自民党が4議席制するも、うち3議席で「薄氷の勝利」
自民党は5つの国会議員補選で4議席を獲得しました。見た目は「自民党の圧勝」です。ですが、各選挙区の得票率などを詳細に確認していくと、本当の意味で「自民党の圧勝」と言って良いかは微妙です。というのも、4つのうち3つの選挙区では薄氷の勝利だったからです。また、獲得議席がゼロだった立憲民主党には、やはり「小西問題」の逆風が吹いている一方、日本維新の会や国民民主党が現実的な選択肢として浮上しつつあるのかもしれません。
目次
議席だけで見たら自民党の圧勝
ふたを開けてみれば、獲得議席のみでいえば、「自民党の圧勝」でした。
統一地方選の後半戦の投開票にあわせ、23日に執行された衆参両院の5つの補選では、自民党候補者が4選挙区で勝利する一方、「最大野党」立憲民主党の当選者はゼロだったのです。なお、二階俊博・自民党元幹事長の「おひざ元」である和歌山では自民党が議席を落とし、日本維新の会の候補が当選しました。
これにより、自民党は議席を増やした格好であり、G7広島サミットを前に、岸田文雄・現首相にとっては政権運営に自信を深める要因となるかもしれません。また、少なくとも今年2月ごろまでささやかれていた「サミット花道論」は雲散霧消したと考えて良いでしょう。
もっとも、これを本当の意味で「自民党の圧勝」と呼んでよいのかについては、微妙です。というのも、各選挙区の情勢を確認してみると、うち3選挙区で「薄氷の勝利」となったからです。
山口4区は自民党の圧勝、立憲民主党の惨敗
このうち、本当の意味での「自民党圧勝」「立憲民主党の惨敗」といえるのは、山口4区です。
山口4区といえば故・安倍晋三総理大臣の地盤でもありますが、自民党公認でまだ38歳の吉田真次氏が51,961票と、有効得票の60%以上を獲得して当選しました。2位の有田芳生氏以降の全候補者の得票を足しても吉田氏には及びません(図表1)。
図表1 衆院・山口4区補選(確定/敬称略)
候補者 | 票数 | 得票率 |
(当)吉田 真次(自由民主党) | 51,961 | 63.48% |
有田 芳生(立憲民主党) | 25,595 | 31.27% |
おおの 頼子(国民民主党) | 2,381 | 2.91% |
わたなべ あい(政治家女子48党) | 1,186 | 1.45% |
竹本 秀之(無所属) | 734 | 0.90% |
有効票数合計 | 81,857 | 100.00% |
(【出所】山口県、総務省)
山口2区は意外と差を詰められた
ただ、こうした「自民党が本当に圧勝した選挙区」は山口4区のみであり、その他の3選挙区は、それぞれ薄氷という状況です。
まず、岸信夫・前防衛相の息子で安倍総理の甥でもある岸信千世氏(31)は、父の地盤である山口2区から出馬して当選したのですが、無所属で民主党政権時代の元法相だった平岡秀夫氏に5,768票差まで詰められました(図表2)。
図表2 衆院・山口2区補選(確定/敬称略)
候補者 | 票数 | 得票率 |
(当)岸 のぶちよ(自由民主党) | 61,369 | 52.47% |
平岡 秀夫(無所属) | 55,601 | 47.53% |
有効票数合計 | 116,970 | 100.00% |
(【出所】山口県、総務省)
シンプルに考えたら、「岸信介の曾孫、安倍晋太郎の孫、安倍晋三の甥、岸信夫の息子」という「サラブレッド」的な家系であることを踏まえると、もっと圧勝していても不思議ではない、という気がしますし、また、「保守王国」の山口県でここまでの票を得た平岡氏は大したものだ、という言い方もできるかもしれません。
実際、平岡氏は2000年に山口2区で自民党の佐藤信二・元通産相を破って当選して以来、小選挙区で落選して比例復活した2005年を除いて小選挙区で勝ち続け、12年12月の選挙で落選するまで衆議院議員を務め続けたという「実力者」でもあります。
山口選挙区でのこの状況に対しては、自民党は少し危機意識を持った方が良いかもしれません。
千葉5区は野党分裂に助けられた
「薄氷」という意味では、千葉5区はさらに深刻です(図表3)。
図表3 衆院・千葉5区(午前1時時点/敬称略)
候補者 | 票数 | 得票率 |
(当)えり アルフィヤ(自由民主党) | 48,074 | 29.58% |
矢崎 けんたろう(立憲民主党) | 45,476 | 27.98% |
岡野 純子(国民民主党) | 24,779 | 15.25% |
岸野 ともやす(日本維新の会) | 22,895 | 14.09% |
さいとう 和子(日本共産党) | 12,296 | 7.57% |
星 けんたろう(無所属) | 6,540 | 4.02% |
おだ みつえ(政治家女子48党) | 2,458 | 1.51% |
