イラン型経済制裁の行く末は「飛行機事故頻発」なのか

資源国でもあるロシアが経済制裁を受けた場合、そこに待っているのは「北朝鮮化」ではなく「イラン化」なのかもしれません。今から1年ほど前、ウェブ評論サイト『ダイヤモンドオンライン』に、経済制裁下のイランを旅行した方の記録が掲載されていました。なんでも、外国人旅行者は豪遊ができるのだそうですが、それと同時に、もう少ししたらイランで飛行機事故が頻発する可能性もありそうです。

ロシアに対する経済・金融制裁の実効性

ウクライナの首都・キーウ近郊のブチャなどでロシア軍がかなり残虐な行為を働いた疑いが濃厚であり、これに関して国際社会があらたな経済制裁を検討している、などとする話題については、今朝の『ロシア「むしろ挑発したのはウクライナの側」と逆ギレ』でも取り上げたとおりです。

この点、「西側諸国の新たな経済制裁」といっても、なかなか限界があることも事実です。

それに『意外としぶとい?ルーブル「紙屑化」の可能性を考える』などでも議論してきたとおり、ロシア自身は資源国でもありますので、西側諸国による経済・金融制裁にも関わらず、「国家破綻状態」にまで追い込まれるかどうかは微妙だからです。

それに、『ロシアは中国とのブロック経済圏形成で制裁を逃れる?』などでも議論してきたとおり、ロシア自身が国連安保理の常任理事国であること、中国やインドなどが対ロシア制裁に同調していないことなどを踏まえると、制裁の穴はいくらでもあります。

砂糖不足はロシアが困っている証拠?

ただ、だからといって、「ロシアに対する経済・金融制裁には意味がない」と早急に決めつけるべきではありません。いくらロシアが資源国だからといっても、石油だけで経済をすべて回していけるというものではないからです。

たとえば、IT化が進む現代社会においては、産業においては大量の半導体が必要ですし、西側諸国から輸入ないし貸与された生産装置、航空機、自動車などについても、それらのメンテナンスができなくなれば、生産活動に支障を来すかもしれません。

また、現時点で経済制裁との直接的な関係があるのかどうかはよくわかりませんが、最近だと、ロシア政府は穀物・砂糖などの物資の禁輸措置を導入したとする話題もありました(『高級品禁輸に踏み切ったEU、そして砂糖不足のロシア』等参照)。

この点、独立行政法人農畜産業推進機構ウェブサイトの『ロシアのてん菜生産と甘味料需給の現状』によると、ロシアは2018年頃に砂糖の純輸出国に転じたそうであり、一般に寒さに強いとされる甜菜も十分に生産されているはずです。

しかし、同時に同ウェブサイトによると、砂糖の原材料のひとつである甜菜については、肝心の種子が欧州から輸入されている、といった事情があります。もしも甜菜の種子が外国から入って来なくなれば、ロシアから砂糖が消える、といった事態も考えられるのです。

このように考えていくと、西側諸国の経済・金融制裁は、ロシア経済を破綻させるまではいかなかったにしても、中・長期的に見れば、広範囲で着実な打撃を与えることは間違いありません。

北朝鮮とイランだと、ロシアは「イラン型」?

こうしたなか、すでに西側諸国からの経済制裁を先行的に受けている国の事例として、すぐに思いつくのは北朝鮮とイランでしょう。

このうち北朝鮮に関しては、『北朝鮮の奇妙な物価安定の理由は「紙幣不足」だった?』を含めて当ウェブサイトでもずいぶんと以前から議論してきたとおり、物価については「奇妙な安定」が見られるものの、経済が実質的にかなり疲弊していることは間違いありません。

北朝鮮にはこれといった資源もなく、主要産業といえば農業と米ドル紙幣印刷業、あとはせいぜい暗号資産窃盗業くらいしかありません。少なくとも天然資源の大国であるロシアと比べれば、事情はずいぶんと異なると考えられます。

このように考えると、ロシア制裁のモデルは、イランではないでしょうか。

イランは産油国ですが、現実に国際社会からの経済制裁を受けており、また、国際的な金融システムから寸断され、国際的なキャッシュカード、クレジットカード、トラベラーズ・チェックのたぐいが使用できないなどの事情もよく似ているからです。

「経済制裁下のイランに行ったら色々すごかった」

ただ、イラン経済が現実にどうなっているのかに関しては、私たち一般人にとっては、直接に知る機会はなかなかありません。

こうしたなか、ウェブ評論サイト『ダイヤモンドオンライン』に1年前、こんな記事が掲載されていました。

イラン、ヤバい。

―――2021.5.21 2:40付 ダイヤモンドオンラインより

記事タイトルでも何となく想像が付きますが、これは、執筆者の方が直接、イランを旅行で訪れたという記録です。

記事の日付は2021年5月21日ですが、この記事の転載元である『note』の該当記事『経済制裁下のイランに行ったら色々すごかった』が2019年2月3日付であるため、この方が実際に訪問した時期も、遅くとも2019年初頭あたりなのだと思います。

