韓国メディアが国際金融統計を報じるも間違いだらけ
先日、当ウェブサイトに掲載した『日本が韓国への「単独金融制裁」に踏み切れない理由』と似たような記事が、韓国メディア『中央日報』にも掲載されています。ただ、内容を読んでみると、いろいろと数値や定義を間違えているほか、統計を読むうえでの重要なポイントがズレているなど、正直、韓国国内では金融制裁を非常に甘く見ているように思えてなりません。
中央日報、間違いだらけのBIS統計
韓国メディア『中央日報』(日本語版)に、こんな記事が掲載されていました。
日系貯蓄銀行・貸金業者の融資17兆ウォン…資金回収時は庶民に被害=韓国(2019年07月30日08時45分付 中央日報日本語版より)
中央日報によると、「韓国の国策研究機関である対外経済政策研究院(KIEP)」が29日、日系銀行が韓国国内に保有する資産の規模が昨年末基準で563億ドルだった、などとする報告書を発表したのだそうです。
この「563億ドル」という数値でピンと来た人がいるとしたら、鋭いと思います。じつは、当ウェブサイトでも『「韓国のL/Cへの保証」説の実情』で、まったく同じ数値を引用しているからです。
おそらく、この「563億ドル」とは、国際決済銀行(BIS)が公表する「国際与信統計」(CBS)の2018年12月末基準のものだと思いますが、そうだとすると、この中央日報の記事で引用されている数値は、いろいろと間違っています。
「日系銀行が保有する対韓国資産規模は昨年末基準で563億ドル(約6兆1300億円)で韓国内298億ドル、日本国内155億ドル、その他11億ドルなどだ」
の下りについては、おそらく「563億ドル」は「最終リスクベース与信残高」であり、「韓国内298億ドル」とあるのは「所在地ベース・クロスボーダー与信298億ドル」、「日本国内155億ドル」とあるのは「現地通貨・現地向け155億ドル」、「その他11億ドル」とは「リスク移転110億ドル」の間違いでしょう。また、
「グローバル銀行の対韓国資産規模(2894億ドル)のうち日本の比重は15.6%で、米国系(27.3%)や英国系(26.4%)に続いて3番目に規模が大きい」
の下りについても、あえて中央日報の書き方に合わせるならば、
「グローバル銀行の対韓国資産規模(3098億ドル)のうち日本の比重は14.6%で、米国系(25.2%)や英国系(24.7%)に続いて3番目に規模が大きい」
と記載すべきでしょう(2894億ドルはBISのCBS統計データを提出している国の合計値に過ぎません)。非常に細かい話で恐縮ですが、統計の話をするときに引用する箇所を間違えるのは記事そのものに対する信頼性を損なうことになりかねませんので、注意が必要です。
論点はそこじゃない
以上、中央日報の記事は数値やデータ種別の間違いが目立つなど、非常に粗っぽい代物ですが、その点はさておき、「グローバルな金融機関の韓国に対する与信の比率は、米国、英国、日本の順である」という点については、大きな結論は変わりません。中央日報は
「日本の韓国に対する貿易報復に続き、金融会社を通した『金融報復』の懸念が高まっているが、日本の金融会社が韓国で金融資金を回収しても国内に及ぼす影響は大きくないことが分析された」
と述べているのですが、この点についてはあながち間違いとは言い切れないのです。
もっとも、中央日報が引用しているこのKIEP報告書の分析は、ポイントがズレています。
分野別では日系銀行の国内企業与信は23.5兆ウォンで70%が財務構造の健全な大企業に集中しており、中小企業の比重は1%前後である/よって、日本の金融資金回収が韓国のシステムリスクにつながる可能性は低い
そのうえで、「庶民に対する与信」に占める「日系の貯蓄銀行や貸金業者」の貸出金は17.4兆ウォンで、全体(76.5兆ウォン)の20%程度であり、日系金融機関が韓国から資金を引き上げれば、これらの庶民の金融が打撃を受ける、などと結論付けています。
これについては、分析としては非常に甘いと言わざるを得ません。
韓国の金融の問題点は、経済における貿易依存度が非常に高いということであり、また、グローバルな経済活動における外貨依存が大きいにも関わらず、韓国の通貨・ウォンが国際的に通用しない「ソフト・カレンシー」である、という点にあります。
必然的に、韓国企業(とくに大企業)は外国でビジネスを行う場合、おもに外国の金融機関から資金を調達しなければならず、問題にすべきは「大企業に外国の金融機関からの外貨建て与信が集中していること」です。せいぜい1~2兆円ていどの「庶民の金融」が問題の本質ではないのです。
日本の単独制裁は困難
さて、このKIEPレポートが参考にしたであろうBISのCBS統計については、すでに2019年3月末基準のものが公表されており、当ウェブサイトでも『日本が韓国への「単独金融制裁」に踏み切れない理由』のなかで記事にしておりますので、細かい数値についてはこの記事をご参照ください。