有効票数合計 | 162,518 | 100.00% |
(【出所】千葉県)
千葉5区では、自民党の公認を受けた英利アルフィヤ氏が当選しましたが、2位の矢崎堅太郎氏が惜敗しました。得票差はたった2,598票です。
この選挙区はそもそも自民党前職の薗浦健太郎氏が政治資金規正法違反で離党し、議員辞職したことに伴う補選であるため、自民党にとってはそれなりの「逆風」が吹いているなかでの勝利ですので、これについては素直に評価して良い、という意見もあるかもしれません。
極端な話、立憲民主党に「小西問題」という逆風が吹いていなければ、矢崎候補がもう少し票を上積みし、勝利していた可能性もあるでしょう。
しかも、24,779票を獲得した国民民主党の岡野純子氏、22,895票を獲得した日本維新の会の岸野智康氏に、野党票が分散した、という効果があったことは否定できません。両名を合わせたら47,674票で、矢崎氏、英利アルフィヤ氏とほぼ互角だからです。
和歌山選挙区は維新に取られてしまった
そのうえ、二階俊博氏の「おひざ元」である和歌山1区では、日本維新の会の新人・林佑美氏が、門博文氏に6,063票の差をつけて当選しました(図表4)。
図表4 衆院・和歌山1区補選(確定/敬称略)
候補者 | 票数 | 得票率 |
(当)林 ゆみ(日本維新の会) | 61,720 | 47.47% |
かど 博文(自由民主党) | 55,657 | 42.80% |
くにしげ 秀明(日本共産党) | 11,178 | 8.60% |
山本 貴平(政治家女子48党) | 1,476 | 1.14% |
有効票数合計 | 130,031 | 100.00% |
(【出所】和歌山県)
今回の5補選で唯一自民党が議席を落とした選挙区です。
ちなみに門博文氏は、自民党に風が吹いた2012年の選挙を含めて和歌山選挙区に出馬し続けていますが、小選挙区で1度も当選したためしがありません。同選挙区は岸本周平氏(民主党、国民民主党など。和歌山県知事選出馬のため議員辞職)の地盤でもあったからです。
門氏は12年、14年、17年の3つの衆院選で比例復活したのですが、直近の21年の衆院選では岸本氏に4度目の敗北を喫したうえ、比例復活もできずに議席を失っています(なお、門氏は二階派に所属しているそうです)。
参院大分ではたった341票差
最後に、参院大分選挙区についても確認しておくと、こちらは得票率では0.8%ポイント、たった341票差で自民党が勝利しました(図表5)。
図表5 参院・大分補選(確定/敬称略)
候補者 | 票数 | 得票率 |
(当)白坂 あき(自由民主党) | 196,122 | 50.04% |
吉田 ただとも(立憲民主党) | 195,781 | 49.96% |
有効票数合計 | 391,903 | 100.00% |
(【出所】大分県)
立憲民主党から出馬した吉田忠智氏は、もともとは社民党時代に全国比例で当選した経歴を有しており、また、社民党党首も務めていたことから、一定の知名度を有しています。
また、吉田氏は2019年7月の参院選で社民党から比例当選していますが、2020年12月に社民党を離党して立憲民主党に合流しています。今回も大分補選に「野党統一候補」として出馬するために参議院議員を辞職しているため、社民党から大椿裕子氏(副党首)が繰り上げ当選しています。
ということは、今回の5つの補選で、立憲民主党は僅差で負けた衆院千葉5区、参院大分を含め、1議席も獲得できなかっただけでなく、吉田氏の辞職に伴い参議院で1議席減らしているのです。
各党悲喜こもごも
このあたり、「小西問題」――、すなわち同党所属の小西洋之・参議院議員が総務省の内部文書を不正に入手したとされる問題、「サル・蛮族」などの暴言を吐いた問題、一般人や報道機関を恫喝した問題など――が、今回の立憲民主党の選挙で、党勢退潮を決定づけた可能性は濃厚でしょう。
また、自民党が5議席中、4議席を獲得したものの、とくに千葉では「野党分裂」「小西問題」という「敵失」に裏付けられたものであり、山口4区、参院大分での勝利も薄氷というほかないものであるため、これで岸田首相が「サミット解散」に踏み切れるかどうかは微妙な情勢でしょう。
そして、和歌山で1議席を確保した日本維新の会や、議席確保はならなかったにせよ千葉5区で善戦した国民民主党といった勢力も、立憲民主党に代替する選択肢として浮上しつつある、という言い方ができるのかもしれません。
本文は以上です。
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千葉五区の当選者は、ご両親がウイグル出身で日本国籍を取得した人とのこと。
でも「本名非公表」なのだそうです。
なんで?
