ニューヨークでの日韓外相会談、諸懸案で完全に平行線

端的にいえば「平行線」です。ニューヨークで現地時間の19日夕刻、林芳正外相と朴振・韓国外交部長官の会談が行われました。林外相の言動に危うさを感じないではないのですが、現状においては少なくとも日韓諸懸案を巡っては完全に平行線だったと考えて良いでしょう。

日韓外相会談

当ウェブサイトで話題として取り上げようかどうか悩んだのですが、いちおう、簡単に触れておくことにしたいと思います。

ニューヨークで現地時間の19日夕刻、林芳正外相と朴振(ぼく・しん)韓国外交部長官の会談が行われました。これについては日韓双方の外交当局が概要を発表しています。

日韓外相会談

現地時間9月19日午後4時(日本時間9月20日午前5時)から約55分間、国連総会出席のため米国・ニューヨークを訪問中の林芳正外務大臣は、朴振(パク・チン)韓国外交部長官と日韓外相会談を行いました。

  1. 両外相は、現下の戦略環境において日韓、日米韓協力を推進していく重要性について改めて一致しました。
  2. 両大臣は、北朝鮮への対応における更なる連携で一致しました。また、朴長官から拉致問題について改めて支持を得ました。
  3. 林大臣から、先般の光復節や就任100日目会見での尹大統領の日韓関係に関する発言について、尹大統領自身が日韓関係改善に向けた強い意志を示したものと前向きに受け止め、歓迎している旨改めて述べました。
  4. 朴長官より、旧朝鮮半島出身労働者問題に関する韓国側の立場について説明があり、これに対し、林大臣より、日本側の一貫した立場を伝えました。その上で、両外相は、外交当局間で行われている建設的なやり取りを評価しつつ、日韓関係を健全な関係に戻すべく、問題の早期解決に向けて両国間の協議を継続していくこととしました。

―――2022/09/19付 外務省HPより

韓日外交長官会談(9.19)結果【※韓国語】

パク・ジン外交部長官は、第77回国連総会に出席したきっかけ、林芳正日本外務大臣と9.19(月)午後16:00-16:55(現地時間)の日韓外交長官会談を行った。

両長官は最近急変する国際情勢や厳重な朝鮮半島の状況などを勘案し、韓日及び韓米日協力を持続強化していくことに認識を共にした。

朴長官は、過去史懸案に関連する望ましい解決策を早急に導き出すために、真正性をもって共に努力していこうとした。

両長官はこれまで4回開催された外交長官会談など日韓間建設的に疎通してきたことを評価し、相互信頼関係を基盤に今後も様々なきっかけに両国外交当局間の対話と協議を継続していこうという認識が一致した。

―――2022/09/20付 韓国外交部HPより

外相同士が会うのは珍しいことではない

個人的には、日韓首脳会談を巡る韓国政府側の勝手な発表などもあった直後だけに、林外相が朴振氏との外相会談に応じたこと自体が適切だったのか、多少は疑問に感じる部分ではあります。

また、日本の外務省の発表にあった、「日韓関係を健全な関係に戻すべく、両国が協議する」という内容自体には、非常に大きな違和感を覚えます。日韓諸懸案を作り出したのは韓国側ですので、ここはやはり菅義偉総理のような「関係を健全化するためのきっかけは韓国が作るべき」という発言が欲しかったところです。

ただ、日韓外相会談自体は文在寅(ぶん・ざいいん)政権時代であってもしばしば開かれていましたので、日韓外相が会って日韓両国の隔たりが非常に大きいという事実を確認するだけでも、それなりの意味はあるのかもしれません。

これに加えて、本日の日韓両国の報道発表内容を読むと、日韓の発表内容自体には大きな齟齬はありません(齟齬があるとしたら、「日本人拉致」云々の記述が韓国側の発表に含まれていない、といったところでしょうか)。

要するに、「日韓・日米韓連携は大事ですね」、「諸懸案については話し合いましょうね」、といった総論でしか合意しておらず、これだけでは何とも言いようがありません。

韓国側は「日本は真摯な態度で応じた」

これについて韓国側ではこんな報道がありました。

韓日外相 徴用問題巡り踏み込んだ議論=「関係改善」では一致

―――2022.09.20 08:31付 聯合ニュース日本語版より

韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)の記事によると、朴振氏は会談後、記者団に「さまざまなよい話をした」、「韓日関係の改善に向け、双方が誠意をもって努力することにした」、などと説明したのだそうです。

そのうえで聯合ニュースは次のように述べています。

ニューヨークで開かれる国連総会に合わせ、韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領と岸田文雄首相の首脳会談が調整されており、外相会談では両国の主要懸案について意見が交わされたとみられる」。

会談は友好的な雰囲気の中で行われ、両国関係の最大の懸案となっている日本による植民地時代の徴用被害者への賠償問題を巡り踏み込んだ意見交換が行われたようだ」。

そのうえで聯合ニュースは、朴振氏が韓国政府による「官民協議会」における「賠償金の財源づくりを含む解決策」を林外相に説明したうえで「誠意ある対応を求めた」ところ、「日本側は真摯な態度で応じた」、などとしています。

