ここ数日、「通貨スワップ」が世間で騒がれているようです。なぜ、通貨スワップが話題になっているのかについてはよくわからないのですが、ひとつ事実を申し上げておけば、『速報:米FRBが9つの中央銀行と為替スワップを締結』でも紹介したとおり、米FRBが電撃的に世界の9つの中央銀行・通貨当局との間で「『為替』スワップ」協定を臨時措置として復活させたことがあります。本稿では(通貨スワップではなく)為替スワップについて、あらためてじっくりと紹介したいと思います。
目次
どうしてスワップなのか?
当ウェブサイトでは数日前から「スワップ」について言及する機会が増えています。
その大きな理由は、なんといっても昨今の「コロナショック」の影響で、アジアの近隣諸国を含めた各国の株か、為替相場などが大きく動いていることがあります。
そして、得てして「エマージング・マーケッツ」、つまり新興市場諸国にとって最も怖いのは、株安ではなく、「外貨でおカネが借りられなくなる状態」(専門用語で「外貨流動性の欠如」)です(『「株安」と「資本逃避」は必ずしもイコールと限らない』等参照)。
極端な話をいえば、多少、株価が下落したとしても、外国から外貨でおカネを借りていなければ、国際通貨基金(IMF)が乗り込んでくるという心配はありませんし、国が「破綻状態」になる、ということもありません。
しかし、外国の金融機関などから多額のおカネを借りている国の場合は、外国からのおカネの借り換え(ロール)ができなくなった瞬間、最悪の場合、経済は突然死します(『韓国経済の弱点は外貨短期債務~「突然死」リスクも!』等参照)。
なかでも怖いのが、金融機関のデフォルト(債務不履行)です。
企業が倒産する場合と異なり、金融機関が1つでも倒産すると、その国の金融システムが壊滅的な打撃を蒙ることもあります。そこで、各国ともに金融機関が経営破綻しないよう、それなりに気を遣いますし、万が一経営破綻しても政治的に預金を守ろうとする圧力が働きます。
(※実際、わが国の場合も、金融機関が経営破綻した際には預金者の預金が守られるケースが圧倒的に多く、いわゆる「ペイオフ」方式による銀行の清算事例は、戦後に関しては2010年9月に自力再生を断念した日本振興銀行だけです。)
中央銀行の力と限界
中央銀行の力はとても強い
さて、この為替スワップの威力について考える前に、そもそも論として、「通貨と中央銀行の関係」について、少し考えておきましょう。
中央銀行は「最後の貸し手」と呼ばれることがあります。というのも、中央銀行が「この人に貸す」と判断すれば、その人にデフォルトは発生しないからであり、これは国債に関してもまったく同じことがいえます。
以前、『コロナショックへの対応は消費税の減税が手っ取り早い』で言及したとおり、自国通貨建てで発行された国債がデフォルトするためには、①自国投資家、②海外投資家、③中央銀行、のすべてが国債を買ってくれないという状況が生じることが必要です。
たとえば日本の場合、そもそも家計が2000兆円弱という巨額の金融資産を保有し、それらが預金取扱機関(銀行などの金融機関)などに流れ込んでいるなど、国内投資家が巨額の資金を持てあましているため、円建てで債券が発行されれば、飛ぶように売れていく、という状況が続いています。
一方で米国の場合、自国に資金的な余裕がなく、米国内の債券(たとえば米国債)を保有している投資家のその多くが外国人投資家です。したがって、外国人投資家が米国の債券を買ってくれなくなるような事態が発生すれば、米国の金利は上昇してしまいます。
ただし、米国債やエージェンシー債は基本的に米ドル建てで発行されており、極端な話、外国人投資家が債券を買ってくれない状態になったとしても、中央銀行が債券の引受をすれば、「デフォルト(債務不履行)」は発生しません。
(※もっとも、国債を中央銀行が直接引き受けるのはいわゆる財政ファイナンスとして「禁じ手」と位置付けられており、日本の場合も財政法第5条で公債の日銀直接引受は原則として禁止されていますが…。)
財政法 第5条
すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。
つまり、日本国債や米国債の場合、①国内投資家も買ってくれず、②海外投資家も買ってくれない、という状況に陥ったとしても、③中央銀行が買ってくれるのならば、基本的にデフォルト(債務不履行)に陥ることはありません。
いや、もっといえば、中央銀行が貸してくれるのならば、どんな人でも資金繰り倒産することはあり得ません。極端な話、北朝鮮やジンバブエなどがドル建てで発行した債券であっても、米FRBが「買い入れる」と言えば、いくらでも債券を発行することができます。
(※もっとも、FRBがそのような債券を買った瞬間、米国政府・米国議会は大騒ぎするはずですが…笑)
中央銀行の限界:無限にカネを刷れるわけではない
そして、現在、米国、日本、欧州、英国、スイスなど、多くの国が採用しているのは「管理通貨制度」であり、中央銀行は金地金などの裏付資産がなくても(理屈の上では)好きなだけおカネを発行することが可能です。
では、中央銀行は無限にカネを刷れるのでしょうか?
