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習近平の行動は安倍総理というフィルターを通せばよくわかる

習近平(しゅう・きんぺい)中国国家主席が明日から北朝鮮を訪問するそうです。これについて米WSJは「バーゲニング・ポジションを得るためだ」などと指摘しているのですが、どうも私には習近平氏が何らかの成果を見込んで北朝鮮訪問を決断したようには見えません。むしろ、習近平氏自身がそこまで有能なのかが疑問でならないのです。そんな習近平氏を解明する意外なカギが、日本にありました。それが、安倍晋三総理大臣です。

習近平の唐突な北朝鮮訪問

発表時点が異例なら、訪問まで間がないのもまた異例

すでに複数のメディアが報じましたが、中国の習近平(しゅう・きんぺい)国家主席は今週木曜日から2日間の予定で、北朝鮮を訪問します。

このタイミングで唐突に習近平氏の北朝鮮訪問が発表されたのも不思議であれば、北朝鮮訪問から実際に習近平氏が訪問するまでにほとんど時間がないのもまた不自然です。

また、北朝鮮の独裁者である金正恩(きん・しょうおん)は、これまでに外国首脳との間で10回の会談を行っていますが、昨年9月18~19日に北朝鮮を訪れた韓国の文在寅(ぶん・ざいいん)大統領を除けば、いずれも外国で会っています(図表)。

図表 2018年3月~2019年2月の金正恩の動き(表中敬称略、数字は面会回数)
時点 会談相手 面会場所
2018年3月26~27日 習近平と1回目の会談 中国・北京
4月27日 文在寅と1回目の会談 板門店
5月7~8日 習近平と2回目の会談 大連
5月26日 文在寅と2回目の会談 板門店
6月12日 トランプと1回目の会談 シンガポール
6月19日~20日 習近平と3回目の会談 北京
9月18~19日 文在寅と3回目の会談 平壌(へいじょう)
2019年1月8~10日 習近平と4回目の会談 北京
2月27~28日 トランプと2回目の会談 ベトナム・ハノイ
4月25日 プーチンと1回目の会談 ロシア・ウラジオストク
6月20日~? 習近平と5回目の会談 平壌?

(【出所】著者調べ)

つまり、文在寅氏以外の外国首脳との間で、「相手が北朝鮮を訪問する」という形での会談が行われるのは、今回が初めてです。

習近平の狙いとは「戦争回避」?

過去に4回行われた中朝首脳会談は、いつも金正恩の方から中国に出向く形で実施されて来ました。

それが、わざわざ「多忙な(?)」習近平氏自身が北朝鮮を訪問するというわけですから、その事実自体に、何か切迫した事情でもあるのではないかと感じてしまいます。

こうしたなか、ちょうどタイミングよく、昨日は『デイリー新潮』に、日本を代表する優れた韓国観察者である鈴置高史氏が最新論考を寄稿されています。

米国にとって北朝鮮は狂信的なカルト集団、“先制核攻撃”があり得るこれだけの根拠(2019年6月18日付 デイリー新潮より)

今回の論考も、ウェブページ換算で3ページという分量にも関わらず、読み終えてしまうのがもったいないくらい、あっという間に読了してしまいます。また、前回に続いて対話方式であり、旧日経ビジネスオンライン時代の大人気連載シリーズ『早読み深読み朝鮮半島』と、ほぼ同じ要領で読むことができます。

私の言葉でごく大雑把に要約すれば、最近の在韓米軍の動き(拠点の移転や一部部隊の撤収)は、北朝鮮に対して先制攻撃をするための準備である、と考えれば整合する、といったところですが、詳しくは、直接リンク先をご確認ください。

また、今回の鈴置氏の論考では、唐突な「習近平訪朝」について、まだ織り込まれていませんが、鈴置氏であれば、唐突な習近平氏の北朝鮮訪問を「戦争回避」と関連付けて議論されるような気がしてなりません。

このあたりについても、是非、鈴置氏の見解を読んでみたいところです。

最近参考にしているもう1つのサイト?

