X

ガスのルーブル決済大統領令、さながら「経済戦争」に

「非友好国」への天然ガス輸出に伴うルーブル払いを義務付ける大統領令に、ロシアのウラジミル・プーチン大統領が署名しました。これに対し、欧州諸国などはこうした大統領令が「契約違反だ」などとして受け入れないとする姿勢を示していますが、ロシア産のガスの供給が止まれば欧州にエネルギー危機が到来するかもしれません。まさに、ウクライナ戦争は「経済戦争」の様相を呈してきたようです。

天然ガスのルーブル決済

ロシアのウクライナ侵攻に伴い、西側諸国はロシアに対し、外貨準備の凍結や起債制限、半導体輸出規制を含め、かなり厳格な制裁措置を相次いで講じています。これらの措置が、ロシアの戦争遂行能力を大きく制限し始めていることは間違いありません。

ただし、『意外としぶとい?ルーブル「紙屑化」の可能性を考える』などでも議論してきたとおり、ロシア自身が資源国でもあるという事情もあり、これらの金融制裁だけでロシアを「国家破綻状態」にまで追い込まれるかどうかは微妙だ、というのが当ウェブサイトでこれまで指摘してきた内容でもあります。

北朝鮮を道連れでどうぞルーブルが、意外としぶといです。もちろん、国際社会が対露制裁をさらに強化すれば、ルーブルがさらに下落することはあるかもしれませんが、だからとって「紙屑化」するのかどうかに関しては、非常に気になるテーマです。ロシアは内に籠ることができる国でもありますし、北朝鮮のように長年にわたる経済制裁にしぶとく耐えているという事例もあるからです。金融制裁・現時点までの効果金融制裁発表から1週間ロシアがウクライナに軍事侵攻したことを受け、国際社会がロシアに対する厳格な金融制裁を発表してか...
意外としぶとい?ルーブル「紙屑化」の可能性を考える - 新宿会計士の政治経済評論

とくに欧州に対する大きな武器は、天然ガスでしょう。先日の『ロシアが非友好国に対し天然ガスのルーブル決済を導入』では、ロシアのウラジミル・プーチン大統領が「非友好国に対し、天然ガスをドルやユーロではなくルーブルで決済する」、などとする方針を示したとする話題を取り上げました。

プーチン大統領は「非友好国」に対し、天然ガスをルーブルでしか売らない、と宣言したようです。この宣言を受け、外為市場ではルーブルが米ドルに対し、久しぶりに100ドルを割り込む通貨高となっているようです。もっとも、ロシアは石油・天然ガスなどの資源輸出に依存した「モノカルチャー国家」でもありますので、マクドを「イワンおじさん」に変更したところで、ロシア国民の不満を吸収し切れるとも限りません。ロシアは資源国:いざとなれば「内に籠る」ロシアは現在、西側諸国からの経済・金融制裁を受けています。その具体的な内...
ロシアが非友好国に対し天然ガスのルーブル決済を導入 - 新宿会計士の政治経済評論

ロシアにとっては、金融制裁に伴い外貨準備が凍結されたことで、自国通貨・ルーブルを買い支えることができませんが、天然ガスのルーブル決済を導入すれば、そのこと自体がルーブルの下落を防ぐことにつながります。

なぜなら、西側諸国がロシアからガスを購入するために、ハード・カレンシーをルーブルと両替しなければならなくなるからです。あるいは、西側諸国から見れば、これは金融制裁を逃れる動きでもあります。

プーチン「ルーブル払い拒否を契約違反とみなす」

これに続報が出て来ました。ロシアの『タス通信』(英語版)によると、ウラジミル・プーチン大統領が「非友好国に対するガスのルーブル建てでの支払」を規定する大統領令に署名したのだそうです。

Russia will view refusal of paying for gas in rubles as breach of contract — Putin

―――2022/03/31 23:47付 タス通信より

そのうえで、プーチン氏は「ルーブル決済の拒否については、それを契約違反とみなす」、などと述べたのだとか。該当する記述は次のとおりです。

“If such [ruble] payments are not made, we will consider this to be the buyers’ failure to perform commitments with all ensuing implications.”

