「ロシア非難」で一枚岩になったとはいえない国際社会

国連総会が賛成多数でロシアを国連人権理事会から追放

「我が代表、堂々退場す」。国連総会は賛成多数で、ロシアの国連人権理事会への参加資格を停止する決議案を採択しました。これを受けてロシアのゲンナジー・クズミン国連次席大使は、「ロシアはすでに人権理事会を任期途中で去ることを決定している」と発言したそうです。ただ、報道を眺めていて少し気になるのは、本当に「国際社会の圧倒的多数」がロシア非難に傾いているのか、という点です。

国連総会、ロシアの人権理事国資格停止を賛成多数で採択

国際連合総会は現地時間の7日、国連人権理事会でのロシアの理事国資格を停止する決議案を、93ヵ国の賛同を得て採択しました(反対票は24ヵ国)。

これに関しては、すでにわが国を含めた多くのメディアが大々的に報じているので、ご存じの方も多いと思いますし、メディアのなかには「国際社会が一致団結してプーチン(氏)を糾弾している」、といった論調で報じているケースもあります。

実際、賛成は国連総会での有効票の3分の2を大きく超えたため、「賛成多数で採択された」ことは間違いありません。

ただ、3月初旬の国連総会では、ロシアに対しウクライナからの無条件撤退を要求する決議が、141ヵ国という賛同で可決されていたこと(『国連総会、ロシアにウクライナからの無条件撤退を要求』等参照)と比べると、賛成票自体は大きく減少しています。

もちろん、3月初旬の決議案は「ロシアにウクライナからの無条件撤退を求める」というものであり、今回の人権理事国資格停止という話とはまた次元が異なっていますので、この点については考慮する必要はあるかもしれません。

しかし、今回の決議案で反対した国、棄権した国などの詳細を眺めていくと、必ずしも「国際社会がロシア非難で一致団結している」と言い切れるのかは微妙です。

どの国が反対/棄権したのか

まずは、事実関係です。

国連のウェブサイトに記載されている内容、あるいは国連「UN_News_Centre」のツイッター・アカウントのツイートをベースに、賛成した国、反対した国、棄権した国などについて確認してみたいと思います。

UN General Assembly votes to suspend Russia from the Human Rights Council

―――2022/04/07付 国際連合HPより

国連ウェブサイトによると、今回の決議は「重大かつ体系的な人権侵害を犯した国」の資格を「総会決議で停止することができる」とする2006年の国連人権理事会の設立決議に基づくもので、今回のロシア以外にも2011年、カダフィ(※故人)の弾圧行為に基づき2011年に追放されたリビアの事例がある、としています。

ここで確認しておきたいのは、賛成、反対、棄権の数値とその具体的な国名です。

国連ウェブサイトによると、賛成、反対、棄権の総数は175ヵ国で、内訳は賛成が93ヵ国、反対が24ヵ国、棄権が58ヵ国でした。賛成、反対、棄権を合算しても175ヵ国に留まり、本来の国連加盟国数である193ヵ国に18ヵ国足りませんが、この18ヵ国は賛成、反対、棄権のいずれでもない国です。

決議案の賛否状況
  • 賛成…93ヵ国
  • 反対…24ヵ国
  • 棄権…58ヵ国
  • その他…18ヵ国

次に、反対した24ヵ国、棄権した58ヵ国、その他の18ヵ国は、次のとおりです。

反対した24ヵ国

アルジェリア、ベラルーシ、ボリビア、ブルンジ、中央アフリカ、中国、コンゴ、キューバ、北朝鮮、エリトリア、エチオピア、ガボン、イラン、カザフスタン、キルギスタン、ラオス、マリ、ニカラグア、ロシア、シリア、タジキスタン、ウズベキスタン、ベトナム、ジンバブエ

棄権した58ヵ国

アンゴラ、バーレーン、バングラデシュ、バルバドス、ベリーズ、ブータン、ボツワナ、ブラジル、ブルネイ、カーボベルデ、カンボジア、カメルーン、エジプト、エルサルバドル、エスワティニ、ガンビア、ガーナ、ギニアビサウ、ガイアナ、インド、インドネシア、イラク、ヨルダン、ケニア、クウェート、レソト、マダガスカル、マレーシア、モルジブ、メキシコ、モンゴル、モザンビーク、ナミビア、ネパール、ニジェール、ナイジェリア、オマーン、パキスタン、カタール、セントクリストファーネイビス、セントビンセント及びグレナディーン諸島、サウジアラビア、セネガル、シンガポール、南アフリカ、南スーダン、スリランカ、スーダン、スリナム、タイ、トーゴ、トリニダードトバゴ、チュニジア、ウガンダ、アラブ首長国連邦、タンザニア、バヌアツ、イエメン