ところで、このデイリー新潮とともに、私自身、最近になって参考にし始めたサイトがあります。

そのサイトとは、当ウェブサイト『新宿会計士の政治経済評論』です(笑)

というのは冗談で、より厳密にいえば、当ウェブサイトに読者の方から寄せて頂く書き込みです。

当ウェブサイトによくシャープなコメントを寄せて下さる「心配性のおばさん」様から昨日、こんなコメントを頂きました。

変なニュースが入って来ました。

在韓米軍の夜間通行禁止措置、9月17日まで暫定解除

アメリカンスクールのサマーホリディ中に、夜間(午前1~5時)通行禁止措置の暫定解除って・・・。

これに対し、「名無Uさん」からは、こんな返信がありました。

非常に奇妙なニュースですね…

在韓米軍の夜逃げ準備と考えるのが、普通でありましょう。しかし自分は、韓国から北朝鮮へ物資を送るための秘密トンネルが秘密裡に稼働していることを米軍が探知したのではないのかと、何の確証もない予想を立てています。

米軍が韓国領内を動けない夜中の1時から5時の間に、韓国ー北朝鮮間の秘密トンネルはこっそりフル稼働。そうはさせじ、と在韓米軍が現場を差し押さえるために動き出したのではないか、と…

もし、もしですが、その現場が押さえられ、その内容が公表されると大事件になります。韓国は安保理決議違反の大戦犯、アメリカは米韓同盟の崩壊まで決意しなくてはならなくなるでしょうね…

アメリカは米韓同盟崩壊の責任を、すべて韓国に押し付けることができるのですが、アメリカがそこまでのことを決意しているのかどうか…

当ウェブサイトは、サイト運営者である私自身を含め、基本的にはジャーナリストでも政治家でも官僚でもない、ごく普通の一般人が議論をするサイトです。しかし、ときどき、どなたかが目立たないが重要なニューズを拾ってきて、他の方がそれに対して解釈を示す、といった具合に、議論がどんどん広がっていくのです。

得てして世の中の激動の兆候は、ちょっとしたニューズ・ソースに出て来るものです。

米軍の動き、習近平の動きなどを踏まえると、何やらきな臭いものを感じてしまうのです。

(※なお、宣伝ですが、当ウェブサイトの場合は、読者コメント欄にこそ、読む価値があると思います。是非、読者コメント欄についてもご参照ください。)

習近平は有能なのか?

米国との関係では「バーゲニング・パワーの獲得」

ところで、習近平訪朝について、また少し視点を提供しているメディアがあります。

米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は習近平訪朝の狙いについて、中国が米国に対し、「バーゲニング・ポジションを得るためだ」と述べています。

China’s President Xi Jinping to Make First State Visit to North Korea(米国夏時間2019/06/17(月) 14:03付=日本時間2019/06/18(火) 03:03付 WSJより)

「バーゲニング・ポジション」( “bargaining position” )とは、わかりやすく言えば、「交渉するための有利・不利な状況」のことで、米中貿易戦争や華為(ファーウェイ)機器排除問題などで劣勢に立たされている習近平氏が米国に対する優位を確保するため、というニュアンスでしょうか。

WSJによると、習近平氏が北朝鮮を訪問するのは、中国首脳としては14年ぶりのことですが、これは来週、G20サミットにあわせて訪日する際、ドナルド・J・トランプ米大統領との米中首脳会談において「バーゲニング・パワー」の1つにしておく狙いがある、というのです。

つまり、トランプ氏と北朝鮮の独裁者・金正恩(きん・しょうおん)とのあいだで2月にハノイで行われた首脳会談が事実上の決裂に終わったことを受け、北朝鮮核交渉において、中国が北朝鮮に対する影響力を所持していることを見せつける、ということですね。

これについて、もしWSJの見方が正しければ、習近平訪朝の狙いは、米国に対するバーゲニング・パワーの獲得(つまり単なるパフォーマンス)と見るのが自然であり、一部のメディアの報道にあるような、「習近平氏が金正恩との間で核合意形成に向けて対話を進展させる」のは期待薄です。

米中対立のタネをまいたのは習近平

一方で、習近平氏には非常に申し訳ないのですが、私自身、この習近平氏という人物が、中国の歴代国家主席と比べても、「際立って有能な人物」だとは思えません。

たとえば、トランプ政権は現在、中華通信メーカーである華為を5G規格などから排除しようとしていますが、その遠因の1つが、習近平指導部が2015年に発表した「中国製造2025」というビジョンにあったのではないでしょうか。

日経によると、このビジョンは、中国が「建国100年」を迎える2049年までに「世界の製造強国の先頭グループ」に入ることを念頭に置きつつ、まずは2025年までに10分野23品目で製造業の高度化を目指す、というものです。

中国製造2025とは 重点10分野と23品目に力(2018/12/7 2:00付 日本経済新聞電子版より)

共産党一党独裁国家である中国に5G通信規格などを支配されれば、全世界の人々は携帯電話やPC、スマートフォンなどからデータを抜き取られる恐れがある、などと警戒する人もいるのですが、こうした警戒もあながち「陰謀論」では片づけられないものがあります。

