トルコリラ「預金補償」で乱高下

トルコの通貨が乱高下したようです。「外貨ベースでリラ預金に損失が発生したら、その分を政府が補償する」というエルドアン大統領の発表でリラが買い戻されたそうですが、冷静に考えると、これもなかなか強烈な政策です。エルドアン大統領が「金利は悪」と叫んでみても、リラ建て預金を補償する減資を国債で調達したらますます金利が上がるからです。

トルコの通貨が乱高下

外為市場では、トルコの通貨・リラが乱高下する展開となっています。

WSJのマーケット欄を見ると、20日の取引時間(日本時間の21日1時40分時点)で前日比12%近く下落し、一時1ドル=18.3572リラ程度の水準にまで売られたものの、その後買い戻され、現時点で前日比18%上昇し、1ドル=13.55リラ前後で取引されています。

どうしてこんな乱高下したのでしょうか。

トルコリラが急騰 最安値後、預金価値の保全策表明で

―――2021年12月21日 6:09付 日本経済新聞電子版より

トルコリラ25%急騰、大統領が通貨安から預金保護表明

―――2021年12月21日7:24付 ロイターより

ロイターや日経などの記事を総合すると、どうやらもともと、外為市場ではリラに対してはかなりの売りポジションが非常に大きくなっており、20日には一気にリラが暴落したものの、同日、エルドアン大統領が「通貨安による国民の負担の軽減措置」を閣議決定し、発表したことで、リラが反騰したようです。

為替変動に対しリラ建て預金を補償=エルドアン大統領

日経によると、この措置は「リラ建ての預金の価値を政府が保全する」というものだそうであり、具体的には「リラ預金をしている人が銀行から金利を受け取っても為替安のためにドルなどの外貨ベースで損失を蒙る場合、その分を政府が補償する」というものだそうです。

なんだか、ドルペッグ制度のようなイメージでしょうか。

仮に、1ドル=10リラのときに、ある人が100リラ(=10ドル)のリラ建ての預金をしたとしましょう。このとき、1ドル=20リラにリラが下落した場合、この100リラの預金のドル建ての価値は5ドルに減ります。

日経の記事に書かれているエルドアン大統領の内容を信じるならば、トルコ政府は外貨建てで目減りした5ドル分に相当するトルコリラ、つまり100リラを、この人の預金口座に振り込む、ということでしょうか。

もしその理解が正しければ、トルコ政府はその100リラの財源をどうするのか、という問題が出て来ます。

というよりも、基本的には税収か国債のいずれかで賄うしかありません。

この点、ロイターの記事によると、エルドアン氏は預金補償などの措置で「国民はリラ安を念頭にリラを外貨に交換する必要がなくなる」、などとしたうえで、「金利引き下げにより数ヵ月以内にインフレ率の低下が見られるだろう」、「この国はもはや高金利で財を増やす者の天国ではなくなる。輸入天国ではなくなる」と述べたのだとか。

しかし、もしも預金補償原資を国債増発で調達するのであれば、当然、リラ建て債券市場では金利がさらに上昇することになりますし、そうなればエルドアン氏のコミットする「低金利」も実現のしようがありません。ハンドリングを間違えれば、インフレ、外貨流出、リラ安がさらに加速することになるでしょう。

もっとも、個人的にはエルドアン氏の発表は外為市場を鎮静化させるための「口先介入」という可能性もあると見ています。

実際、トルコは「噂話」や不確実な話を意図的に流すことで、トルコリラの暴落を一時的に食い止める、ということを、しばしば行っているからです(たとえば「トルコが日本と通貨スワップを結ぶ」という観測報道だけでリラ安が一時的に止まった話は、『「飛ばし報道」だけでトルコリラの暴落を防いだ日本円』でも取り上げています。)

いずれにせよ、現実に政府が国民のリラ建て預金の価値を直接保全するような措置というのは、財源や通貨供給量コントロールなどの問題もあるため、非現実的でもあります。

絶対逆らえない「トリレンマ」

ただ、こんな報道を眺めていて、ふと感じるのは、「固定相場制」との違いです。

これについて考える上で、どんな国の通貨当局であっても絶対に逃れることができない、「トリレンマ」と呼ばれる命題――、つまり、「資本移動の自由」、「金融政策の独立」、「為替相場の安定」という3つの目標を同時に達成することはできない、という点を確認してみましょう。

3つの政策目標と「トリレンマ」
  • 資本移動の自由…投資資金などが国境を越えて自由に行き来できる状態
  • 金融政策の独立…自国内で金融政策(金利、資金量など)を自由に決定できる状態
  • 為替相場の安定…為替市場が乱高下したりせず、安定的に推移する状態

(【出所】著者作成)

