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レーダー照射事件、事態が長引くことの「本当の意味」とは?

複数のメディアの報道によると、日本の防衛省は昨年12月20日に発生した韓国海軍駆逐艦による自衛隊P1哨戒機に対する火器管制レーダー照射事件に関連し、本日以降、その証拠を追加で発表するそうです。これについては「戦力の逐次投入」という見方もありますが、私自身、先日の「徴用工判決問題」を巡って日本政府が時間稼ぎをしているのではないかという仮説を提示したとおり、本件についても同じく、日本政府がわざと問題を長引かせようとしている、という評価ができるような気がしてならないのです。

簡単に振り返るレーダー照射事件

当ウェブサイト『新宿会計士の政治経済評論』では土曜日に『【速報】日本政府が「客観性高い証拠」提示へ?』という記事でお伝えしましたが、日本政府は「レーダー照射事件」を巡り、新たな証拠を公表するそうです。

その続報がいくつかのメディアに取り上げられていますが、ここでは本日午前5時に産経ニュースに掲載された次の記事を眺めてみましょう。

防衛省、レーダー照射の実態を10カ国語で発信へ(2019.1.21 05:00付 産経ニュースより)

産経によると、防衛省は火器管制レーダー照射の実態について、「10ヵ国程度の言語で発信する」ことを検討しているのだそうです。

是非、それをお願いしたいと思いますし、どうせ10ヵ国語で公表するならば、日韓両国のやり取りのうち、公表できるもののすべてを時系列に整理して提示して欲しいところです。

当ウェブサイトを訪れてくださるような方であれば、事件の概要についてはだいたいご存知だと思いますが、念のため、ごく簡単に時系列で振り返っておきましょう

(2018年12月)
(2019年1月)

いずれにせよ、本日で韓国側によるレーダー照射の事実が公表されてちょうど1ヵ月の節目でもあります。今回のレーダー照射事件も、あとから振り返ると、「日韓関係が従来とまったく違う姿に変容を遂げた事件」として記憶されるのかもしれません。

情報は小出しが正解?それとも…?

ところで、当ウェブサイトでは昨年12月29日時点で、「日本の防衛省としては情報を小出しにしつつ、韓国側がそれに反応したら、また違う証拠を出す、という戦略を採用しているのではないか」と申し上げました(『さらば密室外交 防衛省による動画公開を歓迎すべき理由』参照)。

しかし、「戦争」だった場合には「戦力の逐次投入」はもっとも避けるべき戦略であり、仮に日本が韓国と「情報戦」を戦うつもりがあるのなら、圧倒的な戦力を初期段階で投入し、相手を一気に叩きのめすことが必要です(『日韓の「情報戦」が開戦したなら戦力の逐次投入はタブー』参照)。

本件については、どちらの考え方が正しいのでしょうか?

その答えは、「戦争の単位」で考えるべきでしょう。

たとえば、この「レーダー照射の有無を巡る攻防」が1つの「戦争」だとすれば、最初の段階で一気にさまざまな情報を公表してしまい、韓国駆逐艦が日本の自衛隊機にレーダー照射を行ったという明白な証拠を国際社会に見せつけることで、韓国を一気に叩きのめすのが正解でした。

実際、日本政府が現在、情報を小出しにしていることで、韓国側に(稚拙ながらも)反論する余地が生じていることは事実でしょう。事実、韓国は「むしろ日本側の哨戒機が低空飛行を行い、韓国側に威嚇した」とする「反論動画」とやらを、全世界に向けて8ヵ国語で発信し始めています。

これらの反論動画は質も悪く、冷静に見ると、説得力もありません。

しかし、「慰安婦問題」や「徴用工問題」など、ウソの問題でこれまで日本が散々、煮え湯を飲まされてきたことを忘れてはなりません。というのも、彼らは「ウソでも良いからとにかく自分の主張を繰り返す」という方式で、自分たちの主張を全世界にゴリ押しして来たからです。

このように考えていくと、「レーダー照射問題」を巡っては、韓国側がウソを全世界に広げるための時間的な余裕を与えてしまっているわけですし、考え様によっては今後、「日韓相互非難の応酬」「泥仕合」ともなりかねません。

問題の長期化、あるいは「時間稼ぎ」

以上から、「レーダー照射問題」を1つの「戦争」と見れば、日本政府は明らかに問題を長期化させてしまっています。このことから、「レーダー照射問題」については、「早期に決着させる」という観点からは、完全に失敗した格好です。

そして、早期決着に失敗した以上、「韓国政府にレーダー照射の事実を認めさせる」ということは非常に難しくなり始めていますし、韓国政府はおそらく、「むしろ日本側が威嚇飛行を仕掛けてきた」というウソをゴリ押しすることを今後の目標にすることは間違いないでしょう。

では、日本政府による「情報を小出しにする」という姿勢は、戦略として間違いだったのでしょうか?

