今年に入って「トリプル安」発生回数が増えた韓国市場
韓国市場でトリプル安が生じた回数を調べてみると、興味深いことが判明します。今年に入ってから、「トリプル安」の回数が、明らかに増えているのです。現在のところ、まだ「外資が韓国市場から引き上げる」という大々的な動きは見られませんが、その兆候はすでに始まっているのかもしれません。
ウォン安が韓国経済に与える影響
このところ、韓国の外為市場が不安定な地合いが続いているように見受けられます。
韓国が「先進国」(?)を名乗るわりには、その通貨・ウォンは、決して「国際的な市場で広く取引されている通貨」ではありませんし、それどころか通貨のオフショア取引が認められていない(『韓国が500億ドル以上の日韓スワップを欲しがる理由』参照)など、発展途上国に似たような資本統制が残っているほどです。
つまり、先進国並みの資本市場の対外開放を行っておきながら、肝心のウォン自体は「NDF通貨」である、という「ちぐはぐさ」を残しているのです。
これに加えて、国際決済銀行(the Bank for International Settlements, BIS)の統計によれば、昨年末時点において、韓国は外国の銀行から少なくとも4000億ドル近い債務を負っていますが、そのうち約2000億ドルは外貨建ての債務です(図表1)。
図表1 韓国の外国銀行からの借入(2021年12月末時点)
区分 | 合計債務 | うち外貨 |
---|---|---|
合計 | 3761億0200万ドル | 2019億9100万ドル |
うち、米国 | 1020億2900万ドル | 562億5200万ドル |
うち、英国 | 1091億9100万ドル | 301億9700万ドル |
うち、日本 | 513億9700万ドル | 275億9500万ドル |
(【出所】 the Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statistics を参考に著者作成。なお、合計債務は「最終リスクベース」、外貨建債務は「所在地ベース」の数値を使用)
ウォン安は韓国にとって、外貨建てで示される債務の金額を押し上げることで、企業の財務健全性を損ねることにもつながるため、行き過ぎたウォン安は、韓国経済にとっては死活問題にもなりかねません。
したがって、同じ通貨安であっても、「ウォン安」は、自国通貨・円が「ハード・カレンシー」であるとともに、金融セクターが4兆ドル近い対外純債権を抱える日本の「円安」と同列で論じることができません。韓国の場合、通貨安は得てして「韓国からの資本逃避」を意味しているからです。
昨日はウォン安+株安
こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に今朝、こんな記事が掲載されていました。
KOSPI、また2600割れ…ウォン相場も一日で11ウォン下落(1)
―――2022.05.20 07:13付 中央日報日本語版より
KOSPI、また2600割れ…ウォン相場も一日で11ウォン下落(2)
―――2022.05.20 07:14付 中央日報日本語版より
中央日報によると、韓国では19日、韓国ウォンの対米ドル相場(USDKRW)が前日比11.1ウォン下落してウォン安がさらに進むとともに、総合株価指数(KOSPI)が3日ぶりに2600ポイントを下回るなか、「韓国の金融市場がスタグフレーションの恐怖に動揺している」と述べています。
「この日韓国証券市場では外国人投資家が株式を大量に売ってウォン安をあおった。機関投資家と外国人投資家が一斉に売り越し、この日KOSPIは前日比1.28%安の2592.34で引けた。3日ぶりの2600ライン割れだった」。
…。
これについて中央日報は、前日の米株の下落が日本、香港を含めたアジア諸国にも影響を与え、これが韓国の株安も煽った、などと指摘しています。
トリプル安ではない
ただ、昨日の株安・ウォン安については、正直、韓国「だけ」の問題ではなく、たんに世界的なリスク選好が後退したための減少と捉える方が正確でしょう。というのも、昨日の韓国の金融市場では、債券は買われている(=利回りは低下している)からです。
簡単なファクトチェックをしておきましょう。
WSJのマーケット欄や韓国銀行のデータなどに基づけば、主要なマーケット指標は次のとおりでした。
2022/05/19付 韓国金融市場主要指標
- 3年債利回り…3.115%(前日比▲0.035bps)
