「日米2+2」で中国を名指しも「日韓」には言及なし

昨日、東京でいわゆる「日米2+2会談」が実施されました。著者の私見に基づけば、今回の「2+2」の最大の意義は、中国を名指ししたことにあります。また、声明文で言及された国とそうではない国があったということから、間接的に日米両国が重要な相手だと考えている国がどこなのかを推し量ることができる、ということでもあるのかもしれません。

いわゆる「2+2」の目的

先日の『日経報道「日米2+2で中国名指し」、むしろ遅いほど』などでも取り上げたとおり、いわゆる「2+2会談」と呼ばれているものは、外交担当と防衛担当の2人の閣僚が一堂に会して行われる会議のことです。

外務省のウェブサイトなどで確認できた限り、この「2+2」会合は米国、豪州をはじめ、合計7つの国と実施されており、とりわけ日米2+2についてはこれまでに何度も開催されています。

  • 米国(少なくとも2000年9月11日以降、昨日までに15回)
  • 豪州(2007年6月6日の第1回を皮切りに8回)
  • ロシア(2013年11月2日の第1回を皮切りに3回)
  • フランス(2014年1月16日の第1回を皮切りに5回)
  • 英国(2015年1月21日の第1回を皮切りに4回)
  • インドネシア(2015年12月18日)
  • インド(2019年11月30日)

この「2+2」の意義は、何と言っても双方の国の外務、防衛に対して責任を持つ閣僚が直接膝突き合わせて話し合えるという点にあります。

ことに、米国で今年、共和党から民主党に政権が交代し、日本でも昨年9月に安倍晋三総理が辞任して菅義偉政権が発足しています。昨日、東京で「2+2」会合が約2年ぶりに開催されたのは、タイミングとしては非常に良かったといえるでしょう。

「2+2」では中国を名指し

さて、その「2+2会談」の様子は、昨日、外務省のウェブサイトなどに掲載されています。

日米安全保障協議委員会(日米「2+2」)(概要)

―――2021/03/16付 外務省HPより

日本側からは茂木敏光外務大臣と岸信夫防衛大臣、米国側からはアントニー・ブリンケン国務長官とロイド・オースティン国防長官がそれぞれ出席し、共同声明(英文仮訳)も発表されています。

端的にいえば、先日の『初のFOIP首脳会談、日本にとってはまずまずの成果』などでも述べた、「FOIPクアッド電話首脳会談」よりも、かなり踏み込んだ共同声明が出てきました。その最たるものは、中国を名指ししたことでしょう。

日米2+2は、「総論」、「地域の安全保障環境」、「安全保障・防衛協力の強化」、「戦力態勢及び在日米軍」という、大きく4つの項目から成り立っています。ここではPDF版の共同声明ではなく、概要の方を確認していきたいと思います。

このうち「地域の安全保障環境」の部分では、「中国」という文言が3ヵ所も出てきます。具体的には次のとおりです。

  • ①四閣僚は、中国による、既存の国際秩序と合致しない行動は、日米同盟及び国際社会に対する政治的、経済的、軍事的及び技術的な課題を提起しているとの認識で一致した。また、ルールに基づく国際体制を損なう、地域の他者に対する威圧や安定を損なう行動に反対することを確認した。
  • ②四閣僚は、東シナ海及び南シナ海を含め、現状変更を試みるいかなる一方的な行動にも反対するとともに、中国による海警法に関する深刻な懸念を表明した。また、日本側から、日本の領土をあらゆる手段で守る決意を表明した。四閣僚は、尖閣諸島に対する日米安保条約第5条の適用を再確認するとともに、同諸島に対する日本の施政を損なおうとする一方的な行動に引き続き反対することを確認した。
  • ③四閣僚は、南シナ海における、中国の不法な海洋権益に関する主張及び活動への反対を改めて表明した。
  • ④四閣僚は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調した。また、香港及び新疆ウイグル自治区の人権状況について深刻な懸念を共有した。
  • ⑤四閣僚は、北朝鮮の完全な非核化の実現に向けて、国連安保理決議の完全な履行の重要性を確認し、日米及び日米韓3か国で引き続き協力していくことで一致した。また、拉致問題の即時解決の必要性についても確認した。
  • ⑥四閣僚は、日米豪印を通じた協力を確認した。また、ASEANの中心性及び一体性並びに「インド太平洋に関するASEANアウトルック」への強固な支持を確認しつつ、ASEANと協働することを誓約した。

「中国」という単語は、①、②、③で出てきます。また、④も「台湾海峡」「香港」「新疆ウイグル自治区」という文言が出てきますが、これも間接的には中国を意味しています。

この点、前回、すなわち2019年4月19日の日米2+2では、「東シナ海及び南シナ海における現状を変更しようとする一方的かつ威圧的な試みに関し深刻な懸念及び強い反対の意を表明」などの文言は含まれていたのですが、中国については名指しを避けていました。

