「菅義偉発」の政局はあるのか:自民党派閥勢力最新図
「菅義偉発の政局」というものは、果たしてあり得るのでしょうか。菅義偉総理大臣の「派閥批判」発言を契機に、ここ数日、大手紙を含めて「政局」に関する話題が目立ち始めています。このあたり、自民党の派閥を改めて調べてみると、「菅派」は最大で70人を超える一大勢力となる可能性を秘めていることがわかります。菅総理再登板が実現するのかどうかはわかりませんが、ひとつの知的ゲームとして考察しておくことは興味深い話かもしれません。
「菅義偉発」の政局
今朝の『1兆円増税案に国債60年償還ルール見直しという反撃』の末尾で「オマケ」として取り上げたとおり、菅総理自身が最近、岸田首相を「批判した」とも受け止められかねない発言をしたこと自体、一部では「岸田おろし」の「宣戦布告」だ、などと報じられていることは事実です。
また、これに関連し、調べてみたところ、大手紙を含めたいくつかのメディアで、やはり「菅総理発の政局」という話題が書き立てられているようです(※本稿ではそれらをいちいち引用しませんが、もしご興味があれば検索してみてください)。
ただ、当ウェブサイトではこれまで、あまり「政局」の話題を取り上げないようにしてきました。正直、「政局」の話に深入りしてしまうと、情報源としては、どうしても不確かなものに依存せざるを得ないからです。
とりわけ、「この政治家はこういう人物だ」、「この政治家は誰それと交流がある」、「この政治家とこの政治家は仲が悪い」、といった具合に、人間関係に関する話題に触れないわけにはいきません。
したがって、当ウェブサイトが好むのは数字、統計、法令、会計基準など、「客観的事実関係」をもとにした議論ですので、「現在の首相は党内のこの人物とは相性が良いが、その反面、この人物とは反目しあっている」、といった話題は、なかなか取り上げ辛いところでもあります。
自民党内の派閥について調べてみた
ただ、それでも極力、「数字」をもとにした議論ができるとすれば、それは自民党内の勢力図を分解し、「各派閥の人数」をもとにして力関係を分析する、といったところではないかと思います。
自民党のウェブサイト『国会議員検索』のページから現時点で調査すると、自民党所属の国会議員は合計で378人(うち衆院が260人、参院が118人)と出てきます(※ただし、この393人には、衆参両院議長を含み、繰り上げ当選予定者である瀬戸隆一氏を含んでいません)。
便宜上、この378人がどの派閥に属しているかについて、主要5派閥に加えて森山派について調べてみると、安倍派が97人で最も多く、茂木派が54人、麻生派が53人でほぼ拮抗し、岸田派と二階派が43人で並んでいることがわかります(図表)。
図表 自民党議員派閥一覧
所属 | 衆院 | 参院 | 合計 |
---|---|---|---|
安倍派 | 59 | 38 | 97 |
茂木派 | 33 | 21 | 54 |
麻生派 | 37 | 16 | 53 |
岸田派 | 33 | 10 | 43 |
二階派 | 34 | 9 | 43 |
森山派 | 6 | 1 | 7 |
その他 | 58 | 23 | 81 |
合計 | 260 | 118 | 378 |
(【出所】著者作成)
また、衆議院議員に限定すれば、安倍派が59人と最も多いのは変わりませんが、麻生派が37人と第2位に、二階派が34人と第3位に浮上し、茂木派と岸田派は33人でどちらも同順位の第4位です(なお、二階派には自民党に所属していない三反園訓・衆議院議員が特別会員として参加しています)。
菅総理自身を含め、「無派閥」に含まれる大物議員たち
ただし、6つの派閥に属していることが確認できない議員が81人おり(うち衆院議員58人、参院議員23人)、菅義偉総理大臣や高市早苗・経済安保担当相ら「大物議員」もそのなかに含まれています。
このあたり、漏れ伝わる報道等によれば、菅総理は岸田文雄・現首相とは「仲が悪く」、その一方で二階俊博・元自民党幹事長や森山裕・自民党選対委員長とは「仲が良い」のだそうであり、「数字」だけで見れば、菅総理を軸に二階派と森山派が結集すれば、岸田派を抜いて第4派閥に浮上する計算です。
これに加えて菅氏に近いとされる衆議院議員のグループ「ガネーシャの会」に参加している議員が15人程度いるほか、菅総理に近いとされる「菅義偉を支える参議院議員の会」に参加する議員も8名ほどいるようですので、これを広い意味での「菅派」と見れば、70人を超える一大勢力の発足です。
「菅派」
- 二階派(衆34+参9)
- 森山派(衆6+参1)
- ガネーシャの会(衆15)
- 菅義偉を支える参議院議員の会(参8)
- 合計…73人(衆55+参18)
これに、一部メディアで取りざたされている、萩生田光一・自民党政調会長との関係も気になるところでしょう。
安倍晋三総理亡きあと、安倍派を誰が継承するのかについて、まだ明確な姿が見えてこないなかで、たとえば西村康稔・経産相や萩生田氏が後継者としての地位を確立するまでの間、安倍派が「つなぎ」として菅総理の擁立で合意すれば、なんと170人(衆114+参56)という勢力が発足します。
チャンスがあれば再登板に応じるのでは?
