X

対韓輸出規制開始の一方、中央日報は「不適切な事案」を分析

経産省が7月1日に発表した韓国に対する輸出規制の強化について、『中央日報』が「不適切な事例」とは何かに関しての興味深い記事を発表しています。その一方で、昨日、韓国に対する経産省によるフッ酸等の個別承認措置が開始されましたが、『聯合ニュース』(日本語版)によれば、その具体的影響として、該当品目が韓国に輸出されなくなっている事例が出ているのだとか。

経産省輸出規制の「不適切な事例」

経済産業省が今月1日、フッ酸などの物質の対韓輸出規制を強化する措置を発動したことについては、当ウェブサイトでは『対韓対抗措置を経産省が正式発表、そして韓国の反応』や『本日から韓国へのフッ酸などの個別承認措置が開始』でも紹介したとおりです。

経産省のホームページなどを手掛かりに、簡単に要点を振り返っておくと、次のとおりです。

  • 輸出管理制度は、国際的な信頼関係を土台として構築されているが、日韓間の信頼関係は著しく損なわれたといわざるを得ない状況にあり、韓国との信頼関係の下に輸出管理に取り組むことが困難になっている
  • これに加えて韓国に関連する輸出管理をめぐり不適切な事案が発生した
  • よって、次の2つの措置を発動する
    • 韓国に対し「ホワイト国リスト」からの削除に関する政令(輸出貿易管理令)改正案のパブコメを公表する(期間は7月24日まで)
    • 7月4日以降、3品目(フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素)の韓国向け輸出・技術移転を包括輸出許可制度の対象から外し、個別に輸出許可申請を求め、輸出審査を行うこととする

ここで、措置を発動する理由となったポイントは、「①日本の韓国に対する信頼が著しく損なわれたこと」と、「②不適切な事案が発生したこと」です。

このうち①については、菅義偉(すが・よしひで)内閣官房長官が7月2日の記者会見で「友好協力関係に反する韓国側の否定的な動きが相次いでいること」と述べました(『官房長官「韓国がG20までに解決案持ってこなかった」』参照)。

つまり、自称元徴用工判決だけでなく、昨年来の韓国側による一連の不法行為(レーダー照射事件、慰安婦財団解散、旭日旗騒動、上皇陛下侮辱など)が累積した、ということでしょう(わかりやすくいえば「日本政府が韓国に対して『キレた』」という状況)。

しかし、②については、いまひとつよくわかりません。

といっても、「よくわからない」といっても、それは「まったく見当がつかない」、という意味ではありません。

当ウェブサイトでも「不適切な事案」について、ずいぶんと仮説を出してきましたが(レーダー照射事件との関連、北朝鮮やイランの核開発との関連、昨年の「200トンのミカン」との関連など)、「該当する可能性が多すぎて絞り切れない」、という意味です。

「不適切な事案」めぐり中央日報が「日本の切り札」説

これについて、韓国メディア『中央日報』に、「不適切な事案」を巡って仮説が掲載されているようです。

日本「韓国、不適切な事案あるが、内容は秘密」…切り札か(2019年07月05日16時43分付 中央日報日本語版より)

普段、当ウェブサイトでは中央日報の記事を批判的に引用することが多い気がしますが、このリンク先の記事については珍しく有益です。

というのも、中央日報は5日、経産省幹部に対し、「不適切な事案とは何か」と問い合わせたところ、経産省側は次のように答えたそうだからです。

不適切な事案が何か、また韓国に同事案について伝達がなされたかを含め何も明らかにすることはできない」。

また、この「不適切な事案」が何を意味するのかについては、韓国政府側も緊張して情報収集に当たっているのだとか(※余談ですが、「日本側から何の説明や警告もなかった」という下りがあるのですが、これは今までは日本政府の情報が韓国側に筒抜けだったという証拠でもあるでしょう)。

経産省はこの「不適切な事案」が何かを明らかにしない理由については、「守秘義務がある」と説明したそうですが、これについて中央日報は

日本の報復措置に対応して韓国政府が応酬に出た場合、韓国に反撃するために出すための『切り札』を握っているのではないかという観測まで出ている

と指摘します。

この下りは、韓国メディアにしてはなかなか優れた分析でしょう。

中央日報はこの「不適切な事案」について、「日本政府は輸出管理を協議する当局間対話チャンネルが最近3年間途絶えていると主張した」という朝日新聞の報道を引用したうえで、

