テレ朝番組「手の常在菌で発酵させたシロップ」に批判

今度は「黄色ブドウ球菌」です。テレビ朝日の情報番組『ビートたけしのＴＶタックル』の４月23日の放送回で取り上げられた「手の常在菌を使って発酵させた自家製の酵素シロップ」を巡り、ツイッターなどで批判が相次いでいます。医師を名乗る方からは「手の常在菌の代表例は黄色ブドウ球菌」との指摘が寄せられたほか、多くのユーザーは「それは発酵ではなく腐敗」、「食品衛生法違反」などと指摘しているのです。ただ、ネットで裏取りをする習慣がない人は、テレビをまねて「手の常在菌発酵食品」とやらを作ろうとするかもしれません。

テレビ番組をツイッター上で医師が批判

またしても、テレビが「やらかした」のでしょうか。

ツイッター上の情報によると、テレビ朝日が制作する情報番組『ビートたけしのＴＶタックル』の４月23日の放送回で、静岡県のホテルの「手の常在菌を使って発酵させた自家製の酵素シロップ」というものが取り上げられたところ、ツイッター上で強く批判されている、というのです。

批判したのはそれぞれ「ドクターK＠眼科医パパ」、「ばりすた☕️脳神経内科医」と名乗る方で、放送内容を紹介したツイートを引用する形で、それぞれ、手の常在菌のなかの黄色ブドウ球菌などが食中毒の原因になる、などと指摘しています。

手の常在菌は黄色ブドウ球菌などがいて、食中毒の原因になります。 https://t.co/hC3Afq0n5w

— ドクターK＠眼科医パパ (@doctorK1991) April 25, 2023

手の常在菌で有名なのは黄色ブドウ球菌ですが、黄色ブドウ球菌の食中毒では、菌が産生した毒素によって約3時間後に激しい腹痛嘔吐下痢を来します。

デトックス(detoxification)どころか毒(toxin)を摂取するハメになるよ。 https://t.co/6bI4FzAj2H

— ばりすた☕️脳神経内科医 (@bar1star) April 25, 2023

「自家製夏みかん発酵シロップ」の危険性

各種情報を総合すると、問題のシーンは「注目　アイデア満載！日本の旅行スタイルが変化」と称したコーナーで出てきたもので、静岡県沼津市にあるホテルで提供されている、「夏みかんを発酵させた自家製の酵素シロップ」を取り上げたものです。

たしかに、「手の常在菌を使って発酵」というテロップとともに、従業員と思しき人物が、夏みかんと思しき材料が入っている容器に素手を突っ込んでかき回しているシーンがあります。

また、「支配人」による「入浴15分前に発酵ドリンクを飲んで」という発言や、「デトックス効果が得られるといわれている」などのテロップとともにシロップを大写しにしているシーンなども確認できます。

これに対し、「ドクターK＠眼科医パパ」さんは「手の常在菌は黄色ブドウ球菌などがいて、食中毒の原因になります」と指摘。

また、「ばりすた☕️脳神経内科医」さんは、「手の常在菌で有名なのは黄色ブドウ球菌ですが、黄色ブドウ球菌の食中毒では、菌が産生した毒素によって約３時間後に激しい腹痛嘔吐下痢を来します」と警告したうえで、こう述べています。

「デトックス(detoxification)どころか毒(toxin)を摂取するハメになるよ」

…。

事実だとすれば、なんとも恐ろしい話です。

【参考】黄色ブドウ球菌の顕微鏡写真

（【出所】食品安全委員会『食中毒菌の電子顕微鏡写真』）

食品衛生法違反の疑いも？

また、ツイートでは、「発酵に関与しているのは柑橘の皮にいる酵母菌ではないか」、といった指摘に加え、「調理師」を名乗る方などからは、「手には常在菌がいるからこそ、調理済みの食品を素手で触ることには慎重だ」、「食品製造現場は常在菌との闘いだ」、といった指摘もあったようです。

