日本の金融機関の国際与信に占める韓国比率は「1%」

日本は韓国に対し、2008年と2011年、それぞれ日韓通貨スワップの規模を増額する措置を講じました。この措置を巡って2014年に財務省の山崎達雄・国際局長(当時)は「日本にもメリットがある」と述べていたのですが、少なくともBISが公表する国際与信統計(CBS)で見る限り、日本にそのようなメリットが生じるかどうかについては確認できないのです。

引き続き、BISのCBS:韓国の危機に日本は巻き込まれるのか

当ウェブサイトとして、あまり連続して同じ話題を取り上げないように工夫しているつもりではあります。

ただ、どうしても取り上げておきたい話題が出てきました。昨日の『世界最大の債権国・日本はどこにいくら貸しているのか』でも取り上げた、国際決済銀行(BIS)が公表する『国際与信統計』(CBS)に関するものです。

先ほどの『日本が対ロシアで「4番目の債権国」に浮上してしまう』では、このCBSをもとに、ロシアに対する主要国の与信の状況を確認しました。

ただ、このBISのデータはなかなかにパワフルで、国名を変えれば、同じグラフを簡単に作ることができてしまいます。

こうしたなかで、つい先日の『韓国債券市場の大混乱:いま韓国で何が起きているのか』でも取り上げた、債券・金利市場が混乱に陥っている韓国の事例に関して、じつは若干のお問い合わせが来ています。

それは、「万が一、韓国発の金融危機・通貨危機が発生した場合、日本が巻き込まれるのかどうか」、といった論点です。

通貨スワップを提供したら相手国から厳しく非難された日本

これに関連し、巷間で良く主張される命題のひとつが、「日本は隣国として韓国を支援しなければならない」という言説です。

【資料】2014年4月16日の日韓スワップの議事録』でも紹介したとおり、日本が韓国に対して通貨スワップを提供した狙いを巡って、衆院予算委員会で山崎達雄・財務省国際局長(※当時)は、こんな趣旨の答弁を行いました。

日韓通貨スワップを初めとする地域の金融協力は、為替市場を含む金融市場の安定を通じまして、相手国、日韓の場合は韓国だけじゃなくて、日本にとってもメリットはあります。というのも、日本と韓国との間の貿易・投資、あるいは日本企業も多数韓国に進出して活動しているわけでありまして、その国の経済の安定というのは双方にメリットがある面、それからまた通貨という面でいうと、むしろ通貨を安定させるという面、ウォンを安定させるという面もあるわけであります。そういうことで、私どもとしては、当時、日韓通貨スワップを拡大したのは、むしろ、韓国のためだけというよりも、日本のため、地域の経済の安定のためということがあったということだけ申し上げたいと思います」。

民主党政権時代、1ドル=70円台に突入するほどの円高の際、韓国が日本と競合する半導体などの分野で輸出攻勢を強めていた事実を踏まえると、「通貨スワップが為替市場を安定させる」という点が「韓国だけでなく日本にもメリットをもたらす」というのは、本当でしょうか。

まずは、いま話題の「ファクトチェック」をしておきましょう。

少なくとも日韓通貨スワップは、韓国の役にはまったく立っていなかったと考えられます。というのも、1997年のアジア通貨危機、2008年のグローバル金融危機の際は、日本が韓国の支援を余儀なくされ、しかも支援したら支援したで手厳しく批判されたという経緯があるからです。

韓国メディア『中央日報』(日本語版)に2009年7月7日付で掲載された次の記事によれば、当時の尹増鉉(いん・ぞうげん)韓国企画財政部長官は日本の対韓支援を巡り、「遅すぎる」、「出し惜しみしている」、「ふがいない」などと厳しく批判しています。

「韓国が厳しい時、日本が最も遅く外貨融通」

―――2009.07.07 08:07付 中央日報日本語版より

支援をした結果、まったく感謝されないどころか、ここまで舌鋒鋭く批判されたという事実は、今後、私たちが隣国の危機にどう対処しなければならないかを知るうえで貴重な教訓であったことは間違いありません。

「日本にとって韓国が重要」はそもそもの事実誤認

ただ、当時の日本政府が韓国に対する通貨スワップを増額するという判断をした理由、あるいはその3年後の2011年10月に、当時の野田佳彦首相のイニシアティブで通貨スワップの規模を700億ドルに増額するという判断をした理由については、きちんと総括しておく必要はあります。

なぜなら、それ以上に「韓国に進出している日本企業のためにもなる」という点についても、じつは事実誤認であったという可能性があるからです。まずは、CBSをもとに、韓国にどの国の金融機関がカネを貸しているかの一覧を示しておくと、図表1のとおりです。

