ロシア30年の歩みを象徴するマクド1号店の長蛇の列
1990年にオープンしたモスクワ・プーシキン広場前のマクドに、再び長蛇の列が発生したようです。ロシアやウクライナ在住のツイッター・ユーザーがツイートした内容を眺めていると、マクド社のロシアでの事業停止は、ロシアの30年の歩みがストップしたことを意味しているように思えてなりません。そして、ロシアのこの30年の歩みは、「友人を失うだけ」だったのではないでしょうか。
目次
西側諸国、企業の対露制裁措置一覧=ロイター
『クレジットカードからマクドまでロシア事業停止相次ぐ』でも取り上げたとおり、ロシアでの事業の中止や撤退などを公表する企業が相次いでいます。
これについて、ロイターに今朝、興味深い特集記事が出ていました。
Tracking sanctions against Russia
―――2022/03/10付 ロイターより
このロイターのリンク先記事は基本的には英語ですが、図表が中心であり、読み解くのはさほど難しくありません。
具体的には、各国(Countries)と企業・組織(Companies and organisations)がロシアに対して打ち出した制裁措置が時系列で並べられており、また、措置の内容、産業分野などが分かりやすく色分けされている、というものです。
たとえば、「企業・組織」の図表でいえば、3月8日にはスターバックス、ヤム・ブランズ(※KFC、ピザハット、タコベルなどの企業)、マクド、シェル、7日にはボーイングやP&G、6日にはKPMGやTikTok、Netflixなどが掲載されています。
これでみるとわかりますが、各国による制裁はエネルギー、資産凍結措置、IT、金融、輸出規制などのさまざまな領域に及んでおり、また、民間団体・組織もファーストフードからIT企業、金融、会計・監査、スポーツ自動車、航空などに及んでいます。
「マクドのミールが350ユーロで転売されている」
いわば、西側諸国の政府・企業・組織などによる対ロシア制裁が、日を追うごとに増えており、今朝の『ウクライナ戦争が長引くこと自体ロシアへの打撃となる』でも指摘したとおり、ロシアは短期決着に失敗したがために、まさに日に日に苦しい立場に追い込まれている格好です。
こうしたなか、ツイッター上では真偽不詳ではあるにせよ、なかなか興味深い内容が投稿されているようです。
最初は、「マクド社がロシアでの事業を停止したと述べたことで、eBayなどのサイトではマクドのミールが350ユーロで転売されている」、「ゼレンスキー大統領もマクドを楽しんでいる」、などとするツイートです。
McDonalds finally decided to suspend operations in Russia today
The queues have already begun & so have RU eBay type sites reselling McD meals for upwards of €350
Meanwhile have some photos of Zelenskyy enjoying a Maccas himself (not recently but yh)
‘I’m lovin it’ pic.twitter.com/5mlbQVdsJV
— Zorya Londonsk (@ZoryaLondonsk) March 8, 2022
eBayをウクライナから検索したらロシアで売られている商品が出てくる、ということでしょうか?1ユーロ=128円と仮定すれば、350ユーロは約4万5000円に相当しますが、それにしても凄いことです。
ただし、プロフィールによると、ツイートしたのはウクライナ・キーウ在住の方だそうですので、このツイートにある「350ユーロで転売されていた」とする説をどこまで信じて良いのかはわかりませんが…。
ソ連自由化の象徴のマクド前に再び長蛇の列
一方で、「ロシア在住のアイルランド人ジャーナリスト」と名乗る方は、プーシキン広場のマクド、つまり1990年に旧ソ連で初めてオープンした象徴的な店舗の前で、1990年以来の長蛇の列が出来上がっている様子を撮影し、ツイッターに投稿しています。
Supersize me ! There’s a long queue forming in Moscow outside the huge and historic #McDonalds on Pushkin Square after the US fastfood giant announced it was closing in Russia. pic.twitter.com/C8mZCzFhpc
— Jason Corcoran (@jason_corcoran) March 8, 2022
これと対照するように、1990年のプーシキン広場店の行列の様子を投稿したツイートもいくつか見られました。
In 1990 I was in the queue when #McDonalds opened its 1st restaurant in #Moscow: when iron curtains were crumbling & Russia was embracing the West. Today McDonald’s announced it is temporarily closing its 850 restaurants in #Russia. Hugely symbolic. #UkraineRussianWar pic.twitter.com/59LZo1IRXS
— 𝙐𝙠𝙧𝙖𝙞𝙣𝙚 𝙒𝙖𝙧 𝙍𝙪𝙨𝙨𝙞𝙖 (@UkraineWarRuss1) March 9, 2022
McDonalds closes restaurants and suspends operations in Russia.
This is footage from when the first ever McDonalds opened in the Soviet Union in 1990 in Moscow.