日本銀行が今すぐ1200兆円くらい紙幣を刷って、国民1人あたり1000万円ずつ給付金として配ってくれれば、私たち日本国民はすぐに大金持ちになれそうなものですが、どうして日銀はそれをやってくれないのでしょうか?
その理由は、経済における資金需要を無視して中央銀行が無制限におカネを発行すると、経済理論的には貨幣価値が暴落する(いわゆるハイパー・インフレ状態になる)とされているからです。
たとえば日本政府が1京円(京は兆の1万倍)という国債を発行した場合、日本国内では日銀を除き、そんな巨額な国債を買ってくれる人はいません。そして、日銀がその国債を引き受けてしまえば、マネタリーベースが現在の20倍(!)にも膨らみます。
そんな状態になれば、たぶん、日本円の価値は暴落するでしょうし、物価も数十倍(あるいはそれ以上?)に膨らむかもしれませんね(いや、本当にそうなるかどうかはわかりませんが…)。
中央銀行の能力と限界、そして独立性
だからこそ、多くの中央銀行は政府から独立し、インフレ率が上昇し過ぎないよう(あるいは低下し過ぎないよう)な水準で、金利水準や貨幣供給(マネタリーベース)などの水準を決定しているのです。これが「金融政策」の基本です。
余談ですが、インフレ率と失業率にはかなり強い相関関係があることが知られており、米FRBは失業率などの雇用状況を見ながら金融政策を決定しているのですが、ここで重要なのが、フィリップス曲線の議論です。
ただし、これについては、昨年の『数字で読む日本経済』シリーズのなかの『国債を圧縮する王道とは、インフレと経済成長の達成だ』で触れていますので、ぜひ、ご参照ください。
本論に戻りましょう。管理通貨制を採用する中央銀行の場合、
- 中央銀行が判断すれば、どんな相手でもおカネを借りることができる
- ただし、無節操に中央銀行がおカネを貸せば、マネーサプライが激増し、最悪の場合、貨幣価値が暴落する(ハイパー・インフレ状態になる)というリスクもある
という2点が、すべての中央銀行にとってあてはまる鉄則のようなものなのです。
逆に、これを中央政府の側から見れば、
- 中央銀行が無制限に買ってくれるならば、いかなる国も無限に国債を発行することが可能である
- ただし、国債を発行し過ぎれば、マネタリーベースが増え、最悪の場合、ハイパー・インフレになる
ということでもあります。
だからこそ、日米英欧瑞加などの中央銀行は、政府部門からかなりの独立性を保っているのです。
通貨の能力
ハード・カレンシーという議論
ただし、通貨に対する金融市場参加者からの信頼が確保されるためには、中央銀行が政府部門から独立しているだけではダメであり、その通貨の発行国の経済自体が信頼されていなければなりません。
これを判断するうえで基本的な考え方が、「ハード・カレンシー」という議論です。
著者の定義で恐縮ですが、この「ハード・カレンシー」とは、
「その通貨を取引するうえで法的、経済的、時間的な制約が少なく、その通貨の発行国・地域を越えて、広く世界中で取引可能な通貨」
のことです。
たとえば国際決済銀行(BIS)が3年に1回公表している「外為市場通貨ペア比率」などを眺めると、上位に来る通貨は、だいたい米ドル、ユーロ、日本円、英ポンドなどであり、それ以外には加ドル、スイスフラン、豪ドルなどが上位の「常連」です(図表1)。
図表1 OTC外為市場通貨ペア比率(単位:%)
通貨 | 2013年 | 2016年 | 2019年 |
---|---|---|---|
米ドル | 87.04 | 87.58 | 88.30 |
ユーロ | 33.41 | 31.39 | 32.28 |
日本円 | 23.05 | 21.62 | 16.81 |
英ポンド | 11.82 | 12.80 | 12.79 |
豪ドル | 8.64 | 6.88 | 6.77 |
加ドル | 4.56 | 5.14 | 5.03 |
スイスフラン | 5.16 | 4.80 | 4.96 |
人民元 | 2.23 | 3.99 | 4.32 |
香港ドル | 1.45 | 1.73 | 3.53 |
NZドル | 1.96 | 2.05 | 2.07 |
スウェーデン・クローネ | 1.76 | 2.22 | 2.03 |
韓国ウォン | 1.20 | 1.65 | 2.00 |
シンガポールドル | 1.40 | 1.81 | 1.81 |
ノルウェー・クローネ | 1.44 | 1.67 | 1.80 |
メキシコ・ペソ | 2.53 | 1.92 | 1.72 |
インド・ルピー | .99 | 1.14 | 1.72 |
その他 | 11.38 | 11.60 | 12.04 |
合計 | 200.00 | 200.00 | 200.00 |