この方は、イラン旅行に当たって「大量のドル紙幣」を抱えてイランに降り立ったそうです。

イランではクレジットカードが使えないからだ。アメリカを中心とした各国からの経済制裁の影響で、あらゆる海外のサービスが利用できない。VISAもMastercardも使えないので、現金不足イコール詰みなのである」。

そして、空港の銀行でドル紙幣を両替すると、職員から「広辞苑くらいの厚みの紙幣」が却って来た、というのです。具体的な金額については、この方は当初「920万リアル」だと勘違いしていたところ、現実には「7920万リアル」だった、というのです。

ちなみにイランの中央銀行ウェブサイトに掲載されている公式レートだと、1ドル=42,000リアルですが、空港の銀行では公式レートではなく非公式の実勢レートで両替に応じてくれたそうであり、そのレートが「一桁違っていた」、などとしています。

この方がイランを旅行した時期は明らかではないのですが、「400円だと思っていたケバブは、実際は80円だった」、といった文中の記述から推定して、当時の非公式レートだと1ドル=210,000リアルだったようです(さらに逆算すれば、この方が両替したのは、せいぜい40ドルくらいでしょうか?)。

イランで豪遊する外国人旅行者

そして、イラン国内でドルからリアルへの両替は可能ですが、その逆についてはかなり制限されているという事情もあり、この著者の方は「残り4日間の滞在中にこの札束を使い切ろうとした」というのですが、ここで、こんな記述が出て来ます。

食事は高級レストランで一番のコースを頼む。200円。移動は全て飛行機。1,000円。テヘラン随一の最高級ホテルに泊まる。4,000円。全然あかん。ドルを持ち込んだ外国人観光客にとって、イランの物価は全てが安すぎるのだ」。

これは、外国人旅行者にとっては快適な旅行が楽しめる、という意味でしょうが、逆にいえば、これこそが経済制裁の本質のようなものでしょう(※なお、この方がどうやって現地通貨を使い切ったのかについては、記事の末尾に答えが書いてありますので、ご興味があればぜひ原文を読んでみてください)。

共食い整備の果てにあるもの

さて、コロナ禍で海外旅行がままならないというご時世ではありますが、もし自由に海外に行けるようになったとしても、イランに行けるかどうかといわれれば、そこもまた微妙な気がします。というのも、経済制裁を受けるとどうなるかという点で、興味深い記述がもうひとつあるからです。

イランの半鎖国状態を象徴するエピソードとしては他にも、恐怖の飛行機がある。イランは国土が広いので飛行機はメジャーな移動手段であり、国内便ではボーイング社の機体を利用しているのだが、なんと制裁によって修理部品を輸入できない状況が続いているのだ。今にも剥がれ落ちそうな塗装によく揺れる機体はスリル満点で、アトラクション好きな人は是非試してほしい」。

もちろん、冗談めかしてこのようにおっしゃっているのだとは思いますが、そのうち、本当に事故が起こるかもしれません。

実際、当ウェブサイトの読者コメント欄で「千葉県在住」と名乗るコメント主様からも教えていただきましたが、メヘラーバード国際空港の航空写真を見ると、たくさんの航空機が雑然と置かれている姿を確認することができます。これが事実なら、「共食い整備」のためでしょうか?

 いずれにせよ、イランではもうすぐ飛行機が飛べなくなる日も到来するかもしれません。

もちろん、これが単純に「将来のロシアの姿だ」と決めつけるつもりはありませんが、世界経済が一体化するなかで、ある国がほかの国に対する貿易に制限を加えたらどうなるか、という点では、それなりに参考になるのではないでしょうか。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. sqsq より:

    使えたとしてもクレジットカードは使わない。請求は公定レートのはず。キャッシュなら5倍の使いでがある。

    80年代にミャンマーに入国した時は200ドルの強制両替。もちろん公定レートだ。さらに出納簿のような紙を渡され買い物ごとに記録をとれと言われた。ただしこっちの方は事前に誰もチェックしないという情報を得ていたので無視。

  2. りょうちん より:

    イランと言えばF-14をかなり長期間動かしていたのが、驚きでした。

    ロシアは西側のリースされていた民間機体を接収しましたが、部品は入手できません。
    イランみたいに代用部品を国産品に変えるんでしょうかw。
    ロシア製機体も今や民間機はRR・PW社製エンジンを使っている時代。
    Tu-334なんか、RR社製エンジンとなんとウクライナ製エンジンです。

  3. ちょろんぼ より:

    露が北国かイランか、どちらかのモデルを取るとすれば
    上イランでしょうね。 北国の工業力・イランの工業力より
    露の工業力の方が上なので、「上」を付けてみました。
    但し、露の工業力は軍事用工業力は強いのですが、民間用バージョンが非常に弱く、
    それが難点ですが、どうせ中共の力で西側技術の設計図なんか簡単に
    手が入るでしょうから、時間は掛かりますが大丈夫でしょ。
    中国に進出している企業から取り放題、米国内部はこの頃やっとスパイ問題に
    気がついたみたいですけど、日本に来たら盗み放題、しかも罰則無し。

