先ほどの『米財務省、中国を為替操作国に認定』を掲載した直後にいくつかのメディアを眺めてみて、改めて思ったのですが、そもそも「為替操作」「為替介入」について、きちんとした解説がなかなか掲載されていません。そこで、以前の『【総論】金融政策の基本と「絶対逆らえないトリレンマ」』などをもとに、改めて貿易や為替介入、「国際収支のトリレンマ」について、簡単に議論しておきたいと思います。

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自動車会社の設例

先ほどの『米財務省、中国を為替操作国に認定』を掲載した直後にいくつかのメディアを眺めてみて、改めて思ったのですが、そもそも「為替操作」「為替介入」について、きちんとした解説がなかなか掲載されていません。

米財務省、中国を為替操作国に認定

そこで、本稿ではごく簡単に、為替介入と「国際収支のトリレンマ」を考えておきたいと思います。その際、最初にこんな設例を考えてみましょう。当たり前の話ですが、自動車メーカーが自動車を1台80万円で製造し、100万円で売ると、売上総利益は20万円です。

自動車1台あたりの損益
  • 売上高…100万円
  • 売上原価…80万円
  • 売上総利益…20万円

この自動車メーカーがこの自動車を年間100万台売れば、年間の売上高は1兆円、売上原価は8000億円で、売上総利益は2000億円と計算されます。

自動車を100万台販売したときの損益
  • 売上高…1兆円
  • 売上原価…8000億円
  • 売上総利益…2000億円

ただ、「2000億円」と聞くと「凄い」と思ってしまいますが、現実には、この自動車メーカーは2000億円の売上総利益から、営業マンへの給料を支払ったり、本社事務所の経費を払ったり、顧客へのアフターサービスのコストを負担しなければなりません。

さらに、工場を建てるために設備資金を借りていたら、銀行などに金利を払わねばなりませんし、為替差損などのコストも負担しなければなりません。

現実には、最終的な利益(当期純利益、または「親会社株主に帰属する当期純利益」)が数百億円もあれば御の字、といったところでしょう。

輸出企業にとっての円高、円安

さて、トヨタ自動車をはじめとするわが国の自動車会社は、全世界で商売をしていて、トヨタの自動車はそれこそ地球上の各所で走り回っています。

ここで、便宜上、1ドル=100円だったとし、自動車はすべて日本国内で製造されているものと仮定しましょう。また、輸送コスト、関税などについては無視し、為替ヘッジについても行っていないものと想定します。

このとき、自動車1台を1万ドルで売り、1万ドルを1ドル=100円で日本円に両替すれば上記の1台あたりの損益はそのまま維持されます。

自動車1台あたりの損益
  • 売上高…100万円
  • 売上原価…80万円
  • 売上総利益…20万円

しかし、1ドル=50円の円高になってしまうと、この企業は自動車を1台売るたびに30万円の赤字が発生してしまいます。

1ドル=50円のときの、自動車1台あたりの損益
  • 売上高…50万円
  • 売上原価…80万円
  • 売上総利益…▲30万円

一方で、1ドル=200円の円安となれば、この企業は自動車を1台売るたびに120万円もの粗利が発生します。

1ドル=200円のときの、自動車1台あたりの損益
  • 売上高…200万円
  • 売上原価…80万円
  • 売上総利益…120万円

つまり、輸出企業にとって為替相場は、「自国通貨安」ならばハッピー、「自国通貨高」なら業績悪化、ということを意味します。

輸出企業が多ければどうなるのか?

では、この為替変動は、いかにして生じるのでしょうか?

外為相場も結局は需給で決まりますので、たとえばドル円相場も、「円を売ってドルを買いたい人」と「ドルを売って円を買いたい人」の均衡で決まります。

日本企業が素晴らしい製品をどんどんと製造し、米国で日本製品がどんどんと売れれば、日本企業は米ドルをたくさん獲得することができます。ただ、日本企業は米ドルを持っていても仕方がありませんので、利益を日本に持ち帰るためには、売り上げた米ドルを日本円に両替しなければなりません。

当然、この日本企業は、「ドルの売上高を円に両替する」という意味で、ドルを売り、円を買う需要があるのです。

そして、日本が米国に対して貿易黒字という状態が続いていれば、いずれ、「円を買いたい」という需要が「ドルを買いたい」という需要を大幅に上回ってしまい、放っておけばどんどんと円高になっていくはずです。

これが市場メカニズムです。

一時期よりも衰えたとはいえ、日本は依然として産業競争力が強いため、基本的に円高圧力が常に働いていると考えて良いでしょう。

ただ、それと同時に、日本からは有り余ったカネが外に出ていくという圧力も働いています。これが対外投資です。

対外投資には「対外直接投資」と「対外証券投資」の2つの種類があるのですが、「対外直接投資」は企業などが外国に工場や支店などを作る行為、「対外証券投資」は機関投資家(おもに金融機関)などが外国の有価証券を買う行為だと考えれば良いでしょう。

  • 対外直接投資…企業が外国に工場や支店などを直接投資する行為
  • 対外証券投資…機関投資家が外国の有価証券を買う行為

ちなみに2019年3月末時点の『資金循環統計』によれば、日本全体の対外直接投資は176兆円、対外証券投資は602兆円です。

図表 日本全体の資金循環(ストック、速報値)(※クリックで拡大、大容量注意)

上記のPDF版

(【出所】日銀『データの一括ダウンロード』のページより『資金循環統計』データを入手して加工)

つまり、輸出企業が売上をひたすら円に両替して日本国内に持ち込み続ければ、一方的に円高が進むはずですが、現実には日本企業などは売上高の全額を円に両替するようなことはせず、外国で投資をしているため、無限に円高が進むという状況にはありません。

