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総論 対韓輸出管理適正化と韓国の異常な反応のまとめ

日本政府が韓国に対する輸出管理の適正化措置を発動してから、すでに3ヵ月以上が経過しました。これについては当ウェブサイトでも法律などを読み込みながらずいぶんと追いかけて来たのですが、少々時間が経過したという点に加え、韓国政府が日本をWTOに提訴したこと、日韓GSOMIAを破棄すると通告したこと(このままでいけばGSOMIAは11月22日に終了)、という、それだけでも論じるべき点がたくさんある事件にもつながってきます。そこで、本稿では「総論」として、そもそもの輸出管理適正化措置について簡単に振り返っておきたいと思います。

輸出管理適正化措置とは?

ここ最近、連日のように取り上げている話題が、日本政府・経産省が7月1日に発表した韓国向けの輸出管理の適正化措置です。

以前から当ウェブサイトをご愛読いただいている皆さまの多くはすでにご承知のことと思いますが、どうしてもこの話題についてこれから何度か言及しなければならないため、ここではほかの記事で参照させるために、「中間まとめ」記事として取りまとめておきたいと思います。

まず、経産省が発動した措置は、正式には『大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて』と呼ばれており、当ウェブサイトの文責で内容をまとめると、ポイントは次のとおりです。

  • ①韓国を「(旧)ホワイト国」(現「グループA」)のリストから再び削除し(※韓国が「ホワイト国」指定されたのは2004年)、「グループB」に指定するとともに、いわゆるいわゆる「キャッチオール規制」の対象国に戻す(8月28日に発動)。
  • ②半導体の原料などとして利用される、フッ酸など3品目の製品や技術を韓国に輸出する場合、それまでの包括許可の対象から外し、個別輸出許可の対象に切り替え、輸出審査を求める(7月4日に発動)。

ちなみに、そもそもこの輸出管理は、日本の法律では外為法第48条に根拠規定が設けられています。

外為法第48条第1項

国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。

要するに、「その品目をその国に輸出することを認めたら国際的な平和や安全の維持を妨げることになる」と日本政府が判断した場合には、その国にその品目を輸出してはいけない、というルールであり、これはあくまでも「戦略物資の軍事転用の利用を予防するための措置」なのです。

ふたつの措置の内容

ホワイト国からの削除措置について

このうち①の措置については、韓国を「ホワイト国」から削除するのにあわせて「ホワイト国」という呼称自体を廃止し、新たに「グループA」から「グループD」の4つの概念を導入したうえで、韓国を「グループA」から「グループB」に変更する、という措置です。

7月1日から24日まで募集されたパブコメの結果、寄せられた意見総数は40,666件で、内訳は「おおむね賛成」が95%に達しており、「おおむね反対」は1%に過ぎませんでした。このため、この措置は8月2日の政令改正、8月7日の公布を経て、8月28日から施行されました。

ここで、グループA~Dの概要は図表のとおりです。

図表 国別・品目別許可手続
カテゴリー 具体的な国 キャッチオール規制 リスト規制
グループA:旧ホワイト国 4つのレジームのすべてに参加している29ヵ国から韓国などを除いた26ヵ国 免除 一般包括か特別一般包括か個別許可を適用
グループB:レジーム参加国 4つのレジームのいずれかに参加している国 適用対象 特別一般包括か個別許可を適用
グループC:レジーム参加国以外 A、B、Dのいずれにも該当しない国 適用対象 特別一般包括許可か個別許可を適用
グループD:懸念国 懸念国11ヵ国 適用対象 個別許可のみ

(【出所】輸出貿易管理令および経産省『リスト規制とキャッチオール規制の概要』等を参考に著者作成)

ここで、「4つの国際輸出管理レジーム」とは、輸出品の武器転用などを防ぐための国際的な4つの仕組みのことです。

4つの国際輸出管理レジームとは?
  • NSG(原子力供給国グループ)→原子力専用品、技術などを規制
  • AG(オーストラリア・グループ)→化学兵器、生物兵器を規制
  • MTCR(ミサイル技術管理レジーム)→ミサイルや無人航空機などを規制
  • WA(ワッセナー・アレンジメント)→武器、汎用品などを規制

(【出所】経産省『リスト規制とキャッチオール規制の概要』)