また、伝統的にアジアのインフラ金融を担ってきた国際開発銀行がアジア開発銀行(ADB)ですが、2015年12月には、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)と呼ばれる国際開発銀行が設立されました。

国際インフラ開発金融の豊富なノウハウを持つ日米両国が、いまだにこのAIIBに参加していないこと自体、日米両国がAIIBを「ADBに対する挑戦」と見ている証拠ではないでしょうか。

その意味で、昨今の米中対立のタネをまいているのは、実は、習近平氏自身ではないかと思えてならないのです。

中国異質論を自ら植え付けた独裁者

ちなみに習近平氏といえば、自身の「思想」を憲法に書き込んだ人物であり、また、中国憲法から任期を削除し、その気になれば「終身国家主席」となることも可能になりました。

習近平は「父の思い」覆し、独裁憲法に走るか/中国82年憲法、5度目の修正の行方(2018年2月14日付 日経ビジネス電子版より)
習近平氏、「終身」可能に 中国・全人代が憲法改正承認(2018年03月12日付 BBC日本版より)
「習近平思想」を憲法に明記へ 中国共産党2中全会閉幕(2018年1月19日21時07分付 朝日新聞デジタル日本語版より)

(※余談ですが、『ツイッターフォロワー1000人御礼と「議論拒否」の人たち』でも触れたとおり、日本共産党支持者を中心とする「アベは独裁者だ」と批判する人たちは、不思議なことに、なぜか習近平や金正恩、志位和夫ら明らかな独裁者のことを、絶対に批判しません。)

それはさておき、この「習近平思想」なるものもよくわかりませんし、習近平氏が終身国家主席を目指すという野心についても理解が困難です。

こうしたなか、昨年3月にトランプ氏は、習近平氏を「終身国家主席」と称賛し、「米国でもいつか試したい」と述べました。

トランプ、習近平を「終身国家主席」と賞賛 「米国でもいつか試したい」(2018年3月5日(月)14時19分付 ニューズウィーク日本版より【ロイター配信記事】)

これについてロイターの記事では、

トランプ大統領が米大統領の任期延長について発言したものか、冗談だったのかは不明

としていますが、誰がどう聞いても、これはトランプ氏なりのブラックジョークでしょう。

いずれにせよ、「自身の思想を憲法に書き込む」だの、「終身国家主席に道を開く」だのといった、自由・民主主義社会ではあきらかにあり得ない行動が、「中国異質論」を自ら西側諸国に強く印象付けたことは間違いないでしょう。

安倍晋三と習近平

習近平理解のキーワードは「安倍晋三」

皮肉なことに、習近平氏を理解するためにもっとも手っ取り早いキーワードとは、「安倍晋三」です。

安倍総理は2012年12月に「アベノミクス」「日本を取り戻す」を引っ提げて衆院選に勝利した結果、再登板した人物です。消費増税や特定秘密保護法、安保法制など、さまざまな政治的困難を乗り越え、都合、自民党は5回に及ぶ大型国政選挙に連続して勝利しています。

純粋に民主的手続で長期政権を維持している安倍総理ですが、就任直後は、中国と韓国の両国に対してそれぞれ首脳会談の開催を呼びかけたものの、両国ともに日本との首脳会談にまったく応じてくれませんでした。

とくに、習近平氏が国家主席に就任したのは、第二次安倍政権発足の約3ヵ月後、つまり2013年3月のことですが、2013年(平成25年)における首脳レベルでの日中交流は、ほぼ断絶状態になっています。

外務省のホームページで確認すると、日中の要人の往来、会談は、次のたった4件しかありません。

  • 程永華(てい・えいか)駐日中国大使による岸田外務大臣表敬(平成25年12月20日)
  • 三ッ矢外務副大臣と顧朝曦・中国民政部副部長との会談(平成25年10月28日)
  • 中国の代表的企業首脳による菅官房長官表敬(平成25年9月25日)
  • 伊原アジア大洋州局長の北京出張(平成25年8月2日)

そして、安倍総理と習近平氏との間での初めての日中首脳会談が行われたのは2014年11月10日のことであり、それも北京APEC会合のサイドラインでのことです。

2014年11月10日の日中首脳会談

(【出所】外務省HPより)

安倍総理がどことなくひきつった笑いを浮かべた習近平氏と握手を交わしているものの、背景には国旗も何もありません。大変無礼です。

尖閣諸島、歴史はどうなった?

