ロシアの参加強行ならG20の形骸化がなし崩しに進む

G20からロシアを追い出せないなら、G7が出て行けば良い――。これは、当ウェブサイトで以前から議論してきた論点です。ただ、現実はもう少し先を行っている可能性が出て来ました。ロシア財務省が20日にワシントンで開かれるG20財相会合にロシアのシルアノフ財相がオンライン参加すると発表したことで、米国がボイコットする可能性が強まったからです。場合によっては英国を含めた西側諸国もこれに追随するかもしれず、個人的にはG20形骸化がなし崩し的に一気に進む可能性が高いと考えています。

対ロシア制裁の主体は「世界」ではなく「西側諸国」

2月24日にウクライナに軍事侵攻したロシアに対し、西側諸国の経済・金融制裁(外貨準備の凍結、SWIFTNetからのロシア主要銀行の排除、起債禁止、重要品目の輸出規制など)が継続しています。

現在のロシアは政府系企業がCDS上の「デフォルト」状態に陥ったと認定され、ロシア政府自身もISDAのDCにてデフォルト認定手続に入った、などと報じられている状況にあります(『ロシア国鉄のCDSが発動:ソブリン債もCE申し立て』等参照)。

ただ、こうした対露経済制裁に参加しているのは、基本的には「西側諸国」であり、「全世界」ではありません。とくに中国が対露制裁の「穴」になる可能性があることは、当ウェブサイトでも2月の段階で『ロシアは中国とのブロック経済圏形成で制裁を逃れる?』などでも議論したとおりです。

形骸化著しいG20

こうしたなか、『G20が露追放できぬなら、いっそG7が脱退しては?』を含めて以前からしばしば言及しているとおり、著者自身は「G20」という会議体には非常に否定的です。その理由は簡単で、G20の構成国自体、経済規模も宗教も政治体制もバラバラで、近年はとくに、その存在意義が薄れているからです。

そもそもG20とは、いったい何でしょうか。

G20とは、G7、すなわち日米英仏独伊加の7ヵ国に欧州連合(EU)を加えた協議体に、アルゼンチン、豪州、ブラジル、中国、インド、インドネシア、韓国、メキシコ、ロシア、南アフリカ、サウジアラビア、トルコの12ヵ国を加えた20ヵ国・地域の協議体のことです。

そして、このG20は、もともとは各国の財相や中央銀行総裁らを集めた「金融の協議体」として発足したものであり、1999年に第1回目が開催されたのですが、これが2008年のリーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発する金融危機に際し、「首脳会合(サミット)」に格上げされたものです。

したがって、本来ならば2008年のリーマン危機が終息した時点で、このG20首脳会合は終了し、それ以降は財相・中央銀行総裁会合に戻すべきだったのかもしれません。

規制最終化が終わったのならG20は解散するのが筋では?

少し専門的な話を述べておくならば、「BIS規制」、あるいは「バーゼル規制」と呼ばれる、銀行自己資本比率などに関する国際統一基準については、2017年12月にバーゼル銀行監督委員会が「バーゼルⅢ最終化文書」【※PDF】を公表したことで、規制改革は完結しました。

現在、G20は、環境保全だ、持続可能な成長だ、といった「新たな規制分野」を見つけて規制が自己肥大化する傾向を見せていますが、こうした状況だからこそ、これに歯止めをかけることが必要だというのが著者自身の考え方です。

実効性がないどころか、意味のない規制をどんどんと生み出し始めたという意味では、G20はむしろ有害だ、というのが「専門家」としての立場に基づく所見ではあるのですが、この点については「大人の事情」もあるので、当ウェブサイトで詳しく述べることはしません。

(もしも金融機関関係者の経営企画セクションやALMセクションの方で、これらについて詳しく知りたい、あるいはバーゼル規制に関するウェビナーの実施を希望される、などの方がいらっしゃれば、当ウェブサイトの読者コメント欄ではなく、コンタクト先メールアドレス info@shinjukuacc.com までご連絡をください。)

【参考】G20首脳会合記念写真(2019年大阪サミット)

(【出所】G20ウェブサイト)

