本稿は、ちょっとしたメモです。今からちょうど3年前の2018年10月26日、日銀は中国人民銀行との間で、「日中為替スワップ」を締結しました。これをメディアがいっせいに「日中通貨スワップ」と誤報し、いまだに訂正していないのは微笑ましい思い出ですが、そもそも為替スワップは通貨スワップとは目的も用途もまったく別物です。そして、この為替スワップは来週月曜日に失効するようですが、さて、延長はなされるのでしょうか。
目次
3年前、「日中為替スワップ」を「日中通貨スワップ」と誤報したメディア
本稿は、ちょっとした雑感メモです。
今からちょうど3年前の『【速報】やはり中国とのスワップは「為替スワップ」だった!』などでも取り上げた話題が、日中為替スワップです。具体的には、日本銀行は2018年10月26日、中国の中央銀行に相当する「中国人民銀行」との間で日中為替スワップを締結した、と発表しました。
中国人民銀行との為替スワップ取極締結について【※PDFファイル】
―――2021/10/26付 日本銀行HPより
これによれば、条件は次のとおりです。
- 引出限度:日本側が2000億人民元、中国側が3.4兆円
- 有効期限:2021年10月25日
つまり、日本側が要請した場合には、最大で2000億人民元の資金の提供を中国人民銀行から受けることができる、というわけです。
この日中為替スワップを巡っては、当時、NHKを含めた日本のほとんどのメディアが、「日中通貨スワップ」と誤って報じました。そして、いまだに訂正を行っていません。
では、これは「日中通貨スワップ」ではないのでしょうか。
通貨スワップと為替スワップはまったくの別物
じつは、「通貨スワップ」と「為替スワップ」は、まったくの別物です。
『「発売記念」あらためてスワップについてまとめてみる』でも詳しく議論しましたが、通貨スワップは一般に英語では “Bilateral Currency Swap Agreement” などと呼ばれ、「BSA」と略されますが、これは「通貨当局が直接、相手国の通貨当局から外貨を手に入れる協定」のことです。
以前、『【総論】4種類のスワップと為替スワップの威力・限界』で通貨スワップや為替スワップなどのスワップ取引についていろいろと議論したのですが、あれから少し時間が経ってしまったことに加え、わが国が新たな為替スワップを締結したことや、米FRBが提供する為替スワップの引き出し状況に特筆すべき状況が出たことなどを受け、内容が少し陳腐化しているきらいがあります。そこで、『数字でみる「強い」日本経済』が公式には本日、書店の店頭に並ぶのを契機にして、スワップについてじっくりとまとめておきたいと思います。【... 「発売記念」あらためてスワップについてまとめてみる - 新宿会計士の政治経済評論 |
これに対し為替スワップは、一般に “Bilateral FX Liquidity Swap Agreement” などと呼ばれ、当ウェブサイトでは「BLA」などと略することもありますが、これは「相手国通貨当局から自国の市中金融機関に相手国の通貨を供給してもらう協定」のことです。
よく似ていますが、両者はまったく異なるものです。
なにがどう異なるのか。
これについて日銀は次のように述べています。
「わが国と中国は金融経済面での結びつきを強めており、本邦金融機関の人民元建てのビジネスも拡大してきている。日本銀行は、本邦金融機関の人民元の資金決済に不測の支障が生じ、わが国金融システムの安定確保のために必要と判断する場合には、本スワップ取極を活用して、人民元の流動性供給を行う方針である」。
この記載ぶり、何のことを言っているのかといえば、いわゆる「パンダ債」など、本邦金融機関が中国の金融市場で人民元建ての債券などを発行していることを意味しています。
日中為替スワップの目的は、パンダ債の後始末?
