「新興国発の金融危機の可能性ある」=前NY連銀総裁

ニューヨーク連銀の前総裁でもあるウィリアム・ダドリー氏が時事通信のインタビューに答え、新興市場諸国が「ドル高・金利高・ウクライナ戦争」という「三重苦」に直面し、過去の米利上げ局面などと「同じ状況だ」との認識を示したそうです。つまり、ドル高を契機に新興市場諸国発の金融危機ないし通貨危機が発生する可能性がある、ということです。これについてどう考えるべきでしょうか。

EM諸国の資金フロー:韓国の例

新興市場諸国、あるいは英語の “Emerging Markets” を略した「EM諸国」は、世界的にリスク選好が拡大している局面においては、先進国などから資金が集まり、景気が拡大する傾向があることで知られています。

また、先進国が景気後退局面にあるときには、たいていの場合、中央銀行が金融緩和を行いますので、先進国からあふれた投機資金がホットマネーとなり、これらEM諸国にも流入するという現象が、しばしば観察されるところです。

卑近な例でいえば、私たちの隣国・韓国がその典型例でしょう。

韓国といえば、過去には世界の最貧国レベルだったこともありますが、1965年の日韓国交正常化などを契機に日本などからの投資資金や技術支援を得て急速に経済発展し、いまやGDPで世界10位圏入りをうかがうほどの経済大国となりました。

ただ、それと同時に韓国は金融的に見れば「先進国」とは言い難い国でもあります。

たとえば、G20傘下の金融安定理事会(FSB)が毎年選定・公表する、「世界の金融システムに重要な影響を及ぼす可能性がある」とされる最大30の金融機関(いわゆるG-SIBs)のなかに、韓国に本店を持つものは1社もありません。

また、韓国の資金循環統計上、韓国の金融機関の国内勘定に所在する預金総額は、せいぜい日本の最大手金融機関である三菱UFJ銀行の2行分に過ぎず(※)、韓国の金融産業がいかに脆弱であるかという証拠でもあります。

※韓国の「預金取扱機関」の国内預金総額は2022年3月末時点で3567兆ウォン程度で、これは1円=9.67ウォンで換算すると370兆円弱であり、これに対して日本の最大手の三菱UFJの預金量(海外支店分含む)は2022年3月末時点で183兆円に達している

さらには韓国の通貨・ウォンは世界のなかでも国際的に広く取引されている「ハード・カレンシー」とはとうてい言えません。域外為替市場も存在せず、SWIFTが公表する国際送金における決済シェアランキングの上位20位に、韓国ウォンが登場したこともないからです。

韓国資産バブルFRB主犯説

そして、そんな韓国に対し、外国の投機資金が大量に流入してきた事例が、コロナ禍です。具体的には、2020年後半以降の韓国の資産バブルを主導したのが米FRBを含めた先進国の金融緩和だったのではないか、とする当ウェブサイトなりの仮説が、「韓国資産バブルFRB主犯説」です。

【参考】韓国資産バブルFRB主犯説
  • ①FRB等、主要国中央銀行による金融緩和
  • ②為替市場で韓国ウォンを含めた新興市場諸国に投機資金が流入(=通貨高)
  • ③韓国の通貨当局が「ウォン高になり過ぎれば輸出業者が困る」と判断
  • ④韓国のウォン売り・ドル買い介入(→外貨準備の増加)
  • ⑤市中のウォン流通量が増大(→マネタリーベースの増加)
  • ⑥金融機関の家計向けローンが増大(→家計債務の増大)
  • ⑦カネを借りた家計がリスク資産(株式、不動産、暗号資産など)に投資
  • ⑧韓国ウォンが一時、ビットコイン取引通貨の第3位に浮上

(【出所】著者作成)

ここに示しているものは、あくまでも当ウェブサイトなりの仮説のひとつに過ぎず、これが絶対的に正しいと保証できるものではありませんが、ただ、現実の統計データの動きについては、かなりの程度、この仮説に沿った動きをしています(データで証明が難しい部分は③と⑤くらいでしょうか)。

そして、FRBが最近、急激な金融引締めに動いているという事実は、こうしたマネーフローが逆回転していることを意味しています。

実際、最近だと外為市場でウォン安が急速に進み、ウォンは先月、約13年半ぶりに1ドル=1400ウォンの大台を突破し、ここ1週間は韓国銀行による為替介入のためか、やや落ち着きが見られるにせよ、やはり1ドル=1420~40ウォン程度の水準を行き来している状況にあります。