(【出所】BIS “Triennial Central Bank Survey of Foreign Exchange and Over-the-counter (OTC) Derivatives Markets in 2019 (Data revised on 8 December 2019)” の “Foreign exchange turnover” より著者作成。なお、「通貨ペア」が集計されているため、合計すると100%ではなく200%となる)
この点、近年、人民元のシェアが急激に伸びていることが確認できますが、それと同時に人民元は自由に取引するための制約が非常に大きく、比較的自由に取引可能な「オフショア人民元(CNH)」と、規制が非常に厳格な「オンショア人民元(CNY)」に市場が分断されています。
人民元がこのまま取引シェアを拡大させていくかどうかについては、微妙でしょう。
また、それ以外の通貨のうち、韓国ウォンやインド・ルピーなどの場合も、先進国通貨と比べればさまざまな規制が導入されており、いわゆる「ハード・カレンシー」と呼ぶのは難しいのではないでしょうか。
ハード・カレンシー化のメリット
これに対し、「究極のハード・カレンシー」である米ドルの場合、それこそ全世界の人々が持ちたがる通貨ですし、多くの国は外貨準備を米ドルで運用しています(図表2)。
図表2 世界の外貨準備の通貨別構成(2019年6月末時点)
区分 | 米ドル換算額(十億ドル) | Aに対する比率 |
---|---|---|
外貨準備合計 | 11,733 | - |
内訳判明分(A) | 11,021 | 100.00% |
うち、米ドル | 6,792 | 61.63% |
うち、ユーロ | 2,243 | 20.35% |
うち、日本円 | 597 | 5.41% |
うち、英ポンド | 489 | 4.43% |
うち、人民元 | 218 | 1.97% |
うち、加ドル | 211 | 1.92% |
うち、豪ドル | 188 | 1.70% |
うち、スイスフラン | 16 | 0.14% |
その他の通貨 | 269 | 2.44% |
内訳不明分 | 711 | - |
(【出所】国際通貨基金(IMF) “Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves, COFER” より著者作成)
米国は国を挙げて恒常的な資金不足に陥っていますが、それでも「米国債がデフォルトするぞ!」「米国の『国の借金(?)』は大問題だ!」などといった議論はまったく聞こえて来ません。当たり前ですね。なぜなら、外国からどんどんと資金が流入して来るからです。
しかし、もし米国が外貨(たとえば日本円やスイスフラン、英ポンドなど)で国債を発行していたとしたら、そんな呑気なことを言ってられません。というのも、米国の「国の借金(?)」が増え過ぎれば、先ほどの3条件の「③中央銀行が国債を買ってくれる」という条件が満たされなくなるからです。
逆に言えば、どんな国であっても政府や金融機関が外貨建てではなく自国通貨建てでおカネを借りていて、その国の中央銀行がおカネを貸してくれるといえば、金融危機、通貨危機は発生しません。
ということは、外国からおカネを借りている国であれば、極力、自国の通貨の国際的な通用度を高めたうえで、自国通貨でおカネを借りる、というのが基本的な戦略であるはずですし、国が通貨危機に襲われないための、究極的な安全策であるはずです。
為替スワップの本質
為替スワップのそもそもの目的
さて、ハード・カレンシーどうしであれば、まったく対等である、というわけではありません。
とくに、市場流動性(おカネの借りやすさ)は常に動いており、どの国の経済も強く成長しているような局面なら問題ないのですが、たとえばどこかの国で大災害が発生したようなケース、大規模金融機関が経営破綻したようなケースだと、特定の通貨の市場流動性が低下します。
たとえば2008年9月、米投資銀行であるリーマン・ブラザーズが経営破綻したことに端を発する金融危機(いわゆる「リーマン・ショック」)の際には、市場流動性が凍りつき、欧州や日本、英国などの金融機関が米ドルの資金を調達することが難しくなりました。
国際的な活動を行っている大規模金融機関の場合は、いずれも大なり小なり米ドルで資金を調達していますので、もしこれらの金融機関がドル資金を借りられなくなった場合、テクニカルデフォルトに陥り、経営破綻してしまう可能性すらあります。
※リーマン・ショックにはほかにもいくつか教訓があるのですが(たとえば証券化商品、デリバティブのカウンターパーティリスク、LCR/NSFR、清算集中・証拠金規制など)、これらについては本稿と関係がないので割愛します。
だからこそ、各国の中央銀行が米FRBからおカネ(ドルの短期資金)を借り、自国の民間金融機関におカネを貸すという、「間接的な流動性供給」の仕組みが常設化されたのです。