図表1 韓国に対する国際与信の状況(2022年6月末時点)
相手国金額構成割合
1位:米国1062億ドル28.32%
2位:英国963億ドル25.68%
3位:日本502億ドル13.40%
4位:フランス329億ドル8.78%
5位:台湾180億ドル4.79%
6位:ドイツ163億ドル4.36%
7位:豪州65億ドル1.74%
8位:イタリア39億ドル1.03%
9位:スペイン30億ドル0.79%
10位:カナダ25億ドル0.67%
その他392億ドル10.44%
合計3751億ドル100.00%

(【出所】BISウェブサイト “Download BIS statistics in a single file”, Consolidated banking statistics データより著者作成)

これによると、日本の金融機関の韓国に対する与信は502億ドルで、韓国が外国金融機関から借り入れている3751億ドルに対し13.4%で、米国の1062億ドル、英国の963億ドルに対してそれぞれ半額前後に過ぎません。

こうしたなかで、韓国に対する国際与信の推移を時系列でグラフ化してみると、さらに興味深いことがわかります。2008年の金融危機時、日本の韓国に対する与信は現在よりもさらに少なく、割合も低かったからです(図表2)。

図表2 韓国に対する国際与信

(【出所】BISウェブサイト “Download BIS statistics in a single file”, Consolidated banking statistics データより著者作成)

むしろ日本の対韓与信が伸びたのは民主党政権時代以降の話であり、そもそも韓国から見て日本は主要なファイナンス先ではなかった、という事実が浮かび上がるのです。これはなかなか意外な話ではないでしょうか。

日本から見てわずか1%の相手国が韓国

ちなみにこれは日本の側から見ても、極めて少ない金額であるといえます。昨日も取り上げた日本の国際与信状況を再確認しておくと図表3のとおりであり、日本から韓国への502億ドルという金額は、日本の国際与信全体(4兆6248億ドル)と比べて1%少々に過ぎません。

図表3 日本の与信相手国一覧(2022年6月末時点)
相手国金額構成割合
1位:米国2兆0225億ドル43.73%
2位:ケイマン諸島6088億ドル13.16%
3位:英国2063億ドル4.46%
4位:フランス1840億ドル3.98%
5位:豪州1395億ドル3.02%
(省略)
15位:韓国502億ドル1.09%
(省略)
合計4兆6248億ドル100.00%

(【出所】BISウェブサイト “Download BIS statistics in a single file”, Consolidated banking statistics データより著者作成)

しかも、韓国に対する与信の割合は、日本の対外与信全体に対して、多いときでも2%を超えることはなく、最近だと1%前後です(図表4)。

図表4 日本の金融機関の韓国向けの債権

(【出所】BISウェブサイト “Download BIS statistics in a single file”, Consolidated banking statistics データより著者作成)

このように考えていくと、そもそも日本にとって「韓国が金融面で重要な相手国である」という認識自体が事実誤認ではないか、といった疑念も浮かび上がります。

もちろん、対ロシア与信と異なり、韓国に対する与信は500億ドルを超えているため、日本の金融機関にとって韓国が「重要な与信相手国ではない」という話にはなりません。

ただ、「韓国は隣国だから日本の金融機関もずいぶんと韓国におカネを貸しているに違いない」などと漠然と感じているのだとしたら、それは統計的事実ではない、ということでもあります。

いずれにせよ、麻生太郎総理が在任していた2008年、および野田佳彦元首相が在任していた2011年に、日本が韓国に対する通貨スワップをそれぞれ増額する措置を講じたこと自体、少なくとも「日本の金融機関を救済・支援する」という意味があったのか、再検証しておいても良いでしょう。

また、日本の韓国に対する与信は、対外与信全体の1%前後に収まっているという事実も重要です。

これが今後増えていくのか、比率をおおむね維持するのか、それとも減少していくのかについては、まだよくわかりません。ただ、少なくとも山崎達雄氏が述べた「日韓通貨スワップは日本にもメリットがある」とする主張が、少なくとも統計上は明確に確認することができないこともまた間違いないのではないかと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. sqsq より:

    今後も貸さないのが一番だが、条件がよければしっかりした担保をとること。
    韓国内の資産は担保にならない。裁判所がアテにならないから。

    日本国内の資産か欧米企業の株式。

  2. 元一般市民 より:

    図表4のグラフ、面白いですね。
    2009年9月~2012年11月あたりが、あの民主党政権。
    そして2012年12月~が、第二次安倍政権。
    傾向が現れている様に見えますねぇ。

  3. サムライアベンジャー(「匿名」というHNは、在日コリアンの通名と同じ恥ずべき行為) より:

    与信が1%もあること自体驚きですな。
    TVをつけると、ニュース番組は韓国の報道が多く、バラエティ番組を見ると韓流タレントが出てくる。まるで「すごく近くて頻繁な民間交流のある国」のように見えてしまう。
    民間交流も1%台に下げましょう。

    1. レッドバロン より:

      ツイッター社みたいに、テレビの「キュレーター」たちもその存在を晒される日が来ますかね?