また、不動産市況の悪化、ローンの増大、家計債務問題の深刻化などに関するデータも三々五々出てきています。

韓国メディアの報道などを読んでいると、どうも韓国では「カネを借りて不動産を買う」、「カネを借りて株式・暗号資産を買う」といった、いわゆる「レバレッジ投資」が流行しているようであり、もしも韓国銀行が利上げに踏み切れば、家計債務が一気に破綻して金融機関が不良債権を抱え込むリスクが高まっているようです。

しかし、だからといって韓国銀行が利上げをためらっていると、米FRBがどんどんと利上げを進めていくため、米韓金利差の逆転はさらに拡大し、韓国から外貨資金の流出が加速するような事態も生じかねません。

余談ですが、こうした状況を乗り切るために、韓国は日本や米国などとの通貨スワップないし為替スワップの締結を望んでいるようなのですが、少なくとも日米両国がそれに応じる可能性は極めて低いのが実情ではないかと思う次第です。

弱小通貨同士の融通手形型スワップ

ただ、韓国は私たち日本人にとってわかりやすい事例のひとつですが、問題は韓国だけではありません。

新興市場諸国全体でも似たような動きが続いています。

たとえば、国際決済銀行(BIS)の為替相場に関するデータに基づけば、年初から10月17日時点までの為替変動で最も大きかったのはスリランカ・ルピーですが(下落率は79%)、3番目には40%下落したトルコリラがランクインしています。

トルコといえば高インフレ下にあるにも関わらず低金利政策を採用している国でも知られていますが、外貨準備は枯渇しており、一部では通貨スワップを通じて中国や韓国から資金を引き出しているとする報道も散見されます(『トルコが韓国から通貨スワップで資金を引出し=現地紙』等参照)。

このあたり、まさに弱小通貨国同士が通貨スワップ協定を締結すると、お互いの通貨を担保にお互いの通貨を引き出しあい、それを市場で売却することで双方の通貨価値が下落するというリスクがあるのですが、こうしたスワップを当ウェブサイトでは「融通手形型通貨スワップ」などと呼んでいます。

通貨の下落率ランキングには先進国通貨も!

そして、今回のドル高局面の興味深いところは、伝統的に「安全資産」の典型例とされてきたはずの日本円を含め、先進国通貨も対ドルで下落している点にあります。

図表は、先述したBIS統計に基づいて著者自身が作成した、年初来の通貨の対米ドルでの下落率を上位順に並べ替えたものです。

図表 主要通貨の下落率(2022年1月3日時点→10月17日時点、上位20通貨)
通貨1ドルあたり騰落率
1位:スリランカルピー202.7500→362.000078.55%
2位:アルゼンチンペソ103.0400→151.321746.86%
3位:トルコリラ13.2785→18.589540.00%
4位:ウクライナフリブニャ27.2782→36.568634.06%
5位:ハンガリーフォリント323.8309→429.510232.63%
6位:日本円114.9802→148.885929.49%
7位:スウェーデンクローナ9.0672→11.283824.45%
8位:ポーランドズローティ4.0418→4.943322.30%
9位:ニュージーランドドル1.4664→1.787021.87%
10位:ノルウェークローネ8.8078→10.619220.56%
11位:韓国ウォン1192.7785→1436.913420.47%
12位:英ポンド0.7410→0.885619.52%
13位:クロアチアクーナ6.6218→7.728216.71%
14位:ユーロ0.8807→1.026816.59%
15位:ブルガリアレフ1.7224→2.008216.59%
16位:デンマーククローネ6.5506→7.637216.59%
17位:ルーマニアレフ4.3578→5.069316.33%
18位:コロンビアペソ3981.1600→4619.780016.04%
19位:豪ドル1.3819→1.601715.91%
20位:セルビアディナール103.9262→120.320015.77%

(【出所】BISウェブサイト “Download BIS statistics in a single file”, US dollar exchange rates データより著者作成。なお、該当する営業日における為替相場のデータがない場合は、その直近営業日のものを使用している)

6位に日本円、7位にスウェーデン・クローナ、9位にニュージーランドドル、10位にノルウェー・クローネが入っているほか、英ポンド(12位)、ユーロ(14位)、豪ドル(19位)など、先進国通貨も軒並み大きく下落しているのです。