これが「6中銀の常設型の為替スワップ」です。
具体的には、米国(FRB)、欧州(ECB)、日本(日銀)、英国(イングランド銀行)、カナダ(カナダ銀行)、スイス(スイス国民銀行)の6つの中央銀行は、お互いの通貨を担保に差し入れることで相手の中央銀行から相手国通貨を借り入れ、それを自国の金融機関に貸し出す仕組みです。
ニューヨーク連邦準備銀行との間の円資金提供のための為替スワップ取極要綱(2013/10/31付 日銀HPより)
日銀によると、「円の金融市場の円滑な機能の維持および安定性の確保に資する観点から、ニューヨーク連邦準備銀行が円資金を供給するために当面必要とする円資金の提供」とあります。
理屈の上では、
- ①円の流動性が逼迫していて、米国の民間金融機関が円資金を調達しようとしてもなかなか手に入らない場合
- ②ドルの流動性が逼迫していて、日本の民間金融機関がドル資金を調達しようとしてもなかなか手に入らない場合
の双方に備えたものですが、リーマン・ショック時がそうだったように、どちらかといえば②のケースに備えたものではないかと思います。
よって、これらの常設型為替スワップ(=外貨流動性供給ファシリティ)も、リーマン・ショックのような事態が再来したときに備えたものである、という言い方をして良いでしょう。
なお、具体的な仕組みは、つぎのとおりです(日米為替スワップの場合)。
- ①ドル資金を借りようとする民間金融機関は、日銀共通担保要領などに従って日銀に担保を差し入れる
- ②日本銀行は、借入人が担保を差し入れたのを確認したあとで、ニューヨーク連邦準備銀行に指定された米ドル口座を使って貸付を実行する
- ③貸付利率はニューヨーク連銀が指定するものが適用される
(【出所】日銀『米ドル資金供給オペの取引概要』参照)
通貨と中央銀行にも「信頼度」がある
さて、リーマン・ショックの再来はあるのか…。
それが、現在です。
いうまでもなく、コロナショックでドルの流動性が逼迫し、多くの国の金融機関がドルの資金を借りるのに苦慮している、という状況にあります。
さて、先日の『速報:米FRBが9つの中央銀行と為替スワップを締結』で報告したとおり、米国の中央銀行に相当する連邦準備理事会(FRB)は現地時間19日、9つの中央銀行・通貨当局との間で為替スワップ協定を締結したと発表しました。
Federal Reserve announces the establishment of temporary U.S. dollar liquidity arrangements with other central banks(米国夏時間2020/03/19 9:00付 FRBウェブサイトより)
具体的な協定締結相手と上限金額については、図表3のとおりです。
図表3 為替スワップの新規締結相手
締結相手 | 国 | 上限額 |
---|---|---|
豪州準備銀行 | オーストラリア | 600億ドル |
ブラジル中央銀行 | ブラジル | 600億ドル |
デンマーク国民銀行 | デンマーク | 300億ドル |
韓国銀行 | 韓国 | 600億ドル |
メキシコ銀行 | メキシコ | 600億ドル |
ノルウェー銀行 | ノルウェー | 300億ドル |
ニュージーランド準備銀行 | ニュージーランド | 300億ドル |
シンガポール通貨庁 | シンガポール | 600億ドル |
リクスバンク | スウェーデン | 600億ドル |
(【出所】FRB。なお、いずれも期間は「最低6ヵ月」)
これだけを読むと、なにやら唐突感がありますが、べつに驚く話ではありません。
というのも、リーマン・ショックの直後、米FRBは、日英欧瑞加の5中銀だけでなく、これらの9つの中央銀行・通貨当局に対して、為替スワップ(ドル流動性スワップ)を提供していたからです(つまり、合計で14の中央銀行・通貨当局に対して為替スワップを提供していた格好です)。
FRBウェブサイトに掲載されている “Central bank liquidity swaps” によると、まず2007年12月にECBとスイス国民銀行(SNB)の2つに対する為替スワップ協定を締結。その後、相次いでほかの12の中央銀行等とスワップラインを開設したと記載されています。
(※個人的記憶で恐縮ですが、たとえば韓国との為替スワップ協定については2008年12月に上限額300億ドルで為替スワップが締結されていたはずです。)
ただし、日英欧瑞加の5中銀との為替スワップについては「常設(standing)」であるのに対し、今回の9つの為替スワップについては、「一時的(temporary)」であり、かつ、上限額が設けられています。
このあたりは結局、通貨間の信頼度に違いがあるからでしょう。
締結しなかった相手は、中国と香港