      1. JJ朝日 より:

        きっと来る~♪

  4. 伊江太 より:

    経済の動きをリアルタイムで把握するのはとても難しい。

    今回の記事でも紹介されている内容にしてもそうですが、このサイトで常に提供されている基本的、客観的な統計データを見せられると、そうした分析などおそらく念頭の外と思しき、自称経済専門家、ひどい場合はただ新聞社の経済部に所属しているだけという記者などが、表面的な事象への印象のみで書き散らしたと言うほかない解説が、あたかも真実の如く世間に誤ったイメージを流布してしまう。そんな例は枚挙にいとまがないように思えます。

    ひと頃喧伝された「韓国経済アゲアゲ論」。図表4は面白いですね。これを見ると、その風潮がとんでもない虚妄であったことが分かると思います。無論日本の財界人の中にも、そういう考えをする人は大勢いたと思うのですが、そんな心証とは無関係に、隣国の企業への投資を考えたところで、さしてオイシイ案件は見つからなかったというのが、ここ10年日本の与信額がほとんど伸びなかった理由。そのあからさまな表れかと思えます。

    輸出額を生産力の指標と見ると、この国では21世紀に入った頃から10年間、大きく上昇しているのですが(平均+400億ドル/年)、その後の10年増加ペースは急激に鈍化しています(+90億ドル/年)。世界的な資源価格安に恵まれて、経常収支の黒字もこの間増え続けてはいたのですが、それもコロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻の煽りを喰らった資源価格の反騰で、すっかりかき消えてしまったというのが現状です。
    『世界経済のネタ帳』 https://ecodb.net/country/KR/tt_mei.html

    開放経済、自由貿易を金科玉条としていたこの日本をして、世界的な自国優位の囲い込み、囲い込み、「経済安保」への共感がますます明確になってきている昨今、他国のオイシイところを、ただただつまみ食いをすることで経済発展を遂げてきただけの隣国に投資するメリットは、今後も減少することはあっても、増加することは無いように思えます。つまり、アノ国のことがスキであろうがキライであろうが、与信額という面から見た日本との関係は、ますます希薄になっていくと予測します。

    1. 伊江太 より:

      自国優位の囲い込み、→自国優位の技術の

      です。送信する前のチェックが甘くて済みません m(_ _)m。

  5. 迷王星 より:

    sqsqさんも指摘しておられますが,韓国では裁判所は当てになりません.
    日本政府や日本企業が当事者の場合には特に.

    言い換えれば,日本企業や日本政府にとって韓国という国が法治国家である保証はない(し,自称徴用工裁判の大法院判決に見た通り,現実に日本企業に対しては法治でなく情治国家として振舞うケースが存在する)ということです.

    従って,日本企業にとって韓国では契約は必ずしも守られるとは限らず,契約が守られなかった場合には韓国司法が法律や契約を無視した情実的で日本企業にとって一方的に不利な判決を下す危険性がある,これが韓国という国です.

    ですから,会計士様風に言えばボンクラな金融庁もたまにはちゃんとした仕事として,日本の金融機関に対して,韓国(とロシア…プーチンとその一派=旧KGB官僚中心の派閥が一掃されるようなクーデターや政変によって実際に権力が非KGB派に移行しない限り)に対する与信に関しては100%の貸し倒れ引当金を積んでおくように命令すれば良いのです.

    100%の引当金を積めとなれば,日本の金融機関は韓国やロシアから速やかに撤収するでしょうし,そうなれば,目先の金に目がくらんでグズグズと撤退を躊躇っている日本企業も両国でのビジネスは諦めて撤退することになるでしょう.

    但し,レアメタル大国のロシアに関してはパラジウムを始めとする様々なレアメタルで他国では容易に手当てできない元素が存在する可能性は大いにあるので,それらの輸入を担う日本の業者(のロシア法人)への融資に関しては金融庁を始めとする日本政府も特別な便宜を図る必要がある.

    但し,ロシアの天然ガスや石油,例えばサハリン2なんかは日本は国策としてさっさと諦めるべき.たとえ首相のおひざ元のガス会社がどれほど困ろうともです.

    何故ならば天然ガスは値段を問わなければ世界中にいくらでもあるのだから.

    2014年のクリミア侵略やサハリン2に関する権益50%+1株の剥奪以降もロシアのカントリーリスクを真剣に考えずに今までロシアに全面的に依存していた広島ガスが愚かだったに過ぎない.愚か者が己の愚かさ故のペナルティを喰らうのは当然の話.

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