ただ、その後、不思議なことに、当初、習近平氏は安倍総理との日中首脳会談に「尖閣諸島の領有権問題が存在すること」、「靖国参拝をしないこと」などの条件を付けていたはずなのに、この2014年の首脳会談をきっかけに、その後、日中首脳は会談を重ねていて、徐々に回数も増えているのです。

外務省のホームページで「日中首脳会談」と調べると、2012年12月から昨年までに限れば、次の12の会議が出て来ます。

2012年12月以降、昨年までの日中首脳会談の相手と場所
  • 2014/11/10(月)…習近平(中国・APEC首脳会議)
  • 2015/04/23(木)…習近平(インドネシア・バンドン会議60周年記念式典)
  • 2015/11/01(日)…李克強(韓国・日中韓首脳会談)
  • 2016/07/15(金)…李克強(モンゴル・ASEM)
  • 2016/09/05(月)…習近平(中国・G20)
  • 2017/07/08(土)…習近平(ドイツ・G20)
  • 2017/11/11(土)…習近平(ベトナム・APEC首脳会議)
  • 2017/11/13(月)…李克強(フィリピン・ASEAN関連首脳会談)
  • 2018/05/09(水)…李克強(日本・東京)
  • 2018/09/12(水)…習近平(ロシア・ウラジオストック「東方経済フォーラム」)
  • 2018/10/26(金)…李克強(中国・北京)
  • 2018/10/26(金)…習近平(中国・北京)
  • 2018/11/30(金)…習近平(アルゼンチン・G20)

(【出所】外務省HP『中華人民共和国 過去の要人往来・会談』より著者作成。なお、会談相手については敬称略)

2014年に1回、2015年と2016年に2回ずつ、2017年に3回、そして2018年には4回もの会談が行われています。ちなみに最近の日中首脳会談では、後ろにちゃんと国旗が掲げてあります。

2018年10月26日の日中首脳会談

(【出所】外務省HPより)

別に安倍総理がこの間、「もう靖国神社に参拝しないと確約した」というわけでもなければ、「日中間で領土問題がある」と認めたわけでもないにも関わらず、なぜか日中首脳会談の回数が急増しているのです。

都合が悪くなれば擦り寄ってくる、ただそれだけのこと

あえて私の解釈を述べておきましょう。

習近平氏とは、タフな相手には擦り寄ってくる人物なのではないでしょうか。

習近平氏が原理原則を大切にする人物であれば、2013年12月26日に靖国神社への参拝を断行した安倍晋三氏は、「憎らしき相手」であり、「中華民族の不倶戴天の敵」であるはずです。

それなのに、習近平氏がAIIBを設立し、一帯一路構想やシルクロード基金などを立ち上げて以降、とくに日中首脳会談の回数が増えているという事実を見れば、「思いどおりにいかない経済構想を巡って日本の協力を求めている」と考えるのが自然な発想でしょう。

それだけではありません。

今年5月、わが国では令和に改元されるとともに天皇陛下が御即位されましたが、トランプ米大統領は諸外国の国家元首のなかで、最初に国賓として日本を訪問し、天皇陛下と面会しました。こうした日米蜜月は、もはや誰の目にも明らかです。

(なお、『トランプ訪日成功に慢心するな 次の一手は日台通貨スワップ?』で触れたとおり、だからといって私は慢心して良いとは思っていませんが、これについては別のテーマなので本稿では触れません)。

一方の習近平氏といえば、米中貿易戦争やそれに付随するさまざまなフリクションでは、あきらかに劣勢に立たされています。

習近平氏は、いや、中国の国家主席というものは、原理原則よりも、その場の交渉の方がはるかに大切な人たちなのではないでしょうか。

安倍総理というフィルターを通すことで、そのことを痛感せざるを得ないのです。

世界は中国共産党と共存できない

中華プロパガンダ

さて、当ウェブサイトでは以前、『世界は中国共産党と共存できるのか?』のなかで、「中国共産党が全世界のメディアにカネをばらまき、中国をほめそやすためのプロパガンダキャンペーンを展開している」とする話題を紹介しました。

これは、英ガーディアンが報じた ‘Inside China’s audacious global propaganda campaign’ という記事に「中国は少なくとも30の外国新聞に4~8ページ程度の中国を宣伝する中折冊子を挿入している」と書かれていた、というものです。

その配布先と毎月の配布冊数は次のとおりです。

  • ニューヨーク・タイムズ(New York Times)…170万部
  • ウォール・ストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)…130万部
  • ロサンゼルズ・タイムズ(Los Angeles Times)…160万部
  • ワシントン・ポスト(Washington Post)…91万部
  • 毎日新聞(Mainichi Shimbun)…660万部
  • エル・パイス(El Pais)…29万部
  • ル・フィガロ(Le Figaro)…32万部
  • ハンデルスブラット(Handelsblatt)…13万部
  • ニューヨーク・タイムズ国際版(New York Times International edition)…24万部