さらに、今回のスワップについては、米FRBが「為替スワップを締結しなかった相手」というものが、強いメッセージでもあります。
個人的に気になる国は、中国、香港、インドです。
ただし、インドの場合は民間金融機関が巨額のドル資金調達を行っているというデータはなく、国際決済銀行(BIS)の統計でもそのような事実は確認できません。
しかし、中国の場合は近年、通貨の通用度が上昇しており(上記図表1参照)、さらに、香港の場合は「オフショア金融センター」でもあります。インドと異なり、むしろ中国や香港は米ドル建ての為替スワップを欲しがっているのではないかと思います。
米国が中国、香港と為替スワップを結ばなかったことについては、たんに米FRBがこれまで為替スワップを締結したことがないため、契約条件などの詳細について勝手がわからない、という事情もあるのかもしれません。
しかし、非常にうがった見方ですが、中国、香港には、国際的な金融市場で存在感を高めている金融機関の拠点があるにも関わらず、米国が中国、香港と為替スワップを結ばなかったという事実は、米国が中国と香港を見捨てるというメッセージではないか、という気がしてならないのです。
米FRBの「格付」
以上の議論を、非常に雑に総括すると、
- 米FRBにとって最も重要な相手:期間無制限(常設)、金額無制限の為替スワップを締結している欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行(BOE)、日本銀行(BOJ)、スイス国民銀行(SNB)、カナダ銀行(BOC)
- 米FRBにとって2番目に重要な相手:期間は最低6ヵ月、金額600億ドルの相手である豪州準備銀行(RBA)、ブラジル中央銀行、韓国銀行、メキシコ銀行、シンガポール通貨庁(MAS)、スウェーデン・リクスバンク
- 米FRBにとって3番目に重要な相手:期間は最低6ヵ月、金額300億ドルの相手であるデンマーク国民銀行、ノルウェー銀行、ニュージーランド準備銀行(RBNZ)
- 米FRBにとって優先順位が劣る相手:大規模金融機関が所在しているにも関わらず為替スワップを締結しなかった中国人民銀行(PBC)、香港金融管理局(HKMA)
と位置付けることができるかもしれません。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
なお、通貨スワップと為替スワップについては、当ウェブサイトの読者コメント欄にもよく「違いがわからない」という趣旨のコメントをいただくのですが、これについては次のような記事で過去に述べたことがあります。
外貨準備と通貨スワップ 通貨危機を防ぐための仕組み(2019/11/20 05:00付 当ウェブサイトより)
総論:通貨スワップと為替スワップとは?(2017/12/14 00:00付 当ウェブサイトより)
また、ここ数日、腰を落ち着けてウェブサイトを更新することができない状況が続いていたこともあり、某国のメディアが通貨スワップと為替スワップを混同した記事を掲載しているのも気になります。
これについては、時間との兼ね合いではありますが、できるだけ早いタイミングで、通貨スワップと為替スワップの違いなどについて、改めて解説したいと考えています。
View Comments (23)
おはようございますm(_ _)m
中国へのスワップ無しですが、人民元のハードカレンシー化を狙う習主席には徹底的に潰すぞ!と言うシグナル?なのかも知れません。
※米中貿易戦争の最中ですし。
ただ、中国にはドルを調達する裏技(?)が…
ブログ主様もお気づきかも知れませんが、属国扱いしている韓国からあの手この手で毟り取る手がありますよね?(笑)
それと、中国が持っている米国債を売払うと言うオプションもあろうかと思いますが如何でしょうか?
※扱い方を間違えると劇薬になると思うので、中国としては最後の切り札として温存したいと推測しています。韓国も同様に、米国債や株式を換金せず、外貨準備高に入れておきたい思惑があると推測しています。
私はまだまだ子供で超素人なのですが!きいてください!
さきごろは、アメリカの軍事技術を韓国が、まったくそのまま北朝鮮に横流ししたのがバレてアメリカのいかりが極度にハイパワーに達しましたが、軍事技術でなくて経済のことはどうなるのでしょう?ドルの横流しのことなのですが?。
スワップのしくみで、韓国がドルを手にいれます。通常なら、韓国はドルでなく、自国通貨ウォンで中国に資金を供給します。でも、韓国はウォンを中国に供給しないでドルを中国にそのまま資金として供給するのです。北朝鮮にアメリカの軍事技術をそのまま横流ししたのとおなじ要領です。そんなことが可能なのでしょうか?スワップのしくみとは、アメリカから直接ドルの紙幣をもらうのでしょうか?そんなはずないですね!でも、ドルの悪用、横流しは可能なのでしょうか?