では、なぜこんな協定が必要なのでしょうか。
そもそも論ですが、『ソフト・カレンシー建て債券の危険性』や『危険なパンダ債と「日中為替スワップ構想」』、『中国向けに調査するなら与信より「パンダ債」では?』などでも触れましたが、人民元という通貨は世界的に確立した「ハード・カレンシー」ではありません。
自由な取引にかなりの制約があるソフト・カレンシーであり、かつ、人民元の通貨市場は未成熟でもあるため、当局のハンドリングミスなどにより、人民元が私情から枯渇してしまう、といった事態も容易に生じ得る、非常にリスクの高い市場です。
正直、そんなリスクの高い市場で人民元建ての債券を発行した本邦金融機関は正気なのか、という気がしてなりませんが、要するに、この日中為替スワップは、中国本土でパンダ債を発行してしまった本邦金融機関などが人民元建ての資金繰りに困った際の救済手段、という意味合いがあるのでしょう。
そういえば、日本はタイとの間でも上限30億ドルの通貨スワップを締結していますが、それとは別に、同じくタイとの間で上限8000億円・2400億タイバーツ相当の為替スワップも締結しています(やはり、某大手邦銀がタイに連結子会社を保有している関係でしょうか?)。
パンダ債、増えていませんね
こうしたなか、個人的な関心事といえば、この為替スワップ協定、来週月曜日で失効するのですが、その延長がなされるかどうか、という点ですが、ただ、個人的な感想で恐縮ですが、わざわざ人民元建ての為替スワップを更新する必要があるとも思えません。
というのも、メガバンク3行に関しては、2021年3月期有価証券報告書で確認する限り、人民元建ての社債残高は14億元(1元=17円だと仮定すれば、約240億円程度)分残っていますが、発行残高は増えていないのです(図表)。
図表 メガバンクのパンダ債発行残高
銀行名 | 2020年3月末 | 2021年3月末 |
---|---|---|
三菱UFJ銀行 | 10億人民元 | 残高なし |
みずほ銀行 | 5億人民元 | 3.79億人民元 |
三井住友銀行 | 残高なし | 10億人民元 |
3メガ合計 | 15億人民元 | 13.79億人民元 |
(【出所】各社FG有報・連結社債明細表などを参考に著者作成)
現時点において日本銀行から日中為替スワップ更新に相当する報道発表はありませんが、引き続き注視する価値が(少しだけ)あるのかもしれないと思う次第です。
View Comments (7)
パンダ債が増えてない理由は何かな
今回に限らず日本と韓国のメディアは、
為替スワップを通貨スワップと
誤表記を繰り返してきています。
その理由は
記者の知識理解力の欠如ではなく
かつて民主党政権が半島とウッシッシをして
巨額売国野田スワップで
脆弱通貨ウォンの崩壊から逃れるだけでなく
崩壊気にしないで安心してウォン安誘導することで
韓国製品が海外競合先で日本製品蹴散らした
どじょうの二匹目でウッシッシという
あってはならない韓日通貨スワップを
狙っている韓流の下心からだと考えると
しっくりくるものです。
そもそも為替という言葉が日本でしか通用しない言葉なんだと思います。韓国語に相当するのはおそらく「換」になるのではないかと。韓国からしてみれば受け取る相手が銀行であろうが通貨当局であろうが通貨の交換には変わりないので両方の訳語が通貨スワップになっているだけで、韓国からしてみたら日本のローカルルールを押し付けるなよってところではないでしょうか。韓国語的に分けるとしたら通貨当局間スワップと民間流動性供給スワップに分けるんじゃないでしょうかね。誤表記と言うよりは文化・言語の違いと言うべきだと思いますね。
匿名さん
興味深いご説明ありがとうございます。
たしかに経済用語に限らず
その地の人の習得可能上限レベルに
見合ったハングルにおいての
同音異義語の識別不能と同様に
区別がつかず一緒くたに
なってしまっているということは
あるのかも知れませんね。
>「人民元が私情から枯渇してしまう」
そうか、そうだったんだ。納得しました。
なるほど、言い得て妙ですな。
中華人民共和国という国家も、そこで流通している通貨も、所詮は共産党の私物に過ぎないという事ですね。
三井住友銀行は新規に参入してるのか…。