プーチンのミサイル攻撃は「単なる腹いせ報復」なのか
日本時間の昨日夜に報じられた、キーウを含めたウクライナの各都市に対するロシアによるミサイル攻撃は、ウラジミル・プーチンが冷徹な判断に基づいて行ったものなのか、それとも「誕生日プレゼント」としてクリミア大橋を破壊されたことに激怒し、単なる腹いせで感情的にカッとなって見境なくミサイルを撃ち込んだものなのかについては、現時点で断定するのは難しそうです。ただ、ドイツ領事館がある地区は、中国を含めた諸国の大使館が密集しているという事情もあるため、なんとなく後者の可能性のほうが高そうです。
クリミア大橋爆発・炎上事件、BBCの解説
ロシアがウクライナに対して違法な侵略戦争を仕掛けている問題をめぐる最新の動向といえば、なんといってもロシアのウラジミル・プーチン大統領自身の誕生日に合わせるかのように発生した、クリミア半島とロシア本土をつなぐ「クリミア大橋」の爆発・炎上事件でしょう。
これについては『「プーチン誕生日祝い」?クリミアで大橋が爆発し炎上』や『クリミア大橋爆発等に関する報道』でも取り上げたとおり、ウクライナ側は公式には事件への関与を明言していないものの、状況に照らすと、「プーチンの威光」の象徴でもある同大橋の破壊に関与した可能性も十分にありそうです。
こうしたなか、英メディア・BBCはこれに関し、こんな解説記事を出しています。
【解説】誰が、何が? クリミア大橋の爆発 これまでに分かっていること
―――2022/10/10付 BBC NEWS JAPANより
BBCの「解説」によれば、「元英陸軍の爆発物専門家」は、そもそも今回の橋の爆発についてはロシアの公式発表である「爆発物を積んだトラックが現場で爆発した」とする説明に異論を唱えているのだそうです。ここで出てくるのが、こんな指摘です。
「橋は一般に、下向きの荷重と風による横向きの荷重にはある程度耐えられるように設計されているが、上向きの荷重に耐えられるようには設計されていない」。
ロシア側の発表だと、今回の爆発は「爆発物を積んだトラックが現場で爆発したもの」であり、プーチン大統領自身が「橋への爆発攻撃はテロ行為だ」と批判した、などとされています(※ただし、主謀者については特定されていません)。
爆発は橋の上部ではなく下部で発生した!?
しかし、BBCの記事では、たしかに該当するトラックが現場を通過した直後に爆発が発生している様子は確認できるものの、状況に照らすと、むしろ「橋の上」ではなく、「橋の下」で爆発があったとみるのが妥当だ、と解説されているのです。それが、こんな記述です。
「現場の様子については一部から、爆発直前に橋脚の横で、小型ボートの船首波のようなものができるのが、別の監視カメラ映像に映っているとの指摘が出ている」。
つまり、橋は無人ボートを使って爆破された、という仮説です。
じつは、クリミア半島周辺ではこの手の「無人船舶」が出没しているそうですが、仮にウクライナ軍が遠隔操作でこの手の無人船舶を使い、ロシアに攻撃を加えたのだとしたら、「ウクライナが掌握する地域から160㎞も離れたケルチ大橋を攻撃する」という、「これまでで最も大胆な作戦行動のひとつ」、というわけです。
もっとも、BBCの記事の面白いところは、現実にウクライナ政府関係者は誰もこの「ウクライナ作戦説」を認めていない、という点を指摘していることにあるのかもしれません。
BBCによると、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領の顧問を務めるミハイロ・ポドリャク氏は声明で、今回の橋の爆発をめぐって「答えはロシア内で探すべきだ」と述べ、今回の爆発がロシア治安当局の内部抗争によるものだとの見方を示唆。結果的に「トラック爆弾説」というロシアの立場を後押ししている格好です。
プーチンによる「報復宣言」:巡航ミサイルがキーウなどを破壊
もっとも、ロシアの側はさすがに今回の攻撃を屈辱ととらえたのか、ウクライナに対する報復に出たようです。
After bridge blast, Putin promises “harsh” response if Ukrainian attacks continue
―――2022/10/10 19:39 GMT+9付 ロイターより