旧ホワイト国に指定されていたのは、この4つの国際的な管理レジームに参加している日本以外の29ヵ国のうち、トルコとウクライナを除く27ヵ国でしたが、今般の措置で韓国もここから除外されたため、現時点の「グループA」は26ヵ国です。

参考:4つの国際管理レジームすべてに参加している30ヵ国

アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、日本、韓国、ルクセンブルグ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、米国、トルコ、ウクライナ

(【出所】経産省『リスト規制とキャッチオール規制の概要』)

一方、グループBは4つのレジームのうちどれか1つに参加している国が指定される区分で、韓国はこの「グループB」に区分されました。つまり、今回の措置は韓国に対する「モノの流れ」をすべて止めるというものではなく、「(旧)ホワイト国」(現・「グループA」)から「グループB」に区分変更するだけの話です。

韓国に対する「リスト規制品」については、「一般包括許可」は出なくなりますが、個別許可に切り替えられた3品目などを除けば、いずれも「特別一般包括許可」の適用対象ではあり続けていますし、また、キャッチオール規制についても、もともと「すべての製品」が対象になるわけではありません。

なお、グループDの「11ヵ国」(いわゆる「懸念国」)とは、次のとおりです。

参考:いわゆる「懸念国」

『輸出貿易管理令』別表3の2、別表4の国(アフガニスタン、中央アフリカ、コンゴ民主共和国、イラク、レバノン、リビア、北朝鮮、ソマリア、南スーダン、スーダン、イラン)

いずれにせよこの「30ヵ国リスト」を巡り、一部では誤解もあるようですが、諸外国は「4つのレジームすべてに参加しているからといって、自動的にこの30ヵ国をホワイト国に設定している」というものではありません(現に日本自身もこの29ヵ国のうちトルコとウクライナを「ホワイト国」に指定していませんでした)。

日本が韓国をホワイト国指定して来たという点自体、正直、韓国のことを「優遇し過ぎ」ていたのです。

個別品目の輸出許可制度

さて、②の措置については、「個別許可対象」となっているのはリスト規制品のうちの一部項目に過ぎず、現実にはとうてい「経済制裁」とは呼べない代物です(『経産省の改正通達、「経済制裁」と呼べる代物ではないが…』参照)。

また、フッ化水素やレジストなどについては、経済産業省自身の報道発表等によれば、現時点までに個別輸出許可がすでに何件も出されています。

8月の大韓民国向けフッ化水素輸出量について

本日財務省から発表された貿易統計に関連して、8月の大韓民国向けフッ化水素輸出がゼロになったとの一部報道がありますが、経済産業省として8月中も許可の対象となるフッ化水素が大韓民国に輸出されていることを確認しています。(後略)

―――2019年9月27日付 経産省HPより

輸出管理見直し後初の輸出許可を付与

―――2019/08/08 15:03付 ツイッターより

その意味でも、今回の措置が経済制裁ではないことは明らかでしょう。

発動した理由

発動しなければならないから発動した

さて、ここからあとは、今回の措置の背景について確認してみたいと思います。まず、「なぜ日本政府がこの措置を発動したか」です。

当ウェブサイトの過去記事『西村副長官「対抗措置ではない」→そうか、そういう狙いか!』からの引用で恐縮ですが、経産省が輸出管理の運用見直しを発表した当日、西村康稔(にしむら・やすとし)官房副長官(当時)が記者会見で話した内容について、再掲しておきましょう。

西村副長官は今回の措置を発動したことについて、次のように述べています。

  • ①日韓間の信頼関係が著しく損なわれた状態になった
  • ②韓国への輸出管理を巡り不適切な事案が発生した
  • ③よって、今後は韓国向けの輸出については厳格な管理をする

この三段論法が非常に大切です。

韓国が日本に対してさまざまな不法行為(慰安婦財団解散、自称元徴用工判決問題、レーダー照射事件、上皇陛下侮辱事件)などを仕掛けてきたことは事実ですが、それらの不法行為はあくまでも「信頼を損ねた」というものであり、直接の原因ではありません。

日本政府の言い分によると、重要なのは「②不適切な事案が発生したこと」であり、これこそが「韓国に安心して製品を輸出することができない」と考える理由です(※ただし、この「不適切な事案」が何なのかについては、日本政府は明らかにしていません)。