もちろん、この大統領令は、西側諸国でもかなり大きく取り上げられており、ロイターの次の記事によれば、欧州諸国はガスのルーブル決済を受け入れない方針だとしています。

Putin tells Europe: Pay in roubles or we’ll cut off your gas

―――2022/04/01 5:03 GMT+9付 ロイターより

西側諸国がロシアに対する金融制裁に踏み切った目的のひとつは、ロシアからハード・カレンシーを取り上げて戦争遂行能力を奪うことにあったはずであり、もしも天然ガスのルーブル決済を容認すれば、こうした制裁はかなり弱体化されます。

欧州エネルギー危機への波及か、ロシア解体か

西側諸国にとって、ルーブル決済は絶対に受け入れられない選択肢でしょう。

しかし、欧州にとっての悩みもあります。ロシアが本気でルーブル決済を主張し、ロシア産天然ガスの供給が完全に停止するような事態でも生じれば、欧州にエネルギー危機が訪れる可能性もあります。一般に天然ガスの需要が増えるとされる冬季が終わりつつあるとはいえ、いきなりガス供給が止まるのは困りものでしょう。

このように考えていくならば、ウクライナ戦争はすでに欧州を含めた世界中を巻き込む「経済戦争」の様相を呈してきたとも言えます。

あるいは、次の冬季が到来するまでに、『国際社会はそろそろ「ロシア解体」を議論し始めるべき』でも議論した「ロシア連邦共和国」自体の解体を視野に入れた新国際秩序の構築が具体化するのかどうか、といった視点も重要なのかもしれない、と思う次第です。

そろそろ「戦後処理」を議論しても良い局面かもしれません。国際法を無視し、武力で外国を侵略するような無法国家を、国連常任理事国の地位に留めておいてよいはずはありませんし、そのような国が核、生物・化学兵器といった大量破壊兵器を所持しているという状態は解消しなければなりません。その方法論には依然課題は多いとはいえ、ここらで「ロシア連邦解体」についても考えておくことは有益でしょう。G20追放論ロシアのG20追放にバイデン氏が言及当ウェブサイトでは以前から、ロシアがG20から追放されるという可能性や、...
国際社会はそろそろ「ロシア解体」を議論し始めるべき - 新宿会計士の政治経済評論
新宿会計士:

View Comments (6)

  • この話は、昨日流れたこのニュースが気になっています。

    プーチン大統領 ドイツ・イタリアの首相と電話会談
    https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220331/k10013560431000.html
    ドイツ政府の報道官の声明では、プーチン大統領は4月からルーブルで支払いを求めるものの、ヨーロッパの契約者は、これまでと変わらずユーロで支払い、ロシアの銀行に送金されたあと、ロシア側でルーブルに両替されると説明したということです。

    ということで、国内向けに拳を振り上げる姿勢と、実際やるかどうかは違うのかも知れません。
    国債の利払と償還を外貨建で続けているのと同じに見えます。
    ただ、このニュースは実務ではなく独露・独伊の首脳会談で出ちゃったと報じられてしまったので、拳の納どころがなくなったような気もしますが。

    もう一つは、非友好国の分断のために、ルーブル払いを求める求めないを使い分けるとか。
    日本には「ルーブルで払え」と言ってみたり。
    気になってます。

    • 今気づいたんですが、これって、天然ガスの輸出代金の外貨を、輸出企業に渡さずにロシア政府がせしめる施策ですかね。

      • 元ジェネラリスト様

        >輸出企業に渡さずにロシア政府がせしめる施策

        というより、輸出企業が、受け取った外貨を国内に環流させず、国外の秘密口座にでも隠匿しているってことが背景にあって、それを封じるのが目的ということかも知れないですね。

        もう相当に外貨が枯渇してきているってことじゃないでしょうか。

        • そうですね、「せしめる」というより、胎蔵される良貨を強制流通させるために、政府が管理を強化するというほうがあってるかも知れませんね。

  •  欧州はやめれば良いだけですね、ロシアからの天然ガス購入を。
     そのかわり原子力発電所を復活すりゃ良いだけでしょう。
     また、二酸化炭素温暖化という誤魔化し・詐欺をやめ真面目に公害に取り組め。そうすれぱ極めて汚いと評判の欧州の空気が少しは綺麗になる。

    • × 原子力発電所を復活すりゃ良いだけでしょう。
      ○ 原子力発電所『の発電』を復活すりゃ良いだけでしょう。

       原子力発電所を止めるなどやっていない・できない、日本もドイツも世界中が。
       やめているのは原子力発電所の冷却。
       実際は原子力発電所は稼働している、外部電力、難しい技術そして大金を使って核燃料を冷却している、メルトダウンしないように核爆発しないように。