実は、本件についてはそこまで単純ではありません。

確かに「局地戦」として見れば、今回の「レーダー照射事件」については「韓国側にレーダー照射の事実を認めさせたうえで謝罪させること」には失敗していますが、もっと大きな視点に立てば、日本政府による「情報を小出しにする」という姿勢は、戦略としてはあながち「誤り」とは言い切れないことも事実です。

そもそも日本政府は、「韓国政府にレーダー照射の事実を認めさせ、謝罪を引き出すこと」を目的としているのではない、という可能性があるからです。

もっといえば、「韓国という国はわが国の自衛隊に対してレーダーを照射して来る国だ」という異常性を日本国民や日本企業に認識させ、「日韓友好が成り立たない相手だ」という社会的合意を形成するためであれば、事態をわざと長期化させる方が好都合ではないでしょうか?

徴用工判決と同じ構図か?

そういえば、「徴用工判決問題」を巡っては、日本政府は日韓請求権協定第3条措置を発動しましたが、この手続には最長で3ヵ月必要です(『徴用工判決問題の節目は4月12日か 日本政府の狙いとは?』参照)。

この「徴用工判決」は、自称元徴用工らが日本企業を相手取り、損害賠償を求めた訴訟で、韓国の最高裁に相当する「大法院」が昨年10月30日に下した「新日鐵住金敗訴判決」を皮切りに、続々と日本企業が敗訴している問題です。

私の手元メモでは、現時点で大法院判決が3件あるほか、高裁、地裁レベルでは毎月数件以上、日本企業が敗訴しています。

しかし、こうした判決は1965年の日韓請求権協定に違反していることは明らかですし、それだけでなく、韓国が国際法体系や国際秩序に対して挑戦しているのと同じだという言い方もできるでしょう。

このため、私は日本政府がわざと時間のかかる手続を選択した理由を、「3ヵ月以上、時間を掛けることで、日本企業と日本国民に韓国社会の違法性を周知させること」にあるのではないか、とすら疑っているのです。

大戦略は「韓国と距離を置く布石」か?

以上を踏まえ、今回のレーダー照射事件についても、日本政府が情報を小出ししている狙いが、わざと韓国政府の無理な反論を挑発し、そのことを通じて日本国民の間に「日本は韓国とは価値も利益も共有できない国だ」という共通認識を醸成していくことにある、と考えれば、何となく筋は通ってくるのです。

日本政府がそこまで賢明なのかどうかはともかくとして、現実問題として、日本国内では「韓国が理解できない」と感じる人が急増しているのではないでしょうか?

もちろん、「韓国が気に食わないから日韓断交だ!」と短絡的に決めつけるべきではありません。

私自身は以前から「日韓断交とは、安易に口にすべき言葉ではない」と申し上げて来ていますし、日韓断交をすれば日本経済と日本の安全保障に大きな悪影響が生じることは間違いありません(『「韓国ザマ見ろ」ではない、日本への打撃も覚悟の日韓断交論』参照)。

ただし、日本国内において、「無理をしてまで韓国との関係を維持すべきではない」との意見が広まってくれば、ある程度、「コストを払ってでも韓国と距離を置くこと」について、社会的な了解が取れて来るのではないでしょうか?

いずれにせよ、本日以降予定されているという防衛省の「レーダー照射の証拠」について、その公表を待ちたいと思います。

新宿会計士:

View Comments (26)

  • ほぼご高説に賛成。
    一部に「直ちに制裁」という声があるが、それは愚策。
    日本は中国やロシアと違って一流の先進国として世界的に認知されている。
    このため、ちょっとしたこと(日本人の感覚ではレーダー問題はちょっとしてことではないが)で韓国を制裁すると、これまで営々と築きあげてきた日本の国際的信頼と評価が崩れる可能性が大きい。
    韓国には腹わたが煮えくり返るが、韓国ごときのために日本の国際的信頼と評価を下げるのは愚策。
    じっくりと、国際的にはあまり関心の高くないレーダー問題について、世界に韓国の異常性を知らせていくことが重要。
    それでも国際的関心の広がりは大きくないだろうが、韓国は再びチョンボをする可能性が高い。
    そのたびに、世界に韓国の非道さと異常性をアピールし、理解を広げ、かつ深めていく地道な活動が重要。
    このためには、政府だけでなく民間の活動も重要。
    例えば、「東海」問題も、国際機関からの要請で協議が始まると、政府のできることは非常に限られる。
    ここは、民間の団体や個人が世界に韓国の非道さと無法性を知らせていく活動が重要。

