細かいミス目立つデイリー新潮「韓国とスワップ」論考

日韓通貨スワップを含めたスワップ取引全般を巡っては、当ウェブサイトでもずいぶんと取り上げて来ましたし、また、最新刊『数字でみる「強い」日本経済』にも論点として織り込んだところでもあります。こうしたなか、ウェブ評論サイト『デイリー新潮』に本日、日韓通貨スワップに関する論考が出ています。こうした論考が掲載されること自体は良いことですが、残念ながら、いくつか細かいミスがあるようですので、念のため数ヵ所だけ、簡単にコメントしたいと思います。

デイリー新潮のスワップ記事

『デイリー新潮』というウェブ評論サイトがあります。

日本を代表する優れた韓国観察者である鈴置高史氏が『鈴置高史 半島を読む』という連載シリーズを持っていることもあり、鈴置ファンであることを公言する著者自身、デイリー新潮を頻繁に参照している次第です。

ただ、個人的にデイリー新潮を読む最大の理由は、鈴置氏が寄稿しているから、というものであり、デイリー新潮に掲載されている記事を、無条件に信頼しているわけではありません。その記事が信頼に値するかどうかは、中身を読んで判断しなければならない、というわけです。

(※もっとも、「中身を読んで判断しなければならない」という点については、デイリー新潮であろうが日経新聞であろうが、同じことだと思いますが…。)

こうしたなか、少し気になったのが、韓国の外貨準備高や通貨スワップなどについて取り上げた、次の記事です。

通貨スワップ終了を嘆く韓国…政府・中銀の無策、外貨不足で財閥に泣きついた国策銀行

中央銀行に当たる韓国銀行は6月末の外貨準備高が過去最高の4107億5000万ドルになったと発表した。中央銀行は、為替介入や輸入代金の支払いが困難になったときな<<…続きを読む>>
―――2020年7月17日付 デイリー新潮より

執筆されたのは「広告プランナー兼ライター」の佐々木和義さんという方です。

韓国の外貨不足に関する概要などが非常によくまとまっていて、わかりやすいのですが、やはり、部分的にいくつか細かい事実誤認、あるいは当ウェブサイトが提示する仮説と異なっている部分も含まれています。そこで、ここではリンク先記事について、気になった部分について、簡単にコメントしておきたいと思います。

外貨準備は逆介入?

まず、韓国銀行が6月末の外貨準備高について「過去最大の4107億5000万ドルになった」と発表したことについては、次のように述べられています。

韓国銀行は、外貨準備高が減った理由として、ドル高が進行し、ドル以外の外貨建て資産のドル換算価額が目減りしたことを挙げた。6月末には過去最高を更新したというわけだが、これもドルが下がった影響で外貨資産のドル換算価額が上がったからだという可能性があり、実際に増えたとは限らない。

この点、国際金融の専門家のなかで、「韓国の外貨準備高の中身」を疑っている人は多いのですが、ただ、当ウェブサイトとしては4-6月における韓国の外貨準備高の短期的な動きについては、為替相場と為替の逆介入で、ほぼ説明が付くと考えています。

詳しい分析は『【為替操作の賜物?】韓国の外貨準備高が史上最大に』で述べたとおりですので繰り返しませんが、実際に為替相場の動きなどから総合的に判断して、「ドルが下がった影響で外貨資産のドル換算額が増えた」という要因よりも、「為替の逆介入」という要因の方が大きいと考えた方が自然でしょう。

(※もっとも、この点については当ウェブサイトの議論が絶対的に正しいと申し上げるつもりはありませんが…。)

外平債の発行残高自体は

次に、

6月末の発表に際して政府は、大規模な外国為替平衡基金債券(外平債)を発行することも明らかにしている

という部分があるのですが、『韓国政府が外国為替平衡基金債券発行へ=韓国メディア』でも述べたとおり、この「外平債」自体、発行残高は非常に少なく、韓国という国の外貨建短期債務に大きな影響を与えるものではありません(※ただし、あくまでも韓国側のデータを信じるならば、ですが)。

なお、「デイリー新潮の記述に問題がある」という意味ではありませんが、気になる部分はほかにもあります。それが、次の記述です。

韓国企画財政部は7-9月期に15億ドル規模の外平債の発行を計画し、国内外の証券会社に入札提案要請書(RFP)を発送した。韓国政府の外平債発行残高は約9兆8000億ウォン(81億5800万ドル)で、年3000億ウォンの利子を負担している。計画通りに15億ドルを調達すると発行残高は11兆6000億ウォンに膨れ上がる。