昨今の中国人の「自然科学の基本」と「経済関係の基本」を無視した野蛮な言動とその実行が気掛かりなので、なにをするかわかりません!終息してもないのに、ウイルスの終息宣言をしたり、中国国内で第二次パンデミックがおこるとおもいます!経済も、ひらきなおった中国にメチャクチャにされる?
今回はアメリカのスワップは、為替スワップです。
大韓民国やメキシコなどの市中銀行がドル不足でアメリカ人やアメリカ企業にドルを払えなくなたったら(デフォルトだから、その国は金融不安になることもあるが)
ト
ランプ大統領が責められ選挙に負けちゃうでしょ。
だ
から、各国の市中銀行に
『お前のところの中央銀行を通して
『ドルははいくらでも貸してやる。
『アメリカ人とアメリカ企業にちゃんとドルを払え、踏み倒したらぶち殺す』
と
いうのが、今回のスワップですね。
勿
論、元利合計みっちり回収されますね。
>まだまだ。。。さんへ
大韓民国がスワップで手に入れたドルを支那へ横流ししてもしなくても期日がきたら返さなきゃならないんですよ、米国へ。
スワップとはいへ単なる交換じゃない。まして紙屑ウォンなど市場価値ゼロ。借りたドルは利息をつけてアメリカに返すんです。
今回のは為替スワップですから、大韓民国の中央銀行が、市中銀行からどんな担保をとったかをFRBが調べた上での貸付です。
も
し、スワップのドルはを支那に横流ししたら市中銀行は
ドルは貰えずアメリカ人にドルが払えないわ担保はとられるわの三重苦だ。
こ
れはあり得ないでしょ。
新宿会計士様、お早うございます。
この記事の主題からは少し外れるのですが、図表1のOTC外為市場通貨ペア比率は今までにも何度も掲載されていますが、これを拝見する度に日本国民の一人としては憂鬱にならざるを得ません。
と申しますのも、2013年から2019年の6年間でチャイナの人民元は2.23%から4.32%へと外為市場での存在感をほぼ倍増させているのに対して、我々の日本円は23.05%から16.81%へと外為市場での比率を3割近くも落としてしまっているからです。
ライバルである人民元が未だ比率は小さいものの僅か6年間で倍増近い伸びを示したのに対して、日本円は同じ僅か6年間で外為市場での存在感を3割弱も喪失してしまったという事実に対して、関係省庁や日銀は真剣に今後の対策を考えて実施すべきだと思います。
我が国がこのまま何も対策せず手を拱いていれば、外為市場での比率で日本円が人民元に抜かれてしまうのもさほど長い年月を要しない惧れが強く、現状のような「日本円は危機になれば買われる」と言われるような最強の通貨の立場も喪いかねません。
迷王星さま
懸念は共感します。
財務省は、危機に買われる円が、嫌なんじゃ無いかと、勘ぐりたくなります。
そもそもの疑問なんですが、
OTC外為市場通貨ペア比率を日本が上げなければいけないモチベーションとはなんですか?
中国元が上げたい動機はわかります。
もちろん日本が主要通貨の座から滑り落ちる状況にあるのならば懸念するのもわかるのですが、そんな段階でもありません。
ドルも持っていますし。
りょうちん様、
OTC外為市場通貨ペア比率が下がるということは国際通貨市場で日本円が取引の対象とされることが減る、つまり日本円が現状のような世界のどこでも通用するグローバルな通貨でなく日本国内だけで使われるローカルな通貨に実質的に成り下がってしまうことを意味するからです。そうなれば、いずれは海外では日本円を簡単に現地通貨やUSドルなどに交換できなくなる(例えば空港にある交換所などで)事態へと至るでしょう。
外為市場通貨ペア比率が下がることが意味するもう一点は、USドルやユーロと日本円との交換を行う経済主体として恐らくは最も大口であろう日本企業たちの活動が低迷しているか、日本企業たちの活動は低迷していないが外貨として得た収益は日本に持ち込まず(つまり円に交換せず)その外貨のまま或いは別の外貨へと交換して外国でばかり使う、即ち、日本企業たちが行う設備投資や雇用創出が日本ではなく外国ばかりになって行っていることです。即ち、日本企業たちの日本脱出あるいは日本企業たちまでがジャパン・パッシングをするということ、つまり我が国の国内経済の縮小であり日本経済が国際経済から孤立してしまうことです。財務官僚らならばいざ知らず、少なくとも平均的な日本国民の誰にとっても日本企業たちによるジャパン・パッシングとそれによる日本経済の縮小は全く望ましくない事態であることは言うまでもないと思いますが。
りょうちん様、上のレスに書き漏らしましたが、この6年間の日本円の比率低下は、日本企業たちがジャパン・パッシングを拡大している結果だと私は考えています。そしてそれら日本企業たちが日本をパスする最大の理由は、財務省主導の増税=国民の可処分所得削減=国内経済の縮小によって日本という国が投資に値しない(だから海外を相手に稼いだ外貨を円に変えて日本に持ち込む必要性を全く感じない)に成り下がってしまっていると日本企業たちが判断しているからである、私はそのように考えています。