そもそも「日韓首脳会談が調整されている」とする報道は、韓国メディアの方からしか出て来ておらず、日本の側からは否定的な報道が出ています(『韓国一方的発表に抗議、「正式会談」を見送りへ=産経』等参照)。

林氏の発言からは「真摯」云々は確認できない

また、この手の「韓国側の説明に日本が真摯な態度で応じた」、などとする報道も、韓国メディアがよく垂れ流すものですが、日本の側からはこれに相当する情報は確認できません。これについては林外相の記者会見についても確認しておきましょう。

林外務大臣臨時会見記録(令和4年9月19日(月曜日)17時38分 於:ニューヨーク)

―――2022/09/19付 外務省HPより

このなかから、記者と林外相のやり取りを抜き出しておきましょう。

【記者】私から2点お願いします。先ほど大臣が冒頭におっしゃいました徴用工問題の関係なんですけれども、韓国のユン・ソンヨル政権で検討している解決策に関して何か前向きな発言はあったのでしょうか。また、日韓の首脳会談についてですね、会談の中ではどのような発言があったのでしょうか。

【林外務大臣】はい、パク長官からは、旧朝鮮半島出身労働者問題に関する韓国側の立場についてご説明がありまして、これに対して私から、日本側の一貫した立場を伝えたところであります。その上で両外相はですね、外交当局間で行われている建設的なやり取り、これを評価しつつ、日韓関係を健全な関係に戻すべく問題の早期解決に向けてですね、両国間の協議を継続していくことといたしました。これ以上の詳細については、先方の発言を含めて外交上のやり取りでありますので差し控えたいと思います。また、首脳会談等についてですが、日韓首脳間の接点については、何ら決まったことはございません。

林外相、政治家として危なっかしい部分も多々あるにせよ、この発言を見る限りは、基本的には韓国側の「誠意をもって」云々の発言は、この林氏の回答からは確認できません。

いずれにせよ、自称元徴用工問題を含めた日韓諸懸案に関していえば、少なくとも日韓間の主張は平行線をたどっていると考えておいて間違いないでしょう。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 農家の三男坊 より:

    林さん、軽い神輿にもならない。

    >外交当局間で行われている建設的なやり取り、これを評価しつつ、日韓関係を健全な関係に戻すべく問題の早期解決に向けてですね、両国間の協議

    出来の悪い官僚の振り付けで踊っているだけかもしれないが、
    現状把握能力、交渉相手を見抜く力、がほぼゼロ。
    どこが建設的? 何を評価? 何を協議?
    こんな意味のない言、誤解させる(相手の方向性に満足しているかの)言を発して何を考えて居るのやら。

    1. 引っ掛かったオタク@イヤマアシランケド より:

      外務省自体ウチナル(或いは本質的な?)害務省と綱引やってそうなですし、宏池会構成員世襲議員仕草としてはパーペキだったのではないでしょうか?

    2. よっしー より:

      >日韓関係を健全な関係に戻すべく、問題の早期解決に向けて両国間の協議を継続していくこととしました。
      だが、
      最近も、韓国政府は日本の海洋調査船の活動にクレームを付けている。
      韓国政府は、自衛隊機への火器管制レーダー照射をまだ認めていない。

      こんな状況では日韓関係を改善することなどできないでしょ、って言ってやらなきゃダメでしょう。日本のガイム大臣なら。

  2. (^Д^)元日中友好議連会長 より:

    【文化日報】2022.09.20。午前11時22分
    『強制徴用、日本に「民間財源賠償」提案』

    両国関係最大の懸案事項である日帝の強制徴用動員賠償問題について、民間企業を通じた民間財源賠償案などを林外相に説明した。外交当局者は「朴長官が直接被害者の声を聞いた事例を紹介し、国内各界の意見を具体的に日本側に伝えた」と伝えた。
    外交部は日本側は真剣な態度で聞きながら深く意見を交わしたと説明した。
    https://n.news.naver.com/mnews/article/021/0002531827?sid=100

  3. たろうちゃん より:

    衆参鞍替えする時、リン・リン芳正の評判は自民党内きっての政策通というものではなかったか。対抗が売国奴の誉れたかい河村健夫だったから、余計に期待は高まった。だが完全に期待はずれだった。何よりも国民の声が聞こえていない。それとも女に引っ掛かったという話しが信憑性を帯びてきこえるのは気のせいか?牛だか象だかカバだか馬鹿かしらないがヌボーとしていて、快活さがない。外務大臣辞めてくんねぇかな~~

  4. はるちゃん より:

    日韓外相会談の実施は、実質的な進展はないにせよ、韓国に塩を送ることになったと思います。
    韓国は、日韓関係の改善をアメリカから迫られていると思いますが、やってます感は出せたので、アメリカへのエクスキューズにはなると思います。
    問題は、今回の会談で「問題の早期解決に向けて、両国間の協議を継続していく」という合意があったそうですので、韓国に逃げる口実を与えてしまった事です。
    やはり、この林さんという方は、多くの人が感じているように〇能なのでしょうか?
    あるいは、噂されている〇〇〇ラは事実だったのでしょうか?
    安倍さん亡き後早々に、日本の外交に暗雲が垂れ込め始めています。