Kyiv, other cities hit as Putin orders ‘harsh response’ to Crimea bridge attack
―――2022/10/10 20:09 GMT+9付 ロイターより
ロイターによると、プーチン大統領は「ウクライナがテロを行った」と述べ、「テロ行為が続く場合は強力に対応する」と宣言。あわせてロシアは月曜日、キーウを含めた複数の都市に対し、朝の通勤時間帯を狙って巡航ミサイルによる攻撃を行ったそうです。
また、今回のミサイル攻撃は「戦争の初期にロシア軍が首都を占領しようとしたときですら見られなかったような激しさ」であり、キーウ中心部にある交差点や公園、観光地などが攻撃され、電力、水道、暖房などが広範囲で停止しているのだとか。
これについてロイターは、プーチン大統領がテレビ演説で、土曜日に発生したケルチ海峡の橋での爆発を含むテロ攻撃に対し、空、海、陸から発射されるミサイルを使用し、ウクライナのエネルギー、指揮命令系統、通信目標に対する「大規模な」長距離攻撃を命じたと述べた、などと報じています。
やはり「無差別攻撃」か?
こうしたなか、今回の攻撃ではキーウにあるドイツの領事館の入居する建物も損傷した、とする情報もあるようです。
実際、真偽は不祥ですが、ツイッターなどでは今回のミサイルの攻撃対象には駐ウクライナ大使館が集中している地区も含まれていたのではないかとの指摘もなされており、実際に調べてみると、ドイツ連邦領事部が所在する近隣には、中国大使館を含めて多くの国の大使館、領事館などが集中していることがわかります。
今回のドイツ領事館への攻撃も、狙ってやったのか、それとも単なる腹いせでミサイルを乱発した結果、偶然そこに着弾したのかはよくわかりません。ただ、もしもミサイルが中国大使館に当たっていたとしたら、それはそれで大変なことになっていたかもしれません。
ただでさえ西側諸国に外貨準備を凍結されているロシアが、中国を敵に回すような事態に陥れば、人民元建ての外貨準備すらも凍結され、中国経由の物資すら得られなくなる可能性があるからです。
ウラジミル・プーチンがキーウをミサイル攻撃することで何らかの成果を得るという合理的な確証を持っているのか、それとも単純に腹に据えかねて冷静さを欠いているのかどうかについては、現時点ではまだよく見えないところではあります。
ただ、状況に照らすならば、なんとなく後者のほうが可能性は高そうだと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
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戦況がこれでロシアに有利になったとはとても思えないことから、ロシア国内向け、特に軍部周辺の反乱蜂起策動を抑える「ポーズ」の可能性は強いですね。
ところで、野戦活動中のウクライナ兵が MANPAD(今回の戦争を特徴づける携行武器=NLAW や Javelin のこと)で飛行中の巡航ミサイルで撃ち落とした動画が投稿されています。本当なら大した戦果です。
素朴な感想ですけど、クリミア大橋の爆発を、プーチン大統領がウクライナのテロと断定した以上、ロシア国内向けにも大至急、ウクライナに報復攻撃をしなければならなかったのではないでしょうか。もし、そうだとすると、ロシア軍のミサイルの在庫は、どうなっているのでしょうか。(もちろん、ミサイルの在庫数は軍事機密のため、ロシア軍関係者以外は分かりません)
また、再度のクリミア大橋へのテロを警戒して、物流が滞っていても、一台一台のトラックを確認し、一両一両の列車を確認せざるをえなくなるのではないでしょうか。
また、今後、ロシア本土で起きる爆発は、(本当は破壊工作であれ、単なる事故であれ)すべてウクライナの破壊工作とされるので、その都度、ウクライナに報復攻撃をせざるを得ないのではないでしょうか。(つまり、極東ロシアでの爆発も、ウクライナの協力者による破壊工作ということです)
駄文にて失礼しました。
>何らかの成果を得るという合理的な確証を持っているのか、それとも単純に腹に据えかねて冷静さを欠いているのかどうか
北朝鮮のミサイルが日本本土に撃ち込まれたら「断じて容認できない」というだけで報復しませんか?