外為法第48条第1項の趣旨は、「輸出管理がずさんな国に戦略物資を輸出したら、その国から第三国などに転売され、軍事転用されてしまう」、「その場合はむしろ日本が間接的に世界の平和に脅威を与えていることになる」、という問題意識にあります。

したがって、今回の措置は「経済制裁として発動した」のではありません。

「発動しなければならないから発動した」ものなのです。

この措置が経済制裁ではない理由

この措置自体が「経済制裁」ではない理由は、ほかにもあります。

以前、『総論:経済制裁について考えてみる』などでも報告したとおり、ある国がほかの国に「経済制裁」を加えるとしたら、大きく「ヒト・モノ・カネ・情報」の流れの遮断、名目としては「積極的制裁、サイレント型制裁、協調的制裁、消極的制裁、セルフ経済制裁」というパターンが考えられます。

経済制裁・7つの形態
  • ①自国から相手国へのヒトの流れの制限
  • ②自国から相手国へのモノの流れの制限
  • ③自国から相手国へのカネの流れの制限
  • ④相手国から自国へのヒトの流れの制限
  • ⑤相手国から自国へのモノの流れの制限
  • ⑥相手国から自国へのカネの流れの制限
  • ⑦情報の流れの制限
経済制裁・5つの名目
  • (1)積極的経済制裁
  • (2)サイレント型経済制裁
  • (3)協調型経済制裁
  • (4)消極的経済制裁
  • (5)セルフ経済制裁

つまり、パターンとしては7×5=35通りあるのですが(詳しくは上述の過去記事などをご参照ください)、日本が本気で韓国に経済制裁を適用しようと思うならば、類型としてはこれら①~⑦のうちの

  • ③日本から韓国へのカネの流れの制限(外為法第16条などに基づく資金の流れの停止)
  • ④韓国から日本へのヒトの流れの制限(出入国管理法などに基づく韓国人向け入国管理の厳格化)

などをあわせて発動していなければ意味がありません。

さらには、前述のとおり、韓国を「(旧)ホワイト国」から外し、一部品目について個別許可を義務付けたことは事実ですが、これは「禁輸措置」ではありませんので、「経済制裁」として発動したのだとすれば、あまりにも実効性が緩いとしか言い様がありません。

以上、今回の措置が「経済制裁」とはいえない理由をまとめておきましょう。

  • ①この措置はあくまでも外為法第48条第1項(戦略物資の軍事転用防止に関する規定)などに基づく輸出管理の適正化措置であり、自称元徴用工問題に対する報復措置ではない。
  • ②今回の措置はあまりにも緩すぎて実効性に乏しく、とうてい「経済制裁」と呼べるものではない。本気で日本が対韓報復措置を考えているならば、もっと実効性のある措置を打ち出すはず。
  • ③仮に韓国を経済的に締め付ける目的があるならば、7月1日の措置に続き、次々と後続措置を発動しているはず。

韓国の反応

輸出規制、経済報復、貿易報復

さて、日本政府がこの措置を発動した直後から、韓国側はこの措置に対し、「輸出規制だ」、「経済報復だ」、あるいは「貿易報復だ」、といった具合に、日本を舌鋒鋭く批判しています。

要するに、自称元徴用工問題に対する経済報復だ、という決めつけですね。

もちろん、本来、今回の日本政府の措置は単なる「輸出管理の適正化措置」であり、これを「輸出規制」と呼ぶことは適切ではありません(ただし、わが国でもごく一部のメディアや日本共産党などが、日本政府の措置を「輸出規制」と頑なに呼び続けていますが…)。

韓国政府がこのように頑なに「輸出規制」と言い続けている理由は、結局のところ、日本を貶めるためではないかと疑われても仕方がないでしょう。

ただ、果たして今回の日本政府の措置が、韓国経済に打撃を与えているのかどうか、という点については、また別の議論でしょう。実際、韓国政府からは最近、「日本の輸出規制は韓国に実害をもたらしていない」という発言も出てきているようだからです。

(※ちなみにこの論点については『韓国大統領府「日本の輸出規制は影響なし」の意味不明』などでも触れていますので、適宜ご参照ください。)

ウソツキ外交、告げ口外交、瀬戸際外交

ところで、韓国や北朝鮮には、「何か困ったことが発生したとき」には、たいていの場合、次の3つの外交戦術を取る、という共通点があります。

  • ①あることないこと織り交ぜて相手国を揺さぶる「ウソツキ外交」
  • ②国際社会に対してロビー活動をして、ウソを交えつつ「相手国の不当性」を強調する「告げ口外交」
  • ③国際協定や国際条約の破棄、ミサイル発射などの不法行為をチラつかせる「瀬戸際外交」