つまり、日本という国はバブルの後始末のやり方の大間違い、特に野田民主党政権の時に定めた消費税増税路線を安倍自民党が政権奪還後も改めることなく粛々と消費増税を続けて国内消費を萎縮させ続けた結果、自国企業からも投資する価値のない国として既に見捨てられているということです。それこそが、外為市場において他の主要通貨と比べて日本円だけが、僅か6年間で格段に大幅に(3割近くも)比率を下げてしまっている根本的な原因だということです。
迷王星さま
何となくですが貿易収支の数値変化と同様に、図表1の数値変化は日本企業のグローバル化定着に伴って、製造拠点に対しての素部材供給の流れが「日本から現地(円⇔現地通貨)への垂直展開」から、「現地調達・現地通貨決済での水平展開」へと構造変化したことによるものではないか?・・と、考えます。(両替の必要が無くなったから?
同様に中国の数値の変化も、進出企業が現地で稼いだ利益をもとにした再投資が一巡し、自国への利益持ち出しが増加しているからなのかもしれません。(単に人民元と香港ドルの為替によるものなのかもですが・・?
*数値変化の要因が上記の理由によるものなら、日本企業がどこで稼ごうが日本の利益なんでしょうけれど・・。
*実態を確認する術もないので、公表された数値データだけをみて「円」の国際社会での影響力低下を懸念してしまうのですが・・、実際のところどうなのでしょうね?
カズ様、その通りなのですが、それでは困るのですよ。
>*数値変化の要因が上記の理由によるものなら、日本企業がどこで稼ごうが日本の利益なんでしょうけれど・・。
いいえ、稼いだのが日本企業であろうと、その稼ぎを海外で回して全く日本に持ち込まれないのでは、実質的に外国企業が海外で稼いだのと同じです。つまり日本の利益にはなっていません。
まあ多少は株主配当という形で日本国内に持ち込まれることになるかも知れませんが、それならば日本在住の人間が海外企業の株式の配当を受け取るのでも、日本にお金が持ち込まれるという意味では同じですからね。
日本企業たちが海外で稼いだのが日本に投資されず、そのまま海外に再投資される、つまり日本企業たちによるジャパン・パッシングが起こっている、これでは単なる海外企業の活動と殆ど同じことであって、日本という国やそこに暮らす国民にとっては実質的に何の利益もないのですよ。
ドル/円相場 でしょ。
2013年たぶん92円くらい
2019年たぶん110円くらいかな
円の価値が下がった分、ドル表示ではパーセンテージが下がりますね。
円の金額的にはさほど違わないでしょ。
支那は、元暴落防止のため介入して元高ですからドル表示では、高くなる。
92円から110円なら2割弱に過ぎない。3割弱の比率減少はそれだけでは説明がつかない。
それに仮に円貨では変わっていないという貴兄の主張が正しいならば、言い換えれば輸出などによる本当の稼ぎ(日本の対米輸出などの決済の多くはUSドルのはず)そのものが6年間で2割弱も減っているということであって、それこそ大問題だと思いますが。
質屋にお世話になったことがないので、間違えているかも知れませんが、アメリカと韓国でのスワップをしたとして
① 通貨スワップ
買取または質流れを前提として、客の韓国が品物(ウォン)を差し出してお金(ドル)を融資して貰う。
② 為替スワップ
質札を客(韓国)に渡して、絶対に期限内にお金(融資した金額と利息)を持ってきて品物(ウォン)を受け出せよ!
という事でしょうかー
(お詫び)総論:通貨スワップと為替スワップとは? に同じ内容を投稿してしまいました。
多分ですが、通貨スワップの説明における、買い取りまたは質流れ前提という部分が「一応は」違うのだと思います。
通貨スワップとて厳格に「返済しなければならない」のは間違いありません。ただ、担保が中央銀行自身ならいくらでも発行出来る自国通貨なので、返済するかどうかが中央銀行が通貨管理する義務感をどれだけもっているかに依存しているのです。差し出した担保に未練がなければいつまでも外貨を返さなきゃ良いのです。
私の呼び方ではありますが為替スワップは改良型通貨スワップだと思っています。相手中銀が通貨管理を放棄して好き勝手にドルを使うのを防止するもの。
にしたか様
わたしもスワップのしくみを知っているわけではないのですが,韓銀がどこかのスワップ締結国の中央銀行から相手国通貨を引き出すとき,担保に差し出すのはウォンの現ナマではなく,相手国通貨ないしはドル建ての政府発行債ではないでしょうか.そうでなければ,ウォンの下落が予想されるときみすみす損を承知で引き出しに応じてくれるほど甘い国は,例えそれが日本であったとしても,まずあるとは思えないですから.