とくに、毎日新聞の部数は公式でも200~300万部程度に過ぎないはずですが、その毎日新聞が毎月、660万部も中国のプロパガンダ冊子を配っているということですから、おそらく、毎月2、3回はそれを実施している、という意味でしょう。

民主主義国家と独裁国家の違い

考えてみれば、中国は共産党の一党独裁国家です。

中華人民共和国成立以来、中国を支配しているのが中国共産党です。一方で、「万年与党」として日本を長らく「支配」している政党が自由民主党ですが、諸外国のメディアを含めて、しばしば、中国共産党と自由民主党を対比する者がいます。

しかし、こうした理解は、大きな間違いです。

中国では、見かけ上は全国人民代表大会(全人代)という「議会」が設けられていて、法的には中国における最高意思決定機関とされていますが、これは事実上、単なる「ゴム印を押すだけの機関」であり、民意を得ておらず、日本などの民主主義国家における国会とは似て非なるものです。

そして、全人代は事実上、日本の国会としての権限を発揮することはできませんし、たとえば「中国人民が全人代議員を選び、その全人代議員の総意により習近平(しゅう・きんぺい)国家主席や李克強(り・こっきょう)首相らを辞めさせることができる」、というものでもありません。

(※もちろん、政治局の内部的な政争の結果、国家主席や首相らが解任されることはあるでしょうが、それはあくまでも「共産主義国家内の政争」であり、「民意によって解任される」というものではありません。)

これに対し、私たちの日本という国では、国民が選んだ国会議員が構成する国会が国権の最高機関であり、安倍晋三総理大臣は、まぎれもなく私たち日本国民が選んだ行政の最高責任者です。

人々が安倍政権を倒したければ、2009年8月にやったように、単純に選挙に行って、自民党に投票しなければよいだけの話です。

しかし、中国の場合、中国人民が中国共産党に対して不満を抱いたとしても、「選挙によって政権から放逐される」ということが、絶対にあり得ないのです。この点こそが、きわめて重要です。つまり、中国の人々が習近平政権を倒したければ、それこそ命を懸けて革命でもするしかないのです。

中国共産党は弱体化させるのが基本戦略

つまり、現在はトランプ政権の出現や日米蜜月などによって、中国は確かに追い込まれているのかもしれませんが、それと同時に民主主義国である日米と異なり、中国は独裁国家です。

トランプ大統領は、来年任期満了を迎えますし、再選されても4年後の2024年には退任します。

安倍総理も、もし自民党の党則に変更がなければ、自民党総裁としての任期が満了する2021年には退任するでしょうし、もし自民党の党則を変更して4期連続して総裁を務められるようになったとしても、それでも任期は2024年までです。

これに対して習近平氏は、それこそ中国共産党の不透明な支配体制を続けることができれば、理屈の上では寿命が来るまで独裁者として君臨できます(もっとも、習近平氏がそこまで優秀かどうかは別の論点ですが…)。

これこそが、民主主義国と独裁国家の最大の違いです。

そして、世界最大の人口を抱え、GDP規模でも米国を追い抜くことを目標にしている国が、前近代的な独裁主義国であるという事実を、世界はもっと重く見なければなりません。

おりしも当ウェブサイトでは、『香港の自由を守るために、私たち日本には何ができるのか』のなかで、香港や台湾の「自由」を守るためには、私たち日本にもそれなりの覚悟が必要だ、とする議論を提示したばかりです。

中国がこれからどうなるのかはわかりませんが、少なくとも自由を愛する私たちの世界は、中国共産党と共存することはできません。

中国共産党については弱体化させることこそが、人類の利益にかなうのではないでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (16)

  • 米国国防長官がマーク・エスパー陸軍長官(湾岸戦争の時中佐で活躍したそうです)になるようですね。
    https://en.wikipedia.org/wiki/Mark_Esper
    コワモテではない顔写真だけでもご覧頂ければ。
    鈴置さんのおっしゃるような米国の本気度を示しているような気もしました。

    (レンホウやツジモトや共産党が文句言うこと間違いないのですが)日本は、岩屋氏更迭して自衛隊出身者を防衛大臣にするべきと思います。個人的には前幕僚長がいいと思います。見た目おだやかだし、ひげの副大臣より優秀だと思いますので。