  • 情報を小出しにすれば
    各国の軍事系月刊誌に
    毎月記事が掲載されますよね
    半年も掲載され続ければ
    色々理解されるのではないでしょうか

  •  独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。

     日本政府が、レーダー照射事件を引き延ばしている件(?)について、
    次のような仮説を立ててみました。それは
    「万が一、日韓断交(?)にでもなった場合、それによって経済的損害
    を受けた日本企業から日本政府への抗議を封じ込めるため」というもの
    です。つまり、対応するための時間を稼いだのだから、その間に何もし
    なかった企業が悪いということです。(それでも、被害を受けた企業は
    一般の日本国民の共感を得られるかどうかは別にして、政府を非難して
    それに野党や日本マスコミ村も同調するでしょう)

     駄文にて失礼しました。

    • 以前、我も我もで企業が中国進出という時代に、「中国は共産国だよ。なにが起こるか判らないのにね。」って思っていました。

      案の定、共産党主導で「反日活動」があり、進出していた日本企業は大きな被害を被りました。いうところのチャイナリスクです。
      でも、大企業は海外進出の際、そのリスクを調査し、折り込んでいたと思います。(それだけの力があるはずですから)

      今回の韓国の問題も、彼の国の政治や国民性、反日教育などを見れば、大企業であれば折り込んでいるリスクのはずです。
      日本政府が、韓国から資本引き上げのために企業に時間稼ぎをしてやっているという線は少し弱いかな。と考える次第です。

      でも、日本政府の本来の目的とは別に、現地日本企業のために時間稼ぎができるのであれば、経済としてはOKですけどね。

      •  独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。

         私の心配は、(韓国に進出している)日本企業が、リスクに対応するた
        めのマニュアルは整備しているのですが、それで安心して実際には機能し
        ない恐れがあるのではないか、ということです。

         駄文にて失礼しました。

  • 上兵は謀を伐つ。今のところは贔屓目でそう捉えることは可能だね。慰安婦、徴用工ときて併合は不法、協定は無効という敵の謀をどのように潰すのが効果的かを考えればこうなる式のイメージが湧いてくるわな。だが、策士策に溺れなければいいがな。いま、ロシアと関わる時なのかね。エネルギーの分散は見落とし、感覚、感覚を鈍らせる。戦国時代の武将はどう考えたかね。城を攻めるのは必ずしも下策ではない。企業に知らせるよりもヒアリングを掛ければ勝手に意図を汲むはずだよ。どうしたいのか?思い知らせるということだわな。

  • 小出し作戦にするのは当たり前ですね。証拠を一度に全部出してぐうの音も出せないようにしても韓国は謝罪しない。そもそも謝罪という行為は相手がまともであることが前提。日本は韓国をまともな国家とみなしていない。この韓国自ら信用を無くすように仕向けて自滅させる作戦は、勿論、国内政治にも活かせる。例えば、ずっと無口の大五郎を決め込んでいたエダノンが散々叩かれた挙句に苦し紛れに、当方に理があると言い出す始末だ。こんな「オイシイ」ネタをみすみす無駄に使うアホでは日本を任せられない。八カ国に対抗して10カ国語というバカバカしさにバカバカしさで返すノリがまたいいね。関西のナンボでも出せまっせだね。そして見物人の賑わいの中、韓国が半泣きになった頃合いを見計らって、「よっしゃ、わかった、どーしても出せっちゅうんやな、しゃーないなぁ」で、レーダー照射の詳細情報を出せばいい。ロイヤルストレートフラッシュ揃えた者だけが出来るポーカーと同じ。

  • いつも更新楽しみにしております。

    月間Hanadaの2月号でしたかで、文大統領が主敵とみなしているのは日本や米国ではなくて、韓国内の西側協調派との論説が載っており深く頷いた記憶があります。日米を切って北と一緒になりたい文大統領は国内の西側協調派を恐れて最後の一線を踏み切れないでいるが、日米が強硬な姿勢に出ると、北側につかざるを得ない国際環境となり、むしろ好都合だと考えているのではないか、という趣旨ではなかったかと思います。貴ブログの説と合わせると、大変説得力のある説明になるように思います。安倍政権の姿勢は、向こうさんもいずれ旗幟鮮明にするだろうけどそれまでは断交などといって背中は押してあげないよ、ということでしょうか。併せて、国内や国際社会に対してしっかりアピールするという、向こうさんから見ると嫌がらせ以外の何物でもないような姿勢で徹底しており、なんとも頼もしい限りです。
    面白いのは、私の周りでも韓国許せん!という声が、これまで日韓友好の大事さとか韓流とか言ってた人から聞こえてくるのに対して、嫌韓よりの発言をしていた人が、韓国は元からあんな国だから熱くなるなよというような発言をしていることです。

