検査拒否なら上場廃止も:米中金融戦争は新たな局面に

米SECはHFCAAに基づき、外国監査法人等がPCAOB検査を拒否する場合の上場廃止等などを定めた施行規則を決定し、公表しました。PCAOB検査を拒絶している国の典型例は中国ですので、今後も中国がPCAOB検査を拒絶し続けるなら、中国企業が米国で上場廃止になるかもしれません。米中金融戦争は新たな局面に入ったようです。

SECがルールを最終化

米証券取引委員会(U.S. Securities and Exchange Commission, SEC)は現地時間2日、「外国企業説明責任法」(Holding Foreign Companies Accountable Act, HFCAA)という法律に関連する施行規則を公表しました。

SEC Adopts Amendments to Finalize Rules Relating to the Holding Foreign Companies Accountable Act

―――2021/12/02付 U.S. SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSIONウェブサイトより

SECによると、今回の規則は、外国企業の会計監査を米国外の法域にある国の公認会計士ないし監査法人が行っているしている場合に適用されます。

具体的には、「公開会社監督委員会」(Public Company Accounting Oversight Board, PCAOB)がその公認会計士または監査法人に対し、検査または調査することができないと結論付けた場合、その公認会計士または監査法人の監査を受けている企業が、米国で上場廃止になるかもしれない、というものです。

SECやPCAOBの役割

SEC、HFCAA、PCAOBなど、一般人にとっては見慣れない用語がいきなり出て来て驚いた、という方も多いかもしれません。

このうちHFCAAについてはドナルド・J・トランプ前大統領の時代2020年12月に成立した法律で、一般には中国を念頭に置いたものであるとされています。

また、SECは基本的に、上場会社が発行する有価証券(多くの場合は株式)について、「投資家の保護」を使命としており、上場会社にアニュアル・レポート(決算など)や監査報告書を提出させるだけでなく、さまざまな市場の監視を担っています。

そして、PCAOBは、会計監査に従事する公認会計士や監査法人に対する監督などを行っている委員会です。

今回の米国の最終規則は、いわば、「中国企業が引き続き米国の資本市場を使おうと思うのならば、米国政府の要求に従え」というものであり、また、米国の資本市場を米国がどう整備し、どう運営していくかは完全に米国の裁量でもあります。

米メディア「中国と香港が検査を拒否」

このあたり、米メディアなどの報道によれば、米CPAOBは世界50ヵ国で会計事務所・監査法人等に対する検査を実施しているものの、中国と香港は米PCAOBによる検査を受け入れていなかったのだそうです(たとえばBloombergやCNBCなどの記事参照)。

SEC Moves a Step Closer to Delisting Chinese Companies in the U.S.

―――2021年12月3日 10:20 JST付 Bloombergより

SEC finalizes rule that allows it to delist foreign stocks for failure to meet audit requirements

―――2021/12/02 23:07付 CNBCより

もしも中国が今後もPCAOBによる検査を拒絶するならば、今後は数百社にも達する中国企業が米国の証券市場から締め出される可能性もあります。

少し古い記事ですが、今年8月にSECのゲンスラー委員長は「米当局の検査を3年連続で拒否した場合」、すなわち2024年にも中国企業が上場廃止になる可能性がある、と示唆しています。

米で会計検査拒否の中国企業、24年にも上場廃止-SECが厳格適用へ

―――2021年8月25日 14:52 JST付 Bloombergより

これにより、中国は米PCAOBの検査を受け入れるのか、それともあくまでも検査拒否を貫き自国の上場企業に対して上場廃止の道を選ばせるのか、気になるところです。

個人的には、『中国が保有する人民元通貨スワップ等をすべて列挙する』などのシリーズでも述べたとおり、中国は自国通貨・人民元を国際化しようと目論んでいるフシもあるため、粛々と米国市場からの上場廃止を受け入れるような気もしています。

ただし、やはり米国での上場というステータスは、その企業にとっては資金調達源の多様化に加え、米ドルという世界最強の通貨による市場に直接アクセスしているということを意味しているため、上場廃止のあかつきにはこれらの中国企業には資金調達面で甚大な打撃が生じかねません。

このため、米国市場から排除されれば、中国企業は日本市場からも欧州市場からも連鎖的に排除されることにもつながりかねず、こうした「連鎖上場廃止」などを恐れる中国が今回の最終規則を受け入れる可能性も否定はできません。

いずれにせよ、米国の今回の最終規則は、中国に対し厳しい選択を突きつけるものでもあります。

米中金融戦争は新たな局面に入ったといえるでしょう。

読者コメント一覧

  1. 駝鳥 より:

    新宿会計士殿、毎日、沢山の有益な論考と情報のウェブアップ有難う御座います。

    先程、日経から中国の配車アプリ最大手、滴滴出行(ディディ)が12月3日、ニューヨーク証券取引所(NYSE)の上場を廃止する手続を開始するとの記事が速報で配信されたので見ていました。そして新宿会計士殿のHPを拝見したので、ご報告致します次第です。