G20メンバー国の問題点

さて、当ウェブサイトでメインに議論したいのは、G20などが発信する専門的な金融規制ではなく、その組織そのものの問題点です。

「ロシア非難」で一枚岩になったとはいえない国際社会』でも指摘しましたが、今月初旬に行われたロシアを人権理事会から追放するための総会決議では93ヵ国が賛同したものの、反対した国が24ヵ国、棄権した国が58ヵ国にも達していたことも見逃せません(18ヵ国は賛成、反対、棄権のいずれでもありません)。

参考:ロシアの人権理事会からの追放決議案に反対した24ヵ国

アルジェリア、ベラルーシ、ボリビア、ブルンジ、中央アフリカ、中国、コンゴ、キューバ、北朝鮮、エリトリア、エチオピア、ガボン、イラン、カザフスタン、キルギスタン、ラオス、マリ、ニカラグア、ロシア、シリア、タジキスタン、ウズベキスタン、ベトナム、ジンバブエ

参考:ロシアの人権理事会からの追放決議案に棄権した58ヵ国

アンゴラ、バーレーン、バングラデシュ、バルバドス、ベリーズ、ブータン、ボツワナ、ブラジル、ブルネイ、カーボベルデ、カンボジア、カメルーン、エジプト、エルサルバドル、エスワティニ、ガンビア、ガーナ、ギニアビサウ、ガイアナ、インド、インドネシア、イラク、ヨルダン、ケニア、クウェート、レソト、マダガスカル、マレーシア、モルジブ、メキシコ、モンゴル、モザンビーク、ナミビア、ネパール、ニジェール、ナイジェリア、オマーン、パキスタン、カタール、セントクリストファーネイビス、セントビンセント及びグレナディーン諸島、サウジアラビア、セネガル、シンガポール、南アフリカ、南スーダン、スリランカ、スーダン、スリナム、タイ、トーゴ、トリニダードトバゴ、チュニジア、ウガンダ、アラブ首長国連邦、タンザニア、バヌアツ、イエメン

参考:ロシアの人権理事会からの追放決議案に賛成、反対、棄権のいずれでもなかった18ヵ国

アフガニスタン、アルメニア、アゼルバイジャン、ベニン、ブルキナファソ、ジブチ、赤道ギニア、ギニア、レバノン、モーリタニア、モロッコ、ルワンダ、サントメプリンシペ、ソロモン諸島、ソマリア、トルクメニスタン、ベネズエラ、ザンビア

(【出所】国連ウェブサイト)

とくに中国、インドという「2大国」が頑なにロシア制裁に参加していないこと、G20参加国やASEAN諸国にも反対・棄権した国が多く存在していることを踏まえるならば、現在、国際社会が「ウクライナ支援」、「反ロシア」で一致しているのかといえば、そうとも限らないのです。

ちなみにG20で決議に賛成した国は、EUを除く19ヵ国のうち11ヵ国であり、明示的に反対に回ったのは中露2ヵ国でしたが、棄権した国が6ヵ国(ブラジル、インド、インドネシア、メキシコ、南アフリカ、サウジアラビア)にも達していたのです。

G20の賛否状況
  • 賛成…11ヵ国(G7諸国+アルゼンチン、豪州、韓国、トルコ)
  • 反対…2ヵ国(中国、ロシア)
  • 棄権…6ヵ国(ブラジル、インド、インドネシア、メキシコ、南アフリカ、サウジアラビア)

(【出所】著者作成)

G20は基本的価値を共有していない!

そもそも論ですが、G7諸国については自由、民主主義、法の支配、人権尊重などの「基本的価値」を共有している国々ですが、それ以外の国に関しては、豪州を除けば、いずれもこれらの基本的価値を共有しているかどうかが怪しい国ばかりです。

日本が旗振り役を務める「クアッド」(日米豪印)にしたって、クアッドを構成しているインドはロシアに対する国連総会での非難決議にも対ロシア制裁にも同調していませんし、そもそもインドが中国、ロシアと並ぶ「上海条約機構(SCO)」の加盟国であるという事実を忘れてはなりません。

もっとも、インドや南アフリカがロシア寄りであることは懸念されますが、少なくとも私たちG7諸国とあまりにも価値観が異なり過ぎる国(とくに中国、ロシア)と比べれば、多少は我々と近い価値観を持っていることは間違いありません。

このように考えていくと、個人的にはG7が豪州、インド、南アフリカの4ヵ国・地域を加えた「G10」ないしこれにEUを加えた「G11」を結成したうえで、G20から脱退してしまうほうがやりやすいのではないか、という気がしている次第です(※もちろん、ここには多国間の利害も絡んできますが…)。

シルアノフ財相は出席を強行:これに英米はボイコットで対応か?