  4. PASSERBY より:

    資源があっても、部品がなくてはね。軍需品とかも厳しくなるのかな?インドとかへの輸出にも影響ありそう。

    1. りょうちん より:

      今回の戦争でS-300が有用な兵器であることが証明されてしましましたが、輸入できなくなるジレンマw。

      まあ米国がまともな兵器輸出をしないからですけど。

      1. PASSERBY より:

        非同盟のインドが、QUADに入るぐらいだから、追い風ですよね。アメリカにひと肌脱いでほしいですが、過剰な刺激ですかな。アフガニスタンも液状化してますしね。この度の戦争で、本格的に戦争のイメージもかわったように思いますので、兵器の在り方も大きく変わるときなのかもしれません。ロシアに軍事依存していた国にかかわらず、内心穏やかではない国も多いはず。

  5. なんちゃってギター弾き より:

    こんにちは。
    まだエリツィン大統領の頃モスクワに行きました。シェレメーチェヴォ国際空港の敷地内にはもう飛びそうにない航空機が何機も放置されていました。中には明らかに尾翼やエンジンの一部が無い機体もあって、あからさまに共食い整備やっているのかと驚いた記憶があります。当時はツポレフやイリューシンなどの旧ソ連から引き継いだ機体ばかりでしたが、今度はボーイングやエアバスなんでしょうね。

  6. カズ より:

    砂糖不足て、ロシア民の血糖値は下がりそうですね。
    左党不在で、ロシア軍の決闘値も下がればいいのに。

  7. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

    砂糖はテンサイがあるから大丈夫では?
    嗜好品なので、今の使用量の全部は賄えなくても半分くらいあれば何とかなる

    1. 宇津辺 より:

      ロシアの事ですので、主に嗜好食の食材である砂糖よりも、国民のエネルギー元であるウオッカの生産が優先されるのではと考えております。

      本題からは外れますが、ロシヤ軍部がウクライナでやらかしたと報道された残虐行動のほんの一部分が本当だとしたら、韓国のお得意の「日帝強制占領下の残虐行為(主に彼等の妄想)」という世界に向けてのPRが色あせてしまいますね。

      1. りょうちん より:

        なにがあったのかは存じませんが、まずおちけつとwww。

    2. 宇津辺 より:

      ロシアの事ですので、主に嗜好食の食材である砂糖よりも、国民のエネルギー元であるウオッカの生産が優先されるのではと考えております。

      本題からは外れますが、ロシヤ軍部がウクライナでやらかしたと報道された残虐行動のほんの一部分が本当だとしたら、韓国のお得意の「日帝強制占領下の戦犯行為(主に彼等の妄想)」という世界に向けてのPRが色あせてしまいますね。

    3. 宇津辺 より:

      ロシアの事ですので、主に嗜好食の食材である砂糖よりも、国民のエネルギー元であるウオッカの生産が優先されるのではと考えております。

      本題からは外れますが、ロシヤ軍部がウクライナでやらかしたと報道された残虐行動のほんの一部分が本当だとしたら、韓国のお得意の「日帝強制占領下の戦犯行為」という世界に向けてのPRが色あせてしまいますね。

    4. 宇津辺 より:

      ロシアの事ですので、主に嗜好食の食材である砂糖よりも、国民のエネルギー元であるウオッカの生産が優先されるのではと考えております。

      本題からは外れますが、ロシヤ軍部がウクライナでやらかしたと報道された残虐行動のほんの一部分が本当だとしたら、隣国のお得意の「日帝占領下の極道行為」という世界に向けてのPRが色あせてしまいますね。

    5. 宇津辺 より:

      ロシアの事ですので、主に嗜好食の食材である砂糖よりも、国民のエネルギー元であるウオッカの生産が優先されるのではと考えております。

    6. 宇津辺 より:

      主に嗜好食の食材である砂糖よりも、国民のエネルギー元であるウオッカの生産が優先されるのではと考えております。

    7. 宇津辺 より:

      主に嗜好食の食材である砂糖よりも、国民のエネルギー元であるウオッカの生産が優先されるのでは?

    8. 宇津辺 より:

      主に嗜好食の食材である砂糖よりも、国民のエネルギー元であるVodkaの生産が優先されるのでは?

    9. 宇津辺 より:

      本題からは外れますが、ロシヤ軍部がウクライナでやらかしたと報道された残虐行動のほんの一部分が本当だとしたら、隣国のお得意の「日帝占領下の極道行為」という世界に向けてのPRが色あせてしまいますね。

  8. だいごろう より:

    ロシアは図体だけはでかいもののその本質はレンティア国家と言うことですね。
    民主主義国家の発展は個々人の能力を自由に競わせることが原動力ですが、レンティア国家は地下資源の利権を押さえることが唯一の勝ち筋になってしまうので、能力ではなく暴力が幅をきかせる独裁国家になり易いのでしょう。

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