    滴滴出行(ディディ)のNYSE上場廃止手続開始は、米国側(SEC)によるHFCAAに基づいた上場廃止等施行規則ではなく、中国政府による中国企業の海外証券取引への株式公開規制強化の結果です。

    米国からも、中国からも双方の事情で、中国企業が上場廃止や新たな株式公開出来なくなり、米中金融デカップリングが、どんどんと進んで貰いたいものです。

    滴滴出行、米上場廃止へ手続き 香港上場を準備
    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM031HX0T01C21A2000000/?n_cid=BMSR2P001_202112031036

    1. ムッシュ林 より:

      話は本題からそれますが、この滴滴(DiDi)という配車アプリは日本でも使えます。DiDiには普通のタクシーだけでなくDiDi Specialというグレードの高い車(アルファードのような車種)を配車するサービスがあるのですが、このDiDi Specialの割引キャンペーンがあったので呼んでみたら日本語が下手な中国人ドライバーが来ました。しかも、普通のタクシーで使用されているメーターがありません。聞いたらアプリで決済されるからメーターはないとのこと。ナンバーがタクシーのナンバープレートか確認し忘れましたがおそらく白タクだったように思います。さらにWechatペイやAlipayなど中国の決済サービスで料金を払えるので税務署も売上を把握できないでしょう。この手の中国企業は日本人に金を落とさないので、アメリカだけでなく日本でも上場廃止にして出て行ってもらいたいものです。

      1. 駝鳥 より:

        ムッシュ林様、ご返事有難う御座います。

        白タクで、つまり日本運行規則に従わず、更に更にWechatペイやAlipayなど中国の決済サービスで料金を払い、日本の税務署に売上を把握出来ない状態にしているのはご指摘通り犯罪です。日本の税務当局はこの事実を把握しているのでしょうか。

        これら日本人に金を落とさない犯罪中国企業が、アメリカの証券取引からだけではなく日本でも断固として上場廃止にして、排除すべきです。

        私が存じ上げていない状況と課題をご説明下さった、ムッシュ林様に感謝申し上げます。

  2. りょうちん より:

    >今年8月にSECのゲンスラー委員長は「米当局の検査を3年連続で拒否した場合」、すなわち2024年にも中国企業が上場廃止になる可能性がある、と示唆しています。

    トンスラー委員長と空目しました。

  3. がみ より:

    中華人民共和国は自らが提唱する一つの中国の名分の元に、一国二制度を反古にし実質香港を自国に取り込みました。

    香港の方々には気の毒ではありますが、中共が倒れる政変でもない限りもう香港が自由陣営・民主主義に戻る事は現実的ではないと思います。

    それなのに相変わらず中共は一国二制度のなかで旨味のある部分だけは調子よく享受しています。

    香港ドルの存在・大陸と異なる関税・大陸中国に課せられた経済制裁や中華人民共和国が他国と犯した貿易紛争の回避地等々

    IMFとの当初の約束事も守らない人民元の固定相場化など見過ごせない事多々のまま香港を隠れ蓑にしている感もあります。

    一見香港の人々の民主化を応援するかのように他国はそのご都合主義を黙認しています。
    だがそれが100年単位位で考えた場合に香港の人々の為にもなるでしょうか?

    諸外国は中華人民共和国のご都合主義を潰す為にも、中華人民共和国の外向き大義のように、香港・マカオ等も本国と全く同じ外交的・金融的・国際貿易的に等しく扱うべきではないでしょうか?
    オンショア・オフショアの使い分けなど潰すべきです。

    あれだけ巨大な国が他国に人民元(またはデジタル人民元)をハードカレンシー同然に扱うよう強要しているのですから、香港ドルを認めるべきではないのでは?
    一国の通貨が複数存在したり、レートが思いのままという異常な状態を世界が是正するべきです。

    最悪の場合台湾が併合の憂き目にあった場合にニュー台湾ドルという通貨さえ獲得しかねません。

    中華人民共和国の覇権主義・拡張主義が金融・貿易面でリスクも大きいと中共に知らしむるべきではないでしょうか?

    もはや取り戻せないとしても香港や未だ対峙している台湾の皆さんを本当の意味で救うためにも拡大主義が美味しい事ばかりではないと知らせる機会ではないかと。

    台湾には少なからん親大陸の国民党のような勢力がおり、争いを経る前ですら通貨の人民元統一を容認するかもしれませんが、それがいかにリスキーで得るものが無いかを知っていただいた方が、台湾が一つにまとまり西側陣営に踏みとどまる根拠にもなるのではないでしょうか?