ご自慢の外貨準備はどうしたというはなしはさて置き,国内でドルがショートしそうになったら,真っ先にやるのは政府ないし中央銀行の保証が付いた短期債券,またはそれより信用度は落ちるがドルを必要としている企業の社債の発行でしょう.これをやるときに過大な金利が付くのでは堪らないから,スワップの存在を後ろ盾にする.通貨スワップにしても,為替スワップにしても,それが本来の意味でしょう.韓国のマスコミの報道で見る限り,どうもアメリカがスワップを提供してくれたら,すぐにでも使う気満々に見えますが(それでなければ,600億ドルではまだ足りないなんて言うはずがない),これ通貨防衛なんかに全部溶かしちゃったら,もうそれこそ大変なことになると思います.世界中からもはやこの国に金融余力無しと見なされて,トリプル安どころか,ソブリン危機に向かって一直線になるんじゃないでしょうか.
>>にしたか様
んー、
通貨スワップはやっぱり「融資」ではなく「買取」でしょう。
客の韓国が商品券(ウォン)を差し出して現金(ドル )で買い取って貰う(ことを事前に取極)。
あるいは
客の韓国藩が藩札(ウォン)を差し出して大阪商人に銀(ドル )で買い取って貰う(ことを事前に取極)。
てなところでしょうか。
(インドさん、タイさん、シンガポールさん、インドネシアさん、フィリピンさん、ごめんなさい。他意はありません^^ あくまで韓国ウォンの価値が、ですw)
単純に「アメリカは日本にアジアを任せており、2018年に日中で通貨スワップ締結済みだから新設不要」の可能性はありませんか?
そっかー
韓国も中国同様見捨てて欲しかったなーw
中国とバトルを繰り広げている米国が助けるようなアクションを取らないのは至極当然ですね。
韓国の場合、経済の焦土化を狙った海外からの資本回収支援という見方もできます。
実は官邸周辺でも検討を進めていたりして。
主様には毎度の「スワップ」講座ありがとうございます。
金融界の「スワップ」は、民間では金融関係者や商社実務者やFXを囓った方だけ、お役人では一部の関係者以外は実際の経験が皆無にて、十分には理解されていないでしょう。さらに「専門家」やマスコミが、意図してか意図せざるか、混乱してこの言葉を使っていますから、一般人にはますます不正確にしか伝わっていないと思います。
小生もこちらで勉強させて頂き4通りの整理がつき、「スワップ」の言葉を使わぬ表現を以下の通りに思慮してみました。無論、限られた文字で完全に表すことは不可能ですし、練れていない用語の使用ですが。
誤っている点につきご指摘頂ければ幸甚です。
デリバティブ分野
CCS:民間の通貨元利交換取引
為替スワップ:民間の先物外為取引
FFX(ForwardForex)とでも言いましょうか
国際金融協力分野
BSA:中銀相互間の通貨融通
BLA:中銀の相手国通貨融通
あらためて、秀でた翻訳を行った明治人の文字に対する知識と能力と感覚の高さに恐れ入り、羨ましくも感じます。
ななよん様
「秀でた翻訳」
明治の翻訳について、例えば society、
今は、「社会」と翻訳されていますが、福沢諭吉は
「人間交際」と翻訳したと聞いています。
いろいろな翻訳語が使われ、最終的に、「社会」に収斂した。
現代、収斂するまでの期間を待つことができないので、
とりあえず、カタカナで表記。
世知辛い世の中になったということでしょうか。
ググったら FRB ってば結構独立性高い。
トランプ大統領はアメリカファーストだが、FRB は「ドルの支配」ファーストなのか?
だから FRB は多少のドル高容認だったのか(ブランド戦略で)。
だから FRB はドルの世界支配に挑戦する中国は助けず、韓国は助けるのか。
だから今まで韓国を助けるため大統領を使って日本に圧力をかけていたのか。
だから韓国を切りたいトランプ大統領に協力はしないのか。
しかしその独立性の高さは逆にトランプ大統領をも動かせず、だから日本に韓国を助けるよう圧力がかかって来ないのか。
妄想は尽きない^^