さらには、「それは発酵ではなくて腐敗では？」といった疑問に加え、法的な見地から、「食品衛生法違反」、とりわけ「黄色ブドウ球菌を故意に混入させていること」を問題視する意見もありました。

実際、食品衛生法第６条には、「有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは付着し、又はこれらの疑いがあるもの」、「不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがあるもの」などの販売を禁じる条項もあります。

食品衛生法第６条

次に掲げる食品又は添加物は、これを販売し（不特定又は多数の者に授与する販売以外の場合を含む。以下同じ。）、又は販売の用に供するために、採取し、製造し、輸入し、加工し、使用し、調理し、貯蔵し、若しくは陳列してはならない。

一　腐敗し、若しくは変敗したもの又は未熟であるもの。ただし、一般に人の健康を損なうおそれがなく飲食に適すると認められているものは、この限りでない。

二　有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは付着し、又はこれらの疑いがあるもの。ただし、人の健康を損なうおそれがない場合として厚生労働大臣が定める場合においては、この限りでない。

三　病原微生物により汚染され、又はその疑いがあり、人の健康を損なうおそれがあるもの。

四　不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがあるもの。

また、これらの規定に違反した場合は、「３年以下の懲役または300万円以下の罰金」という罰則が定められています（食品衛生法第81条第１号等）。

ちなみに発酵と腐敗の違いは「人間にとって有益なものができるかどうか」であり、微生物が有機物を分解し、副産物を生成するという意味では同じ現象だそうです。同じ乳製品でも、ヨーグルトのように生成された副産物が人間にとって有益ならば発酵、エンテロトキシンのように人間にとって有毒ならば腐敗、といったところでしょうか。

テレビ局に対するペナルティ（停波、免許剥奪）の仕組み整備が急務

いずれにせよ、テレビは社会的影響力が大変に大きいがため、放送する内容が非科学的なものであった場合に社会に与える悪影響も、大変に大きいものとならざるを得ません。

もちろん、テレビの社会的影響力は徐々に低下していることは間違いなく、たとえば株式会社電通が公表する『日本の広告費』というレポートで、2022年の広告費はネットがマスコミ４媒体（新聞、テレビ、雑誌、ラジオ）合計を抜き去った（『ネット広告費が史上初の３兆円台：マスコミ退勢は続く』参照）とされています。

新宿会計士の政治経済評論

 

2 Pockets

2023.02.26

ネット広告費が史上初の３兆円台：マスコミ退勢は続く

https://shinjukuacc.com/20230226-01

今年も株式会社電通から『日本の広告費』というレポートが公表されました。これによるとネット広告費は史上初めて３兆円の大台に乗る反面、マスコミ４媒体（テレビ、新聞、雑誌、ラジオ）の広告費は約2.4兆円にとどまりました。ネット広告費は昨年、マスコミ４媒体広告費を史上初めて抜いたのですが、今年はさらにその差が拡大し、いまやマスコミ４媒体の市場規模はネットの80％程度になってしまった計算です。日本の広告費世の中にはさまざまなウェブサイトがありますが、当ウェブサイトがひとつこだわっているテーマがあるとすれば、...

ただ、すでに「滅亡」が視野に入っている新聞などと異なり、テレビ局については依然として社会的影響力が大きく、「インターネットで情報を検証する」という習慣がない人であれば、テレビのマネをして「手の常在菌を使った発酵食品」を作ろうとするかもしれません（もっとも、それは「発酵食品」ではなく「腐敗食品」かもしれませんが）。

だからこそ、少なくともこれを放送したテレビ局は、科学的見地から検証を実施したうえで、必要に応じて訂正放送や番組の今後の放送取りやめなど、適切な措置を講じなければなりませんし、もしテレビ局がそれをやらないなら、総務省はテレビ朝日に対する停波を命じるなどの必要もあるかもしれません。

そして、日本のテレビ局は政治的にも偏向していることが多いと指摘されますが、この手の情報番組に関しても放送内容自体の適切性を審査したうえで、適切なペナルティ（停波、放送免許剥奪など）を与えられるような仕組みの構築は急務ではないかと思うのですが、いかがでしょうか。