日米韓3ヵ国連携ではウクライナ情勢には対応できない

ウクライナ情勢を巡る緊張が続き、北朝鮮がミサイル挑発を繰り返すなか、日米韓3ヵ国外相会合が行われます。米国は「日米韓3ヵ国連携」を重視するあまり、日韓関係を巡っても日本が譲歩する形での「改善」を期待しているフシがありますが、そもそも日米韓3ヵ国協力という枠組み自体、米国が期待する形で機能する、というものでもありません。

ウクライナ情勢巡る緊張続く

北京冬季五輪が始まりましたが、ウクライナ情勢を巡っては、緊張が続いています。

こうしたなか、日経新聞は一昨日、「米主要メディアの報道」を引用する形で、ロシアがウクライナに侵攻した場合には最大5万人の民間人が死傷し、100~500万人の難民が発生し、その多くが隣国・ポーランドに向かう公算が大きい、とする分析を伝えています。

ウクライナ国民、ロシア侵攻時に最大5万人死傷 米分析

―――2022年2月6日 19:30付 日本経済新聞電子版より

この点、産経ニュースは5日、「複数の政府関係者が明らかにした内容」として、ロシア軍によるウクライナ侵攻が発生した場合、日本政府もG7と足並みをそろえ、独自の対露制裁についての検討に入った、などと報じています。

〈独自〉日本、対露制裁を検討 ウクライナ侵攻ならG7で協調

―――2022/2/5 23:10付 産経ニュースより

産経によれば、具体的な制裁メニューについては、現在外務省や経済産業省、内閣官房が中心となってリストアップしているのだそうです。ただし、国連安保理はロシアが常任理事国を務めているため、安保理決議に基づく制裁ではなく、「日本独自の制裁」となる、としています。

このあたりは『経済制裁の発動要件を緩和すべし』などで詳しく議論したとおり、わが国の外為法では、相手国に経済制裁を加える条件は、「①国連安保理決議、②有志国の協調制裁、③閣議決定に基づく制裁」という3つが準備されています。

産経の記事が正しければ、②の「有志国による協調制裁」か、③の「閣議決定に基づく制裁」のいずれかが発動される、ということでしょう。

北朝鮮のミサイル挑発はウクライナで足元を見たもの

ただ、ウクライナ情勢を巡っては、ほかにもさまざまな点を考慮する必要がありますが、なかでも悩ましいのは、東アジア情勢でしょう。

北朝鮮が最近、相次いでミサイル発射を行っていることは、基本的には、ウクライナ問題で手いっぱいの米国を挑発し、国際社会における経済制裁を解いてもらうための手段でしょう(『鈴置論考に見る文在寅政権の5年と「日韓関係の未来」』等参照)。

こうしたなか、『「日韓外相会談に向け調整中」の韓国報道をどう読むか』でも触れましたが、複数の韓国メディアが昨日から今朝にかけ、今月、ハワイで日米韓3ヵ国外相会合が行われるのにあわせ、日韓外相会談が開かれる、と報じています。

日韓間では自称元徴用工問題を含めた諸懸案も山積していますが、どちらかといえば、北朝鮮情勢、ウクライナ情勢などの国際情勢上の要請に基づくものと考えた方が良いかもしれません。

難しくなる日米韓3ヵ国協力の立ち位置

こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)には先ほど、こんな分析記事も掲載されています。

米国、「クアッド-韓日米」同盟糾合に拍車…北を意識する韓国

―――2022.02.08 10:34付 中央日報日本語版より

中央日報は、米国のジョー・バイデン大統領が北朝鮮の相次ぐ弾道ミサイル発射に対応するため、「本格的な同盟糾合に動いている」としたうえで、「米国が追及するインド太平洋戦略の核心軸クアッドと韓日米の連携を前に出すかたちだ」、などと評しています。

このあたり、米国が国連安保理で北朝鮮に対する追加制裁を議論しようとしたところ、中露両国に阻まれているなかで、北朝鮮のミサイル挑発に対応する軸として安保理が機能していないことを踏まえ、同盟国を糾合して対処しようとするものだ、などとしています。

その分析は、基本的には正しいでしょう。バイデン政権は、この期に及んで日米韓3ヵ国連携を重視しているからです。

ただし、事態が米国の思惑通りに進むかは、話はまったく別でしょう。

そもそも論として、現在の韓国は、文在寅(ぶん・ざいいん)政権も任期を3ヵ月残すのみであり、何らかの実効性ある約束を、韓国と取り交わすのは難しい、という側面があります。

日本にとっては日韓外相会談は日韓間で「韓国が解決しなければならない諸問題がある」という点を韓国に突き付ける、という意味がありますが、米国にとっては、この会談にどれほどの意味があるのかはわかりません。

日韓の大きな違い

こうしたなか、中央日報にはもうひとつ、興味深い記述もあります。

日本はクアッド加入国、韓日米連携の一つの軸であり、米国と呼吸を合わせる雰囲気だ。半面、韓半島平和プロセス再稼働を対北朝鮮政策の大前提に設定した韓国は、北朝鮮のミサイル発射を糾弾する国際社会の動きとも距離を置いている」。