    漠然とですが、韓国がまたデフォルトした際に半島南北まで一気に通貨が固定相場の人民元に統一されハードカレンシー化を計って来るのではないかなぁとすら案じています。

  4. sqsq より:

    アリババはナスダックに上場していてアニュアルレポートの閲覧ができるが、その監査人はPWC、羅兵威永道となっていた。羅兵威永道は香港の会計事務所。たぶんPWC(プライスウォーターハウスクーパース)のメンバーファームだろう。
    今回の問題は、この会計事務所がPCAOBの検査を拒んでいるということか。
    そもそもアメリカの証券取引所に上場しているのだから、その法律に従うのは当然。
    上場廃止が見えれば、投資家は株を売り、株価は下がり、その会社の株券は換金できないものになる。アリババの創業者や幹部社員たちの富は絵にかいた餅になり、社員たちのストックオプション(その制度があるかどうかは知らないが)も消える。中国政府の反応やいかにだが、至極まっとうな主張なので大きな声で批判はできないだろう。

    1. より:

      もしもアリババの株価が暴落する、さらには換金不能になんぞなると、ものすごい打撃を受ける会社がありますねえ。ええ、あのソ……

      1. カズ より:

        その金融機関?でしたら、お爺さんと一緒に行ったことがあります。
        たしか”祖父とBK”
        m(_ _)m

    2. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

      アリババって、盗賊をぶち殺して盗賊のお宝を全部自分のものにした人だっけ?
      もちろん、金持ちになった後、貧民に喜捨したから街の英雄になったらしいけど(今流行りの共同富裕ってやつかな?)
      「そういう遠大な野望を持っている」と盗賊から警戒されても不思議はない。(正確には「自分を盗賊と思っている人から」だけど)

  5. とある福岡市民 より:

     中国株が上場廃止になると新興国市場の投信やETFが壊滅しそうですね。VWOなんて4割が中国株ですから。
     VTにも割合こそ少ないですが、腾讯、阿里巴巴、美团、京東商城、中国建設銀行、中国平安保険、中国工商銀行、百度、小米、網易、中国移動通信、と言った大手企業が組み込まれてます。株価が大きく影響を受けたら私としては困ります。もっとも、中国株は全体の5%に過ぎませんけれども。

  6. 伊江太 より:

    米国がこの方針を貫くなら、経済史にも残るような大変なできごとのように思えます。中華経済圏という自らが一人勝ちのような閉じた世界で「社会主義市場経済」なるものが、成立しうるものかどうなのか。そこのところに大変興味をひかれます。

    おいしいとこ取り、やらずぶったくりで、西側世界からブンドッていたカネのお裾分けができなくなったら、あとは閉鎖空間の中で、民間の資金が一方的に権力層に吸い上げられるだけ。「共同富裕」なんて甘言は、ブラックジョークにしかならないという気がするのですが。

  7. sqsq より:

    この法律はPCAOBができたときから、つまりSOX法によるものらしいので、中国企業は承知で上場したということか。

  8. sey g より:

    普通に考えて、中国企業が上場出来ることがオカシイのです。
    上場条件には、情報開示が必要なのに、信用出来ない情報のみで上場させてた今迄がオカシイのです。
    嘘の情報で融資を受ける。
    これは、中国の国ぐるみの詐欺案件では。
    この詐欺が中国の国力の源と喝破したトランプ前大統領は素晴らしかった。

  9. 世相マンボウ より:

    これまで思い上がりの中華思想で
    傍若無人に振る舞えていた
    中国企業にタガを嵌めることは短期的には
    世界経済にも一定の痛みを伴うだろうとは
    思います。
    もちろん中共政府もあらゆる手を駆使して
    抵抗するでしょうけど、
    今の段階でそれを恐れて放置することが
    できない状況に至ってしまったのは
    やはり中共政府の思い上がりと傲慢の
    帰結であると感じます。
    民主主義国は団結して粛々と
    中共の横暴阻止への歩みを
    すすめるべきだと感じます。

  10. はにわファクトリー より:

    絶対制圧主義でゼロコロナ体制を押し通す中国はしばらくは鎖国に近い状況に。我が物顔で練り歩く中国人観光客が日本の町から消えていなくなってことほかせいせいしているむきはきっと少なくない。次なる脅威は「認知戦」です。「報道産業に巣づく工作勢力」の動きに一層目を光らせておかねばなりませんね。

  11. はるちゃん より:

    中国は、今まで「士」が「庶」を支配するという構造で成り立ってきました。
    「士」は、科挙の合格者ですが、現在は共産党員です。
    ところが、鄧小平の開放路線で、新興資産家が現れ、共産党の支配体制を脅かす恐れが出てきました。
    共産党に盾突く新興資産家に巨額の制裁金を課しています。

    また、新興資産家と「庶」の格差が深刻な社会問題になりつつあり、放置できない状態になりました。
    住宅価格の高騰や高額な教育費は庶民の大きな負担となっており、格差の拡大が社会の巣安定要因となっています。

    共産党にとっては、カネより体制維持が優先しますので、新興資産家たたきが始まりつつあります。
    新興資産家たたきの一環として、アメリカの証券市場からの撤退もあり得るのでは無いかと思います。

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。