「5月9日」にあわせてG7がロシアに追加制裁を発表

5月9日といえばロシアにとり対独戦勝利記念日ですが、こうしたなか、5月8日にはG7がオンラインでサミットを開催し、ロシアに対する追加制裁や戦争犯罪の刑事訴追、石油の段階的な禁輸措置などを打ち出しました。制裁措置自体は不十分な点もあるものの、西側諸国の制裁がいくつかの部品に及んだことで、ロシアでは戦車の工場などの操業が停止している、といった事象も生じているようです。

ロシアは対独戦勝利を祝うのか?

5月9日といえば、ロシアにとっては対独戦勝利記念日だそうです。

ロイターによると、例年この日はロシアにとって、「赤の広場」で戦車、ICBMといった武器を誇示し、それによって西側を牽制するという重要な日なのだとか。

Putin to mark Soviet Union’s WW2 victory as war in Ukraine grinds on

―――2022/05/09 08:05 GMT+9付 ロイターより

ロイターはまた、ロシアのウラジミル・プーチン大統領自身がこの戦争を「危険なナチスに触発されたウクライナのナショナリストとの戦い」と位置付けていると指摘します。いわば、「1991年のソ連崩壊以降、西側諸国がロシアを脅かしてきた」とするプーチン氏にとって、「ウクライナは米国によって利用されているに過ぎない」のでしょう。

G7オンライン会合

もっとも、ロシアにとって記念すべき日に合わせたかのように、G7が昨日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領を加えてオンラインで会合を行い、共同声明を発表するとともに、新たな制裁パッケージを打ち出しました。

【参考】G7首脳テレビ会議の様子

(【出所】首相官邸HP

ただし、日本の首相官邸には現時点でその具体的な内容が公表されていないので、ここでは米ホワイトハウスのウェブサイトから内容を確認しておきましょう。まずは共同声明です。

G7 Leaders’ Statement

―――2022/05/08付 ホワイトハウスHPより

声名の冒頭で、「本日・5月8日、我々G7の首脳は、ウクライナを含めた広い国際社会とともに、欧州での第二次世界大戦の終結とファシズムからの解放、そして国家社会主義の恐怖政治を祈念する」などとしつつも、次のとおり、ロシアを強く批判しています。

Seventy-seven years later, President Putin and his regime now chose to invade Ukraine in an unprovoked war of aggression against a sovereign country. His actions bring shame on Russia and the historic sacrifices of its people. Through its invasion of and actions in Ukraine since 2014, Russia has violated the international rules-based order, particularly the UN Charter, conceived after the Second World War to spare successive generations from the scourge of war.

意訳すると、こんな具合でしょう。

  • (第二次世界大戦終結から)77年が経過した今日、プーチン大統領およびその体制が、「ウクライナ侵略」という、主権国家に対するいわれなき侵略戦争を選択した
  • プーチン大統領の行動はロシアとその歴史、そしてロシア国民に恥をかかせるものだ
  • 2014年以来のウクライナへの侵攻や行動を通じて、ロシアは国際社会が第二次世界大戦以降、戦争の惨禍から次世代を救うために考案されてきた法に基づく秩序、とりわけ国連憲章に違反してきた

なかなかに強い声明です。「ファシズムから解放されて77年目に新たなファシズム国家が誕生した」とでもいわんばかりの指摘でもあります。ある意味で、「対独戦勝利記念日」にふさわしい象徴的なものといえるかもしれません。

ウクライナに対する支援パッケージ

そのなかでもとくに興味深いのが、声名の第5項以降にある、ウクライナに対するG7の支援パッケージとロシアに対する責任追及でしょう。

  • 我々G7は国際社会と連携し、戦争開始以来、2022年以降だけで240億ドルを超える支援を、金銭や物資の携帯で提供または約束してきた
  • 今後数週間で、ウクライナの資金不足を埋め、同国民に基本的なサービスを提供するのを支援すると同時に、ウクライナ当局や国際金融機関と協力して長期的な支援を行うためのオプションを開発する
  • これに関連して欧州連合(EU)が国際通貨基金(IMF)にウクライナ向けの複数国からの支援を受け付ける管理口座を設立し、ウクライナ連帯信託基金を設立すると発表していることを歓迎する
  • 我々はプーチン大統領と、ベラルーシのルカシェンコ政権を含むこの侵略の設計者、共犯者らに、国際法に従った責任を負わせる努力を惜しまない
  • 我々は国際刑事裁判所(ICC)の検察官、国連人権理事会による独立した調査委員会、欧州安全保障協力機構を含む調査と証拠収集のための進行中の作業を歓迎し、支持する

文章自体は「プーチン大統領自身に対する西側諸国の刑事訴追」という表現は慎重に避けているものの、間接的にはそのように述べているようなものでしょう。

新たな対露制裁パッケージ

そのうえで、G7が打ち出すあらたな制裁パッケージには、「ロシアからの石油の輸入を段階的に廃止または禁止する」、「ロシアが依存する主要なサービスの提供を禁止または防止する」、「侵略戦争に対する資金調達能力を制限するために、ロシアの銀行に対し、引き続き何らかの措置を講じる」、といったものが含まれました。