もちろん、菅総理が再登板に応じるのかどうか、あるいはその前提条件として、菅総理が自身の「派閥」を立ち上げるのかどうかについては、まったくわかりません。ただ、当ウェブサイト「らしからぬ」ことを承知で、敢えて憶測めいたことを述べておくならば、菅総理自身、「チャンスがあれば」、再登板に応じることはあるでしょう。
当ウェブサイトの主観で恐縮ですが、岸田文雄首相は、「政権として見れば」、やることはきちんとやっています。
安保3文書の制定・改定はもちろんのこと、菅政権時代に失敗したエネルギー政策についても転換し、原発の再稼働・新増設の方針を力強く打ち出すなど、外交・安保面、あるいは経済・産業面では、非常に好ましい政策が多く出てきているのです。
しかし、それと同時に、どうも岸田首相には「官僚の傀儡」ではないかとの懸念は払拭できません。
昨年の「1兆円増税構想」も論外ですが、最近だと自称元徴用工問題で、外務省あたりの言いなりになり、韓国に対して無用な譲歩をしようとしているフシもありますし、さらにはG7諸国歴訪の際も、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」への言及が少なかったことも気がかりです。
もちろん、岸田政権にとっては、今すぐ辞めなければならない事情はありません。
気がかりといえば春の統一地方選ですが、少なくとも昨年夏の参院選を終えた現在、解散総選挙に打って出るなどの事情でもない限り、大型国政選挙はしばらくありません。
ただ、「支持率の低迷」に加え、例の「1兆円増税」のように、宏池会関係者だけで重要な方針を決定するような政治姿勢に対して、自民党内から不満が高まってくれば、話は変わってくるかもしれません。
その意味では、昨年から出ては消え、出ては消えている「菅義偉発の政局」という話題も、「たんなるゴシップネタ」と聞き流すには忍びないと考える今日この頃でもあるのです。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
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自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
菅(すが)政権再びですか……あり得なくはないでしょうけれど、
それを自民党に敵対的なマスコミが望むかどうかは未知数ですね。
「岸田ならヘマしてくれるか操り人形になってくれると思ったのに、
意外と真面目にやりやがる!高市だけは嫌だと言っても、これはこれでダメだ!」
アンチ自民勢力がこんな心理状態になっているとしても、菅(すが)総理の復活は
「それも嫌だ!」となりそうなので、目的は岸田政権を混乱させて機能不全に追い込む事?
まあ、全てはあやふやな憶測でしかないのですが……
雪だんご さま
>それを自民党に敵対的なマスコミが望むかどうかは未知数ですね。
もし菅義偉(前)総理の再登板が、ほぼ確実になったら、自民党に敵対的なマスコミは、前回の菅義偉政権のことを引き合いにだして、次期菅義偉政権の実現を潰そうとするのではないでしょうか。
>目的は岸田政権を混乱させて機能不全に追い込む事?