sqsqさま
>北朝鮮のミサイルが日本本土に撃ち込まれたら
憲法9条信者が集まって、「日本に北朝鮮のミサイルは撃ち込まれていない」とのお経を唱えます。
日本の良識、朝日新聞に反有事法制記事が参考になります
Q : ミサイルが飛んできたら。
A : 武力攻撃事態ということになるだろうけど、1発だけなら、誤射かもしれない。
つい最近、韓国がミサイルを自国の領土に落とした。
もちろんSNSでは韓国軍に非難殺到。
だがその中には「誤ったとして日本にミサイルを飛ばせ」の意見が多く見られた。
これは革新政権が実際にやりそうなことだ。
日本は北だけでなく南の注意も必要。
「誤ったとして日本にミサイルを飛ばせ」
そのように制御する能力がないから自国に落ちてしまったのでは。
まずは、自ら放ったミサイルが自国の国土に落ちないようにする努力をすべきかと。
プーチン大統領自らカメラの前に立ったところをみると、皆さんご指摘の通り、強いリーダーを示すためのロシア国内向け措置であることは間違いなさそうですが、どう考えてもクリミア大橋の爆発とは不釣り合いで、国際的には非難しか呼ばず、ロシアにとってはマイナスが大きいと思います。
彼の、または彼のインナーサークルの、怯えや恐怖による過剰攻撃と思えます。それだけ追い詰められているのでしょう。核へのエスカレーションが心配です。インドのモディ首相か、トルコのエルドアン大統領あたりがうまく動いて、冷却化してほしいものです。
ロシアは「すべての目標に命中した」と発表しているようですが、「外れたミサイルがドイツの公館に当たった」可能性を否定するものにはなってません。(笑)
ドイツの公館に当てる意図があったことにするのかしないのか、どっちなんでしょうね。
https://meduza.io/en/feature/2022/10/10/moscow-responds-to-the-kerch-bridge-blast
攻撃目標は軍に任されていて、プーチンから怒られるんじゃないかと勘ぐってます。撃ったミサイルの精度も様々だと思います。
ショイグかゲラシモフあたりも、そろそろかもしれません。(しらんけど)
国内の愛国者世論の矛先が、プーチン自身に向かい始めているそうです。何もしなければ更に突き上げられる状況だそうです。
プッチン プッチン大統領 やなことあったらすぐプッチン
プッチン プッチン大統領 プッチン食べたらプルルンルン
プッチンプリン〜♫
……という懐かしいCMを思い出しました。歌詞は合ってるかわかりませんけど。
新映像がありました。真偽については(以下略)
https://twitter.com/Maks_NAFO_FELLA/status/1579540950375768065
橋のレールだと思いますが、車輪の形に合わせて凹んでいます。
熱と車両の重量による圧力ではないかなと。
反対車線の線路も含め、橋桁への熱の影響を無視できないんじゃないかと思いますが。
半島の鉄道宜しくケンチャナヨで運行再開するんでしょうかね。
この映像の一瞬でしかないですが、通行再開した生き残った道路も、車は走ってませんね。
関係車両が路肩に駐車してますし。
鉄道と自動車の通行再開はフリであって、今はどっちも実質は止めて、現状確認中かもしれませんね。
物流は停止したままなのではないでしょうか。
無害点検ずみの乗用車は通行させたとしても、追加攻撃が恐ろしくてトラックは数を絞らないと通せないでしょう。当方はロシア国内の反政府勢力のしわざと考えますが、その可能性があるからこそ、彼らの「怯え」は永遠に続くことになるのでしょう。核を使ったからと言って夜ごと枕元に立つ亡霊から逃れることはできないからです。
