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ゴーンの身柄確保には「カネの流れ」の利用も有効か?

年初の奇妙な話題という意味では、カルロス・ゴーン被告の国外逃亡については欠かすことができません。こうしたなか当ウェブサイトでは新年早々、『ゴーン逃亡、レバノンへの経済制裁・断交も躊躇するな』のなかで、ゴーン被告のレバノンへの逃亡劇は、レバノン自体が「国際的なマネロン犯罪の中心地」、「犯罪者の逃亡先」としての性格を持っているという点と関わっているのではないかと申し上げたのですが、これに関して少し気になる記事がありましたので、あわせて紹介しておきたいと思います。

ゴーン逃亡の本質は「金融犯罪」

日産自動車元社長のカルロス・ゴーン被告(特別背任などで起訴済み)がレバノンに逃亡した件については、当ウェブサイトでは『ゴーン逃亡、レバノンへの経済制裁・断交も躊躇するな』のなかで第一報を紹介済みです。

日本国内のいくつかのメディアは、問題の本質を「ゴーン氏が海外逃亡したこと」ではなく、「日本の司法の不透明性」、「人権を抑圧する日本の司法の問題点」などに誘導しようとしているフシがあるのですが、これについてはどう考えてもおかしいです。

「日本の司法に何らかの問題がある」という論点と、「不法に出国しても許される」という論点は、まったく別物だからです。

ただ、これについてはさすが当ウェブサイトだけあって、コメント欄の議論も非常に参考になるものでした。

というのも、問題の本質が「日本の司法の欠陥」ではなく、「カルロス・ゴーンが刑事訴訟の被告人の身でありながら違法に日本を出国したこと」、そして「その出国にレバノン政府が深く関与している可能性がある」という点に気付いていらっしゃる読者の方が多かったからです。

おそらく、もっと本質的なことをいえば、本件は形を変えた「金融犯罪」ではないでしょうか。

この点、ゴーン被告の公訴事実は日産自動車から得ていた報酬額についての有報への虚偽記載(金融商品取引法違反)と会社法上の特別背任であり、「外為法違反」ではありません。

しかし、日産自動車の社長としての地位を悪用し、海外の子会社に不法に資金を流していた疑い自体、資金の行方次第では「外為法違反」(経済制裁対象の国・地域への資金還流)にもなり得る事案だったのではないかと思えます。

犯罪者の逃亡先、マネロンセンターとしてのレバノン

さて、先日紹介し切れなかった記事がいくつかあるのですが、本稿ではこのうち、とくに気になったものをひとつだけ紹介しておきたいと思います。

ゴーン被告、英雄の輝き暗転-逃亡先レバノンで特権層への強い反発(2020年1月2日 12:48 JST付 Bloombergより)

リンク先のブルームバーグの記事には、こんな記載があります。

映画制作者で活動家のルシアン・ブルジェイリー氏はツイッターで『真の政治難民は普通スウェーデンに逃亡するが、巨額の汚職や資金流用、不正で告発された難民はどこに逃げ込むのか。レバノンだ』と述べた。

これが事件の「本質」のようなものでしょう。

実際、ブルームバーグの記事にも

中央銀行と地元金融機関はドルの供給、引出、海外送金を制限しているため、国内では闇市場の為替レートが形成されている

という趣旨の記載がありますが、レバノンは国際的な金融当局者らの間では中東のマネロンセンターのひとつとして認識されており、また、国際的な犯罪容疑者が逃げ込む場所としても有名な国です(ちなみに日本赤軍のテロリストである岡本公三を匿っている国でもあります)。

ブルームバーグによれば、ゴーン被告が当初「歓迎」された理由のひとつは、同国が恒常的な経常赤字と外貨不足に悩んでいることと、彼が「同国に必要なドルをもって帰還した」と期待する声などがあった、と述べています。

(※もっとも、個人的にはゴーン被告が多額のドルなどの現金をプライベートジェットに積んで関空から出国したとは思えませんが…。)

犯罪組織を確実に潰すには「カネ」を止めなければならない

さて、金融規制の専門家という立場から言わせていただくならば、テロリストや「ならず者国家」を締め上げるうえで一番確実な方法は、資金を止めることです。

これについては『日韓関係はまだ「最悪期」に非ず(1)経済制裁論』のなかで、「経済制裁にはヒト、モノ、カネの流れなどを止めることがある」と報告したばかりですが、そのなかでも一番必要なのは、「カネの流れを凍結すること」、具体的には支払いの禁止や資産凍結措置などです。

たとえば、北朝鮮に対する経済制裁については、国連経済制裁決議から2年あまりが過ぎ、漏れ伝わる情報から判断する限りは、それなりの威力を発していると考えて良いでしょう(『北朝鮮の経済制裁は「物価」だけでは測定できない』等参照)。