これって、まさか「本名でルーツを追跡されることを恐れている」んじゃないですよね?
実はウイグルを迫害している国の利益になるように動く人、という可能性はないですよね?
みみこさんの恐れはそれなりに可能性が高そうです。
被選挙権は、年齢ではなく日本国籍の所持期間を25年、ないし30年を条件とする、などに変える必要があると思います。
これなら日本人にとっての条件は変わらず、帰化した方へのチェック期間が設けられるでしょう。
逆の可能性もあるかもしれませんよ。本名を明らかにすると中国警察に家族が迫害される、など。
>氏名非公表
私感ですが、初見では私もnanoshi様同様に中国警察による家族迫害や、迫害・脅迫された家族を通して中共政府が日本の政治に介入するのを恐れたかと思いました。
ただまぁ一般には非公開でも、中国当局は勿論としてそれなりの組織力があれば特定は容易だろうし、特定班や外野が予想外に騒ぐのを防止する目的じゃないですかね
※昔、NHKのウィグル(チベットだったかも)特集番組で、中国国外で活動するウィグル人(留学生か帰化社会人だったかも?)の元に、「家族の電話番号発信」で「中国共産党担当者」から電話がかかってくる、というのを見た記憶があります。
コレって明確に中国国内にいる家族や知人は中共の支配下にあるから、国外での言動に注意しろって脅迫ですよね・・
香港の留学生が一時帰国で拘束された件といい、権力者の思惑一つで自由が失われる独裁国家は怖いです
みみこ さま
>ご両親がウイグル出身で日本国籍を取得した人とのこと。
先祖代々、日本人でも、日本のためでなく、外国のために働く国会議員もいるのではないでしょうか。
>実はウイグルを迫害している国の利益になるように動く人
迫害している国から、残っている親族への迫害の脅迫があるのではないでしょうか。
また、迫害している国のためでなく、ウィグル人の人権のために働くのなら、日本国内のリベラル派から、「元ウィグル人の立候補は制限すべきだ」との声が出てくるのではないでしょうか。
和歌山の二階議員も日本人です
国籍や帰化だけで決めつけるのは早計かと思います
えりアルフィヤ氏は公式ホームページのブログで「名前を失うということ」「名前を得るということ」について語っておられます。「本名非公表」はこれと関係がある・・・のかもしれません。
>Y様
情報提供ありがとうございます。憶測ではなく一次情報に当たるのはやはり大事ですね。@反省
ブログ内の「名前を失うということ」「名前を得ること」だけですが読みました。
あくまで本人発信で良い部分を語ってるだけかもしれませんが、
・民族や家族について愛情や高い誇りといった自己のコアを強く持ってること
・同時に生まれ育った日本という共同体に対しても愛情と感謝を持っていること
が感じられる良い文章だと思いました。
選挙区外で直接応援はできませんが、岡山の小野田紀美氏同様に、今後は国会や政治家としての言動を注目して応援したいと個人的に感じました。
正直に申しますと、この件に関して私は一抹の不安を覚えます。彼女とは関係ないと思いますが……中国には国防動員法があり、二、三日前にNYで中国の秘密警察関係者が逮捕され、そのなかに米国籍中国人がいました。
なお、これについては篠原常一郎氏のビデオが参考になります。また、自民の議員は松下新平氏だそうです。
https://www.youtube.com/watch?v=C8WTOk2RzXk
「保守王国」に革命が起きると「保守共和国」になるのだろうか
そだね~(^^♪
保守人民共和国だけはお断りします。
更新ありがとうございます。
維新は堅調に伸びたと思います。首長はまだそれほどではありません。地方議員は関西を中心に議席を伸ばしています。
>維新、600人目標達成 全国政党化へ関西偏重課題
https://news.yahoo.co.jp/articles/7296d6ce5a1dfbb7729954065e8568a53195f609
立憲の凋落に伴い、次の国政選挙かその次ぐらいで野党第一党を十分狙えると感じています。できればその前にややこしい議員は整理しておいて欲しいところですが。
国民民主も共に伸びてくれれば尚良いと思います。
今回の和歌山補選の自民候補は世耕氏が推したそうです。これは世耕氏の責任にされてしまうのでしょうか。できれば二階氏に早目に引退してもらいたいのですが。。。
>今回の補選でも、(中略)世耕氏が選考過程に異議を唱えて門氏を推し、混乱した。