この記述は、おそらく韓国経済新聞に掲載された記事をベースにした記載だと思います(日本語版だと中央日報に6月25日付で『韓経:韓国、外貨準備高4000億ドル超えるのに…外平債また発行』という記事が掲載されています)。

ただ、当ウェブサイトでもいろいろと調べていくと、この金額(とくに発行残高)については、韓国銀行のデータベースなどで確認することができないのです。

たとえば、「債券の発行残高」に関する統計を調べていくと、「通貨安定証券」という項目が出て来るのですが、これがいわゆる「外平債」なのかと思ってデータを調べると、先ほどの韓経の記事と大きな矛盾が出てきます。

韓経の記事によれば、外平債の発行残高は11兆6000億ウォンとされていましたが、韓国銀行のデータベースに掲載されている「通貨安定証券」の2020年6月末の発行残高は168兆8700億ウォンであり、およそ15倍の開きがあります。

また、資金循環統計をチェックしてみても、政府部門ないし中央銀行部門が外貨建てで債券を発行している事実は確認できません。このように、韓国の統計は基本的な部分でさまざまな粉飾ないしゴマカシが横行しているのではないかと痛感せざるを得ないのです。

通貨スワップ≠為替スワップ

デイリー新潮の記事に戻りましょう。細かい話ですが、次のような記述にも誤りが含まれています。

日本銀行は潤沢な外貨を保有しており、さらに日本は、米国、ユーロ圏、英国、カナダ、スイスと無期限かつ無制限の基軸通貨スワップのネットワークを形成している。市場は日銀が必要な外貨を必要なだけ引き出すことができることを知っており、日本政府が介入を口にするだけでアナウンス効果がある。

まず、日本が米英欧瑞加の5ヵ国・地域の中央銀行と締結している「無期限かつ無制限のスワップ」は、いわゆる「通貨スワップ」ではありません。「為替スワップ」です。また、「必要な外貨を必要なだけ引き出す」のは「日銀」ではありません。「金融機関が日銀経由で引き出す」のです。

通貨スワップと為替スワップの両者は、「外貨が手に入る」という意味ではよく似ていますが、外貨の供給先が中央銀行か金融機関かという点では、まったく性質が異なります。

なお、「通貨スワップと為替スワップの大きな違い」については『【総論】4種類のスワップと為替スワップの威力・限界』などを含め、当ウェブサイトでもこれまでずいぶんと取り上げて来ましたが、近日中にもういちど、詳しく説明してみたいと思います。

為替介入には「売り」「買い」の2種類あるのだが…

そして、次の点についても、何だかよくわかりません。

日本の最後の為替介入は2011年10月28日から2011年11月28日までで、1か月間で9兆916億円を使うなど、2011年には年間約14兆円の為替介入費を使っている。韓国ウォンは日本円に比べてはるかに市場規模が小さいとはいえ、介入原資が一度の介入で枯渇する可能性は否定できない。

韓国の場合は「ウォン売り介入」、「ウォン買い介入」の双方が活発になされているようですが、日本が為替介入をする場合は「円売り介入」が多く、そもそも為替介入のために外貨が必要、というケースはほとんどありません。

ちなみに為替介入を行う原資は、日本の場合、おもに短期国債・国庫短期証券(TDB)です。財務省が短期国債を発行しておカネ(円)を市場から借り入れ、それを市場で売ってドルを買う、というわけですね。

理論上、円建ての日本国債は無限に発行可能ですから、その気になればTDBを1000兆円分発行して米国債を数兆ドル買い上げれば、ドナルド・J・トランプ米大統領も大満足、といったところでしょう。

(※余談ですが、日米為替スワップには日銀による米国に対する財政ファイナンス、という面もありますが、これについては『日米為替スワップは「日本が米国を助ける手段」なのか』あたりで議論していますので、ご参照ください)。

この「為替介入の方向」(自国通貨を売る側なのか、買う側なのか)によって、為替介入の難易度は格段に異なるのですが、詳しくは近日中に解説しても良いかな、などと感じている次第です。

もっとも、日韓通貨スワップが「日本が一方的に韓国を助けるためのスワップである」という問題意識が日本国民の間に広がること自体は、良いことです。なぜなら、多くの書き手の人々が日韓通貨スワップを取り上げれば、それだけこの日韓通貨スワップに対する世間的な注目も集まるからです。

その意味で、日韓通貨スワップ待望論を牽制するうえでは、この手の記事が増えることは歓迎したいと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 老兵R2 より:

    話がずれて申し訳ないのですが、
    昨晩のNHK BSニュースで、
    韓国が武漢ウィルスのワクチンを開発していると
    延々現地メディアの放映を垂れ流していました。
    …気持ちの悪いあの言語をそのままで。
    相撲中継は見たいけれど、こんなんでは、
    受信料払いたくないと心底思った次第です。

  2. 阿野煮鱒 より:

    この記事を書いた佐々木和義氏のプロフィール(普通は本人が書く)を見ると、

    —-
    (前略)2009年に渡韓。日本企業のアイデンティティや日本文化を正しく伝える必要性を感じ、2012年、日系専門広告制作会社を設立し、現在に至る。日系企業の韓国ビジネスをサポートする傍ら日本人の視点でソウル市に改善提案を行っている。韓国ソウル市在住。
    —-

    だそうで、韓国にお住まいになって11年。多年韓国に暮らし、韓国視点の情報を仕入れていると、知らず知らずに韓国バイアスのかかった情報が染みこんでくるのかもしれません。通貨スワップと為替スワップの混同も、韓国内の報道機関から仕入れた情報が染みこんでいるのかも。

    最初はこの元記事を、韓国当局のお先棒を担ぐために、日本人に馴染むような韓国批判論調を装いつつ、韓国救済に誘導する記事かと警戒しながら読みましたが、どうもそれは穿ち過ぎのようです。新宿会計士様ほどの専門性を持たないが故の筆の滑りではないかと「私は」判断しました。

    1/3ページ中頃の写真に「中銀・韓国銀行のたそがれ」というキャプションが添えられています。確かに黄昏時が迫る時刻に撮影された写真ではあるのですが、それなら「たそがれ時の韓国銀行」と書きませんかね。韓銀にたいする、ちょっとしたおちょくりを感じました。

    1. 団塊 より:

      阿野煮鱒さんへ

       アメリカが3月に勝手に始めたスワップは、通貨スワップではない為替スワップである。

      一瞬で突っ込みを入れられる日本人は、ここ新宿さんブログの熱心な読者だけ。
       他にいるとするなら、ここの読者が為替スワップと通貨スワップの違いを広めたためですよ。キッパリ!
       日本人か朝鮮人か分かりませんが、十年以上の朝鮮半島住人に、為替スワップとかドル流動性スワップとか無理、朝鮮半島に新宿さんのブログはないんだから無理です。

  3. イーシャ より:

    夕方の記事公開時刻は 17:17 と予想していましたが、はずれました。

  4. カズ より:

    通貨安定証券の発行主体は韓国銀行。

    外平債の発行主体は韓国政府で、調達した資金は「外国為替平衡基金」として運用されてるみたいですね。

  5. だんな より:

    なんか色々おかしな事を書いてる記事だと思って、スルーしました。
    新宿会計士さんのおかけかなぁ?

  6. めがねのおやじ より:

    更新ありがとうございます。

    佐々木和義さん。在韓日系企業や今から進出を考える日本企業の韓国コンサルタント業務なんですか。他人事なので、要らぬお節介でしょうが、大丈夫ですか?そんなにこれから先、需要があるとは思えないんですが。

    記述内容に間違いがあります。通貨スワップ⇄為替スワップの間違いもそうだし、韓国の外貨準備高もそうだし、いろんなところで「こういう言い方はしないよ」というのも分かります。あまり得意じゃないのかも。

    でも、失礼ながらコンサルには、この手の人はゴマンと居ます。詳しい事は調べもせずに、適当に上っ面を話し、得意分野に引っ張り込む。

    よく経営セミナー、ビジネスセミナーには参加しましたが、自分の書いた書籍を売りつける(既に変色してまっせ〜)、断定的にモノを言う、下を向いたら叱責する、退場を命ずる、他人の悪口を平気で言う。

    中には同業他社の最新情報を漏らす、強み弱みを話す。ギョッとして、明日にはウチの事、言われてるな〜と誰でも気づきます。

    ま、そんな感じです。でも韓国とはね。長いこと居て情が移ったのかな?

  7. 引きこもり中年 より:

     独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
    (自分でも、基本的な質問だと思うので)

     日本の憲法9条は周辺国を信頼することで成立しています。そして、日本
    の周辺国は、韓国、北朝鮮、中国、ロシアもありますが、太平寺を挟んで
    アメリカ本国、または小笠原諸島の先には米領グアムがあります。ではなぜ
    日本の憲法9条信者は「アメリカを信頼しろ」と言わないのでしょうか。

     スレ違いで申し訳ございません。

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