また、FOIPクアッド首脳会合でも声明文に中国の名指しは避けられていましたが、今回、日米というレベルでは、中国が明確な「仮想敵国」に位置付けられた格好だ、という言い方をしても良いでしょう。

どの国に言及したのか、あるいは言及「しなかった」のか

ほかにも、気になる点があります。

①~④は事実上、中国に向けられたメッセージであるとともに、とくに台湾、香港、ウイグルなどに対しては個別のメッセージが発せられた格好です(できればチベットについても言及してほしかったところですが…)。

一方、⑤については北朝鮮に向けたメッセージであるとともに、いちおう「日米及び日米韓3ヵ国」という文言が含まれてはいますが、「日韓」の文言については含まれていません。

ちなみに「日韓」が含まれていないのは前回の日米2+2会合と同様ですが、今回の声明文では、よりはっきりと「日米韓3ヵ国」という文言が強調されています。

「日韓」が含まれずに「日米韓」が含まれた趣旨は、気になります。「日本は北朝鮮問題で必要があれば米国を経由して韓国と協力するけれども、韓国と直接協力はしないよ」、という意思表示にも見受けられなくはないからです。

一方で⑥については、日米豪印という「FOIPクアッド」に言及があるとともに、「太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」についても言及があるなど、周辺国に対しても配慮を示した格好だといえるでしょう。

このように考えていくと、言及した国と言及「しなかった」国で軽重・濃淡が示されている、という言い方もできます。

つまり、中国については直接的に3回、間接的に数回言及し、北朝鮮についても「拉致・核・ミサイル」の一体解決の必要性で同意するする一方、FOIPクアッドを構成するうちの豪印両国を協力対象国に位置付け、さらにはASEANを重視する姿勢を示した、というものです。

ロシアについては言及が一切なく、また、今回の2+2では英国やフランス、欧州連合(EU)などへの言及もありませんでした。

しかし、もしもFOIPがクアッド(4ヵ国)ではなくクインテットないしペンタ(5ヵ国)、セキサないしヘキサ(6ヵ国)などに増えていくならば、今後の「2+2」ではこれらのFOIP参加国との協働についても言及がなされるのでしょう。

また、韓国の国名はいちおう、北朝鮮問題のところで辛うじて残りましたが、これが完全に消滅してしまうのか、それとも「日韓協力」が復活するのかについては、韓国次第、といったところなのだと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 門外漢 より:

    日米韓を言うのは米の都合で(仕方なく)日本も付き合うが、日韓は御免だ、ということですね。

  2. めがねのおやじ より:

    更新ありがとうございます。

    日米共同宣言(2+2)の中で中国に3回、「台湾海峡」「香港」「新疆ウイグル自治区」に1回、ASEANとの協同に1回、FOIPで豪州、インドに1回触れられてます。

    日米韓はともかく、日韓への言及が無いのはホッとします。米国から無理矢理押し付けられても、今更日本もヤル気無いし(笑)。あんなヘボ国、根性曲がった民族は捨てられるでしょう。北や中国の防壁にはなりません。

  3. だんな より:

    米韓に共通の敵を無い事にしてしまうと、同盟の存在理由に関わるから、北朝鮮対応の部分で韓国が付け足されているのは、アメリカの都合でしょう。

    >⑥四閣僚は、日米豪印を通じた協力を確認した。また、ASEANの中心性及び一体性並びに「インド太平洋に関するASEANアウトルック」への強固な支持を確認しつつ、ASEANと協働することを誓約した。

    この部分は、「日米にとって韓国は、ASEANの下の扱い」になるでしょう。

    発表の内容から、日韓関係について今回の2+2で議論されていないと考える事が出来ると思います。
    米韓の2+2で日韓関係が話題になった時に、日本と協議していない内容を合意する事は、無いと思います。
    鈴置さんが言うところの「アメリカが韓国を叱る」状況になる可能性が高く、韓国が「アメリカに叱られた事を認めない」までは、決まりだと思います。
    韓国政府が「日米が悪いニダ」をどういう形で展開するか、国民世論はどうなるかに興味が有ります。
    要は韓国内の「反米エネルギー」が、どうなるかです。

  4. ミナミ より:

    「G7プラス構想?」でも「QUADプラス構想」でもそうですが、
    韓国人は地位とか名誉、利得が欲しいだけなんですよね
    その構想が何の為に出来てるか、理解してない、或いは故意に見てない
    全部「対中同盟」ですよ。その意思が無いなら、入れる訳が無い

    バイデン政権は今までのところ、対中政策で割とマジメです
    少なくとも「バイデンが大統領になれば中国の言いなり」などというのはデマでした
    トランプは利益(駐留費等)で動く印象がありましたが、
    バイデン民主党政権は、良くも悪くも、もう少しイデオロギー的で、
    韓国にもマジメに踏み絵をさせそうな気がします
    だから、ある意味トランプ時代よりも、米韓関係の進展が早くなりそうな気がします
    またウダウダ言ってコウモリしようとしたら、マジメに罰を与えられるんじゃないでしょうか

  5. だんな より:

    韓国内の報道では、「バイデン米政権の発足以来初めて開催された米日外務・防衛閣僚協議(2+2)で、韓米日の協力の重要性が再確認された。」と有りますが、共同声明には見当たりません。
    茂木外相が、記者会見でコメントしたようです。
    朝鮮系の記者からの質問への回答なのか?

