先ほどの『米FRBが為替スワップ・FIMAレポの再延長を発表』の「続報」(?)です。韓国メディア『中央日報』(日本語版)に、『韓米通貨スワップ6カ月延長したが…韓日通貨スワップは再開もできず』という記事が掲載されたようです。史上最大の外貨準備と米韓為替スワップ、中韓通貨スワップがある韓国にとっては、日本との通貨スワップなど不要でしょうし、「ノージャパン」を続けていれば良いのではないかと思う次第です。
目次
米国の為替スワップとその威力
今朝方の『米FRBが為替スワップ・FIMAレポの再延長を発表』で速報したとおり、米FRBは現地時間16日のFOMCで、9ヵ国の外国中央銀行・通貨当局(FIMA)と締結している一時的な為替スワップファシリティを2021年9月末まで延長すると発表しました。
日英欧瑞加5ヵ国・地域の中央銀行との期間・金額無制限の為替スワップとあわせて、FRBは現時点で14のFIMAと為替スワップ契約を締結しているという状況です。
現実にこのファシリティに基づく引出額は、12月17日時点で合計100億ドルにも満たず、借り入れているのもスイス、シンガポール、メキシコ、デンマーク各国の中央銀行・通貨当局と欧州中央銀行(ECB)の5者に限られています。
ただ、武漢肺炎が世界的に蔓延していた今年4~6月にかけて、10のFIMAが4500億ドル近い金額を借り入れていましたし、ピーク時の借入額は日本銀行だけで2000億ドルを超えていたこともまた事実です。
やはり、『数字で読む「人民元の国際化は2015年で止まった」』などでも説明したとおり、やはり米ドルは世界の基軸通貨でもあります。コロナのような経済ショックが発生した際の市場の資金不足局面では、米ドルという基軸通貨による為替スワップは絶大な威力を発揮する、というわけですね。
中央日報「韓日通貨スワップは再開もできず」
こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に、こんな記事が掲載されていました。
韓米通貨スワップ6カ月延長したが…韓日通貨スワップは再開もできず
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―――2020.12.17 10:16付 中央日報日本語版より
記事タイトルと記事本文には韓米「通貨スワップ」と記載されていますが、これは「為替スワップ」の誤記でしょう。通貨当局が直接、相手国から外貨を借り入れる「通貨スワップ」と、自国の市中金融機関に対して相手国の通貨当局が資金を貸し付ける「為替スワップ」は、まったくの別物だからです。
ただ、韓国メディア、あるいは韓国の中央銀行である韓国銀行自身、今回の為替スワップを「通貨スワップ」だと意図的に誤記しているフシもあります(『韓銀、為替スワップを通貨スワップと意図的に誤記か?』等参照)。
もしかすると、自称元徴用工問題を「強制徴用問題」、慰安婦像を「少女像」、日本の対韓輸出管理適正化措置を「輸出規制」などと誤記し続けているのも、「わざと」なのかもしれませんね。
それはともかく、中央日報はこの米韓為替スワップの記事に、なぜか日韓通貨スワップの記述を混ぜています。
「韓国と日本は2001年に初めて通貨スワップ契約を締結し、2011年には700億ドルまで規模を拡大した」、「2012年8月に李明博(イ・ミョンバク)元大統領が独島(ドクト、日本名・竹島)を訪問したことで韓日関係が悪化し、2015年2月に完全に終了した」、といった具合です。
さらには、「2016年末に韓日間で関連の協議があったが、2017年1月に釜山日本領事館前に慰安婦少女像が設置されたことを受け、日本側が一方的に交渉を中断した」、と、まるで日本が一方的に通貨スワップ再開協議を中断したかのような言い草です。
麻生総理「借りてやらないこともないとぬかしたもんですから」
ただ、李明博(り・めいはく)元大統領の竹島不法上陸や天皇陛下(現在の上皇陛下)に対する侮辱発言が日韓関係悪化の原因のひとつだったことは間違いないと思いますが、このあたりの経緯は、少なくとも日本側の当事者が説明する事実関係とはまったく異なっています。
『韓国の無礼な態度により麻生総理が席を立ったのは当然』でも説明しましたが、安倍・菅両政権下で副総理兼財相を務めている麻生太郎総理は今年3月、日韓通貨スワップが失効する前に韓国側が「『そっちが借りてくれと言えば借りてやらないこともない』とぬかした」と述べた、と明らかにしました。
参議院『インターネット審議中継』のページから『2020年3月31日・財政金融委員会』を選び、麻生総理の発言を可能な限り忠実に文字起こししたものを再掲しておきましょう。
麻生太郎財務大臣・2020年3月31日付財政金融委員会答弁
なが~い話ですので…、え~(場内に笑いが起こる)。