このあたりが、現在の日韓両国が置かれている状況を、端的に示しています。

現在の日本の岸田文雄首相に、日米同盟を巡る覚悟がどこまであるのかはさておくとして、日本は安倍晋三総理が提唱した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を、後任者である菅義偉総理が具体的な形に落とし込み、いまや日本は米国にとって、欠かすことができない重要な同盟国になりました。

そして、先ほどの中央日報の記事では、「米国が追求するインド太平洋戦略」という表現が出て来ましたが、そもそもFOIPは「インド太平洋戦略」ではなく、「自由で開かれたインド太平洋」であり、それを提唱したのは日本です。

これに対し、韓国は前任者である朴槿恵(ぼく・きんけい)前大統領が進めた「米中二股外交」、そして文在寅氏が進めた「南北融和路線」のために、米韓同盟がガタガタになってしまっている状況です。

このように考えていくと、やはり米国にとって「頼れる同盟国」は日本、という状況は続くでしょう(くどいようですが、岸田首相には若干の不安もありますが…)。

個人的な3つの注目点

いずれにせよ、日米韓外相会合などを巡る個人的な注目点としては、3つあります。

ひとつめは、「ウクライナ」という文言が入るかどうかです。

日本はロシアのウクライナ侵攻に際し、対露制裁を発動する可能性がある、などと報じられていますが、韓国がこうした動きに同調するかどうかはひとつのみものでしょう。

ふたつめは、「北朝鮮非難」のトーンです。

文在寅政権が最後まで目指した「朝鮮戦争終戦宣言」は、もはや実現は不可能と見て良いというのは間違いないにせよ、最後の最後まで韓国が北朝鮮を刺激するのを嫌がるならば、3ヵ国外相会合でも北朝鮮批判のトーンは鈍るかもしれません。

そしてみっつめが、「日米韓3ヵ国連携」の未来です。

米国としては、この期に及んで「日本が譲歩する」かたちでの日韓関係の改善を望んでいるフシがありますが、日本が韓国に譲歩する形で日韓関係が「改善」(?)したとして、韓国が米国の世界戦略(特に対中牽制)にどこまで協力するかは疑問でもあります。

したがって、日米韓3ヵ国連携では、ウクライナ情勢を含めた米国の世界戦略には対応できません。

いずれにせよ、韓国も政権交代直前というタイミングでもあるため、さほど大きな動きは生じないと考えておいてよいと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. だんな より:

    >日米韓3ヵ国連携では、ウクライナ情勢を含めた米国の世界戦略には対応できません。

    北朝鮮を持て余してるのに、ウクライナ情勢に対応出来ると思っている人がいたら、教えて欲しい。
    多分韓国は、ロシアにも逆らわないでしょう。

  2. 匿名% より:

     ウクライナvsロシアの緊迫情勢と韓国大統領レームダックの混乱下で、「日米韓外相会議」などが有るとは思えません。これ、韓国メディアの願望記事じゃないでしょうか?
     

  3. はるちゃん より:

    ウクライナ問題については、日本はアメリカ、西欧側に付くしかないのですが、日本人にとっては分かりにくい問題だと思います。
    背景にはアメリカが主導するNATOが東に拡大する事に対するプーチン大統領の警戒心があるのでしょうね。
    プーチンの立場に立てば、ロシアがアメリカに支配されることを何としても防ぎたいという事でしょう。
    ソビエトの崩壊でNATOは解散するという見方もありましたが未だに無くなりませんね。
    アメリカにとっては、欧州への影響力を維持するためには必要なものなのでしょう。
    トランプはそうでも無かったようですが。
    ドイツとフランスの本音も気になります。

    1. 成功できなかった新薬開発経験者 より:

      はるちゃん様

      プーチン氏は国内の評判しか考えていないと思います。
      クリミア半島は、地峡部の数キロを押さえれば手にできますが、
      ウクライナに手を出すと、反発は中途半端ではないでしょう。
      死傷者が増えれば政権はもたない。
      軍事行動はないと思っています。

    2. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

      納豆を解散して
      新ワルシャワ条約機構を作れば面白いかも

  4. より:

    日米韓外相会談が開催されたとしても、ウクライナ問題が話題に上るかどうかすら疑問です。上がったとしても「情勢に関する懸念を共有する」程度のたいして意味のない文言が共同声明(出るとすればね)に盛り込まれる程度でしょう。
    少なくとも、文在寅大統領在任中は対中国問題で韓国が全く役に立たないことは誰が見ても明らかだし、対北朝鮮問題ならばなおさらです。従って、日米韓という枠組みが全く有効性を持ち得ないことは明白だと思います。なので、アメリカがなぜこのタイミングで本気で日米韓外相会議を開催しようと考えるのか大いに疑問があるのですが、一つ考えられるとすれば、韓国に釘を刺すためではないでしょうか。文大統領が退任間際のどさくさに紛れて、北朝鮮に対して大幅な「援助」を実施する可能性があります。そんなバカな真似をしたらタダじゃ済まないぞと一発かまそうというところではないかと。

    1. 農家の三男坊 より:

      強いて日米韓外相会談を開催して話し合う中身は”EUへのLNG融通”ではないでしょうか。

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