賛成、反対、棄権のいずれでもない18ヵ国

アフガニスタン、アルメニア、アゼルバイジャン、ベニン、ブルキナファソ、ジブチ、赤道ギニア、ギニア、レバノン、モーリタニア、モロッコ、ルワンダ、サントメプリンシペ、ソロモン諸島、ソマリア、トルクメニスタン、ベネズエラ、ザンビア

なお、上記以外の国連加盟国については、すべて決議案に賛成しました。

G7、EUはロシア非難で一致しているが…

次に見ていきたいのが、その内訳です。

まず、G7諸国(日米英仏独伊加)についてはすべてが決議案に賛成していますし、欧州連合(EU)に加盟している27ヵ国についても、やはりすべて、決議案に賛成しています。ただ、G20諸国に視野を広げていくと、反対した国や棄権した国がいくつか出て来ます。

とくにG20参加国のうち、欧州連合(EU)を除く19ヵ国に関しては、賛成が11ヵ国、反対が2ヵ国、棄権が6ヵ国でした。

G20の賛否状況
  • 賛成…日本、米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、アルゼンチン、豪州、韓国、トルコ
  • 反対…中国、ロシア
  • 棄権…ブラジル、インド、インドネシア、メキシコ、南アフリカ、サウジアラビア

この点、3月初旬の決議案と異なる点があるとすれば、中国が明示的に反対に回ったことでしょう。また、反対と棄権をあわせれば8ヵ国で、少なくともG20に関しては「圧倒的多数が賛成している状況」とは言い切れません。

さらには、ASEAN加盟10ヵ国に関しても、賛成は2ヵ国に留まり、反対が2ヵ国、棄権が6ヵ国に達しています。

ASEANの賛否状況
  • 賛成…フィリピン、ミャンマー
  • 反対…ベトナム、ラオス
  • 棄権…インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、ブルネイ、マレーシア

個人的にはミャンマーが賛成に回ったことはやや意外でしたが、それと同時に、タイ、マレーシア、インドネシア、シンガポールなどのASEAN主要国が棄権をしたという事実については、注目しておく必要があるかもしれません。

いずれにせよ、G20という組織が、我々の国・日本が所属するG7と比べても、やや異質な国々の集合体であるということ、そしてASEAN諸国も必ずしもロシア非難で一致したわけではないことについては、少し冷静に見ておく必要があることは間違いないでしょう。

ロシア代表「堂々退場す」

なお、決議案の採択後、ロシアのゲンナジー・クズミン国連次席大使は突然、「ロシアはすでに人権理事会を任期途中で去ることを決定している」としたうえで、国連が「短期的な目的のためにそれを利用する国々によって占められている」と主張したそうです。

何だか、今から88年前の「我が代表、堂々退場す」を思い出してしまいます。

また、中国は今回の決議案について、「火に燃料を追加するようなもの」、「分裂を助長し、紛争を激化させ、和平努力を危うくするものだ」と批判。これに対しEUは「国連が今日下したまれな決定は、説明責任に関する強いシグナルを送り、人権侵害の防止に役立つことを願う」とコメントしたそうです。

そのうえで米国は「今日、国際社会は正しい方向へ一歩踏み出した」、「私たちは、永続的で悪質な人権侵害者が国連で人権の指導的立場を占めることが許されないことを確認した」と指摘。改めてロシアに対する非難声明を出した、としています。

いずれにせよ、国際社会がこれからロシアにどう対処していくのかを巡っては、注目しておく必要があることは間違いないでしょう。

読者コメント一覧

  1. くろだい より:

    更新ありがとうございました。

    中東の産油国が反対か棄権という、日本は難しい局面を迎えましたね…

    あと、西側としては過去にない厳しい経済制裁に踏み切ったのですが、以下の記事のように、中国、ロシア、インドの連携で致命傷とならない体制ができれば、中国を後押しする結果になりそうです。

    (ロシア外相の訪中訪印と習近平が狙う新経済ブロック)
    https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20220402-00289590

  2. 引きこもり中年 より:

    独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
    (そう自分に言い聞かせないと、素人が舞い上がってしまうので)
    世界には、遠い国の人権よりも、(小麦不足で)明日のパンに関心がある国が、いるということでしょうか。
    駄文にて失礼しました。

  3. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

    賛成、反対、棄権いずれもないというのは
    どういうこと?

