米国時間の今週木曜日に行われる予定の米韓首脳会談を控え、北朝鮮制裁などを巡って、韓国メディア『ハンギョレ新聞』が、「北朝鮮に対する制裁一辺倒だと、かえって北朝鮮の核武装を幇助しかねない」などと主張し始めているようです。これは明らかな詭弁であり、この記事1つとってみても『ハンギョレ新聞』が「どちらの側」に立っているのかは明白ですが、冷静になって考えてみると、「制裁が効かない」のならば「制裁を緩める」のではなく「制裁を締め直す」のが正解であることは明らかでしょう。
韓国の左派メディア・ハンギョレ新聞の記事
韓国の文在寅(ぶん・ざいいん)大統領といえば、「大韓民国の国家元首」というよりは、「金正恩(きん・しょうおん)のスポークスマン」として有名な人物ではないかと思います。
今朝方の『ハンギョレ寄稿に見る韓国の思い上がり、じつは却って好都合』でも議論しましたが、私自身の見方によれば、韓国にはざっくり「左派」と「右派」がいて、現在の文在寅政権は明らかに「左派」を辞し基盤とする大統領でしょう。
こうしたなか、主張内容が「左派大統領」である文在寅氏の支持基盤と重なっているメディアの1つが、『ハンギョレ新聞』です。このハンギョレ新聞というメディアの記事を眺めていると、韓国のメディアでありながら、やたらと北朝鮮に対して親和的な姿勢が目につく気がします。
こうしたなか、今朝のハンギョレ新聞(日本語版)には、こんな記事が掲載されていました。
米タカ派の制裁万能論、北朝鮮の核能力強化する「バタフライ効果」もたらす可能性も(2019-04-09 07:41付 ハンギョレ新聞日本語版より)
ハンギョレ新聞の主張内容を要約し、日本語表現を整えたうえで箇条書きにしておきましょう。
- 現地時間11日に米ワシントンで開かれる韓米首脳会談を控え、米国政府内で「制裁万能論」が確固たるドグマとなっている
- 先月21日、米財務省は北朝鮮制裁の回避を手助けした中国企業などを制裁リストに追加したほか、マイク・ポンペオ米国務長官は今月5日、「完全な非核化が達成されるまで制裁が解除されることはないだろう」と断言している
- こうしたなか、北朝鮮の2018年における対中輸出は前年比87%も減少し、外貨難で北朝鮮の新興富裕層らが打撃を受け、昨年8月以降、平壌の高級マンションの価格が30%ほど暴落したとの報道もあった
- しかし、これとは反対に、北朝鮮経済が安定を維持しているという兆候もある。為替相場は1ドル=8000北朝鮮ウォン台、米価は1キログラム当たり4500ウォン前後で安定傾向を維持しているからだ
- 実際、北朝鮮の状況に詳しい北京の外交専門家は「北朝鮮の政権が現状維持を選ぶなら10年は持ちこたえられるだろう」と説明している
- このため、米国が「制裁万能論」にこだわるなら、かえって北朝鮮の強硬派に力を与えることで、北朝鮮の核能力だけを強化する「バタフライ効果」をもたらすという指摘もある
…。
なるほど。記事の真否はともかくとして、なかなか興味深い考察ですね。
この手の明らかな詭弁であっても、いちおう、「敵の手の内」を知るためという意味では、一読の価値はあるかもしれません。
北朝鮮経済の内情はよくわからないが…
さて、このハンギョレ新聞の記事の、どこが「詭弁であるか」について考察する前に、そもそも論として北朝鮮の「内情」はいったいどうなっているのでしょうか?