そうですねぇ、外務大臣の頃からですから、もう十数年、何百億ドルもありましたかね、通貨スワップは。だんだん減ってきて、随分減って来たんだと思っておりましたが、民主党政権の時代にさらにガタっと減っていますわな。そして、安倍内閣が再スタートしたときに、確か音喜多先生、150ぐらい残っていたと思うんですね。日銀で50、財務省で100ぐらい残っていたと記憶しておりますけれども。
ま、日銀の50がなくなって、最後の財務省の100になったときに、向こうの財務大臣に「大丈夫か」と、「カネ廻んなくなるだろうが」って言ったら、「いや、大丈夫だ」。「あぁそう?」とほっといたら困ったような顔になって来たんですけど、もう1回だけ「大丈夫か」と言ったら、「そっちが借りてくれと言えば借りてやらないこともない」とぬかしたもんですから、「ふざけるな」と思ってそのまま席立って「はいさようなら」。それが最後。
それから今日まで、韓国の場合はウォンと元のスワップをしておられると思いますが、元とウォンとの間のスワップはもう1回やってからドルに替わりますんで、コストは上がるということで、ずいぶんと割を食っておられるんだと思いますが、その後再開というお話がありましたんで、あの、「もとはといえばそっちが断ってきた話だろうが。こっちが言ったのにそっちが断ってきた話なのに、なにをいまさら頼みに来るんだよ。ちゃんとそれ、然るべき仁義は踏んでもらおう」という話ですよね。日本的に言えば。
ちゃんとやってもらおうと言ったらいきなり例の銅像ができちゃうって話ですよね。全然話になりません。いまのところ向こうが言っておられるという話は噂には聞いておりますけれども、私ども財務省としてこの話を直接聞いたことはありません。
なぜノージャパンの国にスワップを提供しないといけないのか
いちおう補足しておきますとこの麻生総理の発言には若干の事実誤認もあります。財務省の「CMIスワップ」は100億ドル相当額だったのですが、日本銀行の円建て通貨スワップは「50」ではなく「30億米ドル(相当額の日本円)」であり、少し金額が異なっています。
ただし、「リーマン・ショック」が発生した直後の2008年12月に、日本は韓国に対して円建ての方のスワップの規模を200億ドルに増額してあげていますし(※増額措置は2010年4月に終了)、野田佳彦首相(当時)は2011年10月に、スワップの総額を700億ドル相当にまで拡充しています。
これもなんだか恐ろしい話ですね。
現在、日本政府が発動した対韓輸出管理適正化措置に対し、国を挙げて「NOジャパン」だ、などと大騒ぎしているような国と、なぜ通貨スワップを結ばなければならないのでしょうか。まったく理解に苦しむ点です。
もっとも、最近だと韓国はウォン高に苦しんでいるためでしょうか、おそらく為替介入(ウォン売り・外貨買い)を常態化しているものと思われます(著者私見)。
その証拠が、韓国の外貨準備高です。
韓国銀行の発表によれば、2020年11月末時点の韓国の外貨準備高は4363億7722万ドルで、前月の4265億0982万ドルからは98億6740万ドル増えています。
韓国銀行は「ドル安の進展や外貨資産の運用益(が外貨準備が増えた理由)」などと説明しているのですが、1ヵ月で100億ドルも増えるというのは不自然であり、やはりウォン高の行き過ぎを是正するための為替介入を行った結果と考えた方が自然でしょう。
また、韓国には外貨準備高とマネタリーベースに密接な相関関係があることも知られていますが(図表)、「ウォン高」→「為替介入(ウォン売り・外貨買い)」→「外貨準備高とマネタリーベースが同時に増える」、という流れがあると仮定すると、説明がつきやすいのです。
図表 韓国の外貨準備高とマネタリーベースの関係
(【出所】韓国銀行データをもとに著者作成。なお、左軸は外貨準備高が十億ドル、マネタリーベースが1兆ウォン)
さて、いずれにせよ、韓国は自称4000億ドルを遥かに超える外貨準備をお持ちなのですし、また、米国との600億ドルの「通貨」スワップに加え、中国との間で4000億元という破格の通貨スワップも保持しているわけです(『中韓通貨スワップ、金額では日中為替スワップの2倍に』等参照)。
日本との通貨スワップなどなくてもまったく困らないと思うのですが、いかがでしょうか。
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いつも通りの公表されている凡ゆる資料の数値を基に手堅く平明に展開される新宿会計士さまの議論に安心感を覚えます。「そうこなくちゃ」と言う感じ。
そしてこう安定的に平明に説明されますと何故か辻褄が合わない韓国のニュース。つまりこのニュースは「何かの片鱗」を捉えているがそれが何か言うことがない(出来ない)。ではそれは一体何なのか?と言うミステリーですね。
韓国が自称する通貨スワップ(通貨融通)のうち、どの程度の割合が為替スワップ(貸借)なのでしょうね?