  6. 伊江太 より:

    >「日韓」が含まれずに「日米韓」が含まれた趣旨は、気になります。

    まず日本で2+2会談をやった後、間を置かずに韓国で、まさに外務、防衛分野の対応する面子を呼びつけて同趣旨の会談を行う。外交部長官なんかは、前の通訳上がり、文在寅のお気に入りというだけの軽量級ではありませんから、その重みは段違い。いま韓国は、大袈裟に言えば、屠場 に牽かれていく牛みたいな気分でいるんじゃないでしょうか?

    日米2+2共同声明の内容は、彼らが息を凝らしてみていることも当然考慮に入れて発表されているはずです。そこに「日韓」の文字がないことの意味も、当然深刻に受け止めるでしょう。要するに今現在の喫緊のイシューに関係ないことなど言い訳にするなってことですから。

    中国を名指しするところまで、共同声明が強硬な内容になっているのは、最近のブルーチーム側の結束が急速に緊密化の度合いを増していることを背景にしているのは明らかでしょう。そんな中、金与正なんかより実質的にははるかに怖い米国の重要2閣僚の前で、言を左右して逃げ回るような醜態を演じたらどうなるか。芯まで極左アタマの鄭義溶ならいざしらず、長年軍政の実務で指導的地位にいた鄭景斗なら、分かると思うんですがねぇ。

    明日が、「韓国処分」の始まりの日として、後世記録されることになるのかも知れないという予感がします。

    1. より:

      そこはそれ、「♪わかっちゃいるけど 止められないっ」という心境ではないかと。
      あ、ソ~レっ!

  7. 名無しの権兵衛 より:

     ④四閣僚は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調した。
     ⇒直接的には表現していませんが、中国の台湾進攻を牽制し、自由民主主義国・台湾防衛の意志を示したと言えると思います。
     ⑤四閣僚は、北朝鮮の完全な非核化の実現に向けて、国連安保理決議の完全な履行の重要性を確認し、日米及び日米韓3か国で引き続き協力していくことで一致した。
     ⇒「朝鮮半島の完全な非核化」ではなく「北朝鮮の完全な非核化」の実現を目指すこと、および「国連安保理決議の完全な履行」すなわち「瀬取り監視体制」などを充実強化することの重要性を確認し、日米および日米韓3か国で協力していくことで一致した。
     これは、日米両政府が、韓国政府に対して、「北朝鮮の非核化が実現するまで、韓国政府も瀬取り監視体制などを充実強化するんだぞ」と圧力をかけているのだと思います。

    1. atago より:

      名無しの権兵衛様ご指摘の「国連決議履行」と「北朝鮮の非核化」については、米韓国防大臣の会談でも合意されたと理解しております(米国国防省の発表資料 https://www.defense.gov/Newsroom/Releases/Release/Article/2539619/readout-of-secretary-of-defense-lloyd-j-austin-iiis-meeting-with-defense-minist/)。
      3か国防衛協力については、米韓で「話し合った」とされており、一致したとは発表されていないので、韓国側に抵抗感があるのかと推測しました。

  8. 匿名 より:

    韓国が「北朝鮮」の非核化に言及できるとは思えないけど、無茶苦茶圧力がかかるだろうな。

  9. ラスタ より:

     さらに、外交的修辞を日常表現に翻訳しつつ圧縮要約すると、日米は、

    ① 中国の国際法違反を許さない。
    ② 国際法を無視した中国海警法による領海侵害を阻止する。
      尖閣諸島海域防衛には軍事的手段も辞さない。
    ③ 中国が主張する南シナ海権益を認めない。
    ④ 台湾有事があれば軍事介入も辞さない。自治区における人権侵害を許さない。
    ⑤ 北朝鮮を完全非核化する。韓国は国連安保理決議のもとに義務を果たす責任がある。
      拉致問題は非核化の進捗にかかわらず早急に解決されねばならない。
    ⑥ FOIP構想のもとに豪印と準同盟関係を強化する。
      ASEAN諸国はFOIPに参加できる。
    (筆者氏の要約文をベースに私独自の解釈しておりますので、誤謬あれば私の責任です)

     どれひとつとして南朝鮮がコミットできない事柄で日米が合意したと。

     体裁としては、日米がそのような意見の一致をみたということですね。
     私は、これは単なる日米合意ではなくて、日米2+2の場を借りた「アメリカの対中(南朝鮮では「反中」と言うらしい)方針の表明」であり、それを訪韓前に行ったところに意味があると考えます。

     アメリカとしては、米韓2+2で面前で踏み絵を突き付けてもグズグズ言い逃れされるという前提でしょう。
     話はもういいから。状況は固まってる。のるかそるか、あんたらが決めなさいと。

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