  • 日本政府が「韓国に渡った部品や物資が本来の趣旨と異なるところに使われた」と主張する可能性
  • 北朝鮮船舶の違法瀬取りと関連付ける可能性
  • レーダー・哨戒機問題を触発した昨年12月20日の事件と関連させる可能性

などを示しています。

事実上、停止だが…

この「不適切な事例」については、結局のところ、追加での情報が出てこない段階では、単なる推測または憶測という域を出ませんが、先ほどの記事は、中央日報にしては冷静に分析ができていると感じた次第です。

それはさておき、昨日、フッ酸などの個別承認措置が発動されたのだそうですが、『聯合ニュース』(日本語版)によれば、事実上、通関が停止してしまったそうです。

韓国向け半導体材料の通関が事実上停止 2日連続で日本当局の許可出ず(2019.07.05 16:14付 聯合ニュース日本語版より)

聯合ニュースによれば、韓国の産業通商資源部関係者は5日、「きのうから日本が輸出許可を出していないことが確認された/日本から輸入していた該当品目が国内に入ってこなくなっている」と明らかにしたのだとか。

実際、4日に日本の一部の業者が当局に輸出許可の申請書類を提出したものの、まだ許可を受けた業者はいないともしており、いままで約3年単位で包括的に輸出承認が下りていた3品目の個別許可制への移行の影響が生じている格好です。

ただし、聯合ニュースはまた、「該当品目は1カ月または半年間分の数量を輸入済みとされ、すぐ製造に支障が生じるとはいえない」とも述べていて、これが事実なら、1ヵ月から1ヵ月半程度、通関が遅延するだけであれば、韓国の産業に大した影響は生じないことになります。

しかし、そもそも論として該当品目の在庫がどの程度積み上がっているのかがわからないうえに、日本の当局がどの程度、個別承認に時間をかけるかについても、状況は不透明です。

このため、今後の状況次第では「大山鳴動して鼠一匹」となるかもしれませんし、逆に、韓国に対する信用不安が突発的に生じ、一気にキャピタル・フライトと通貨危機にまで発展する可能性もあるため、予断を許さない状況がしばらく続きそうです。

新宿会計士:

View Comments (54)

  • こんばんは。いつも読ませていただいております。
    不適切な事案にについて、
    5月に朝鮮日報にて報道されていたようです。

    元記事は7日を越してしまったようなので既にないのですが、、
    大量破壊兵器に転用できるジルコニウムなどの戦略物資がマレーシア、中国に違法輸出されてるようです。

  • 更新、ありがとうございます。

    『不適切な事案』とは何か?
    ここなんですよね。今のままでは、画竜点睛を欠きます。
    韓国をホワイト国から除外でき、それを国際社会に有無も言わさぬように納得させることができる材料。韓国が国際社会の一員でおれなくするような決定打であることを期待させます。
    で、泰山鳴動して鼠一匹であるならば、国民の批判は政府に向けられるでしょう。『あれだけ長い期間、国民に我慢を強いさせて、結局はこんな対策しかないのか?』と突っ込まれることになるでしょう。

    徴用工方面に耳目を集めさせておいて、セカンダリー・サンクションの方面から奇襲攻撃を仕掛けてきたのですから、なかなかの策謀家が絵図を書いているものと思われます。
    (こちらもコロリと陽動に引っ掛かりました(笑))
    いやはや、そんな策謀家が用意するものに、なまなかな『モノ』があるのでしょうか?
    自分は期待して待っています。
    さて、その材料がどこから飛び出て来るのか?