これに関しては、次の「ファクトシート」も参考になります。

FACT SHEET: United States and G7 Partners Impose Severe Costs for Putin’s War Against Ukraine

―――2022/05/08付 ホワイトハウスHPより

ファクトシートではまず、米国が「プーチンの戦争」を後押ししているロシア国内の国営メディアを標的に、3つのテレビ局に対する制裁措置を講じると述べています。ちなみにファクトシートによると、これら3つのテレビ局は間接的にロシアの国庫に外貨収入をもたらしている、などとしています。

次に、「プーチンの戦争」の資金調達や制裁回避を支援するサービスを禁止するために、米国は米国人がロシア連邦内の居住者に対し、会計、信託、企業設立、経営コンサルティングサービスなどを提供することを禁止するとしています。

これらのサービスを禁止する理由は、ロシアの企業やエリートが蓄財するのを防止するためで、こうした措置はロシアに対する航空、宇宙、海洋、電子機器、技術、防衛といった製品の輸出を禁じる措置に追加されるようです。

また、米国はすでにロシア産の石油、ガス、石炭の輸出を禁止しているところ、G7は化石燃料への依存を減らすための取り組みを加速させるなか、安定した世界的エネルギー供給を確保するために協力しつつ、ロシア産のエネルギーへの依存を低下させる、などとしています。

さらには、ロシアの戦争遂行能力を低下させるために、さらなる輸出管理・制裁の一環として、米国は木材、産業用エンジン、ボイラー、モーター、ファン、換気装置、ブルドーザーといった産業用の品目にも輸出管理を強化する、といった方針を示しています。

そのうえで、ロシアのエリートやその家族に制裁を科すとともに、ロシアやベラルーシの当局者約2600人に対するビザ制限も科す方針を示している、ということです。

セカンダリー制裁には踏み込まなかったものの…

このあたり、当ウェブサイトでは以前からしばしば、「ロシアは資源国でもあり、中国など『制裁の穴』が大きいため、西側諸国の経済制裁だけでロシア経済を崩壊させることは難しい」、などと述べてきました。

今回の制裁措置についてひととおり読んでみたのですが、少なくともG7がロシアに対する制裁を維持・強化しようとする姿勢が見られたことについては歓迎すべきであるものの、「ファクトシート」の主語が「G7は」となっている項目と「米国は」となっている項目が混在しているのは気にかかるところです。

また、中国やインドなどがロシアに対する経済制裁の「穴」となることが強く懸念されるなか、西側諸国の打ち出した対露経済・金融制裁に協力しない国に対する二次的制裁(セカンダリー・サンクション)の試みが不十分であるようにも思えます。

ただ、ファクトシートの冒頭にも、なかなか興味深いことが書かれています。

これによるとG7などによる「前例のない経済制裁」により、すでにロシア経済には甚大な損害が生じていると指摘。

そのうえで、たとえばロシアを代表する2箇所の戦車工場では「外国の部品が不足しているため、作業を停止した」などとしつつ、「約1000社の民間企業、高度なスキルを持った人を含めた20万人以上のロシア人」がロシアから去った、などとし、次のように述べています。

これらのコストはすべて、時間の経過とともに複雑となり、増大するだろう」。

このように考えていくと、とりあえずはロシアに対する経済・金融制裁(とくにヒト、モノ、カネ、情報の流れの遮断などの措置)を通じてロシアの産業をじわじわ「壊死」させるとともに、頭脳の流出でロシアを弱体化させるというアプローチは、現時点においてはそれなりに有益なアプローチなのかもしれません。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 元ジェネラリスト より:

    今回のG7声明もですが、過去の対露制裁発表等々、ロシアの内部には圧力として影響すると思います。
    少し古い(4/25)論考ですが、興梠一郎さんチョイスのもので少し面白かったので。

    Vicious Blame Game Erupts Among Putin’s Security Forces(CEPA)
    プーチンの治安部隊の間で悪質な非難合戦が勃発
    https://cepa.org/vicious-blame-game-erupts-among-putins-security-forces/

    >プーチン政権を支える重要な役割を担う治安機関「シロビキ」が、ウクライナ戦争での失敗の積み重ねについて非難を交わしている。
    >戦争が始まった最初の1カ月は、私たちの電話やメッセージに答えることを拒否する情報源もあった。しかし、今や状況は一変した。
    >ロシア軍は、戦争の当初の目標を限定したことが重大な誤りであると考えている。(略)要するに、軍部は今、動員を含めた(NATOとの)全面戦争を要求しているのである。
    >軍はもちろん、シークレットサービスでさえ、大統領に誤った情報を流したFSB第5局だけでなく、軍事戦略の変更を誤った判断をした大統領自身を非難する声も聞かれる。
    >ロシア軍がクリミアを迅速に占領した2014年、軍と保安庁はプーチンと同じ考えで、クリミア併合の決断を全面的に支持し、そのやり方に熱狂していた。それが2022年には大きく変わっている。
    >それは重要なことですか?とても重要です。シロビキが大統領と距離を置くのは初めてのことです。その結果、さまざまな可能性が生まれてくる。