北朝鮮に対してはすでに「ヒト、モノ」という側面からの締め上げがなされていたのですが、昨年をもって外国に派遣されている北朝鮮人労働者が(公式には)排除されましたので、外貨収入がさらに減少することは間違いありません。

もちろん、北朝鮮は海外派遣された労働者の出稼ぎによる収入だけでなく、違法な麻薬栽培、保険金詐欺、贋札製造と行使などによる外貨収入(?)もあると考えられますし、さらには中国やロシアが隠然と経済制裁逃れを続ける可能性も否定できません。

しかし、今まで100億円の収入があった犯罪組織に対して、収入源のうち50億円分を潰せば、確実にその組織の体力は弱まります。

逆にいえば、レバノンが資金的に困窮しているということであれば、日本がレバノンに対し、「誠意を見せれば資金を援助する」などとチラつかせれば、むしろレバノンが自主的にゴーン被告や岡本公三らを日本に引き渡す、という展開も考えられるかもしれませんね。

日本政府にもタダで相手国にカネを渡すのではなく、自国の国益に従って相手国を利用するというくらいの狡猾さが欲しいところです。

新宿会計士:

View Comments (8)

  • 返済を強く働きかけつつ、次回は貸さない態度を明確にし、金融面で交渉相手の体力を削ぎ弱らせていく戦略は間違いなく有効と自分は思います。SWIFTやられちゃいましたよね。信用状発行が少し話題に出ていましたが、どれだけ操作可能で実効があるのでしょうか?

  • 話がここまでくると、逆にこの一件を映画にしてもらいたい気がしてきました。題名は「レバノン・コネクション」、アクションシーンはレインボーブリッジでのゆりかもめと首都高の追いかけっこ、ジーン・ハックマンはさすがにお歳ですので、主演はローワン・アトキンソンでお願いします。年齢もゴーン氏と1歳違いですし、愛車のマクラーレンでカーチェイスに参加してくれるかもしれません。

    冗談はともかく、映画化や日本への反撃といった噂話が漏れ聞こえてくるのは、利権の領袖としての求心力を今以下に低下させないための策であるような気がします。金の切れ目が縁の切れ目、群のボスは弱った姿を見せるわけにはいかないのでしょう。実際に何かゴーン氏側から動きを見せると、日本の執拗かつ綿密な粗探しにさらされるわけで、彼にとって得策ではない気がします。彼は道徳心は無くとも有能な人物ですから、その辺りの機微は重々理解していると思っています。今はレバノンでしばらく逼塞しておきたいところです。

    緊迫の度を深める中東情勢がそんな静穏を許せば、ですが。

  • 資金を絶てばってのは、これふるさと納税で税収減ってると川崎市とかも日本人へのヘイトはOKで、ヘイトスピーチ防止条例とかの条例通してる地方自治体も同じですよね。
    幾ら文句言われても馬耳東風でしょうが、活動資金なくなれば衰退しますし生活保護とかのサービスも困難になりますもんね。

  • サイト主さんの意見に激しく同意です

    日本も対外援助に要する費用を生き金にして欲しいところです
    この点中国などはしたたか

  • 日本が経済制裁するよりたくさんの制裁うけるほうが早いかも。
    レバノンのヒズボラが活動が活発になりアメリカや湾岸諸国と対立することによりレバノンはシリア化する可能性があります。
    彼らにとって日本も敵ですから独自制裁すればよりテロなどにかなり注意しなければならなくなります。
    ゴーンは親イスラエルとして非難されてもいますからヒズボラに身ぐるみ剥がされてしまいそうです。
    レバノン脱出ははるかに難しいだろうし日本にいたほうが安全だったかも。
    腹立つけど生ぬるく見守ります。

  • 私の認識が間違っていなければ,検察庁には国際音痴な人が集まっていて,ゴーン氏にこれ以上手を出すと,日本に司法制度のほうが世界から非難を受け,深い傷を負うことが予想されます。
    裁判も陪審員制の導入で,判事の村社会に若干の風穴が飽きましたが,検察庁のほうも,これを機に外圧で少し改革したほうがいいでしょう。
    争う相手はレバノンじゃなくて,そのうち,フランスになると思います。

  • クラウドファンディングですか?
    みんなで出し合って元CIAのエージェントとか雇えませんかね。
    G型トラクター13台でもよいのですが。
    日本舐めると大変だよと中東マフィアに一発ぶちかまして
    サムライとかチュウシングラとかルモンドの見出しに出してみたい。
    最初から最後までゴーンは好きになれなかったな。
    ミスタービーンは好きだったのですが。