https://news.yahoo.co.jp/articles/5fcdae2cfeb743450780982eadb141f1078cee01
立憲は相変わらず責任をとる気はないようです。
>立民・岡田氏、3戦全敗は「自力の問題」 自身の引責は否定
参院大分選挙区に関しては、「(中略)投票率が他の市にくらべて非常に低かったことが敗因の1つだと思う」と述べた。
https://www.iza.ne.jp/article/20230424-VHIYEFA7VFIWNBTTANPSAH3I74/
この手の人たちはよく「投票率」を口にします。立憲などが思った通りにいかないときの常套句のようにも使われています。左向きらしきアカウントも多用する印象です。
民主主義国家である以上投票率も大切です。投票の呼びかけを積極的に行うのは良いと思います。有権者が政治に関心を持ってこその民主主義でしょう。
とはいえ、投票率が上がれば立憲の議席が増えるわけではありません。今回のように小西問題などが顕在化すれば、多くの国民の投票は逆風にしかならないと思います。
投票まで行う人は候補者や政党の普段からの言動に無関心ではないと感じます。その辺りを特に左向きの人たちは事実誤認をしているのか、自分たちの行い以外の責任に転嫁させていると思います。
そういや山口4区でダブルスコアで落選した有田芳生(アリタ・ヨシフ)氏、舌禍の影響だかなんだか。
今日ツイートを見ていて気づきましたが、スターリンと同じ名前なんですね。
それは落選とは関係ないかな。知らんけど。
昔、ひょんな事から知ったことです。
当サイトでもよく財務内容が詳細に取り上げられる新聞社があります。
そこの記者で大麻か何かで首になった人がいます。
その懲戒免職になった人が子供にロシアの無政府主義者の名前を付けているのを
知って驚いたことがあります。
奥様も同じ社の記者です。
素朴な疑問ですけど、自民党内部で「一票差でも議席がとれたのだから、解散総選挙をすべきだ」と言う声と、「議席はとれたが、薄氷の勝利なので、解散総選挙をするのは危ない」という声の、どちらが強くなるのでしょうか。
岸田文雄政権、おごるべからず
一輪車走行という印象がいつまでも続くのはなぜなんでしょうかね。
自民は衆参5補選で4勝1敗、維新は地方議員600人以上の目標を達成、の結果に終わりました。既存政治、政府与党への批判票は、立民ではなく、維新に集まったようです。
それにつけても、岸田首相は「ツイています」ね。岸田襲撃事件の影響がどの程度あったかは分かりませんが、接戦だったところでは、勝敗を分けたような気がします。
今後は来年9月の自民党総裁選を前提に、いつ解散するか、ですよね。今年6月、今年秋、来年初めとか、言われています。それに勝って、総裁選で再選されると、あと更に3年でトータル6年ですか。うーん微妙な気がしますね。
(読者雑談専用記事通常版 2023/04/18(火)に投稿した分の再録です)
なんだか嫌な予感がします。
キシダ「選挙が堅調だった!増税しまーす!保険料上げまーす!」となりそう…
今回の選挙は、全体としてみれば、保守が優勢で左系の退潮がより明確になりました。
ただし保守の中では、自民党が劣勢で維新と国民民主が勢力を伸ばしつつあるという結果でした。
この結果では岸田首相は解散総選挙に打って出ることはできないと思われますが、維新も候補者の人材不足ですので、奇襲攻撃で解散総選挙というのも選択肢かもしれませんが。
それでも議席を伸ばすのは難しそうですね。
自公連立政権も賞味期限切れですので、自民党には次の一手が課題です。
今の日本を覆っている閉塞感を払拭するには、若くて仕事が出来る候補者の発掘と行政改革が必要ではないかと思うのですが。
ただ、維新とはまだまだ議員数に差がありますので、現状維持の範囲は出ないように思います。
自民の過半数割れの可能性が出てきた時が改革の好機なのでしょうけど、お真理期待はできないと思います。
×お真理期待はできないと思います。
〇あまり期待はできないと思います。
千葉に関しては、野党分裂に助けられたとも言えますが、保守分裂にも関わらず立憲が落としたとも言えますね。
国民民主が保守なのかは見解が分かれる所かとは思いますが、少なくとも維新と自民は票を分けたと言えるのではないでしょうか。
他の選挙区も、立憲の側から見ると「元閣僚なのに負けた」「元党首なのに負けた」と言う評価になります。
小西文書の霊験があらたかなのかもしれません。