    • 前幕僚長についての補足です。

      https://www.youtube.com/watch?v=_W1gSqp0vTc

      個人的にこの方を押すもう一つの理由は、海上自衛隊出身だからです。日本の場合、何といっても海ですから。韓国・北朝・中国以外の全ての国はウエルカムだと思います。

      統合幕僚長を長く勤められ、(岩屋氏は反対したとうわさされる)レーダー照射事件の対応をなされた後、今年になってから退官されました。

      安部さんの外交は歴代最高と思っていますが、ひょっとして本当に安部さんならこの方を防衛大臣にすることを考えているのでは、と妄想しています。

      • 一言で言ってしまえば難しいでしょう。

        少なくとも自衛隊の経歴を持って防衛大臣になるのなら、佐藤正久議員の様に自衛隊はそこそこでお辞めになり、政治家としての「雑巾がけ」を勤め上げて自衛隊臭を消せないと望み薄です。

        これは自衛隊の成り立ちからのどうしようもない構造で、統合幕僚長を定年延長まで望まれる様な優秀な人材の登板は内務省閥が黙っていないです。
        逆に「優秀でない」人間なら、お飾りとしてどうでもよいと放置されるのですが。

    • 河野克俊氏ですね。お父上は元海軍士官だそうで、生え抜きの船乗りですね。カッケー。確かに現状の日本では最適の防衛大臣候補かと思います。

      しかし実現には幾つかの障壁があります。

      日本国憲法 第六十六条 2項
      内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。

      河野氏は、キャリアのほとんどを海上自衛官として過ごし、退官後は防衛省顧問として防衛省・自衛隊の中に職業上の地位を占めていることから、文民ではないとみなされると思われます。

      また、

      日本国憲法 第六十八条 1項
      内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。

      防衛大臣は国務大臣の要職の一つでありますので、在野の人材を登用することに自民党内でも難色を示す声は大きいと思われます。

      理想的には、河野氏は一旦、防衛省顧問の職を辞し、一介の市民かつ自民党員となって来たる参議院選挙に立候補・当選し、堂々の文民・国会議員となって防衛大臣に就任していただきたいものです。

  • 独裁政権は政権初期はうまくいく。最初は問題点が明白で、それに対処すればいいだけだからね。でも、独裁政権は時間がたつと弊害の方が大きくなる。習近平は指導者としてはどうなんだろう。ちょっと無能なレベルかもね。というより、習近平独裁といいながら、権力基盤が相当に弱く、国家としての統一的行動がとれないような気がする。アメリカと軍事的覇権を競えばかなりまずい状況になったのはわかるはず。あと100年くらいおとなしくしていればもしかすると、中国の覇権が実現するかもしれないが、ちょっと牙をむくのが早すぎたかんじ。
    トランプも中国と急に手打ちするかもしれないので、日本政府もあまり中国と事を荒立てないみたい。これはこれで賢明だと思う。一帯一路に協力するなんてリップサービスをしているしね。安倍総理はイランにも行って、イランとのパイプも築いた。トランプは損をすることが嫌いだから、いくら緊張が高まっても、できればイランとは戦いたくないだろう。イランとアメリカのパイプは日本が握っているのでアメリカもあまり日本に強く出られない。なかなかうまくやっている。イギリスもフランスも過去の中東での悪行から仲介者とはなれないだろう。日本だけが唯一のパイプになった。

    • >>ちょっと牙をむくのが早すぎたかんじ
      私も黙っていれば良いものをアメリカまで行って太平洋を半分コにして管理しようなどと宣う処、何処まで米中はズブズブなんだと思いました。

      >>トランプも中国と急に手打ちするかもしれないので・・・
      この部分世界が注目して居る処ですね、米中はどの様な関係に成っていくのでしょうか?当然アメリカも無傷では済まない話しで此処に来て急に人権問題とか言い出す処を見ると簡単には終わらないような気もします、ペンスさんの演説で国民が何処まで付いて来るのかなと言う処でしょうか。

      • 日本は過去にニクソン訪中で煮え湯を飲まされた経験があるので、うかつにアメリカに信頼を置くことはしないと思います。米中関係はファーウェイの役員の過半数がアメリカ人になるなどして急に回復することはありえる。問題は習近平がどうも政治的能力がない点だと思う。

  • やっぱりプロレスだったのかな・・・

    今回の一連のリスク(米中貿易摩擦、香港デモ、イラン)が、
    昨日のトランプツイッターの呟きで、急速に溶けていっている。

    しかし、個人がこれをプロレスだと最初から見抜くのは無理だろう。
    私は本当に米はイランに武力行使すると思った。
    国際情勢は難しい、ほんと魑魅魍魎だと思う。