- 10年債利回り…3.325%(前日比▲0.015bps)
- KOSPI…2592.34ポイント(前日比▲33.64ポイント)
- USDKRW…1277.70ウォン(前日比+11.1ウォン)
(【出所】WSJ、韓国銀行)
ここで「前日比マイナス」は、債券利回りやUSDKRWについては「価値が上昇した」ことを意味しています。
すなわち、昨日は株安、ウォン安となった一方で、債券価格については上昇しており、このことから、「韓国全体として外国人投資家が資金を引き揚げる動きに出た」、とは結論付けられません。
以前の『トリプル安の韓国、対ドル相場が1240ウォンを突破』などでも指摘したとおり、一国経済の「本当の危機」の兆候のひとつは、「トリプル安」、つまり「株安、債券安、通貨安」が同時に発生することにあります。
(ただし、「トリプル安が発生したら即、経済危機である」、という単純なものではありませんので、この点についてはご注意ください。)
その意味では、昨日の韓国市場ではたしかに「株安、通貨安」は発生しているものの、「債券安」は生じていませんので、いちおうは「米株安を受けた市場全体のリスク選好の後退による一時的な株安・通貨安」、と暫定的に結論付けて良いのではないかと思います。
今年に入ってトリプル安回数が着実に増えている
もっとも、債券データが取得できる2010年6月28日以降、昨日までの時点において、KOSPI、韓国3年債、韓国5年債、USDKRWの4つのデータをもとに、「トリプル安」が発生した回数を数え、四半期ごとに集計してみると、興味深いことが判明します。
今年に入ってから、トリプル安の発生回数が増えているのです(図表2)。
図表2 韓国金融市場における「トリプル安」の発生回数
(【出所】WSJ、韓国銀行。ここでいう「トリプル安」とは「韓国3年債利回り、10年債利回りがともに前日比上昇」、「KOSPIが前日比下落」、「USDKRWが前日比上昇」の3つの事象が同時に発生した回数を意味する)
過去12年分のデータで見ると、トリプル安が最も多く発生していたのは2016年第4四半期(10-12月期)の13回でしたが、これを除けば、2022年第1四半期(1-3月期)に12回発生し、また、4月以降5月19日までの1ヵ月半で、すでに6回も発生しています。
背景にはやはり、米FRBの急速な金融引締め基調に加え、2020年3月のコロナ禍以降、韓国銀行が為替介入をしまくり、マネタリーベースが膨張し、それに伴い家計の借金などが膨らみ、資産バブルが生じたという、韓国独自の要因もあります。
いずれにせよ、意外と遠くない未来において、「隣国発の金融市場の混乱」、というものを目にすることになるのかどうか、引き続き注意が必要といえるかもしれません。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
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>意外と遠くない未来において、「隣国発の金融市場の混乱」、というものを目にすることになるのかどうか
「ウォン・デット 債務投げ出し ウォンテッド」
m(_ _)m 五七調にしてみました。
それにつけても 金(=ハードカレンシー)の欲しさよ
ちなみにこんなニュースも・・・。
ENEOSホールディングスのグループ会社 JX金属の子会社日韓共同製錬が保有する韓国LS-Nikko Copper(LSN社)の全株式を売却。
https://www.nmm.jx-group.co.jp/newsrelease/2022/20220519_01.html
このジワジワ感は好感が持てます。 半導体関連はまだ先でしょうが、メモリーの大半を韓国に依存することはリスク管理上問題です。 日米欧で既に話し合い済だったらよいのですが。 バイデンさん「でかい釘」を刺して下さいね。
現地発報道によれば米国大統領みずから足を運んで三星の半導体工場を視察したのだそうです。望んでの視察なのか招かれてなのかは不明です。でもメッセージははっきりしているのではないでしょうか。
「何かやったらまた調べに来るぞ」
韓国の10年物国債利回りは2022年の初めに2.1%ぐらいだったが5月には3.3%になってる。
通貨はみんな知っての通り急落に近い。
株も下がっているが、コロナ対策のメッキの剥落なのか、外国人が資金を抜いているせいか、両方か、他国でも株は下落傾向なのでなんとも言えない。