このため、今回のドル高局面は、どちらかといえばEM諸国からの資金流出というよりも、単純にドル資金が市場から枯渇していることにより生じている、「一方的なドル高現象」とみるのが正解でしょう。

ちなみに日本の場合は先月、財務省が円買い介入としては24年ぶりになる、200億ドル弱の外貨を売る為替介入を実施したことが話題となりました(『先月の為替介入で政府に発生した利益は8600億円か』等参照)が、それでも円安は止まりません。

早ければ本日中にも、1ドル=150円の大台を突破するかもしれません。

ダドリー前総裁が警告

ただ、日本の場合、円安になろうが、円高になろうが、それで日本経済が破綻するということは基本的にあり得ません。円自体が国際的に通用するハード・カレンシーであるという点に加え、日本国が世界最大級の債権国であり、「日本から外貨が逃げ、日本企業が倒産する」、といった事態は考え辛いからです。

しかし、「通貨安で国家破綻することはない」というのは、日本のような先進国に当てはまる議論であって、これがEM諸国であれば、話は別です。

こうしたなかで、時事通信には本日、非常に興味深い話題が掲載されていました。

新興国発の危機再燃も ドル高・金利高・侵攻で―前NY連銀総裁

―――2022年10月20日07時07分付 時事通信より

時事通信によると、ウィリアム・ダドリー前ニューヨーク連銀総裁は19日までに時事通信のインタビューに応じ、EM諸国が「ドル高・金利高・ウクライナ戦争」という「三重苦」に見舞われていると指摘。

そのうえで現在の状況が「過去の米金利上昇・ドル高局面と同じ状況」だとし、「新興国発の金融危機が再燃する可能性がある」と警告したのだそうです。

時事通信によると、EM諸国の金融危機は1990年代に多発。

金融自由化を背景に海外から莫大な資金が流入したものの、FRBが着手した利上げでマネーが逆流し、ドル高にともないEM通貨が暴落した、としていますが、1997年のアジア通貨危機もその典型的な事例でしょう。

また、時事通信の記事によると、EM諸国の債務残高は現在100兆ドルに迫り、「デフォルトに陥るリスクが高まっている」、などとしています(※ただし「EM諸国の債務残高100兆ドル」について、時事通信の記事では情報源は示されていません)。

ただ、現在の米国による利上げは、あくまでも米国内におけるインフレを抑制するためのものでもあります。これについてダドリー氏は時事通信に対し、「FRBがインフレ抑制に向けて金利を引き上げ、ドル高が進むことはやむを得ない」との認識を示し、そのうえで協調介入の可能性を巡っても、こう付け加えたそうです。

現在のドルの水準はファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)からかけ離れていると思えない」。

つまり、ドル高是正のための1985年の「プラザ合意」が再現される可能性は低い、というのがダドリー氏の見解でしょう。そうなると、EM諸国の債務不安に対し、当面は「打つ手なし」、ということでもあります。

そういえば、昨日の『韓国紙「円安契機にウォン安が加速し通貨危機再来か」』では、円安の進行がウォン市場などに波及するリスクに警戒が見られる、とする話題も取り上げています。

意外と年内、金融市場には波乱もあるのかもしれません。

読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    バイデンも「ドル高?ウチは全然困ってないし。他の国が困ってんのはあちら様の事情があんでしょ、知らんけど。」ってアイス食いながらおっしゃってたんでアメリカはガン無視なんでしょうね。
    https://jp.reuters.com/article/usa-biden-britain-economy-idJPKBN2RB0IA

  2. 愛知県東部在住 より:

    今朝の韓国メディアの記事で大変興味深いものを見つけました。

    【1ドル=150円台崩壊は時間の問題…1997年アジア通貨危機の再来か】

    https://news.yahoo.co.jp/articles/b3fb47e77173485ce5601d73109e4fca4a349f82

    1ドル150円台になれば、1997年のアジア通貨危機が再来するかの如きヘッドラインに思わず目が点になりました。(笑)

    記事では「一部では、この状態が続けば、1997~1998年のアジア通貨危機のような大混乱につながりかねないと警告している」そうです。(笑)

    一体どこのどういう「一部」なのでしょうか。

    相変わらず、良いことは全部自分のおかげで、悪いことはすべてイルボンのせい、というワケでしょうか。

    まぁ、たかが対ドルレートが150円にな労が、或いはそれ以上になろうが、現在の日本が破綻する可能性などほとんどありませんし、日本が経済破綻しない限り日本初の通貨危機など起こり得ようはずもありません。