    そもそも、いまから考えると、イランのタンカー攻撃の報道はちょっとおかしかった。
    ベトナム戦争のトンキン湾、イラク戦争の大量破壊兵器、パールハーバーの疑惑、と米国の開戦パターンは全く同じなんだが、米国側の意志が強く伝わってこなかった。
    やはり中国ロシアと裏で話がつかなかったのかもしれない。
    それで、米国側も、ここが潮時と判断したのかもしれない。

    でも、まあ、市場は利口だなぁ、相場は提灯学者の三文記事は信じなかった。
    米中貿易摩擦はいずれ緩和すると踏んでたのだろう、暴落しなかった(笑)

    しかし米を操ってるウォール街はえげつない。
    ホルムズ海峡危機を演出し、香港デモを扇動し、米中貿易摩擦を煽って、
    徹底的に売り叩いてから底値で買いに転じようとしたのだろう。

    ただ、これからが日本は大変だ、日米通商協議が待っている。
    米中の緊張が緩和したら、米株はどこまで上がるか予想もつかない。
    トランプは強気で出てくる。
    ダウ平均は史上最高値を更新するだろう。
    米中の企業は益々強くなる。
    ファーウェイがどこで折り合うのかわからないが、次世代通信は米中共存になるのだろう。

    世界はGAFA(Google、フェイスブック、アマゾン、アップル)と
    BATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)の争いになる。

    他の国はついていけない、日本企業は埋もれていくことになるだろう。

    最近のビットコインの上昇は(3ヶ月で2倍になった)、技術革新が想像を越える段階に来ていることを示唆している。

    量子コンピューターとか、なんだか、さっぱりわからないが、日本が完全に周回遅れの受け身に回ってしまっているのは確かなようだ。

    ソフトバンクもトヨタも、生き残れるのだろうか。

  • 彼は国家主席ではなく、もはや「核心」です。国家主席はもちろんチャイナセブンの頂点であり中国の頂点ですが、実は重要な決断は他6人との合意が必要なのに対し、「核心」は他の6人の身分とは一線を課すもので、other sixの総意すらその一存で拒絶できるほどの絶対的権力なのです。習氏がなぜここまで「核心」に拘るのか、なぜ国家主席という身分で満足しなかったのか、想像することはできます。鄧小平は「改革解放」によって中国に経済発展をもたらしました。江沢民は米中関係をより強く結びました。米中が貿易によって相互利益を享受していたと思えた、今となっては懐かしいあの期間を本格的に始めたのが江沢民でした。中国の利益という至上命題が決められていて、国家主席と他6人、他8人はその命題を追及すればよかった。だから他の常務委員とは協力関係にありました。習氏が核心に拘るのは、自身の政治理念が他と共有できないからです。それは世界にとってはもちろん、中国にとってもよくないものなのでしょう。
    国家主席が共産党を束ね他の常務委員と共に中国を導く身分なら、核心は常務委員すら束ね一人の理念を中国全土に押し付けるための地位なのです。習氏が現在も行っている権力闘争は、本来なら下の者が出世を競うために行う行動であり、国家主席という頂上がすべきものではないのです。同立たちと協力できなからこそ、序列第一位の国家主席がさらなる「出世」を求めているのです。

    • 中国共産党の問題点が噴出して、もう独裁で解決しないと収拾がつかなくなったのかもしれません。

  • あれっ。鈴置氏のコラムに対する評論がさらっと(泣)。では、不肖、私が。

    鈴置氏のコラムでは、アメリカは北朝鮮を国家としてではなく、ただのテロ集団だとみなしている。とのことです。であれば、その掃討作戦の実施も、国家への交戦行為よりは、ハードルが下がる。としています。
    これが、中国共産党やイランに対してだと、少し難ですが、韓国に対してであれば、やりようはある。のではありませんか?
    鈴置氏のコラムは、今回も期待を外さないおもしろさで、グイグイと引き込まれました。読んでごらんなさいませ。

    さて、同様に朝鮮半島に焦点をあてた記事なのですが、ご紹介しておきます。
    こちらは、半島国家(北朝鮮、韓国)と中国共産党、台湾などを範囲とした論説になります。鈴置氏のコラムと合わせて読むとひとしおです。

    <第2次朝鮮戦争に向けたアメリカの準備が進んでいる>
    https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190619-00065259-gendaibiz-int

  • 習近平は権力闘争を勝ち抜く能力においては優秀なのだと思います。国家主席になった当初の権力集中の勢いはまさに毛沢東に近いレベルだったように思います。

    一方、どこの国でもそうなのですが「優秀な」権力者ほど背伸びをしたがるものです。通常の主席や大統領、首相、王、皇帝では出来ない歴史的な業績を残そうとします。

    習近平が100年間国家主席になることが可能なら、彼は中国がさらに国力をつけるのを待ったかもしれません。しかし、彼は自分が権力を掌握している間に中国が世界一の超大国になる可能性があるので、それを追求してしまった、ということなのでしょう。おそらくは少々時期尚早だったでしょうね。