「資本移動の自由」とは、国際的な投資資金がその国に自由に出入りすることができる、という原則です。

次に、「金融政策の独立」とは、自国経済の実情に合わせて、好きに金利水準を決定したり、通貨供給量をコントロールしたりすることができる状態のことです。

さらに、「為替相場の安定」とは、為替市場が乱高下したりせず、安定的に一定の水準に収まることです。

どれも安定的なマクロ経済運営をするには望ましい目標ばかりですが、この3つを「同時に」達成することは、絶対に不可能です。

資本の移動が自由な状態で、各国が好き勝手に金融政策を決めていれば、それに合わせて国際的な投資資金がその国に自由に出入りするため、為替相場の安定は損なわれます。

為替相場を固定させるためには、資本移動の自由に制限を加えるか、金融政策の独立を放棄するか、そのどちらかが必要です。

香港のようなケースだと、1米ドル=7.8香港ドルの水準にだいたい固定(ペッグ)されており(※厳密には上下0.05香港ドルずつのバッファーがあります)、資本移動の自由が確保されているため、結果として独自の金融政策を放棄せざるを得ません。

また、日米英などのケースだと、資本移動の自由、金融政策の独立性がともに重視されているため、国家は特定の為替水準に対し、基本的にはコミットしない、という方式を採用しています。結果として円、ドル、ユーロ、ポンドなどはお互いにてんでバラバラに為替相場が日々動いていきます。

インフレ下での低金利って…

結局のところ、トルコも重視している政策がどれなのか、という問題に行き着きます。

もしもエルドアン大統領が本気で「低金利政策」と「為替相場の安定」を望むなら、いちばん手っ取り早いのは、中国のような強力な資本制限を導入し、外資を徹底的にトルコ市場から締め出し、為替取引についても許可制を導入することではないでしょうか。

もちろん、そんなことをすれば、トルコの欧州連合(EU)加盟もますます難しくなるかもしれませんが、このあたりはエルドアン氏の本気度が試されているように思えます(なお、どうでも良い話ですが、インフレ経済で利下げをしたら、インフレはますます過熱すると思う次第です)。

読者コメント一覧

  1. イーシャ より:

    この預金補償、今朝ニュースで見たとき「???」でした。
    エルドアン大統領は最低賃金50%引き上げとか、どこかの半島と同じことをする方なので、「理解しようとする方が無理」と結論づけました。
    ただ、インフレ下での利下げについては、
    ・イスラム法(シャリア)では「利息」は禁じられている
    ・それを形式的に回避するために「イスラム金融」がある
    ・イスラム金融では、所謂利息に該当するものは「利益」と見做される
    ・銀行の過剰な利益が物価高を招いている
    というように考えれば、(エルドアン大統領の頭の中では)矛盾しないという解釈もあるようです。

    1. だんな より:

      イーシャさま
      これもまた、社会実験だと考えるニダ。

  2. sqsq より:

    100リラの預金をしている人に50リラの損失が出たら、銀行に次のように指示する。

    預金者の通帳に50リラと書き込み、同時にトルコ政府への貸付に50リラと書き込む。
    これをやれば銀行の資産負債は50リラづつ増えてチャラ。預金者は50リラ余計に引き出せる。

  3. だんな より:

    ふと思ったんだけど、もう銀行がヤバいんじゃない。

  4. より:

    こう言っては不謹慎かもしれませんが、コロナ禍さえなければ、トルコに旅行する大チャンスなのになぁと思ったりもします。
    イスタンブールは一度は行ってみたいと思っている街の一つですし、カッパドキアの奇観は一度は自分の目で見てみたい。トルコ経済が完全に潰れてしまう前に、旅行可能になるといいな。

    1. イーシャ より:

      龍 様
      旅行が実現した際には、パムッカレもお忘れなく。
      夕日で紅く染まる時間帯がお奨めです。

      1. より:

        パムッカレはよく知らなかったのですが、検索してみて驚嘆!
        これ凄いですね。なるほど、一度は見てみたいなぁ。

    2. sqsq より:

      円の使いでがあるんじゃないですか。
      日々トルコリラは下がっていくから、毎日少しづつ両替すること。

      1. より:

        悪夢の民主党政権で、唯一良かったことと言えば、個人で海外旅行した時に円高の威力が炸裂したことくらいです。何しろ、1万円が1000香港ドル以上になりましたから(現在レートだと690香港ドル弱)。やはり、レートが3割以上も違うと、個人レベルであってもかなりの影響があります。

        トルコ料理は結構好きなので、機会があれば一度は行ってみたいとかねがね思ってたのですが、当分は難しいだろうなぁ……
        そういえば、かつて神楽坂にソフラという素敵なトルコ料理の店があったのですが、なくなっちゃいましたね。残念。

  5. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

    トルコの首都はアンカラというのは覚えている
    昔のトルコは今の中国に匹敵する領土を持った大国だったらしい

  6. 匿名 より:

    金利所得に高額の税金をかける方がいいんじゃないかな。

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