対米スワップの行使時に担保の差入れが求められてることからも、為替スワップ枠の実態は融資の上限を定めたに過ぎず、差出せる担保力の上限が事実上の実行上限なのかと・・。
彼らの「信頼回復のためには通貨スワップが不可欠」は、永遠の謎理論。
本来は「通貨スワップのためには信頼関係が不可欠」の筈なのにね・・。
記事の中身云々にケチを付けても意味が有りません。
日本政府が、甘い対応をしてるから、こんな寝言を言って来るんだと思います。
韓国にとって日韓スワップは、「韓国経済の安全弁」だそうです。
日韓スワップを締結すれば、他国が日韓関係が改善して、韓国への日本の裏書きが再開したんだと思われるでしょう。
重ねて言いますが、日本政府が甘い対応をしているのが悪いんです。
早く崩壊してくれないかな~
独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
(なにしろ、韓国と違って自分が間違う存在であると自覚しているので)
もはや韓国自身も、自国通貨で何が起きているのか分からなくなってきているのではないでしょうか。(もっとも、他国でも、後になってみれば、実は分かっていなかった、ということもありますが)
駄文にて失礼しました。
更新ありがとうございます。
『2017年1月に釜山日本領事館前に自称慰安婦像が設置されたことを受け、日本側が一方的に交渉を中断した』→
これだけコケにされて、スワップを締結してやる情け深い国は日本ぐらい。もう二度と無い!
ウォンなんか辞めて、中国元にしたらどうか?信用度はウォンよりマシだろ(笑)!
めがねのおやじさま様へ
>これだけコケにされて、スワップを締結してやる情け深い国は日本ぐらい。
もし、鳩山民主党政権なら、やりかねないと思いますが。(個人的な考えですが)韓国の文大統領の頭の中では、日本の大統領(?)は鳩山由紀夫になっているのでしょう。(それを菅義偉総理が邪魔しているのです)
駄文にて失礼しました。
日韓スワップの再開?断固反対です。
以上
問題が起きたとき「はてどうするか」って誰でも考える。
韓国人は「人をどう動かせるか」しか考えないのだね。誠意を尽くして信頼関係を築き、共存共栄を図る。そんな事はしない。自分の利益だけ考えればいい。そんな甘いこと考えるのは日本人だけだと言われるなら、私は日本人であり続けたい。
まさに「きれいな貧乏より、汚い金持ち」という発想を実践する人達なんだね。
為替スワップと通貨スワップの違いも重要ですが、通貨スワップの中での、日本が手がける「ドル通貨スワップ」と普通の円を使う通貨スワップとの違いについても意識していただきたいです。
それぞれのスキームについては皆さんご存知でしょうからそれ以外について。
円を使ったスワップであれば締結権限は日銀にあります。日銀に発行権のある円をリソースに使うわけですからね。むしろ日銀の独立性もありあまり口出しできないと思われます。
一方ドル通貨スワップは、これは最終決定権は日本国、財務省にあります。国の外貨準備を使う話ですから、日銀は交渉窓口になるだけです。
一度、日本は間違えて韓国と通貨スワップを取り組んでました。これはドル交換の可能性がある通貨スワップでした。だから延長するしないの時に出てきたのが麻生太郎財務相。彼が最終権限者ですから。結局あの物言いでもってスワップは消滅しました。
その後2016年だかにスワップ再開の話があり、結局は立ち消えになりましたが、その後の話で麻生総理が『スワップ再開なんて話聞いてない』っておっしゃってたのが印象的でした。もちろん麻生総理が知らないわけではないのですが、スワップ再開の検討が最も広がっても円ベーススワップに止まるなら、最終権限者へのお伺いとまではいかなかったということでしょう。
日銀の権限で出来るのか、麻生財務相の決裁が必要なのか。この差についてもスワップ議論については注目しとかなきゃいけません。
デリバティブの方の通貨スワップなら、日韓スワップをするところがあるかもしれませんね。
知らんけど。
たい 様
デリバティブの方の通貨スワップ(Cross Currency Swap)の場合、金融機関同士であればISDAマスターアグリーメントを締結していれば、通貨スワップ契約も締結可能です。ただし、そのスワップを受けてくれるカウンターパーティがいれば、という話ですが。
引き続き当ウェブサイトのご愛読とお気軽なコメントを何卒よろしくお願い申し上げます。
新宿会計士様
ご教授ありがとうございます。
現在証券外務員試験を勉強しているので、テキストで通貨スワップの記載を読んだ際に、おかげさまで「ああ、あっちの通貨スワップか」とニヤリとできました。
韓国にとっては、スワップよりも、例の銅像のほうが大切なんでしょうね。
まあ、今の状況なら、あんな銅像だけでは、済まさないでしょうけど。