    ただ、習近平が国家主席である間に中国がアメリカを打倒して世界一の超大国になる可能性は、まだまだありますね。日本にとって油断できるフェーズではないでしょう。

    • アメリカの国力の方が中国よりはるかに大きい。アメリカは資源もあるし技術もあるし、すべてがある。アメリカは鎖国して海外と何十年間付き合わなくても普段とかわらず生活ができる。でも中国は食糧、エネルギーを海外に依存していて鎖国したら生活水準が大幅に下がる。どちらが生き残るかというとアメリカであるのはあと100年変わらない。鄧小平が韜光養晦と外国とは慎重に対応するようにいましめていたのに、それを守れなかった習近平の戦略ミスではないかと思う。

      • 非国民様、

        > アメリカの国力の方が中国よりはるかに大きい。アメリカは資源もあるし技術もあるし、すべてがある。

        アメリカより中国の方が圧倒的な部分もあります。廉価で質の良い労働力、数学に強い優秀な人材などなど。アメリカは今やかなりの人材は海外から供給されてなんとか成り立ってる状態ですから。

        また、民主主義と強権体制だと民主主義の方が優れていると思われがちですが、歴史的には必ずしもそうではなくて、民主主義的な体制が敗北した例は数多くあります。

        > アメリカは鎖国して海外と何十年間付き合わなくても普段とかわらず生活ができる。でも中国は食糧、エネルギーを海外に依存していて鎖国したら生活水準が大幅に下がる。

        アメリカはシェール革命がなかったらエネルギーの自給については危なかったですね。
        まあ、エネルギー、食糧の自給なくても貿易が確保できれば死活的な問題ではないですけどね。パックス・ブリタニカの時代にイギリスが持久できた品は多くなかったわけですが、貿易路を確保できる海軍力と植民地があったので問題なかったわけです。

        > どちらが生き残るかというとアメリカであるのはあと100年変わらない。

        アメリカと中国が覇権を争えば今世紀前半はアメリカが勝つ確率は高いとは思います。が、何事も100%はないですよね。

        > 鄧小平が韜光養晦と外国とは慎重に対応するようにいましめていたのに、それを守れなかった習近平の戦略ミスではないかと思う。

        自分の任期中にパクス・シニカを実現させたかったんでしょうね。つまり、確実な国益より自分の名誉欲を優先して賭けに出たということでしょう。
        実際、中国が世界の覇権を握ることが可能なレベルまで中国の国力はついていたと思いますし、まだまだ可能性はあると思いますよ。中国全体のことを考えれば時期尚早だったというのは衆目の一致するところだと思いますが。

        このままいけば、習近平が功を焦ったのが日本に幸いしたということになりそうですね。

  • 確かに中国も野心を露わにするのが早すぎたと思います。米中貿易摩擦は、全面的勝敗はつかないにしても、中国が折れる形で決着するでしょう。今回のところは。

    次回はどうなるのでしょうか。米国を打倒できる状況になるまでベビーフェイスでいて、ある日突然覇権国家として豹変するのか。じわじわと周辺国家を懐柔して大版図を目指すのか。国内の不満をまとめきれずに、地方軍の暴発という形で武力衝突に至るのか。どういう形になれば日本にとって最良か。

    安全側で考えれば、我々は中国が改心してよき国際社会の一員となる「素晴らしき未来」を期待してはいけないと思います。彼らには中華思想がある。他国は中国に従ってしかるべきだと根底で信じている。東夷の自主性だとか人権などに興味はないと覚悟しておかなくてはなりません。

    で、あれば、我々が目標とするべきは、三国志や五胡十六国のような、分裂状態の中国になるのではないでしょうか。中国の不幸は、申し訳ないですが、日本の幸せに直結します。その逆も真でしょう。

    それに向けての具体案、情報戦を考えておくことが、国家百年の計というものだと思います。

  • や、自分のコメントを取り上げていただいて、ありがとうございます。
    何の確証もない、単なるイメージ・トレーニング的な妄想ですから、取り上げられたのは恥ずかしい限りです。
    まあ、ほとんど実現することが無いものとして、考えていただきたいと思います。(米軍がやってくれる、という期待は自分は1%ほど持っています)
    ですが、鈴置氏も様々な状況を想定されていて、核戦争にまで言及されているのですから、シミュレーションをしていくことは大事なのだと思います。