簡単に申し上げると、韓国の企業や銀行が外国の金融機関から借りているおカネは最終リスクベースで3223億ドル(うちクロスボーダー与信が1743億ドル、現地通貨・現地向けが1464億ドル)で、日本の与信は572億ドル(全体の17.75%)であり、英米両国に次いで3番目です。
このため、日本だけが外為法の規定を発動し、資本取引などを禁止したとしても、韓国を資金的に締め上げることは困難です。なぜなら、韓国はすでに米国や英国など、「日本以外の先進国」からおカネを借りているからであり、日本が貸してくれなければ他の国から借りればよいからです。
もしあえて韓国を国際的な資本市場から追放する必要があるのなら、日本が単独で制裁してもあまり意味はありません。米国、英国、フランスなどとと協力することが必要でしょう。
また、「日本の金融機関が何らかの理由で少しずつ韓国に対するL/Cなどの与信を絞る動きが出てくれば、韓国経済には壊滅的な打撃が生じる」、といった言説を見ることもありますが、少なくともこれについては統計上、確認できません。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ただ、だからといって「日本が金融面で韓国を締め上げることができない」というものではありません。
とくに、韓国が日本の輸出管理の運用変更について、国際社会で日本のことを批判し続ければ、結果的に国際的な金融市場では「日韓関係が悪化している」という印象が強まりますし、また、仮に韓国の企業や銀行が日本で起債を見送った場合、金融市場ではあっというまにその噂が広まります。
結果的に韓国の資金繰りはジワリと厳しくなっていく、という効果が発生する可能性はあります。
とくに、ここ数日、外為市場で韓国ウォンは1ドル=1180ウォン前後で取引されていて、「為替介入ではないか」と疑わしい動きも観測されていますが、その意味では、韓国の金融状況について、しばらく関心を持ってチェックする価値はありそうです。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。
ツイート @新宿会計士をフォロー
読者コメント一覧
※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。
やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。
※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。
※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。
当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。
コメントを残す
【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
韓国 鉱工業生産(前月比) -1.7%(予想-0.6%)
製造業BSI指数 74 (前月76)
小生、経済にはあまり詳しくないのですが、昨日今日と発表された上記データはあまり良い数値とは言えません。それでいて、ウォン自体があまり値下がりしていないのは、やはり介入を疑うべきなのでしょうか?
ウォンが下がると小遣いが増えて嬉しいのですが・・・
駄文にて失礼します
韓国在住日本人様
日々介入ポイントは変わっていますが以下の通り明らかに介入しています。
昨日のUSD/KRWですが
713Trader@Live!2019/07/29(月) 12:50:53.79ID:auJbQ4kY0NIKU
09:00 高値 1185.45
12:15 高値 1185.45
12:25 高値 1185.45
12:47 高値 1185.45
12:48 高値 1185.45
723Trader@Live!2019/07/29(月) 13:05:12.71ID:CVPhYNoC0NIKU
1,185.45 +2.21 +0.19%
鉄壁の1185.45
753Trader@Live!2019/07/29(月) 13:52:27.98ID:gxSgJlyR0NIKU
1,185.28 +2.04 (+0.17%)
1185.45でAIに無制限発射権限でも与えてんのかね?
このウェブサイトをパクッたような記事ですね。(しかもポンコツ)
以前の『日本が韓国への「単独金融制裁」に踏み切れない理由』を読んだ時ふと思ったのですが、日本の金融機関が韓国への与信を減らした場合 それを埋め合わせてくれる他国の金融機関はあるのでしょうか?
