ロシア国鉄のCDSが発動:ソブリン債もCE申し立て
予想どおり、ロシア政府に対するCDSのCEがDCに対して申し立てられたようです。もしもロシア政府が公式にデフォルト認定されたとしたら、西側諸国の金融制裁もあらたな局面に達したといえます。おりしも現地時間月曜日には、同じくDCがロシア国鉄のスイスフラン建ての債務についても、CEのひとつである「支払不能」の認定を下したそうです。
CDSとは?
クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)と呼ばれる金融商品があります。
これは、ある「参照組織」に「クレジット・イベント(CE)」が発生した場合に、プロテクションの売り手がプロテクションの買い手に対して一定の金銭を支払う、という契約のことで、一般にデリバティブ(金融派生商品)の一種とされています。
詳しくは以前の『ロシアがドル債をルーブル償還ならCDSはどうなる?』などでも触れたとおりですが、これを簡単に振り返っておきましょう。
CDSとは
プロテクションの買い手(プロテクション保有者)がプロテクションの売り手(プロテクション提供者)にプロテクション料(プレミアム)を支払うことで、参照組織に信用事由(クレジット・イベント、CE)が発生した場合に、売り手が買い手にに対し、清算価格を支払う契約のこと。
CDSの3つの信用事由(3CE)(事業会社の場合)
- 破産(Bankruptcy)
- 支払不能(Failure to Pay)
- 条件変更(Restructuring)
CEに該当するかどうかを認定する手続
おもにCDSのプロテクション保有者などの申し立てに基づき、国際スワップ・デリバティブ協会(ISDA)がアジア、北米、欧州などの地域別に組織する、銀行や金融商品取引業者などから構成される決定委員会(デターミネーション・コミッティ、DC)を通じてCEに該当したかどうかを判定する
清算価格の決定
清算価格はオークションで決定された参照組織の「引渡債務」の金額を控除して決定されることが一般的
CDSと保険や保証との違い
この点、CDSは「保証や保険のようなものだ」、などといわれることがあります。
たとえばロシア国債を保有している人が、ロシアのソブリンCDSのプロテクションを購入することで、自身が保有しているロシア国債がデフォルトした場合にはCDSで損害の一部を回復することができる(こともある)からです。
ただ、CDSは保険や保証と異なり、べつにロシア国債を保有していなくても構いません。極端な話、「プロテクション」だけを買っておいて、ロシアがデフォルトしたときに利益を得る、といった投資行動も可能なのです(実際、
CDS市場では、さまざまな業者が活発に取引を行っていることが一般的です)。
なお、CDSに関して議論し始めると、ほかにもヘッジ会計との関連性や銀行自己資本比率上の信用リスク削減手法との関連性、CVAなど、論点は山ほどあるのですが(そしてそれらについてはウェブ主自身の本業とも少し関わっているのですが)、このあたりについては当ウェブサイトでは触れません。
※もしも「業務上の必要性からこれらについて調べる必要がある」という方には相談に応じますので、当ウェブサイトのコンタクト先メールアドレス(info@shinjukuacc.com)までご連絡ください。
ロシアの自国通貨建てでの債務支払
さて、ロシア政府が4月4日に支払期限が到来したドル建てユーロ債の元利金を自国通貨であるルーブルで支払った、とする話題については、『ロシア政府がドル建て債券の元利金をルーブルで支払い』でも取り上げました。
また、これに伴い格付業者がロシアの外貨建ての長期債務格付を「CC」から「選択的デフォルト(SD)」に引き下げた、とする話題については、『S&Pがロシアの外貨建信用格付を「SD」に引き下げ』でも触れたとおりです。
これについて当ウェブサイトでは、「ドル建ての債務はあくまでもドルで支払わなければならないはずであり、ルーブルで支払ったとしても『債務を履行した』ことにはならない」、「クレジット・イベントのうちの支払不能や条件変更に該当する可能性が高い」、と申し上げました。
DCに申し立て
その「続報」でしょうか、日本時間の本日未明、ロイターにはこんな記事が掲載されていました。
Credit determinations committee is asked question on Russia potential failure to pay
―――2022/04/12 3:03 GMT+9付 ロイターより
ロイターによると、ロシアの外貨建ての債券に信用事由のひとつである「支払不能」、つまり “failure to pay” が発生したのではないかとの申立てがDCに対して行われた、というものです。
当ウェブサイトでも申し上げたとおり、ロイターによれば、この手続は今後、市場参加者で組織されるDCが決定するとされており、DCが「CEに該当した」と決定を下した場合には清算が行われる、と記載されています。
また、JPモルガンは月曜日、市場ではロシアのソブリンCDSの想定元本が34.3億ドル相当存在しており、そのうち24.8億ドル相当が「シングルネーム」(ロシアの単独債務)、残りが「CDSのインデックスに組み込まれている部分」である、などと明らかにしたとしています。
ロシア国鉄についても「支払不能」認定
これに加えて「ロシア関連のCDS」という点では、もうひとつの話題も出ています。
Credit committee asked about Russia gov’t bonds after railways ruling
―――2022/04/12 3:56付 ロイターより
同じくロイターによると、DCは月曜日、ロシア国鉄についてもCDS上のCEのひとつである「支払不能(failure to pay)」に該当したとする判定を下したそうです。ロシアによるウクライナ侵攻以降、ロシア関連企業の債務のなかで公式にCE認定されたのは初めての事例です。
ちなみに、CEに抵触したのはロシア国鉄が借り手となっている、2026年に弁済期限を迎える2.5億スイスフランの融資だそうです。また、IHSマークイットによると、ロシア国鉄関連のCDS銘柄は17契約、2110万ドル相当存在している、などとしています。
いずれにせよ、今後、ロシア関連銘柄を巡るCDSのトリガーが続々と発動されていく可能性は高そうですが、ただ、それによってこれ以上、ロシアが具体的な不利益を受けるかについては微妙です。
ロシアはすでに、西側諸国などの国際的な金融市場において新規債券発行を禁止されるという措置を受けていますので、「CDSのCEに該当したこと」をもって新たな不利益が生じるというよりも、「西側の金融制裁の結果として、CDSのCEに該当した」と述べた方が正確ではないかと思います。
なにより、ロシア自身がすでに「踏み倒し宣言」(『ロシア「非友好国リスト」は金融制裁が効いている証拠』等参照)を行っていますので、ロシアが今後、本気で「内に籠る」つもりならば、国際的な債券市場から締め出されたところで、どうってことはないのかもしれません。
その意味では、やはり、ロシアに対する制裁は、経済・金融面に限らず、今後はウクライナに対する軍事的な支援にも力点を置いていくべきなのかもしれない、と思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
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「無い袖は振れない!」はある意味最強ですねw
開き直られるとどうしようもないです。
そういえば、お隣の国も「貸した方が頭を下げて返してもらわなければならない」らしいから、ロシアと気が合いそうです。
キリトリの帝王 が必要とされるトキかもしれませんね
バブル崩壊の時も
「借金が巨額になると、借り手の方が貸し手より立場が強くなる」現象が見られたはず