    西側からの圧力が、必ずしもプーチン打倒+戦争集結ではない、別の悪い結果をもたらす可能性もありえることを示していると思います。
    特に、ロシア軍は「ちゃんと戦争させろ!全部勝ってやるから!」的になってるそうで、開戦後劣勢になり始めた頃の日本軍状態かもしれません。当然、万が一負けたときのことなど考えていないでしょう。

    「だからウクライナ支援を止めるべきだ」とか、そんな短絡的な事を言いたいわけではないと、一応付け加えておきます。

  2. 雪だんご より:

    一般的なロシア人はまだまだ動かないんですかね……?
    このままだとド貧乏になり続け、家族が戦場で死に続け、世界の敵にされ続けるのですが、
    ロシア人の手で自国の政府を止めようと言う発想には到らないんですかね?

    正確な情報が伝わっていない、とりあえず飢え死にはしていないからわが身が惜しい、
    どうせ最初から世界の嫌われ者だと開き直っている、ソ連再びは意外と支持されている思想……

    思いつく要因はこんな所ですが……さて、いつまでも動かないのだろうか?

  3. 引きこもり中年 より:

    素朴な疑問ですけど、プーチン大統領は5月9日の演説で、それに合わせて行われたG7のロシア制裁を非難するのでしょうか。(もしかしたら、ウクライナへの戦争宣言はしないで、ロシア国内に特殊軍事作戦のための総動員令を発令するかもしれません。そうすれば、ジュネーブ条約を軽視(?)することが出来ますから)

  4. トシ より:

    西側の制裁が始まってすぐロシア中央銀行総裁が本音を漏らした。
    「このままではロシアは何も作れなくなってしまう」

    プーチンも「制裁はWTO違反」とし解除を求めた。
    (ロシアの侵略こそ国際法違反というツッコミが挙がったのは言うまでもない)

    ラブロフも「制裁解除は停戦協議の条件となる」と発言。
    ゼレンスキーに「それは他国のことで関係がない」と一蹴される。

    このように西側の制裁はロシアに多大な影響を与えている。

    ロシアの最大のミスは部品、機械の西側依存を放置してしまったこと。

    金融については米国依存をやめある程度の制裁への耐性を得た。

    軍需、製造業においてもロシアの自立を図るべきであった。
    だがロシアの完全な自立などできるはずもなく西側への依存が続いた。

    話によるとロシアはベアリングすら作れない。
    これによって戦車の製造が不可能になったとのこと。

    ロシアは幅広く部品、機械を西側に依存していて
    ロシア中銀総裁の言葉通りに「何も作れなくなる」のだろう。

    侵攻の見積もりと同様にプーチンの見通しが甘かったと言わざるを得ない。

    1. 元ジェネラリスト より:

      >ロシアの最大のミスは部品、機械の西側依存を放置してしまったこと。

      なぜそうなったのかは関心事です。まだ腑に落ちるところまではいかないですが。

      ミスではなく、やりたくても出来なかったのではないかと思っています。
      独自の技術を積み上げる民間の動きが、あまり起こらなかったようです。
      ソ連崩壊前から続く頭脳流出と関係がある気もします。
      韓国が、自分で作るんじゃなくて他所から買ってくればいいとする行為態度と似ていると思います。どちらも最近まで農奴制の国でした。

      金さえ払えば豊かな生活を遅れてしまう現代、G7に上り詰められる国と、絶対にそうはなれない国に分かれたと思います。
      中国はどちらの可能性もある気がして、怖いです。

      ダラダラと書いてしまいました。ご容赦。

      1. トシ より:

        ロシアによる自立した軍需生産。

        言葉の響きはいいが「ソ連レベル」の兵器しか作れない。
        これでは現代戦は戦えない。

        やりたくてもできなかったのでしょう。

        韓国はこの状況を見て日本から半導体、バッテリーの装備、部品、設備が止められたらどうなるのかを理解してほしいですね。

  5. 元ジェネラリスト より:

    ロシアの5/9軍事パレード、「悪天候のため」空軍のパレードは中止となったそうです。

    「悪天候のため」ですからね!

    ペスコフ報道官発表のようですが、ソースは今のところ確認できていません。
    telegramかな。

    1. 元ジェネラリスト より:

      プーチンの演説、テレビで中継やってますね。
      モスクワはいい天気ですねー。

      ・・・あれ?

  6. 元ジェネラリスト より:

    5/9に合わせて、ハッカーもロシアの複数のテレビをハッキングしたようです。

    #RUSSIA #May9th: TV systems have been hacked for May 9th. Message: "Your hands are covered in blood from deaths of thousands of Ukrainians and children." pic.twitter.com/8SY2w3mB8E— Igor Sushko (@igorsushko) May 9, 2022

    やりますね。

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