菅義偉政権復活を見るくらいなら、日本がなくなった方がよい、と考えるということでしょうか。
「キシダ政治(まさはる)を許さない」ってなってないので、マスコミ的にはいいのじゃないかしら。
個人的な感想ですけど、「菅義偉発の政局はあるのか」と、ソーシャルメディアでもオールドメディアでも、騒げば騒ぐほど、(本人の意思とは関係なく)政局になっていくのではないでしょうか。
菅義偉首相は岸田首相と仲悪い(失笑)。そうだと思います。何のコネもカバンも無く、自分で切り拓いてきた菅氏にしたら、広島を牙城とし、議員になる前から全部しつらえて貰って、最終総理になった人とは(そもそも首相の器なのか疑問だが)肌が合わないでしょう。だいたい私見ですが、宏池会は池田勇人首相に始まり宮沢喜一首相と広島人脈(プラス全述2人は東大法学部卒、それ以外は認めて無かった、滑稽ですわ)が強い。岸田首相もその落ちこぼれぐらいです。
菅総理自身、「チャンスがあれば再登板に応じる」ことはありますね。無派閥とはいえ人脈は広いし、清濁合わせ呑める度胸があると思います。でも一期にして下さい。高市早苗さんが私は本命です(^.^)v。
「岸田文雄首相は今月13日午後(日本時間14日朝)、米国で講演し、昨年末の安全保障関連3文書改定などについて『安保政策の大転換』と強調。吉田茂元首相による日米安全保障条約の締結、岸信介元首相による安保条約の改定、安倍晋三元首相による安保関連法の策定に続く『日米同盟の歴史上最も重要な決定の一つだ』と語った。」
⇒これは、岸田首相が自らを「昭和の大宰相」(吉田・岸)、「平成の大宰相」(安倍)に匹敵する「令和の大宰相」だと言いたかったのではないかと推測します。
また、防衛費大幅増額のための財源として1兆円の増税方針を打ち出したことについて、財務省筋からの「岸田首相は、後世の歴史家から『困難な政策を国民のために断行した真の大宰相』と高く評価されますよ」というおだてを真に受けてその気になったという噂もあります。
このように心が高揚した岸田首相が、「安倍首相も成し遂げられなかった『懸案を解決して日韓関係を健全な関係に戻し、さらに発展させる』という偉業を成し遂げた大宰相」になるべく、脇目も振らず邁進する恐れが大いにあると思います。
こうした歴史的大惨事の実現にストップをかける役割を最も期待されるのが菅義偉前総理だと思います。今は亡き安倍元総理の政治理念を最も理解されている菅前総理には、天国の安倍元総理が嘆き悲しまれることが無いよう、その役割を果たしていただくことを期待します。
マスゴミはとにかく自民党をたたきたい。
官僚も政権が揺らぐとやりやすい。
単なるゴシップでは?
岸田政権叩きはそんな臭いしかしない。防衛頑張ってるし普通なら保守派は快哉を叫んでるはず。
こちらなどでは現役時から高評価の菅氏ですが、例によってスガーリンだのと意味不明なことを喚いていた界隈もありました(彼らの支持政党には本当に”ヨシフ”が居たのにね)。一般層はというと、報じられないためか実績には疎く、「伝え下手」も手伝ってか「よくわからないけど印象は良くない」という人が多かった。しかし総理の座を退いてからは「あ、実は良かったんだね」みたいな反応をする人が多く。
マスコミフィルターはまだまだ強かったのだと感じるとともに、うっかりフィルターを解除してしまってそう経っていない今、菅総理が誕生したら、以前のような雑な印象操作で再度貶めるのは難しくなっているのではないかとも思います。
全くの個人的な感覚だけで想像を述べますが、菅前総理は、岸田降ろしのような政局を仕掛けることはないんじゃないかと思います。仮に菅前総理が政局を仕掛けるとしても、ポスト岸田として総理大臣の職責を担える資質を備えた人材が育ったのを見計らってからになるのではないでしょうか。
政局を仕掛けるにはそれなりのパワーがいるでしょうし、実際に政局を仕掛けて党内でドンパチやらかしたら、党のパワー自体が疲弊して、野党が足元を掬いに来る隙を与えかねません。菅前総理とすれば、今の段階でそんな力技を仕掛けるよりは、上手く岸田総理をコントロールしていこうという形で動くのではないでしょうか。
この論考でも考察されているとおり、仮に菅前総理が自分の派閥を形成しようとしたとすれば、それなりにデカい勢力になることが予想されるわけですから、わざわざ力技で岸田総理の首を取りに行かなくても、菅前総理側の潜在的な組織力の大きさを仄めかしながら、「岸田さん、俺らの話も聞かずに突っ走ったら、どうなるか分かってんだろうな」と岸田総理を脅し賺しながら、自分の言うことを聞かせてコントロールしていく方が、ずっと効率がいいと思います。
というか、執政に対する意思も能力も薄弱な岸田総理が、仮に自分の総理としての功績レガシー欲しさに、役所の仕込みに乗せられて暴走するようなことがあると、とんでもなく面倒なことになりかねないので、自分の個人的な願いとしては、安倍元総理がおそらく担っていたであろうと思われる、岸田総理に対するお目付けの役割を、菅前総理が引き継いで、岸田総理をしっかり抑えてほしいなぁと思います。
菅前総理が、岸田総理の首にしっかり鈴をつけてコントロールしつつ、ポスト岸田として総理大臣の職責を担う人材を育てて引き上げてくれればいいんじゃないかなぁと、個人的には想像しております。
人形遣いが役人と菅さんになれば、人形は動けなくなるかも知れませんね。
安倍派が全力で支えれば菅総理再就任はありうるだろう。