キーウ攻撃について是レンスキー大統領は「自制」と言う言葉を使い耐えるよう言っていた。
これがいつまで可能か。ロシアへの攻撃を行う誘惑は強まっているでしょう。
その時我々支援側はどうするべきか
WW3にまで進んでしまう恐れは十分有ります。
なにせ挽回しているとは言えただただやられているばかりだからです。
でもやり返せなければアフリカでロシアがやっているように武力と賄賂で国はとられます
同じく武力しか信じない国は同様な事をしてくるでしょうし国内ウからの呼応も
深刻に考えなければならない
新宿会計士殿、連日沢山の論考の作成と掲載有難う御座います。その内容と量に圧倒されて、私はなかなか読み込めないでいます。
ウクライナの首都キーウを始めとする各都市へのロシアによるミサイル攻撃は、私はプーチンが感情的になっての報復、即ち、新宿会計士殿がご指摘の「単なる腹いせ報復」である割合が極めて高いと考えています。
折よく、今晩のBSフジ・プライムニュースは「“橋”爆発で露報復か」と題し、高橋杉雄防衛省防衛研究所防衛政策研究室長と小泉悠東京大学先端科学技術研究センター専任講師が出演します。プーチンが感情的になって攻撃したのか否かも分析されるでしょう。見ましょう。もし見逃しても後でハイライト・ビデオがWebで視聴出来ますね。
2022年10月11日(火)
高橋杉雄×小泉悠対論“橋”爆発で露報復か、プーチン最新発言分析
詳しくはこちらのURLをご確認下さい。
https://www.bsfuji.tv/primenews/
現時点でウクライナ軍が奪還を目指して侵攻しているエリアからは大きく外れた地域にあるキーウを始めとするウクライナ諸都市へのロシアによる無差別ミサイル攻撃はプーチン大統領の腹いせというのは,流石にプーチン氏を甘く見過ぎでは?
非戦闘地域の都市住民への無差別ミサイル攻撃は,ウクライナの一般国民を無差別に殺戮することでウクライナ国民の一部の間には現在も存在している厭戦気分を高め,ウクライナ国民多数派の間に「クリミアでもルハンシクでもドネツクでも呉れてやればいいじゃないか,もういい加減に戦争は終わりにしてくれ」という世論を盛り上げることで,ゼレンスキー政権を失脚にウクライナ国民自身の手で追い込ませることが目的だと私は思います.
問題は,我々西側諸国の制裁によって半導体などの先端部品の供給が止められた現在のロシアに無差別攻撃で撃ち込める通常弾頭の巡航あるいは短距離弾道ミサイルの在庫がどれだけ残っているかでしょう.
そして,それらの在庫が尽きた時,プーチン氏がどういう判断をする(あるいは決断を下す)のか?
しかし,それ以上に問題なのは次のことです.
仮にプーチン氏が「大ロシアが敗北する訳には行かない.かくなる上は核でウクライナを焼き払え」という決断を下した時,戦後世界の「常識」だった核不拡散体制は一気に崩壊して世界中が核軍備競争に走り出すのは確実だと予測します(アメリカが経済制裁を理由に止めようとしてもマトモな(つまり「金儲けよりも命の保証が大事」と考える)国はアメリカの指示に従うことはないでしょう).
問題は,その時に,日本も核軍備競争に正しく参加して,「日本の国益を守るために日本自身の意志によって必要ならば撃つ」と他国に対して自由に言える核兵器を保有できるか?,です.
私の最大の心配は,仮にプーチンロシアによる核使用によって世界が「力だけが正義」とでも言うべき修羅になった時,世界中で日本だけがアメリカの「止めなければ経済制裁だぞ!」という脅しに従って核軍備競争から速やかにリタイアするのではないか?と言うことです.