めでたし、めでたし。

  2. カズ より:

    本当は金利上昇に伴って、保有米国債等の評価額(即時換金可能額?)も下がってるんですよね。
    外貨準備残高を「取得価額基準(評価替えしない方式)」で管理してる国なのですから・・。

  3. たろうちゃん より:

    金利がFRBと連動し、金利差が顕著になった挙げ句のウォン下落だから日本円にして一兆円前後のスワップではどうにもならない。増額できるらしいが更なる支持率の低下に拍車が掛かるのはまちがいない。問題は岸田に現状把握ができるかということ。外務大臣時代から何回騙されれば気が済むのか。一兆あれば国内がどれだけ潤うかということ。なにかにつけ補助金ありきで実効性がない。しかし派閥力学で大臣や総理を選ぶから、議員を選ぶ選挙民にも、問題がある、、志があり実務能力がある。そんな人物、、、いないかぁ?

    1. さより より:

      >外務大臣時代から何回騙されれば気が済むのか。

      記憶メモリー容量が極めて少なくて、直ぐ上書きされて記憶に残らないらしいので、経験が教訓として残らないらしいですよ。
      だから、聞く力が必要なようですが、メモリー容量が少ないので聞いても、後からの情報に直ぐに上書きされてしまうので、例え、聞く力があったとしても、何の役にも立たないのですね。
      いやはや、そもそも総理どころか一政治家としても難しいかも、ですね。

  4. naga より:

    日本には南北朝鮮や中国の名誉を守ってやろうとしたり経済を守ってやったり、かつて受けたと称する虐殺等に対応しようとする政治家や役人が多いですな。
    日本人にはきついくせに。
    日本人の名誉や経済状況は悪化させたり不遇のまま放置。かつて受けた虐殺や拉致は知らんふり。現在進行形の拉致も放置。もっと日本人のことを考えろ。

  5. CRUSH より:

    関数 y=f(x)は、
    「なんだか作動原理はよくわからないけど、
    なにか(x)を放り込むとなにか(y)を吐き出してくる箱がある」
    という意味です。

    韓国&韓国人を観察してよくわかるのは、
    「日本が優しくしてると韓国はつけあがる」
    「韓国が優勢だと韓国人は尊大になる」
    「日本が厳しくすると韓国は控え目になる」
    「韓国が劣勢だと韓国人は礼儀正しい」

    プロセスは様々ですが多くのシチュエーションで、おおむねこういう関数が観察されます。

    ゆえに、乱暴な言い方になりますが、
    「何故あなたたちは礼儀正しくしないの?」
    とか問うよりも、
    「日本が厳しくして、韓国を劣勢に保つ」
    ことが日本の望む結果(y)を手に入れるための条件だということになります。

    シンプルな関数です。
    あんまり例外は思い当たりませんわ。

  6. 匿名 より:

    サムライ債の事もお願いします

  7. 世相マンボウ* より:

    いやはや いわゆる火の車状態ですなあ笑

    まあ、経済 文化 国力 民度 歴史的事実 のどれをとっても
    所詮はアジアの底辺国がホームポジションの
    韓国さんなのに、それをK-POPなる
    韓流整形腰振り踊りを全面に打出すことで
    「世界が尊敬し羨望する韓流文化(笑)」と
    ゴリ押ししようというのが本来無理があるもので
    人類の文化にとってはゴミのような
    迷惑極まりないものなのです。

    少なくとも日本においては
    韓流というものの位置づけは
    嘘捏造で謝罪と金銭要求する
    韓流脱糞派アーチスト作自称従軍慰安婦像撒き散らし組
    といわれる韓流や、
    世界が認める処理水を「汚染水」とレッテル貼って
    原発風評被害拡散活動する阿部知子のような人たちだと
    正しく認識をすることが大切だと感じます。

  8. 匿名 より:

    外貨準備と連動する韓国の為替レート変動があれば、韓国が保有している対外資産の内訳がわかるかもしれないですね。

  9. 匿名 より:

    韓国の経済状況が厳しいとはいえ、保守政権である尹大統領の時に問題が破裂することはないでしょう。米国、日本が支えるでしょう。こういう地雷は、将来左派政権ができた時の脅迫材料として残し、場合によって左派政権時に破裂させると思う。

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