VOA「北朝鮮の11月対中輸出は実質2832ドル」

武漢コロナと北朝鮮について、先日の『WSJ「コロナで北朝鮮経済が数十年来の打撃受ける」』では「今年の中朝貿易高が75%減少した」などとする話題を取り上げたのですが、似たような話題が米メディア『ボイス・オブ・アメリカ(VOA)』から出て来ました。これによると、11月の北朝鮮の対中輸出額が、約29万円に留まったのだそうです。

コロナ禍で北朝鮮経済が苦しむ=WSJ

今月の『WSJ「コロナで北朝鮮経済が数十年来の打撃受ける」』では、どうも北朝鮮経済が制裁に加え、武漢コロナ禍でも大きく苦しんでいるらしい、とする話題を取り上げました。

とりわけ、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は先々週、こんな記事を配信しています。

North Korea’s Economy Hit Harder Than It Has Been in Decades

―――米国時間2020/12/18(金) 09:03付=日本時間2020/12/18(金) 23:03付 WSJより

(※ただし、全文が英語であり、かつ、WSJと契約していないと閲覧できない可能性がありますのでご注意ください。)

WSJの記事には、次のような内容のことが書かれています。

  • もともと制裁で苦しんでいた北朝鮮の経済が、コロナウィルスの蔓延で深刻な打撃を受けている
  • 北朝鮮は全土にロックダウンを導入するとともに、経済制裁下での貴重な外貨獲得源だった外国人観光客の受け入れを中止した
  • 中国との貿易高は2020年と比べて75%減少し、2020年10月に限定すれば、貿易高は170万ドルと前年同月比99%の減少となった
  • 人的接触を最小限に抑えるため、北朝鮮製品の輸出は停止し、中国からの食品や医療機器の輸入も10月に停止しているようだ

…。

この報道が事実なのだとしたら、なかなか大変な話ですね。

コロナ禍で北朝鮮の「加工貿易」に大きな打撃=VOA

こうしたなか、北朝鮮経済の苦境を伝える記事を、もうひとつ発見しました。米『ボイス・オブ・アメリカ(VOA)』(朝鮮語版)の記事によると、中国の北朝鮮に対する「域外加工」貿易が急減している、というのです。

今年、中国の北朝鮮に対する域外加工が急減…11月の実輸出額は2000ドルに留まる【※朝鮮語】

―――2020/12/26 5:00付 VOA朝鮮語版より

この「域外加工」とは、中国が製品の製造工程の一部北朝鮮に委託するというもので、北朝鮮で組み立てた製品が中国に再輸出される、という特徴があります。

VOAは中国の税関総署が5日に公開した中朝間貿易の詳細資料をもとに、新型コロナウィルスの蔓延が本格化した3月から11月までに北朝鮮が中国に輸出した品目が、電力、フェロシリコン、時計のムーブメント、タングステン鉱、その他低価格品という5品目に限られていたと指摘。

さらに、電力については中朝両国の合弁発電所で互いにやり取りするものであるため、実質的な「加工貿易」による輸出品は時計のムーブメントに限られていた、ということです。

ちなみに、昨年に関しては、北朝鮮の5大対中輸出品目は、この時計のムーブメント、フェロシリコン、タングステン鉱以外にも「つけまつげ」(カツラを含む)や解剖実習用人体模型だったそうで、時計のムーブメント、つけまつげ、人体模型の3品目はいずれも加工貿易品だったのだとか。

輸出額は前年比26%水準、先月だけだと輸出高はほぼゼロに!

こうしたなか、VOAには、ほかにも興味深い記述がいくつか出て来ます。

そのうちのひとつが、北朝鮮の今年(1~11月まで)の対中輸出額が前年比で26%という水準に落ち込んだ、というデータです。北朝鮮制裁が本格化する前の2015年と比較すれば、わずか2%に過ぎません。1月から11月までの11ヵ月間で比較すると、次のとおりです。

  • 2015年…22億8千万ドル
  • 2019年…1億8千万ドル
  • 2020年…4638万ドル

そして、今年の北朝鮮の5大輸出品目の輸出総額も3592万ドルと、前年の1億3662万ドルとくらべて26%水準に落ち込んでいるのだそうです。

一方、北朝鮮の今年の対中輸入は消費財品目の比重が大きく高まり、3~11月に限定すれば、金額が大きい順に「▼大豆油、▼小麦粉、▼砂糖、▼ゴムタイヤ、▼タバコ代用物」だった、ということです。