国際収支のトリレンマ

ただ、それでも為替相場が無限に自国通貨高方向へ進んでしまった場合には、いったいどうすれば良いのでしょうか。

現在の世界は、北朝鮮などごく一部の国を除き、各国ともに「開放(オープン)経済」を採用しています。このため、ある国の金利が高ければ、その国の通貨を買いたいと思う人が増え、その国の通貨の価値が上昇します。

しかし、自国の通貨の価値が上昇し過ぎてしまえば、輸出品の価格競争力が損なわれてしまいます。そこで、自国の通貨の価値上昇を防ぐためには、

  • ①外国からの資金流入をシャットアウトする(閉鎖経済、統制経済に移行する)
  • ②外国から資金流入があった場合、中央銀行が外貨買いの介入を続ける(固定相場制に移行する)

のいずれかしかありません。

この点、閉鎖経済、統制経済などに移行してしまえば、外国からの自由な資金流入が制限されるということであり、今日のグローバル化した世界でそんなことをやれば、産業は壊滅的な打撃を受けるに違いありません。

そこで、人為的に為替相場を一定水準に維持するためには、②のような方策を用いるしかありません。

ただ、中央銀行が外貨を買い、自国通貨を市場に放出するという介入を続ければ、たしかに自国通貨高を防ぐことはできますが、1つの弊害が出て来ます。

それは、自国通貨の供給量が異常に増えてしまう(あるいは独自の金融政策が採用できなくなる)、という現象です。

その実例が、スイスです。

スイスは2011年9月に、「1ユーロ=1.20フラン」という為替上限レートを設定し、これ以上に自国通貨が上昇しようとしたときには、中央銀行(SNB)が外貨を買い、自国通貨を売るという「為替介入を行う」と宣言しました。

その結果、スイスは現在、ドル換算で8000億ドルにも達する巨額の外貨準備を保有しており(『企業会計のセンスで中央銀行を議論するWSJ』参照)、しかも、この買い介入は3年少々で破綻し、2015年1月にSNBは突如としてこの目標を放棄。

1日で10%も通貨が切り上がる、といった大混乱が生じました。

このことから、次のことがいえます。

  • ①資本移動の自由を確保したままで為替相場を固定化しようと思えば、独自の金融政策が実施できなくなる。
  • ②為替相場を固定化し、独自の金融政策を実施しようと思えば、資本移動の自由を制限するしかない。
  • ③独自の金融政策を実施しつつ、資本移動の自由を確保しようと思えば、為替相場を固定化することはできない。

これを一般に「国際収支のトリレンマ」と呼びます。

諸国はいったいどういうパターンなのか?

さて、「国際収支のトリレンマ」は、経済の鉄則です。

日本は上記③のパターン(通貨供給量をコントロールしつつ、資本移動の自由を確保すること)を重視しているため、為替市場では日本円の値動きをコントロールすることはできず、完全な変動相場制が採用されています。

日本は例外的に為替介入を行うこともありますが、その実施状況は毎月公表されていますし、民主党の野田佳彦政権時代の2011年11月4日に3062億円の為替介入(円売り・ドル買い)が行われたのを最後に、介入は行われていません。

しかし、スイスの場合は上記③のパターンを採用していながら、為替相場をコントロールしようとしたので、無理が来て2015年にいきなり為替相場固定化政策が破綻しました。

また、香港やデンマークの場合は、特定の通貨に対する為替相場を固定化しつつ、資本移動の自由も維持しているため、パターンでいえば上記①のとおり、金融政策の独立を放棄するしかありません。

一方で中国の場合は、「パターン①」を採用していると自称しているようですが、実質的にはパターン②を採用しているものと考えて良いでしょう。というのも、外国の機関投資家が自由に中国本土に投資することができないからです。

※ ※ ※ ※ ※ ※

先ほどの『米財務省、中国を為替操作国に認定』で報告したとおり、中国の通貨・人民元は、2016年10月に国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)に組み入れられました。しかし、よく考えてみたら、自由に利用できない通貨をSDRに含めること自体、明らかにおかしな話でしょう。

また、米国が中国に対して怒っているのは、「自由主義国」のルールを部分的に使いながら、都合に合わせて自国を発展途上国と称している点でしょう(『米国は「日韓仲介」しないばかりか、WTOで韓国を名指し批判』参照)。

米国は「日韓仲介」しないばかりか、WTOで韓国を名指し批判

いずれにせよ、米国は今後、おもに中国を念頭に置きつつ、「不当な為替操作を行っている」という国については厳しく指摘し、改革を迫っていくのではないかと思います。

※本文は以上です。

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  • 2020/06/22 12:00 【読者のページ
    読者雑談専用記事通常版 2020/06/22(月) (81コメント)
  • 2020/06/22 11:45 【時事|韓国崩壊
    日韓関係「自然消滅」論を裏付ける韓国メディアの記事 (20コメント)
  • 2020/06/22 08:00 【マスメディア論|時事
    河井夫妻逮捕という「不祥事」なのに支持率が上昇の怪 (22コメント)
  • 2020/06/22 05:00 【韓国崩壊
    韓国メディア「日本の対韓制裁は殴るフリだけで効く」 (34コメント)
  • 2020/06/21 12:00 【経済全般
    「戻ってきてほしいトップは台湾」=訪日外国人観光客 (38コメント)
  • 2020/06/21 05:00 【韓国崩壊
    なぜ「日本は韓国に一本取られた」と勘違いするのか (65コメント)
  • 2020/06/20 15:00 【時事|韓国崩壊
    【補遺】韓国で国産化したフッ化水素は5Nに過ぎない (69コメント)

  • 著者のコンタクト先:info@shinjukuacc.com

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