  4. 205eleven より:

    こういう意見もあります。
    なるほどねと。

    フジ解説委員・風間晋氏 国連人権理からロシア追放に「非難決議よりも厳しい投票態度の国が増えている」
    https://news.yahoo.co.jp/articles/d24f171ad6ae2f42952d2b2836ae7268ad88d973

    1. 匿名 より:

      「ロシアが投票の前に棄権も含めて非友好的な意思表示とみなすという警告を出しているんですね。つまり反対に投票しない限りお前らは敵だという趣旨の脅しをかけたわけですよ」

      あぁ、なるほど。
       賛成(93) VS 反対+棄権+他(100)
      と当初は考えていたのですが、
       賛成+棄権+他(169) VS 反対(24)
      ということなんでしょうかねー
      んー。

  5. ホワイト国 より:

     テレビ番組で、ロシアはエネルギーだけでなく、食料を武器に世界を脅かしていると
    話していました。

     ロシアとウクライナは、世界有数の食料の輸出国です。
    小麦ですと、ロシアの輸出シェアは、世界の21%、ウクライナが世界の9%と、合わせて
    30%あります。ちなみに、米国は14%です。さらに、ロシアは意図的に、ウクライナの
    大型小麦貯蔵施設を軍事施設でもないのにミサイル攻撃を続けておりウクライナの小麦の
    輸出能力を奪っています。

     そして、プーチン大統領は、テレビ報道で、今後、ロシアの食糧輸出の相手国として、
    非友好国には慎重に対応すると脅かしています。

     ロシアやウクライナからの小麦の輸入に頼っている国は、エジプトやシリアやイエメン
    など、中東やアフリカなどの貧しい国に偏っています。ロシアやウクライナの小麦は
    米国やカナダの小麦と比べると、品質が悪く、安価であることから、アフリカなどの
    貧しい国に重宝されています。
     ロシアは、食料輸出を武器にアフリカや中東などの貧しい国を抱き込んで、西欧に
    対抗するつもりなのだと思われます。

  6. ダージリン より:

    個人的には、中国が台湾に侵攻した場合を仮定してしまいます。中国はひどい事をしながら、台湾を救った、台湾人を解放した、とか言うのではないでしょうか。で、国連で、投票が行われる。投票の結果、同じような感じか、より一層中国に有利な状況が生ずるのでは、と推測します。いわゆる西側の自由陣営諸国も、中露陣営の切り崩しに対し、あらかじめきちんとした対策をとっておく必要があるのではと思っています。

  7. 匿名 より:

    ミャンマーの国連大使は信任委員会が結論を先送りしたためクーデター以前の大使のままですから、不思議では無いと思います。

  8. 匿名 より:

    棄権した国にクァッドのインドが入ってますね。
    知的好奇心が高まります。お隣りのクニモドキすら賛成してるのに。

  9. ぶるーずおやぢ より:

    まあ、そんなもんでしょ。賛成した国だって、(欧米列強が)怖いからとりあえず賛成しといた、って国もあるだろうし、実質半々という印象。欧米列強が歴史的にどれほどの非道をしてきたか、ここ50年の間にアメリカが何をしてきたかを見れば、賛成した国だって内心は、なんだかな〜、と思ってる国もあるだろう。とは言え、日本はアメリカと共に進むしかないワケで、国際政治はきれいごとでは済まない。もちろんオレだって、ロシアが悪いと思う人は手を挙げて、と言われたら手を挙げるよ。怖いから。

    1. 匿名 より:

      そりゃそうですよ~。

      問われているのは、
      「アメリカというジャイアン、中国(+ロシア)というジャイアン、どちらのジャイアンと遊びますか。かならず一人選ばないといけませんよ、のび太くん」
      ですしね。

      ちなみに私はノータイムでアメリカジャイアンを選びます。
      アメリカもジャイアンなんですが、中国ジャイアンと比較すると圧倒的に良いです。

  10. 匿名 より:

    オヤジさんありがとうございます。
    私も多分手を挙げますよビビリーだから。
    じゃあインドさんはアメリカさんに抑制するように訴えているようにも見えますね。
    クアッドは相互に牽制仕合ってこそ意味があるとここでは言われていたと思いますが

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。