これについては報道も断片的であり、かつ、報じられている数値も具体的なものが乏しく、仮にあったとしても信頼に値するかどうかが微妙であるため、今ひとつ、「北朝鮮が経済制裁で苦しんでいるに違いない」といった決めつけをするのも難しいのが現状でしょう。
たとえば、「北朝鮮は深刻な外貨不足に直面しており、このままで行けば年内に外貨準備が尽きる」との情報もある一方で(『「北朝鮮外貨不足」という報道を額面どおり受け取って良いか』参照)、「意外と北朝鮮は困っていない」との情報もあるからです。
ハンギョレ新聞以外のメディアに取り上げられた情報としては、次の『Yahoo!ニュース』に掲載されたレポートや、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)日本語版に掲載された記事なども参考になるかもしれません。
北朝鮮内部の「肉声」を聞く――制裁は特権層を直撃 揺れる金正恩政権(2019/02/23 8:44付 Yahoo!ニュースより)
北朝鮮経済、制裁にどう耐えているのか/コメの価格は安定し、制裁強化後に上昇していたガソリン価格も下がった(2019 年 2 月 26 日 15:47 JST付 WSJ日本版より)
これらのメディアの共通点は、北朝鮮制裁は特権層や新興富裕層などを直撃している一方、コメなどの生活物資の価格は意外と安定していて、庶民生活は餓死者が続出するような窮乏状態に陥っている訳ではない、という情報です。
「経済制裁一辺倒ではダメだ」論の間違い
つまり、米国(や日本や英国、欧州諸国など)が北朝鮮制裁を強化しようとしても、北朝鮮国内では意外と市場経済化が進むなどしていて経済構造は柔軟であり、それこそ10年でも兵糧攻めに耐えられる、という状況にあるのかもしれません。
だからこそ、「圧力一辺倒だと却って北朝鮮国内で強硬派が台頭し、北朝鮮の核武装を幇助することになる」、といったハンギョレ新聞のような主張が出て来るのだと思います。
ただし、ハンギョレ新聞が1点、明らかに意図的に無視している点があります。
それは、北朝鮮が「国連安保理制裁」を受けているにも関わらず、なぜさまざまな物資が北朝鮮に流入しているのか、という点です。
実際、北朝鮮を巡り、違法な瀬取りの摘発は後を絶ちませんし、中国やロシアや韓国が北朝鮮にさまざまな便宜を図っているであろうことは想像に難くない点ですが、これに加えて、北朝鮮はおもに非合法な手段を使い、世界各地で継続的に外貨を得ているのかもしれません。
もしそうであれば、「北朝鮮の非核化を達成するため」に必要なことは、「制裁の解除」ではありません。
「制裁のさらなる強化」です。
当然、すべての国連加盟国に対して北朝鮮制裁に協力させることが必要ですが、それだけでは足りません。北朝鮮が制裁破りをするならば、その制裁破りを幇助した国に対しても、北朝鮮に準じた制裁(セカンダリー・サンクション)を適用する必要があるのです。
おそらく、北朝鮮経済が意外と堅調であるというのは事実でしょう。北朝鮮は違法な瀬取り活動を通じて洋上で石油やバルク紙幣を受け取るなど、国連安保理制裁決議で制限された「年間50万バレル」を超える石油関連製品を輸入していることも間違いありません。
そういえば、『【速報】国連安保理報告書 北朝鮮の制裁逃れ巧妙化・常態化』でも報告したとおり、国連安保理向け報告書のなかでも、北朝鮮の制裁逃れは巧妙化、常態化していると指摘されていたようです。
もし北朝鮮が制裁逃れをしているのならば、その穴を1つずつ塞ぎ、改めて北朝鮮に対する圧力の最大化を図るべきでしょうし、その過程で、北朝鮮国外にある疑わしい企業や個人を特定して制裁をきっちりとくわえていくことこそが、北朝鮮問題を適切にマネージするうえでもっとも効率的な方法ではないでしょうか。
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今朝のNHKのニュースで、金が自国のデパート視察をやってました。
苦々しい思いで見ました。
独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
韓国の文大統領としては、北朝鮮の代理人としての立場を失うことを恐
れているだけではないかと、妄想してみました。
妄想にて失礼しました。
11日の米韓首脳会談の中身は何だろうか?二兎を追う者は一兎をも得ず。これは理解しているはず。ならばそうならない為にはどうするだろうか。
以前に韓国政府の備蓄米倉庫から米が消えた話しをしましたが、もしその米が北朝鮮に流れているなら一般市民の生活は思ったほど悪化してないのかも知れません。また最近北朝鮮からの木造船漂着の話しも聞かなくなりましたので、韓国から何らかの形で物資が渡っている可能性はかなりあると思います。瀬取りは何も石油関連でなくても良いのですから。
駄文にて失礼します
日本は独自の対北制裁を2年延長閣議決定したそうで、南とは正反対の行動、日米韓連携とは口先でも言えない状態ですね(韓国はその時の都合で言います)。
相手の力が弱い程制御はし易いのは当然の事ですよね。
文さん金さん、戯れて居る間にお互いの足元崩れるんじゃ無いですかね、でもポンペイオさん北にラブコール送ってるみたいですが何故でしょうね色々有るのでしょうな。
制裁がぜんぜん効いていないことを、
リアルタイムの北朝鮮物価が示しています。
ご参考まで↓
http://www.asiapress.org/apn/north-korea_prices/
あ 様
北朝鮮は一部、闇市場での取引を認めるようになっていますが、基本的には共産主義体制なので、物価で判断するのは危険だと思います。市場原理が働きにくいので
あの国が物価を公表するはずはありません。
これは、アジアプレスによる、死をも覚悟した取材による定点観測の結果です。
私は心からの敬意を払って見ていますが。
あ 様
誤解を与えたようです。数値が信用できないという意味ではありません。
おっしゃるように、非常に貴重な情報と思いますが、市場原理が機能しない国で物価がどのように決定されているのか解らないので、物価をもって制裁が効いている、効いていないと判断することが危険と言ったつもりです。
凄いですね、死をも覚悟の定点観測ですか。
このデータによると、人民元レートは変わってないのに、ガソリンも軽油も米もトウモロコシも値下がりしてる。
凄いデーター載せてくれてありがとうございます。
でも、てことは、日頃私たちが見聞きするニュースは・・・嘘なのか?