興味深い記述は、ほかにもあります。

11月の1ヵ月に限定すれば、北朝鮮の中国向け輸出額がほぼゼロになった、ということです。

まず、11月の北朝鮮の対中輸出総額は112万5千ドルでしたが、このうち最大の輸出品目は電力(112万2812ドル)であり、これを除くと北朝鮮の対中輸出品目は次の3品目だったのだそうです。

  • 化粧品…1854ドル
  • 石鹸…19ドル
  • その他の低価格品目…509ドル

この3品目を合計すると、対中輸出総額は2832ドルだったのだそうです。1ドル=103円と仮定すれば、約29万円、といったところでしょうか。

また、輸入した品目は16品目でしたが、電力を除くと金額は14万3千ドルに過ぎず、昨年(2億ドル)と比べると貿易高は激減している、といえるでしょう。

物価は安定しているようだが…

もっとも、WSJもVOAも米国メディアであるという点については、少し割引いて考えるべきかもしれません。

というのも、『韓国が安保理制裁に違反して北朝鮮の瀬取りに関与か?』でも報告したとおり、経済制裁に苦しんでいるとされるわりには、『アジアプレス・ネットワーク』というウェブサイトが公表する『<北朝鮮>市場最新物価情報』を見ると、物価は驚くほど安定しているからです。

同ウェブサイトでは、ガソリン、北朝鮮産米、トウモロコシ、人民元、米ドルの5つの品目の物価が掲載されているのですが、縦軸を見やすくそろえるため、ここでは①ガソリン、②米ドルと北朝鮮産米、③トウモロコシと人民元の3つのグラフに分けて、物価の推移を確認してみましょう(図表1~3)。

図表1 北朝鮮の物価推移(ガソリン)

図表2 北朝鮮の物価推移(米ドルと北朝鮮産米)

図表3 北朝鮮の物価推移(トウモロコシと人民元)

(【出所】図表1~3ともに『アジアプレス・ネットワーク』の『<北朝鮮>市場最新物価情報』を参考に著者作成)

もちろん、『アジアプレス・ネットワーク』に掲載されているデータが信頼できるのかどうか、という問題はありますが、ただ、その点を脇に置くと、やはりこの動きは気になるところです。

一般に物価は「カネの価値で表示したモノの値段」であるとされますが、同時にそれは「モノの価値で表示したカネの値段」でもあります。当然、モノ不足だと物価には上昇圧力が加わりますが、逆にカネ不足だと、物価には下落圧力が加わります。

北朝鮮の場合は複雑で洗練された金融商品取引システムなど存在しないため、市中に出回る北朝鮮ウォン紙幣の量が少なければ、物価が安定するのは当然のことだ、という言い方もできなくはありません。

しかし、それにしてもWSJやVOAの報道が事実なのだとすれば、やはり北朝鮮の物価が安定しているというのは、「カネ不足」だけでは説明がつかない要因が存在している可能性を強く示唆しているように思えてなりません。

もちろん、それが具体的に何なのかについてはよくわかりません(ひとつの例を挙げるならば、「モノ不足」を改善するために、中国などの税関に引っかからない「密貿易」などがさかんに行われている、という可能性もあるとは思いますが…)。

しかし、統計に引っかからない密貿易が北朝鮮の物価水準に影響を与えるほど大量・反復的に行われているのだとしたら、それはそれで何らかの証拠が出て来そうな気がします。いずれにせよ、続報を待ちたいと思う次第です。

読者コメント一覧

  1. タナカ珈琲 より:

    誰もコメントしないのでワタシが……。思い付きません。で、何時ものしょうもない、そして空気を読まないヤツを……。思い付かないです。

    年金生活者のワタシは偶数月の15日ははつ恋の女性に再会するのと同じ嬉しい日デス。で、正確な振込が有ったのかは……。2832ドルの対中輸出はすごい金額です。私の年金額(毎月ですよ)よりも多いデス。凄いです。北朝鮮の経済力は……。

    蛇足です。
    2カ月分の振込額は2832ドルよりも多いデス。悪しからず。

  2. めがねのおやじ より:

    更新ありがとうございます。

    対中貿易額2,832ドルかー。その内、金一族が2,800ドル取って(笑)、「足らん分は各国大使館で贋札出して、両替してこい」ーーな訳ありませんヨネ、今どき。ピンハネされるだけの奴隷部隊も禁止されてるし。

    『アジアプレス・ネットワーク』の報告では、米、トウモロコシ、ガソリン等が対象ですが、米といえども等級があり、日本産は大概美味とされます。北朝鮮の米は旨いと言うのは聞いた事ありません。

    祖国訪問団や観光(監視付旅行)で行った人は、「不味い」というのが普通です。色、ツヤ、粘り、味、、どれも日本産に及ばないと。トウモロコシなど硬くて、砕いて煮る。雑穀米で日本なら健康志向で重宝されますが、「臭い、マズイ、色悪いねン」と言ってました。

    ガソリンはまともなオクタン価を示すのでしょうか?ベンツ乗ってる高官が居るだけに、流石に「混ぜもの」は出来ない(笑)でしょう。

    中国も冷たいな。コロナ禍とはいえ、餓死寸前の北朝鮮を見ても見ぬふり。流石に扱いは日本より遥かに上手です。

  3. 伊江太 より:

    ・北朝鮮の経済が、コロナウィルスの蔓延で深刻な打撃
    ・中国との貿易高は、2020年10月に限定すれば前年同月比99%の減少
    ・中国からの食品や医療機器の輸入も10月に停止

    こう並べてきて、

    >物価は安定しているようだが…

    は、いくらなんでも???…?!、ですね。

    軍と特権階級の必要物資くらいは、瀬取りその他でなんとかしてるんでしょうが、たとえ当面だけとしても、国民経済がこれで回るとは到底思えない。

    戦時中の日本の統制経済下では、そもそも生活必需品はすべて配給。値段なんかなかったようなものですが、カノ国では配給制度の崩壊なんぞはとうの昔。カネこそが命の綱、物価騰貴は天井知らずが常識のはずなんですが。

    考えられるとしたら、地域の末端まで浸透している住民監視、密告の網に引っかかったら、即公開処刑という恐怖が、経済秩序(と言えるのかなぁ?)を保たせているのか、ということくらいでしょうか。

  4. 匿名 より:

    中国が北から電気買ってるほうにビックリ
    そこまで切迫してるんじゃそりゃ停電も起きるわ

  5. 矢塚 より:

    もしかして通貨として機能していない可能性があるのではないか...と思ったりします。
    流通が極端に限られているとかで、価値の尺度としては機能しないのではないかと。
    伊江太様が「配給」と言われていましたが、ポイント制の配給券みたいな状態になっている可能性はないのでしょうか。

  6. sey g より:

    民族の特性あるいは色と言うものは、時代や教育などでは変わらない、根の深いものです。
    つまり、同じ民族でも 方や 何でもしてくれるお人好しが隣にいるか、方や 鬼より怖い極悪人が隣にいるかで、どれ位影響があるかの貴重な実験結果だと思えます。
    つまり、半島の民族は 助けてくれるお人好しがいなければ、李氏朝鮮に収束するという またとない証明ではないでしょうか。
    で、韓国への制裁は まず、国債発行と財政出動のコンボで緩やかなインフレを起こすだけで達成出来るかと。
    それだけで、今なら中国を抜いて世界2位のGDPになり、その上で韓国を無視すれば 事大出来ない韓国は発狂するのでは。

  7. 愛読者 より:

    >物価は安定している
    この部分を裏付ける他の報告が少なく,異常なインフレ報告の記事もあって,結局,情報がほとんど遮断されていて,よく分かりません。経済難のもとでも軍の近代化だけは急いでいるという報告もあり,意図を推察するのも難しいです。民衆反乱はないでしょうが,国家の中枢部で,かなり不満がたまっている気はします。だた,東アジアの人達は絶対君主に従うのを苦に思わない人も多いので,安定が崩れることはないかもしれません。日本人も,経営者や上司の理不尽に黙って従う人が多いので,中国共産党下ぐらいなら,普通に暮らしていけるかもしれません。北朝鮮だと,さすがにきついかな。昔,在日朝鮮人の帰還事業で,大勢移住させましたけど。

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