「世界よ、これが中国だ」 中国、ロシアとどう付き合うか
当ウェブサイト『新宿会計士の政治経済評論』の主催者である私は、別に外交官でも政治家でもありませんし、国際政治学者でもありません。ただのビジネスマンです。しかし、国が人間の集合体である以上、外交というものは人間関係の延長で理解できるというのが私の持論であり、その意味からすれば、むしろ一般のビジネスマンとしての感覚こそ、外交を議論するうえで役に立つのではないかと考えています。本稿では昨日の『外交とは、人間関係の延長 「価値」と「利益」で理解すべき』の具体例として、日本の周辺にある無法国家2つを例に挙げてみたいと思います。
目次
日本の周囲は無法地帯
昨日、当ウェブサイト『新宿会計士の政治経済評論』には『外交とは、人間関係の延長 「価値」と「利益」で理解すべき』という記事を掲載しました。
この記事は私が以前から考えている「外交をどう考えるべきか」というテーマを集約したものです。簡単に言えば、次のような考え方です。
- 国も人間の集合体である以上、外交も人間関係の考え方から大きく逸脱するものではない
- 国同士が仲良くするためには、「基本的価値」と「戦略的利益」という2つの判断軸が存在する
- 「戦略的利益」は「国益のことを考えたらその国と付き合うべき」という判断軸である
- 「基本的価値」は「国益」という利害関係を越えて、国としての存在理由に関わる判断軸である
この見方が正しいかどうかの判断は読者の皆様にお任せしたいと思うのですが、さっそく、その具体的な事例が出て来ました。
簡単にいえば、日本の周辺にある国は、いずれも日本が大切にしている「法治主義」、「平和主義」などの考え方を踏みにじる国ばかりだ、ということです。
世界よ、これが中国だ
気に入らないから「死刑判決」?
まず、私たちの隣国・中国では、麻薬密輸罪に問われたカナダ人に対する再審で死刑判決が下されました。本件については日本語の報道もいくつか出ているのですが、ここでは敢えて「米国がどう見ているか」という視点で、米WSJの報道を眺めておきましょう。
Chinese Court Sentences Canadian National to Death for Drug Crimes in Retrial(米国時間2019/01/14(月) 18:42付=日本時間2019/01/15(火) 08:42付 WSJより)
WSJは記事の冒頭で、本件を巡り、中国・華為(ファーウェイ)を巡る米中間のいさかいと関連付けています。
もちろん、中国で逮捕されたカナダ人が麻薬密輸に本当に関わっていて、中国の刑法に従い死刑に値する行為をしていたというのならば、「同情の余地はない」という見方があるのも事実でしょう。
しかし、WSJによると、4年前に中国で逮捕されたカナダ人のロバート・シェレンバーグ氏(36)を巡り、2ヵ月前の刑事訴訟では「懲役15年」が申し渡されていたということであり、これが今回の判決で死刑という極刑に引き上げられたことは、非常に不自然でもあります。
このことから、今回の判決は、昨年、ファーウェイCFOの孟晩舟(もう・ばんしゅう、Meng Wanzhou)氏がカナダで拘束されたことに対する意趣返しとして、中国当局が複数のカナダ市民を拘束していることと関連付けて理解するのが自然な発想でしょう(※孟氏は現在保釈中)。
実際、WSJによれば、こうした「中国による報復説」は、「西側諸国の法律の専門家」の間では常識になっているとしており、背後には、ファーウェイによる「データ窃盗疑惑」を巡って、米国が中国と全面対決の姿勢を取っていることがある影響していると考えられているようです。
自分で自分の首を絞める行為
ただ、ある意味で中国の反応は非常にわかりやすいものです。
中国当局は孟氏がカナダで拘束されて以来、複数のカナダ人を中国国内で拘束しており、これに加えて、カナダ人に対して死刑判決を下したことで、カナダ政府を揺さぶる意思が明らかだからです。
ただ、中国が外交下手だと感じるのも、この点でしょう。なぜなら、そんなことをしたら、カナダを含めた西側諸国から見て、中国が「気に入らないことがあれば法を捻じ曲げてでも報復する国だ」、と、ますます警戒されるだけだからです。
実際、先ほどのWSJの記事でも、「孟氏の拘束以来、中国政府はカナダに対し、報復を示唆していた “Following Ms. Meng’s arrest, China threatened Canada with consequences.” 」と記載していますが、これが事実かどうかは別として、欧米諸国の共通認識となりつつあるのです。
こうしたなかで、WSJには「ファイブアイズ」(the Five Eyes)という単語が出て来ます。これは、米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5ヵ国のことですが、WSJはこの「ファイブアイズ」が中国の通信会社に対する監視を強めていると明示しています。