ところで、これに関して『G7に豪州・インド・南アフリカでG10結成しては?』では、米国のジャネット・イエレン財務長官が「ロシアが参加するなら米国はG20財相・中銀総裁会合には参加しない」と述べたとする話題を取り上げました。

これに続報があったようです。予想どおりというべきでしょうか、ロシアはG20会合に参加するそうです。

Finance minister Siluanov to head Russia’s delegation at G20 meeting

―――2022/04/20 21:24付 タス通信英語版より

ロシアの『タス通信』(英語版)の報道によると、ロシア財務省は火曜日、アントン・シルアノフ財相が20日にワシントンで行われるG20財相会合にオンラインで参加すると発表したそうです。

結局のところ、G7と異なり、G20に関しては、ロシアに対する制裁に後ろ向きな国々(中国、インドなど)が含まれているという事情もあり、G20からロシアを追放することは困難なのでしょう。

これに対し、ロイターの報道では、もしもロシアの財相が会合に参加するなら、イエレン財務長官に加え、リシ・スナク英財務相もロシアが出席する会合をボイコットする方針である、などと伝えています。

ロシア、G20財務相会合に出席へ 西側諸国はボイコットの構え

―――2022年4月20日3:05付 ロイターより

そうなれば、G20はその「存在意義」のひとつである財相・中銀総裁会合において、最も重要な参加国である米国や英国がボイコットすることにつながりますし、結果的にはG20の形骸化が勝手に進んでいくことになりそうです。

(ただし、ロイター記事では「西側諸国がボイコット」とするタイトルと異なり、本文中には「西側諸国がボイコット」という文言は確認できません。)

いずれにせよ、ウクライナ侵攻後の世界新秩序再編の動きは始まっているのかもしれません。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 引きこもり中年 より:

    独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
    (そう自分に言い聞かせないと、素人が舞い上がってしまうので)
    結局のところ、今回のG20は、「原油高を含めた世界的インフレ懸念にどう対応するか」か、「自国が他国から攻められた場合、その攻めた国に、世界は一致して経済制裁をすべきか」のどちらがメインテーマになるかで、性格が決まるのではないでしょうか。
    駄文にて失礼しました。

  2. JJ朝日 より:

    「G20は基本的価値を共有していない」し、それは「G20」を「国連」に置き換えても同じ感じですね。

    日本が以前のように国連の常任理事国に復帰することは永遠にできないでしょう。先の大戦の戦勝国レジームから抜け出すには、そろそろならずもの国家を追い出せないしくみから、まともな国々が抜けて、新しい組織を作るしかないのでは?そうすればROKなど、民主主義や法治国家としても怪しい国も淘汰されていくのでは・・。

  3. 世相マンボウ 。 より:

    まあ、
    社会には色んな人がいて
    犯罪に手を染め徒党を組む人もいるように
    国においてもそんな国があるのは
    ある意味しかたがないものではあります。
    問題なのはそれを正しく
    認識峻別することが
    人類の未来にとって重要です。

    日本以外の他の国はとりあえずおいておくとして
    この平和で
    多数派国民良識層が支える日本において
    自分たちの思い上がりの主張が
    世間には認めてはもらえないからといって
    ならず者国家と手を結ぶことを
    『友愛』と称してしまっている
    支持者が呼んだところの
    ミスター民主党御大将鳩ぽっぽ さん
    とかの輩には
    本人とその支持者たちの
    日頃の呆れた生きザマ含め
    厳しい目を向けてあげることが
    必要になっていると感じます。

    1. 道草 より:

      同感です。

      中華思想や朝鮮半島的思考行動回路にハマってしまった方々には、「身内にもそれ以外にも同じ基準での評価判断を下す」という文明人として当然なる最低限の考え方さえ出来ないようです。

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