    • 私もそう思います。

      「不適切な事案」が「韓国の不法行為」の証拠となるなら、エース・イン・ザ・ホール(最後の切り札)となります。見当違いの反論も一発でつぶせます。逆にここの根拠が薄いと、韓国側の無理くりな反論もごり押しされる、一分の隙が生まれてしまいます。虎視眈々と準備してきた政府が、ここで画竜点睛を欠くでしょうか。

      「ある時期、フッ素関連の物品に大量発注が急遽入って、その後、韓国側の企業で行方が分からなくなった事案がある」(萩生田氏)と、さらに踏み込んだ発言まで出てきている状況で、ふたを開けてみたら「根拠なし」という事態は、ちょっと考えづらいのです。

      ちょっと違った見方もしてみると、貴サイトでもご指摘の通り、今回、背後に米国の影がちらつきます。未だに静観しているのもそうだし、安保案件を日米で共有しないわけもない。さらにうがってみれば、

      ・ベトナムを迂回していた韓国製鉄鋼に米国が456%の関税
      https://jp.reuters.com/article/usa-trade-vietnam-idJPKCN1TX2YP
      ・米マイクロンの一時中断していた広島設備増設を6月完了
      https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45953470R10C19A6X20000/

      という動きもタイミングが良すぎる気がしてなりません。では、米国が共同戦線を張るとしたら、その理由は――? それはもう「韓国から北朝鮮、そこからさらにイランに戦略物資が流れている」しか考えられません。その証拠があるから、今回、ここまで大胆な手が打てたのではないでしょうか。

      と思っていたところに、このニュースです。

      ・イラン、ウラン濃縮レベル引き上げを明言 合意の上限突破へ
      https://www.cnn.co.jp/world/35139465.html

      なんかもう、すべてが収れんしていくようにしか思えなくて……^^;

      さて、それを踏まえると、今回の措置はどうなっていくでしょうか。世間では「日本は法治国家だし、審査が厳しくなるけど、輸出はこれまで通り行われるでしょう」という意見も多いようですが、私はそう思っていません。

      もし「韓国の不法行為」が確かにあって、「その証拠を握っている」なら、日本が法治国家であるからこそ、逆に「輸出を許可できない」と思うのです。もちろん、それでも審査はしっかりやって、まったく問題がないものに関しては許可するのでしょうけど、だとしても「一定以上の輸出に関しては、許可が出なくなる」ことがある程度見えてきたので、今回の手を打ったのではないでしょうか。

      名無Uさんのおっしゃる通り、これで「選挙対策」で「泰山鳴動して鼠一匹」だったら、国民が感じる裏切られた感は相当なものになると思います。それは次回の選挙に致命的な影響を与えるほどに……。政府がそれを想像できないというのも、またちょっと考えづらいのです。

      余談)豪「スマホ誇大広告でサムスン提訴」、中「サムスンと現代自の広告看板撤去」、日米豪に中国も共同戦線張ってたりして(笑)

  • 今後は、輸出許可申請を個別に審査することになるので、審査に90日程度かかるということではありませんか?
    つまり、4日に申請が出たものについては、認可されるとしても早くても90日後となる。

    • フッ酸は取り扱いが難しいので1か月くらいしか保管できないそうです。
      で、手続きに3か月掛かる・・・と。

  • 個別にどこぞに横流ししてたってのも不適切な事案てすが、
    >「日本政府は輸出管理を協議する当局間対話チャンネルが最近3年間途絶えていると主張した」
    って方が、韓国の管理体制が崩壊してるか、少なくとも日本から見てちゃんとした管理が期待できない状態だってことだから、よっぽど大事なんだと思うのですが・・・・・

    こんなこと書いてて、ただの喧嘩みたくどっちが勝つか、どうすれば勝てるのかってことしか考えてないなら、ほんと大馬鹿者なのです (#^ω^)

    くだらないこと書いてる暇があったら、まずは自分とこの管理体制をちゃんと確認しなさい ( ˘-˘)ว ))д*)ポカッ

  •  独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。

     韓国メディアの「中央日報」が「不適切な事案」の中身を取材中として
    問題は韓国大統領府が、この事案をどう捉えているかです。案外、

    ①日本政府が知っているはずがない
     
    ②すべて、朴前大統領の責任だ

    ③鳩山由紀夫が「大丈夫だ」と言ってくれた

    ④そんなことは、朝日新聞には書いていない

    ⑤聖なる蠟燭に選ばれた文大統領に、そんなことは有り得ない

    ではないでしょうか。

    駄文にて失礼しました。

    •  すみません。追加です。
       「不適切な事案」の中身次第ですが、それが明らかになった場合、社説
      で「韓国への制裁を撤回せよ」と言った朝日新聞が、何て言うか気になり
      ます。案外、「真実かどうか、まだ分からない」あるいは(選挙期間中な
      ら)「選挙に影響するから報道しない」と言い出すのでは。