    今後も楽しみにしております。

  • 更新ありがとうございます。

    韓国のレーダー照射事件を10か国語で翻訳して配信とか、或いはもっと別の角度からの切り口で事件の証拠を出すとかは、是非やって欲しいですね。小出しで結構。時間稼いで下さい。

    その度に嘘をつきまくり、今みたいにこんがらがって、辻褄の合わない事になり、最後は『とにかく日本が悪いんだ!』ってテレビでよく言ってる作家の女性みたいになりそうです。名前忘れました。安倍首相大嫌いな小太りの方。

    もう、いずれにしても破綻寸前の国家の韓国ですが、この哨戒機レーダー照射事件、嘘徴用工事件偽売春婦など一連の韓国の日本を貶める行動、懲らしめてやらないとまた直ぐ息を吹き返す。

    日本から懲罰を喰らってもまたやりそうだが、もう安倍内閣総理大臣や菅官房長官、河野外務大臣らの気が休まらない暗い顔は気の毒だ。我々も我慢の限界。できれば28日までに発表を!

  • 今までの日本は「韓国がおかしな事を言っていても、世界の人達は日本と同様に「おかしい」と感じてくれるだろう」と言う前提で、「時間の無駄だから」と、韓国を甘やかしてきていたように思います。
    言い換えれば「子供のした事だからしょうがない。大目に見て上げますよ」という扱いをしてきていました。
     
    しかし、現実はそうではなく。
    「韓国が嘘つき国家である」「韓国の民主主義は未成熟である」と言う事を他国と共有出来ておらず、
    そのせいで、「まともな国家が主張している事なのだから本当なのだろう(まさか、こんな稚拙な嘘を国家が言うわけがないだろう)」と、国際社会が韓国のいい分を認めてしまってきたわけです。
    日本が今やるべき事は「韓国が嘘つき国家である」「韓国の民主主義は未成熟である」ことと、「日本が甘やかしてきた結果、韓国は、甘やかされた子供同様の、わがままな国家になってしまった」こと。
    この3点を、きちんと国際社会と、前提として共有する事だと思うのです。
     
    世界とそのような認識を共有したあとに、あらためて、
    「まともに相手するだけ時間の無駄だから適当にあしらう」という、
    これまでと同じ対応をすれば良いかと思います。

    • 世界にマトモな国家なんて有りません
      欧米も他よりは、抜きん出ていますが
      一般市民のレベルの低さは、想像を絶します
      訪日出来る様な外国人は、社会の"上澄み"なんですよ
      ソレで、あのレベルです

  • 今となっては証拠の小出しは正解のような気がする。
    もはやどんな証拠を出しても韓国は自分たちのやっとを認めはしないだろうから。
    証拠を一つ出す毎に韓国が嘘をつき、矛盾を作って行って、自縄自縛にしていく方が良い。
    一機に全部出せば、とりあえずはそれらに対する矛盾は無くした言い訳を考えるだろうから。
    韓国の哨戒機は通常もっと低空で飛行することも傍証として後からでも出せるし、自己矛盾を積み重ねさせたほうが良い。
    何しろ、周波数データの共同検証を提案しても不可欠な韓国側データ提出を拒むのだから韓国から見たスモーキングガンの証拠は存在しないから。

    • 証拠の小出し、賛成です。10か国語云々は良くやったと思いますよ。今までなら アホラシ、相手にせんとこ!で終わっていたのでは? こうなったら徹底的に しつこく噛みついて 相手の神経を参らせてほしいです。とにかく しつこく、何度も すっぽんのごとく食いつく。どうせ10か国語で発信しても世界中の人たちは興味もあまりないでしょ。それでいいと思います。殊相手が韓国なら、ぐうの根も出ないほどにやってほしい!かの国の人と同じ感情的な意見でごめんなさい。それくらいここ数か月憤ってます。

  • >戦力の逐次投入
    情報戦の相手が韓国では無く、米国だからだと思います
    米国が仲裁に持ち込めなくなる状態にまで持って行く為の戦略だと思います
    既に、現在の状況でも米国が日韓の仲裁に入って、
    少しでも韓国に有利な裁定を行ったら、日本が反米に成りかねません
    ココまでに状況を持って来た現政権の戦略だと思います

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