韓国の主要銀行の筆頭株主はウリィ銀行以外は外資だったと思います。IMF危機時と比べその割合は減っている様ですが、新韓銀行-BNPパリバ、国民銀行-シティバンク、ハナ銀行-昔はゴールドマンサックス(今は分りません) つまり先進国の金融機関は今でも相当韓国へ投資しており先行きの暗い市場へ投資を増やす事はリスクの分散という点からも考えにくいのではないでしょうか。
中東産油国?フランス?スイス? ドイツ銀行はアジアの割合を減らすと発表したと思います。あとは中国が投資して名実共に属国化するのか、、、。
会計士様は日本は第3位なのだから、日本が締めても第1位・楕2位の米英が貸し付ける(だろう)から、韓国への影響は少ないと言うのがご持論のようで、金融制裁は日本のリスクが大きく効果は少ないのでやらない方が良いと仰っていると解しています。
しかし、以前も書きましたが、日本が引き上げれば米英が代わりに貸し付けを増やす、そんな簡単なものでしょうか?貸し付けの中味がよく判りませんが、運転資金に属するものなら、100万足りなくても即死です。
日本が引き上げた後を米英が埋めるにしろ、埋めないにしろ、韓国に一泡吹かせることは出来るでしょう。
韓国と手を切るという目的にはそれで充分ですし、手を切らないにしても現在のようにべったりで良い訳では無いので、貸付比率が下がっても良いのではありませんか?
それとも貸付比率が下がるのは日本に取ってリスクと言う事なのでしょうか?
もちろん、韓国ざまーで言っている訳では無く、実力は過大にも過少にも評価することは戦略を誤ると申し上げたいのです。
門外漢 様
いつもコメントありがとうございます。
さすがですね。やはりよく見ていらっしゃると思います。
当ウェブサイトの主張の弱点を突くようなコメントを賜ることは、当ウェブサイトにおける議論に大きな深みと説得力を持たせるきっかけにもなるため、心の底から感謝申し上げたい次第です。
当然、ご指摘のように、「借金は1円でも返せなければデフォルト」ですから、「日本が融資を引き上げれば韓国経済が突然死する」というリスクはあります。
ただし、これは「借り手」から見たリスクであって、今回議論しているのは「貸し手としての日本」です。
貸し手にとっては貸し剥がしすれば相手に思いもかけない打撃を与えることができるかもしれないし、できないかもしれない、ということであり、日本の融資シェアが低いということは、それができない可能性が高い、という意味でもあります。
いずれにせよ、引き続きのご愛読とお気軽なコメントを賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
新宿会計士様へ
レスありがとうございます。
今後ともご教示の程お願いいたします。
≫日本が単独で制裁してもあまり意味はありません。米国、英国、フランスなどとと協力することが必要でしょう。
武藤正敏氏は『この韓国の「信用状」に与えている日本の銀行が保証枠を外させるような措置を取れば、韓国のドル調達は一気に困難になる。韓国が受ける衝撃度は、半導体関連物資の輸出規制の比ではないのだ』とJbpressで述べられています。
まあ、日本から離れようとする韓国への脅しですね。
しかし実質は、日本がアメリカ、イギリス、フランスなどの同意を取り付けないと、金融制裁には実効力がないことになります。
方向性は出ていますが、まだ先の話しのような気がします。
先日、別稿に同じ内容の投稿をしたのですが・・。
L/Cコンファメーション(L/C確認)みずほ銀行
https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/forex/tradefinance/lcconfirm/index.html
↑「韓国の金融機関が発行した信用状に付与されている日本の銀行による保証」とは、これのことでしょうか?
説明には、「L/C発行銀行または輸出者からの依頼に基づき、 L/C条件通りの輸出書類と引き換えに、L/C発行銀行が支払を行うことをみずほ銀行が確約する取引です。」と、あります。
図解の③の部分は発行銀行に対しての「連帯保証の引受け」であり、④の部分は輸出者に対しての実質的な「債務保証」とみることもできるかと思います。
輸出地の銀行としては「当然の一般業務」なのでしょうが、邦銀がこれと同様の業務を日本以外の海外拠点においても幅広く展開してるようであれば、「韓国の貿易(輸入)は、実質的に日本の銀行の債務保証によって成立している」との主張にも整合性があると考えられるんですよね。
信用状の引受けを邦銀が制限すれば、日本企業からの輸出を抑制する効果は得られると思います。
ただ、現段階では邦銀が信用状の引受けを停止したとしても、従来の役割を米・英・中に代替されるだけで終わる可能性が大きく、資本規制にはスタンドプレーではなくて連係プレーが求められるのだと思います。(ただし、信用状に中国の債務保証が付いたからっといって必ずしも輸出が実行されるとは限らないんですけどね)
為替の動きを見てると、感覚的で申し訳ないのですが、当然韓国の為替操作も入ってるのは当然のこと、日本もウォンを買い支えてる気がするのです。株価の下落の割に為替が安定している。今回は肉を切らせて骨を断つ覚悟なので、どこかで大量のウォンを売ってとどめを刺すイメージでしょうか。日本も韓国企業の株を持ってますが、それを売り切ったところでウォンを大量に市場に流す、あるいはそういう脅しをかける的な。