       駄文にて失礼しました。

    • アメリカが把握して、日本から韓国経由、北朝鮮でさらにイランに行っている戦略物資のことかもしれません。それをばらしたら、アメリカから恐ろしい制裁があるので、誰もいえません。親韓派の人はすでに把握されていて、家に帰ると、自分の書斎のデスクの引き出しのなかに韓国にバツ印がしてあって、自分の子供の写真があったりして、怖くて何もできない状況かも。アメリカは目的のためには手段を選ばないですからね。イラクだって大量破壊兵器があるなって言っていたのに実際はなかったでしょ。おそらく中国以上に独裁的なのはアメリカ。日本はアメリカの逆鱗に触れないようにおとなしくアメリカの意思に従うのがよろしい。ちょっと独裁的だけど、日本の商品をいっぱい買ってくれるよいお客さん。どこの世界にお客さんに喧嘩売るかな。アメリカが「韓国を制裁する。日本は当然わかってるな。」と言われれば、もう従うしかありません。「田中角栄みたいになりたくなかったら、おとなしく言うことを聞け」ぐらいは言っているかも。おそろしや~。

  • 山川谷平様へ

    審査には『最大で』90日かかるとのことです。
    申請を受けてから経産省の審査が1日で終わる場合もあるでしょう。
    また、90日の期間が来ても、経産省が首を縦に振らなければ、輸出許可が下りない場合も考えられます。
    そこの裁量は経産省次第、ということでしょう。

    その90日の期間中に、韓国に止めを刺すような『不適切な事案』が世界に公表されたなら、どうなるのでしょう?
    個別輸出許可は、事実上の『禁輸』に早変わりするとの『含み』が残されているのが、肝の部分だと思います。
    中央日報はそこに気がついたのでしょう。

  • >経産省はこの「不適切な事案」が何かを明らかにしない理由については、
    「守秘義務がある」と説明した。

    ⇒ 「守秘義務」
      これは不適切な事案に係る情報を米国から得ている可能性が大。
      特定機密保護法の対象なのでしょう。

  • 不都合な真実については日本側から明確にする必要はないと思います。
    韓国側に考えさせて「これで宜しいか?」「それもあるが、それだけでない」と言っておけば良いのです。
    こうして延々と「これで宜しいか?」「それもあるが、それだけでない」を続けるのですよ。
    で、時々「誠意が感じられない」くらいを合いの手に入れるという(笑)。

    安倍さんも人が悪いねww

    • 反社会的勢力の「解決したければ誠意を見せろ」って手法ですねw

      「誠意ってなんですか?」→「そんな事は俺の口からは言えないよ」

      「何かご存じなんですか?」→「さぁ、どうだろうねえ(・∀・)」

      「どうすればいいですか?」→「それは自分で考えないとダメだよ」

  • 詳細は未確認の情報ですが、核兵器の製造にも使える戦略物資を突然強引に購入していった事案が複数あったそうです。詳しい取引内容は守秘義務などの関係で公開できないでしょうが日本政府にはかなり確実な証拠がそろっているみたいですね。北の国が激おこなのを見るとまあ確定かなって感じですけど。

  • 「不適切な事案」の例としては、既に匿名様がご紹介されている通り、管理していなければならない戦略物資が横流しされておりどこに行ったか分からない状態が韓国では常態化していて、「不適切な事案」と認識していないだけで周知の事実のようですよ。(以下別URL)
    https://seijichishin.com/?p=20035

    特に文大統領就任後は、横流しが激増していることまで記事に記載されています。
    その中でも、日本政府は横流しが確実であり核兵器等戦略兵器の製造工程に転用可能な品目3つを選択したのではないでしょうか。

    この状況で、既に優遇解除をWTO紛争解決手続き上の最初の措置に当たる二国間協議を、7月3日に日本政府へ公式に要請したようですよ。
    https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190705-00000031-cnippou-kr

    二国間協議で、経産省から該当3品目の輸入量と最終使用量が合致している資料を提出する様指示を受けたら、どうするつもりなんでしょうか?
    大量に横流ししていましたと世界中に周知したら、優遇解除どころではなく世界中から経済制裁ものだと思うのですが。

1 2 3