Queues literally round the block #Russia #McDonalds pic.twitter.com/XJGmy8S1Mn
— Danny Armstrong (@DannyWArmstrong) March 9, 2022
(※なお、ここに引用した画像、動画等については、ツイート主が削除した場合や、著作権などの都合上、ツイッター上で削除された場合には閲覧できなくなりますが、ご了承ください。)
思うに、旧共産圏のソ連にコカ・コーラやマクドが進出したことは、まさにソ連時代の終焉の象徴であるとともに、ロシアの人々にとっては自由化の象徴のようなものだったのではないでしょうか。
NATOとEUの東進
このように考えると、ソ連崩壊以降の30年の歩みが、ロシアにとって成功に満ちたものであったのかどうかに関しては微妙だと感じざるを得ません。この30年、ロシアは多くの「友人」を失ったからです。
なにより、旧共産圏だった東欧諸国、旧ソ連から独立した諸国のうち、たとえばバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)やポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアなどが相次いで欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)に加盟しました(図表)。
図表 旧東欧・旧ソ連構成国のNATO・EU加盟状況
国 | NATO加盟 | EU加盟 |
---|---|---|
ポーランド | 1999年 | 2004年 |
チェコ | 1999年 | 2004年 |
ハンガリー | 1999年 | 2004年 |
エストニア | 2004年 | 2004年 |
ラトビア | 2004年 | 2004年 |
リトアニア | 2004年 | 2004年 |
スロバキア | 2004年 | 2004年 |
スロベニア | 2004年 | 2004年 |
ブルガリア | 2004年 | 2007年 |
ルーマニア | 2004年 | 2007年 |
クロアチア | 2009年 | 2013年 |
アルバニア | 2009年 | ― |
モンテネグロ | 2017年 | ― |
北マケドニア | 2020年 | ― |
(【出所】著者調べ)
これに対し、旧東欧・旧ソ連構成国のなかで「親露」を維持している国は、とくに欧州方面では非常に少ないのが実情でしょう。いわば、ロシアはこの30年間で、旧東欧諸国、旧ソ連諸国をロシア圏に留めておくことに失敗したのです。
実際、これらの国のなかで今月初頭の国連総会でロシアのウクライナからの無条件撤退を求める決議案に反対票を投じたのもベラルーシ1ヵ国だけでした(※ほかの反対国はロシア、北朝鮮、シリア、エリトリア。『国連総会、ロシアにウクライナからの無条件撤退を要求』等参照)。
ロシアには「本当の意味での友人」はいない?
結局のところ、当ウェブサイトで普段から述べているとおり、外交というものも、人間関係の延長で議論することができます。そして、「外交を通じて相手国を変えることはできない」のは当然の話であり、ロシアが武力で周辺国を威圧したところで、相手国が親ロシア諸国に変わる、というものでもありません。
ロシアは旧ソ連が崩壊して以降、見た目こそ民主主義国っぽくなりましたが、その中身は依然として共産主義の負の遺産を引きずっているのかもしれません。だからこそ、この30年間で、どんどんと友人を失っていったのではないでしょうか。
もちろん、中国や北朝鮮、韓国のように、ロシアに友好的な姿勢を示す国は存在するのですが、現在の国際社会に「本当の意味でのロシアの友人」というものが存在するのかは疑問です。
このあたり、ソフトパワーで世界中に友人を持っている日本とは大違いでしょう。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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>ロシアには「本当の意味での友人」はいない?
それは中国も同じですね。今は札束で頬を叩いて無理矢理仲間に取り込んだ国ばかりでしょう。
個人的にはロシア民謡とか中国の古典は好きなのですが、共産化して過去とは断絶され、今のロシア、中国にはろくな文化がありません。
日本は不思議と江戸時代以前の文化が今も生きています。
明治維新の精神からすると武士が国を支配するとか、神道ではなく仏教が事実上の国の宗教だなんて容認しがたいはずですが、今も戦国時代の武将とか大人気ですし、日本各地に寺がたくさんあります。
名前書き忘れました。しきしまです。
そもそもロシアは、というかプーチン氏は「友人」を欲しがっていたのでしょうか?
執権以来、彼は畏れられる指導者であろうとはしてきましたが、愛される指導者などを目指したことなど一度もなかったように見えます。国内に対してはそのような姿勢で臨んできましたが、国外に対しても同様だったように見えます。
であるならば、ロシア(プーチン氏)に対して、友人を失ってきた30年などと言っても何の批判にもなりません。そうなることを望んできたとも言えるからです。
ただし、それが客観的に見て、ロシアにとって良いことであったのかどうかはわかりません。例えば、日本のような「小国」にとっては、「友人」はとても大切なものですが、「大国」にそのまま当てはまるかどうかは少々疑問です。かつて大英帝国は「栄誉ある孤立」と称して、「友人」など持とうとはしませんでした。それができるあたりが「大国」の「大国」たる由縁なのかもしれません。
もっとも、現在のロシアがはたして「大国」であるのかどうか、本人たちがどう思っているかに関わらず、議論の余地が大いにあるとは思いますが。
日本は大国ですよ!
日本と同程度に文字を書ける人種はこの地球に存在しない。
今の日本は信じられないほど豊かな文明国であり世界最先端技術人種の超大国!