    記事は「日本政府にはこの流れを変える効果的な政策手段がない」と続きます。

    そして日本が先月行ったドル売り円買いを「為替介入と決めつけ、それを「あまり効果がなく、再びこのカードを取り出すのは容易ではない」とドヤ顔で解説しています。

    あまりにも馬鹿馬鹿しくて、この続きを読むのは止めたくなりましたが、自分たちの狭く杜撰な尺度しか日本を測れていない事に、呆れるのを通り越して憐れみすら覚えてしまったほどです。

    日本に残された手段は「日本銀行が利上げを断行」するしかないそうです。記事ではゴールドマン・サックスのジム・オニール元首席為替エコノミストがブルームバーグのインタビューで同様ココメントしているとしていますが、いくら検索してもそのような記事は見つからないのです。まぁ、これは私の探し方が悪いせいなのでしょうね、たぶん。

    確かに日本円が対ドル150円台を突破してしまえば、それにつられて他の新興国通貨も切り下げられる可能性はあるかもしれませんが、それによって通貨危機を招いてしまうのは、それはその国の経済政策(金融政策も含めた)に起因するものであって、決して日本のせいではないことは言うまでもないことです。

    韓国の歴代政権が外貨準備を怠ってきた、即ち米ドル国債などではなくリスクの高い金融商品などにウェイトを置きすぎてきたのも、また韓国国民は国民で、ジャブジャブ余ったマネーで不動産やビットコイン等の怪しげな金融商品に、借金してまで投機して破綻寸前になっていることも、それらはすべて韓国自身が自ら招いた問題であります。
    日本はそこに何ら関与しておりません。

    もういい加減日本にこれ以上すり寄ってこないで頂きたい。
    衷心よりそう願って已まない、そんな日々です。

    1. より:

      楽韓さんの記事にもありましたが、韓国メディアや”有識者”は、日本が通貨危機に陥り、IMF管理下に置かれることを「期待」しているんでしょう。1997年にIMF管理下に置かれることになり、さんざんな目にあわされた韓国としては、日本に同じようなことが起こったら、「ざまあみろ」と嘲笑い、見下したくてしょうがないんですよ。
      まあ、私のような素人から見てもほぼ絶対に起こりえない事態なんですが、韓国では「通貨暴落→通貨危機→IMF管理(経済主権喪失)」という構図が「疑うべからざる真実」として信じられているようで、日本もそうなるに違いない(そうなって欲しい!)というわけです。

      まあ、お他所の心配をする前に自分のところの心配をしろよとは思いますよ。
      そもそも、1997年当時とは違い、ぶくぶくと図体だけは大きくなった韓国経済をIMFが救済できるかどうかを心配したほうが建設的でしょう。IMFだって万能じゃありません。
      もっとも、前回のIMF管理時に、IMFが出した指示(財閥解体など)を韓国は無視しましたので、IMFが「もう救済なんかしてやらん!」とお冠であるという噂も飛んでますが。

      1. 甲茶が飲みたい より:

        万万が一、日本がIMF管理下に置かれた場合

        IMF「各種国際機関への分担金なんて払ってる余裕ないだろ、やめろ」
        日本「おかのした」

        そしてIWCのような財政難になる組織が出てくる地獄絵図w

        まぁ、ありませんけどね、日本がそこまで経済的にダメになったら世界経済にも大打撃入っているでしょうから。

  3. 甲茶が飲みたい より:

    円相場見てると150円にならないようにジリジリと動いてて面白いですね。
    日本当局がどこで介入するかなんてわからない(何なら一気に介入しない可能性の方が高そう)のに150円にしないように、という暗黙の了解でもあるかのような動きw

    やはり一発かましたのが心理的に効果があったという事なんでしょうね。
    為替自体は戻ってしまったけど市場の警戒心はまだまだ続いているので、いい介入だったのかな。

  4. 伊江太 より:

    基準通貨国の特権はがっちり確保しながら、ドルを使ってくれてる他国の都合には一切配慮しないというのは、覇権国の独りよがりニダ!

    困ってるときにスワップにも応じてくれないって言うなら、人民元通貨圏に鞍替えするニダ!

    なんてことが、近い将来起こる可能性はないでしょうか?

    まあ、命綱の半導体産業を諦めて、貢女の輸出で喰うなんてことになりかねないから、そりゃまずないとは思いますが(笑)。

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です