  5. taku より:

     いつもながらの①内容の無い外相会談②両国発表の答え合わせ(今回は乖離幅が少ない)③懸案(今回なら首脳会談をめぐる韓国高官の希望的観測の発表)についてはスルー、ですよね。
     外相会談を重ねて、お二人の信頼関係が醸成され、距離が縮まっているようには、到底見えない。互いに相手が怒って席を立ってくれたら、決裂の責任を相手に押し付けられることを期待して、交渉を重ねているとしか、思えません。
     まあいいでしょう。このまま時間が推移して困るのは、韓国の大法院であり、意見書を出した韓国政府でしょうから。日本は「一貫した立場」を続け、①韓国政府が日本が検討できる案を提示してくるのを待つ②大法院が痺れを切らし「現金化」に踏み切れば、反撃の制裁措置に踏み切る(責任は韓国にありと唱えつつ)で、いいでしょう。
     今後の予想としては、韓国は更なる”サラミ戦術”(現金化を一歩進めるが、所有権の移転には至らない)を採る、が一押しかな。
     その間に日韓関係のテーパリング(段階的縮小)は進むでしょうし、日本人の過去の植民地支配に対する贖罪意識も薄れていくでしょう。

  6. がみ より:

    日本だけ条件飲むって勝手に韓国が考えているグランドバーゲンとか言われて、会うやつがいるわけがない。

  7. 匿名 より:

    >「会談は友好的な雰囲気の中で行われ、両国関係の最大の懸案となっている日本による植民地時代の徴用被害者への賠償問題を巡り踏み込んだ意見交換が行われたようだ」。

    このように発表されると、日本も話し合いのテーブルに乗ったのだから徴用工(募集工)問題は事実であると第三者(国際社会)は思ってしまいますね。
    日本は話し合うメリットはありあせんが韓国にとっては話し合いに進展が無くとも話し合いのテーブルに日本を乗せたことで目的の9割は達成しています。
    まさに100対0理論そのものです。
    会談する前に
    歴史的史実に基づかない判決を出したことは遺憾である、しかし日本としては内政干渉出来ないのでお国の中で解決してください、解決策あるのであればお聞きしましょう。
    とでも言って欲しかったですね。

    1. はるちゃん より:

      >このように発表されると、日本も話し合いのテーブルに乗ったのだから徴用工(募集工)問題は事実であると第三者(国際社会)は思ってしまいますね。

      大変重大なご指摘です。
      自称慰安婦問題のように、協議に応じるということは、自称強制徴用工問題も歴史的事実であったかのような印象を世界各国に与えてしまうという効果があります。

      この林という方は、多分間外務省に劣らず間抜けな方のようですね。
      岸田、林コンビには嘆息しかありません。
      立憲民主党と五十歩百歩のレベルですね。
      政権交代が必要な事態に差し掛かったのかもしれません。

  8. ジン より:

    こちらにコメしたつもりでしたが
    なにやら違うところに送信したようです
    皆様方も呑みすぎないようにしましょう。

  9. 匿名 より:

    日本側も「韓国は真摯な態度で応じておられた」と慇懃無礼に対応してあげてほしいですね。

  10. ななっしー より:

    日本にたかりたい韓国の用日派と
    韓国を助けたい日本の媚韓派にとって困るのは日本の要人が
    「韓国が国際法違反の状態を」とか「ボールは韓国にある」
    とか言うことだ。
    ホワイト国も旭日旗もレーダーもどうとでもなる(うやむやにできる)。
    だがさすがに国際法違反状態を放置のままでは嫌韓派が経済援助に反対する口実(?)となっているし、
    是正すれば韓国民に日本の圧力に屈したと映る。

    しかし今回の外相会談でこの問題を「外交当局者協議マター」にすることに成功した!
    経済問題との切り分けに成功した。
    請求権協定の協議ではなく無期限の協議を勝ち取った!
    放置の見込みができた。
    ムン政権で(勝手に)マイナスになった日韓外交をせめてパク政権時にまで戻せる(パク政権だって放置できた)。
    ただの労働者救済問題に矮小化することができたので、今後「韓国が国際法違反の状態を」とか「ボールは韓国にある」とかいう言葉がメディアに乗る機会は激減するだろう。
    (難問は山積しているが)韓国の用日派と日本の媚韓派が現状求め得る最高の外相会談だった。

    あと日韓請求権協定の手順以外の道筋を開いたことも大問題。
    >(林外相冒頭発言)法の支配…の重要性
    とかどの口が。
    金正男を捕まえた入管や中国船にぶつけられた海保ほどではなかろうが、
    ものすごいちゃぶ台返し感、徒労感だわ。
    産経の記者さんとか質問してくれないかなー。
    「日韓請求権協定第三条は要らないよね。同条があろうがなかろうが今回の『無期限協議』は導けますよね。削除してはどうか」

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