ロシアは大国ではない、ロシアは鉱物資源豊富だが民生品が貧しい核兵器大量保有国なだけ。
ロシアはウクライナ侵略で民生品だけでなく軍備も時代遅れの貧弱と世界中にバレてしまった。
自国領内に他国の軍隊が駐屯し、のみならず安全保障の要を委ねているような「大国」など存在しません。様々な観点から見て、日本が多くの国から一目置かれる存在であることは間違いありませんが、けして「大国」などではありませんし、「大国」として振舞う覚悟を持ち合わせてもいません。
日本がけして取るに足らない小国ではないというのは事実であったとしても、「大国」として振舞うことができないのであれば、「小国」としての振る舞いを念頭に置いておく必要があると思います。さもなくば、小国であるにもかかわらず、「大国」然として振舞いたがる、けれども実態が全く伴わないので姿勢だけは「大国」ぶりたがる夜郎自大な某国と同列になってしまいますよ。
ロシアに真の友人が居ないというのは、大国の性なのでしょうね。他国は支配すればいい、友達づきあいの必要がないし意味も解らない。簡単に言えばジャイアンかと。
国の基礎となる住人の本性にさえ、戦時中に現れる敵地の住民を虫けらのように奪い犯し殺しまくるという思考が染みついているように思えます。これは善悪を超えて常に心に留めて付き合って行かなければならないと思います。まあ日本的思考で、仲良くすれば何れ北方領土を返してもらえるとしてきた此までの行いの空しさは感じます。
ジャイアンはよく「心の友」と発言するね
彼は友達欲しい人では?
ソ連崩壊まで、コカ・コーラもマクドナルドもデニムのジーンズもビートルズも含めてロックもラインダンスもモーツァルトすら禁止だったんだよね…
中国も同様で20年以上前頃に割と西側文化にも知見があった上海出身の友人と北京の音大前を歩いていたとき急に彼が立ち止まり
「モーツァルト弾いてる!」
って言った時の事思い出した。
資本主導が始まったばかりの頃、北京の知り合いの家の夕食に招待されるとどの家でもコカ・コーラの2リットルペットボトルが食卓に鎮座していた。
もう人民服の群れはみられない頃だったけど、つい最近のことなんだよね。
旧ソ連は多分もっとそんな感じだったんだろうな…
ふと思い出した、ソ連時代のビートルズへの評価。
「狂気の若者たちが起こした西側社会の頽廃」だそうです。
かつて日本に存在したソ連時代の独裁者の名前を冠したバンドなんぞ、どのような評価をしてもらえたのか、ちょっと気になります。
ビートルズ、ソ連と言えば
日本人傭兵がソ連の衛星国で捕まった後、洗脳されてソ連の士官になる漫画が昔あった
「ビートルズを知っているということは、やっぱり日本人では?」と言われる話
私が学生の頃、神田にメタリカって旧ソ連の地下音楽専門店がありソ連の若者がやってる現地非合法の自作ロック(?)のカセットテープ売ってました。
今のバンド名のメタリカとは関係ありません。
短波放送や鉄条も越しに西側から入手したロックに感化され若者が見よう見まねで「こんなんかなぁ〜」って作った音楽で、何度聴いてもジャズでもロックでもない(特にベースやドラムはリズムラインが鼓笛隊…)んですがソ連流ソウルフルで時々すごく面白いのもありました。
ロシア語聞き取れる友人は歌詞に爆笑(「今日も朝から元気だ、曇り空だけど頑張るぜ〜」みたいな…健全じゃね〜か!…って)してました。
多分、旧ソ連だけでなく中華人民共和国でも北朝鮮でめ韓国でもどの共産国でも、西側と同じく若いもんなんて適度な不満や疑問や疎外感や矛盾や怒り感じながら生きていてエネルギーの発散したくて仕方がないのは共なんだなと。
頼むからそこに大人が、政治・思想・宗教とか紛れこませる工作・利用をするなよと思うんです。
日本じゃしーるず・エネルギー政策・経済主義・相対的貧富の差・子供生活の相対的環境差・学歴社会だの…とか若い層に実データや科学的根拠や未来展望も示さないままキャッチフレーズだけ押し付けて洗脳するなよと。
そりゃ日本の保守でもありますし、外国ではLHBTQや環境問題(嘘も多分に含まれた)とか、極めつけが中国や韓国の根拠皆無の捏造歴史の刷り込み…
そんな事ばっかりやってる大人の無責任さが本当に嫌だし未来に悪弊しかのこさないぞ…と思っている大人越え済み初期高齢者の戯言でございます。
え〜え〜私にも偏見や間違っている事やムカついたりの攻撃性が無いなんて申しません。
ただ、間違えたりいきすぎたら反省して正す精神的・思考的・論理的な柔軟性は失いたくないな…と願っているだけです。
ごめんなさい、マクドナルドの事をマクドと略すのは、どうしても違和感を感じてしまいます。