加熱するワクチンスワップ報道を米発表で確認してみた

米韓首脳会談が行われるのは日本時間の明日未明だそうですが、韓国の政治家やメディアが（なかば一方的に）期待を膨らませている「ワクチンスワップ」が議論に上ってくる可能性というのは、本当にあるのでしょうか。これについてはふたを開けて見なければわかりませんが、その一方で、韓国メディア『中央日報』（日本語版）は今朝、ホワイトハウスのサキ報道官が「韓国に対する直接的なワクチン支援、韓国をワクチン生産基地とすることなどすべて議論の対象になることを示唆した」と報じています。

ワクチンに対する一方的期待

現在、韓国では政治家、メディアを挙げて、米国に対する「ワクチン提供」への待望論が（なかば一方的に）強まっているとする話題については、これまでにしばしば当ウェブサイトで何度か触れてきたとおりです。

ただ、自然に考えて、米韓間の現在の関係が良好だとも思えません。いうまでもなく、米韓同盟を通じて米国に守ってもらう立場でありながら、韓国はしばしば、米国の利害と対立する行動を取っているからです。

その典型例が、「米中二股外交」です。

2017年に「三不の誓い」（高高度防衛ミサイルを追加配備しない、米国のミサイル防衛に参加しない、日米韓３ヵ国協力を同盟に発展させない）を立てたことでもわかるとおり、韓国は頑なに、米国を中心とする「中国包囲網」には参加しようとしません。

それどころか、日米が現在、力を合わせて推進しようとしている「自由で開かれたインド太平洋（ＦＯＩＰ）」からも距離を置いていますし、とくに文在寅（ぶん・ざいいん）政権下の韓国は、いくつかの米韓合同軍事演習を中断するなど、防衛協力にも支障をきたし始めています。

そんな韓国に対し、米国が貴重なワクチンを大量かつ優先的に提供すると考えるのは、やはりどうにも不自然です。

中央日報「ホワイトハウスもワクチン議論を認める」

もっとも、今朝の『ワクチンスワップ欲しければ「三不の誓い」破っては？』でも報告したとおり、「三不の誓い破棄」など、「よっぽどの手土産」を準備すれば、米国としてもワクチンの優先提供を検討することにはやぶさかではないでしょう（文在寅氏にそれができるとも思えませんが）。

ただ、現在漏れ伝わっている報道を眺める限りでは、見えて来るのは「クアッドに部分参加してワクチンをもらおう」という虫の良い話ばかりであり、韓国が中国との関係をどうにかしようとする議論はほとんど見当たりません。

しかも、それに対しては米国から聞こえて来るのは冷ややかな反応ばかり。

こうしたなか、韓国メディア『中央日報』（日本語版）を眺めていると、こんな記事が目に留まりました。

ホワイトハウス「首脳会談で韓国ワクチン支援を議論…北朝鮮も中心議題」

―――2021.05.21 08:31付　中央日報日本語版より

中央日報はホワイトハウスのジェニファー・サキ（Jen Psaki）報道官による20日の定例記者会見を引用し、「今回の韓米首脳会談でワクチン供給問題が議論されるのかという質問」に対し、次のように報じたのです。

「韓国に対する直接的なワクチン支援、韓国をワクチン生産基地とすることなどすべて議論の対象になることを示唆した。」

これはなかなか興味深いところです。

サキ氏は本当にそんなことを示唆したのでしょうか。

サキ氏は一般論を述べただけでは？

参考になるのが、次のリンクです。

Press Briefing by Press Secretary Jen Psaki, May 20, 2021

―――2021/05/20付　ホワイトハウスＨＰより

記者とサキ氏のやり取りを、そのまま紹介しましょう。

Q    Sure.  On South Korea, the President is seeking to tap into the U.S. vaccine supply as part of his visit.  How does the White House view such requests from advanced economies like South Korea?  Is there a higher bar?  Can you give us some color on that — on those requests —

PSAKI: Do you mean — just for clarification — so you mean the President of South Korea is looking to tap into —

Q    Correct.

PSAKI: — our vaccine supply.

Q    One hundred percent.

PSAKI: You know, I certainly — we certainly expect that the leaders will discuss ways the United States can support the South Koreans’ fi- — South — support South Korea in its fight against COVID-19, as well as how we can work together to combat the pandemic around the world.

And certainly, they will raise a range of issues.  I know they’ve noted that this is one that they intend to raise, which is, hence, why you’re asking me about it.

I will say that, as it relates to the vaccine supply that we’ve announced, we are going to be sharing with the world, we will look at that, and we will make decisions — which are still ongoing — with a couple of criteria in mind: how to do it equitably, how to ensure we’re reaching parts of the world that need help the most, how to do it in a way that’s fair and has a regional balance.

So I don’t expect that assessment to be made in advance of tomorrow.  But certainly, we welcome the opportunity to discuss with them how we can work together to address the global pandemic.

…。

いちおう、サキ氏の発言要旨の一部を日本語でも示しておきましょう。

• 米韓両国の首脳は、韓国のＣＯＶＩＤ－１９との戦いで韓国をサポートする方法、そして世界中のパンデミックと戦う方法を議論するだろう。
• わが国が外国に提供すると発表したワクチンの具体的な配分方法についてはいまだに検討中であるが、基本的にはそれらは地域バランスも勘案し、公平かつ必要とする人たちに届くような方法であるべきだ
• こうした評価が明日までにできるとは想定されないが、グローバルなパンデミックのためにできることを協議することを我々は間違いなく歓迎するだろう

このあたり、どうも曖昧で漠然とした「一般論」にしか見えないのですが、これのいったいどこが、「韓国に対する直接的なワクチン支援、韓国をワクチン生産基地とすることなどすべて議論の対象になることを示唆した」という解釈になるのか。

間違いとまでは言いきれませんが、ちょっと議論が飛躍し過ぎではないかと思う次第です。

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さて、肝心の米韓首脳会談ですが、これについては残念ながら、当ウェブサイトの更新の都合上、話題として取り上げるのは最速で日曜日以降を予定しています。

ただし、「読者雑談専用記事」などで「実況」していただいても構いませんので、当ウェブサイトを議論の場として、どうぞご自由にご活用ください。