それとも、このデータが・・・実は、嘘なのか????
それとも、経済制裁自体が・・・本当は、嘘なのか?(笑)
そういえば、イランも経済制裁で困ってるようには見えないよね。
経済制裁って形だけ?
日本のメディア報道はたぶん、片寄りすぎ(笑)
いずれにせよ、このデータを信じるとしたら、経済制裁はただの気休め。
また米朝会談やるしかないでしょうね。
話は変わるけど、米国の経済制裁は、ベネズエラ政権も倒せんよね。
あんなハイパーインフレなのに、政権もつなんて、マドゥラ政権ってすごいな。
ロシアと中国が支えてるからかな。
あと、シリアのアサド政権も粘るよね。
これもロシアが支えてるから倒れないのかな。
影に中国もいるかもね。
あと今、米国はトルコを倒そうとしてるけど、エルドアン政権も強いよね。
トルコはロシアに接近しているけど、トルコ、イランが上海協力機構に入ったら、米国にとっては非常に不味いんじゃななろうか。
まあ、それにしてもだ、米国と喧嘩してる国は、どこもしたたかだ。
日本も見習えよって言いたいね、米軍基地にいくら使うのかね、来週からの日米物品交渉では、茂木さん頑張ってほしいね。
戦闘機ばっかり買ってんじゃねえよ。
あと、ブレグジットも延期延期だし、米中貿易協議も結果はまだ先みたいだし、どうも最近の国際情勢は、「延期」がトレンドみたいですね(笑)
これを見習って、日韓の徴用工問題も「延期」だけは勘弁してほしいものだ(笑)
まず、今週末の米韓会談は、米国にビシッと言ってもらい、安倍、麻生さんには、まず、ノービザ期限を15日に短縮してほしいね。
とりあえず、なにか行動して、経済制裁の可視化をやってくれないと、下手したら、また用日派よ配慮派が手を組んで、今まで通りのツートラック関係になりそうで嫌だ。
カニ太郎 様
>このデータによると、人民元レートは変わってないのに、ガソリンも軽油も米もトウモロコシも値下がりしてる。
アジアプレスによる解説が出てました。見落としていました!
「調査地は咸鏡北道の二地点。各基本物価はジリ安。調査者によると、制裁の影響が深刻化しており、住民たちが現金収入減らしていて、市場でモノが売れず物価下がっているとのこと。一部で食糧価格上昇との報道出ているが、現時点では各地で上昇見られいない。」
>実際、北朝鮮の状況に詳しい北京の外交専門家は「北朝鮮の政権が現状維持を選ぶなら10年は持ちこたえられるだろう」と説明している
もし、そうだとしたら、それは、中国、韓国による制裁の穴が大きいのでしょうね。こういうのを語るに落ちる。と言うのですよ。しょうもない。
さて、別の記事でWeb主さんが、「フッ化水素禁輸が有効な制裁となると記事にしてしまったせいで・・」と嘆かれておられましたが、韓国へのフッ化水素禁輸は、日本への不法行為への制裁ではなく、北朝鮮制裁のセカンダリーサンクションとして行わなくてはいけません。
なぜなら、日本から輸入したフッ化水素を、韓国が北朝鮮に横流しし、それがあの国の核兵器製造に使用されている疑いがあるからです。これを放置すれば、日本は間接的に北朝鮮制裁破りをしたことになってしまいます。26日には、韓国に対するフッ化水素禁輸が必要であることをアメリカに報告し、同意をとって下さい。
北朝鮮の立場に立って考えると、制裁が効果を発揮していないか、効果があったとしても現政権が切り抜ける事が出来ると判断すれば、静観する事が第一ではないかと考えます。その間に核の戦力化(強化)を推し進めるでしょう。
効果があり制裁逃れが難しい場合、第一に朝鮮半島周辺海域の監視業務が効果的な一方で、実施には相当なコストが掛かっているであろう事から、参加国に効果がないから止めたい、名目的な作業に留めたいとのマインドに持って行かせ、監視の目を緩めてすり抜けを堂々と行い、不正な輸出入が行えないかと考えます。