今回の韓国向け輸出管理でも、まったく同じパターンが見られました。

まず、①の「ウソツキ外交」です。

経産省が7月1日にこの措置を発表した直後から、韓国政府は「禁輸措置だ」、「(自称元徴用工問題に対する)経済報復だ」、「WTOルールに反する不当な措置だ」、など、それこそハチの巣をつついたような大騒ぎとなりました。

そのうえで韓国政府は7月12日に産業通商資源部の担当者を東京の経済産業省に派遣しましたが、日本側が会合の性質を『事務的説明会』と説明して同意を得たにも関わらず、韓国側は後日、この会合を勝手に「第1回韓日協議」と発表してしまいました。

そして、当時の世耕経産相をはじめとする経産省側はこれに激怒したようで、当然、第2回目以降の会合は現在に至るまで持たれていません(WTO提訴に関わる会合を除く)。このあたりの経緯については『信頼に値しない国 やはり「言った言わない」の展開になった』にまとめています。

次に、②の「告げ口外交」です。

これについては、7月下旬のWTO一般理事会を皮切りに、韓国政府関係者が各国に出掛け、ウソを取り混ぜながら「日本がいかに悪いか」を喧伝して廻ったのです。代表的なものだけを列挙しても、次のようなものがあります。

こうやって改めて振り返ってみると、ウソをつきながら無関係な第三国を巻き込んで日本を貶めるという行動の異常性には驚いてしまいますね。

瀬戸際外交がこれから本格化する

さて、本稿を執筆した最大の動機が、③の「瀬戸際外交」にあります。

韓国は現在、日本に対してさまざまな「瀬戸際外交」を仕掛けて来ていますが、その代表例が、次の2つです。

  • 日韓包括軍事情報保護協定(日韓GSOMIA)の破棄
  • 日本の「輸出規制」を不当としてWTOに対して提訴

そして、先ほどの「ウソツキ外交」や「告げ口外交」よりも、こちらの方が厄介です。

というのも、ハンドリングを間違えてしまうと、日本の国益にも打撃が生じかねないからです。

そして、今後韓国が仕掛けてくる「瀬戸際外交」には、この「日韓GSOMIA」、「WTO提訴」以外にもいくつか出てくる可能性もありますので、本件についてはまだまだ予断を許さない展開が続きそうです。

なお、日韓GSOMIA、WTO提訴の2つについては、それだけで論じるべき点がたくさんありますので、これまでの過去記事、あるいは今後執筆する予定の記事において、時事的な話題やそれらの影響について検討していきたいと思います。

新宿会計士:

View Comments (4)

  • WTOといえば主さんの記事で読ませていただいた
    こちらのバルブの反ダンピング課税問題の
    是正勧告期限がそろそろでしたっけ。

    お墨付きで対抗措置を取れるのなら
    日本政府にはしっかり行動を起こしてほしいところです。

    https://shinjukuacc.com/20190911-11/

  • 韓国人、自分達に都合の良いように解釈する。発信する時は、自分に、都合良い事ばかりを、捏造してでも、行動に起こす。そのような考えをする相手の、対応の仕方、現実には難しい。
    安倍さんの苦労を察します。我慢比べです。・・・がんばって !!

  • (※ただし、この「不適切な事案」が何なのかについては、日本政府は明らかにしていません)。

    是非明らかにして欲しいです。文2号が日本にきて暴言を吐き、それをマスゴミが報道する前に。

    雨が強くなってきました。好感度worst1の県民より。

    • 私は、「不適切な事実を明らかにしないこと」が韓国に対する抑止力なのだと考えます。

      ①不適切事案が多すぎて事実を捏造するための裏工作ができない。
      ②だからホワイト国から除外されると通常申請の書類が作れない。

      *事前の裏工作が十分でなければ、申請不受理に意義を述べることが、すなわち事実関係の相違を暴露される場となってしまうのですからね。

      *韓国を牽制しつつも「不適切な事実に対しての裏工作」を封じているのですから、お得意の「事実捏造(ウソつき発信)」を抑止する意味では十分な効果を発揮しているのではないでしょうか?