もちろん妥協して制裁緩和の方向が良いのですが、先の米朝会談でそれが全く不可能であると悟った以上、全力で制裁緩和(弱体化)に向けて、影響力を行使しえる、あらゆる機関・人物に働きかけを行って、どうにか制裁緩和をさせたいという状況にあるように思えます。
そもそも制裁緩和の必要がないならば、それを求めてわざわざハノイまで出かけはしないでしょう。
強化ももちろんですが、現状維持でも十分に効果があるように思います、制裁についてメッセージを明確化し、厳格に実施管理をする。
北朝鮮のみならず、韓国に対してであっても同じと考えます。
新宿会計士さんの正論に賛同します。
と言うか、そもそも論にいつも立ち返る必要があります。北朝鮮は6カ国協議などを経て、真剣に非核化を実施していれば今頃世界でも例のない無償で原子力発電所を日韓などのカネと技術で建てて貰えて、冬暖かく夏場はエアコンでも掛けて暮らせたはずです。それをダラダラとウソをついたり、日米韓などを空威張りで脅してみたり、挙げ句の果ては人類史上例のない核による直接的な軍事脅迫まで政府声明でしました。
世界は驚愕し国連安保理も累次の誓約反故に対してアメリカなどの制裁案を承認するしかないと総意で決めました。北朝鮮の脅威だけでなく北朝鮮から裏ルートで核兵器が他のテロリストに渡る危険という懸念まで起こりうると世界は認めたのでしょう。
それで対北朝鮮では平時の独立国相手では絶対にあり得ない厳しい経済制裁が始まりました。アメリカはセカンダリーサンクションも発動。アメリカの金融市場で為替取引出来なくなるという事は事実上貿易活動の場から排除されるという事になります。この経済制裁を制裁破りで抜け荷する諸外国企業の船の虱潰しに今の日本や英国海軍、アメリカの沿岸警備隊などが有志連合で協力して居る。英仏などは象徴的な参加かも知れないが日米はかなり本気。これは臨検や機雷封鎖は無いもののそれに準ずる対応と申せましょう。一応最低限の輸入許可枠を残してあるが、「このまま額面通り禁輸されたら北朝鮮は餓死」の様な事です。
で、北朝鮮の反政府運動や野党が居るなら現政権を打倒する、打倒されたくない現政権が反政府勢力の掲げる旗を先取りして、政権維持の為には背に腹代えられないと渋々と非核化に応じる。そう言う方向を狙っての事です。
ところが文在寅政権はこの北朝鮮の国民の苦難を見るのではなく、【北朝鮮にロウソク革命のパワーを見るのでは無く】北朝鮮の現政権と協調して、北朝鮮の核弾頭を得て、韓国海軍の戦略ミサイル潜水艦の搭載されるSLBMの弾頭として迎えたい。これでやっと「ムクゲの花が咲きました」が実現すると思っているわけです。
世界の大勢は北朝鮮国民の革命権に期待を寄せて経済制裁を実施し、文在寅政権は北朝鮮国民の【天賦の権利である革命権】を封じる核兵器信仰、核軍拡信仰の唯武器思想と申せましょう。
話題を変えて申し訳ありませんが、鈴置高史氏著「米韓同盟消滅」、当地の県庁所在地最大の書店にも置いてなかったので、先週土曜日に隣県の県庁所在地の全国展開の書店に行って求めてきました(取り寄せれば済むことなのですが(^_^;))。本日までに急ぎ読み終えましたが、新宿会計士様ご推薦のとおり、やはりこの本は、一読にも二読にも・・値するとつくづく思った次第です。氏の識見の高さは、プライムニュースなどを視聴して承知していたつもりでしたが、本誌を一読してみて、その洞察の鋭さに改めて驚くとともに、朝鮮民族の儒教思想が支配する民族性とその危険性についても再認識しました。我が国国民の平和ボケや人の良さに早くから警鐘を鳴らされてきたことに敬意を表したいと思います。