このあたり、中国にやたらと配慮する日本のメディアの報道だと、その緊迫感が伝わり辛い気がします。
これに加えて、先日、当ウェブサイトでは『無法国家・中国への渡航を警告した米国政府を日本政府も見習え』でお伝えしたとおり、米国は中国への渡航の警戒レベルを「レベル2」としたうえで、「中国では外国人が政治的な理由で拘束される」と名指しで批判しています。
China Travel Advisory / China – Level 2: Excercise Increased Caution(2019/01/04付 米国務省 Travel Advisoryより)
リンク先の記載の要点は、次のとおりです。
- Exercise increased caution in China due to arbitrary enforcement of local laws as well as special restrictions on dual U.S.-Chinese nationals.(中国では国内法を恣意的に適用したり、米中二重国籍者に対する特別な規制がかけられたりしているため、通常時と比べ一層の注意が必要である。)
- Chinese authorities have asserted broad authority to prohibit U.S. citizens from leaving China by using ‘exit bans,’ sometimes keeping U.S. citizens in China for years.(中国の当局者は米国市民に対し、「出国禁止規制」などを使って中国国外への出国を禁止することもあり、ときどき、米国市民が何年も中国国外に出られないことがある。)
- China uses exit bans coercively:(次のような事例で中国への出国規制がかけられることがある)
- to compel U.S. citizens to participate in Chinese government investigations(米国市民に対し中国政府の捜査協力を強要するため)
- to lure individuals back to China from abroad(海外から中国の個人を呼び戻すため)
- to aid Chinese authorities in resolving civil disputes in favor of Chinese parties(中国の民間人との民事紛争を解決するのを中国当局が支援するため)
こうした警告が出て来ること自体、中国が「法治主義」と無縁の国である証拠でしょう。
ロシアと「反安倍」界隈
ロシア外相が「北方領土」名称変更を要求
一方、日本の隣にはもう1つ、民主主義国家の体をなしていない国があります。
ロシアです。
このロシアのラヴロフ外相は14日、モスクワで河野太郎外相との会談後に、記者団に対して「南クリル諸島(※北方領土のこと)の主権がロシアに帰属していることを認める必要がある」などと述べたのだとか。
ロシア外相:領土問題巡り日本と「著しい相違」がある-外相会談後(2019年1月15日 1:23 JST付 Bloombergより)
ブルームバーグによると、ラヴロフ外相はこうした認識について、「これはロシアの根本的な立場であり、この方向へ一歩を踏み出さない限り、これ以外の問題に対して前進を見込むことは非常に厳しい」と述べたということです。
また、共同通信はラヴロフ外相が「北方領土」という名称自体の変更も求めて来たと報じています。
ロシア外相、主権容認を要求/「北方領土」名称変更も迫る(2019/1/14 22:40付 共同通信より)
共同通信によると、ラヴロフ氏は「第2次大戦の結果を日本が認めない限り、平和条約締結交渉の進展は困難」としたうえで、「日本が国内法で『北方領土』と規定していることは受け入れられない」と述べたのだとか。
そのうえで、ラヴロフ氏はサハリン州と北海道の間でのビザなし往来実現を提案するなど、日露両国間の査証制度撤廃を要求しているのだそうです。
何でも「反安倍」につなげるチャンス!
これについて、ツイッターなどの反応を見ていると、「安倍(総理)は一言も領土問題を語っていない」だの、「北方領土問題は決着がついちゃったね」だの、安倍政権に対してやたらと批判的なツイートがたくさん流れているようです。
ただし、ツイート主さんのご経歴を拝読すると、朝日新聞社の元関係者だったり、「反安倍」界隈の人だったりしますので、これが「日本国民全体の反応だ」と見るべきではないでしょう。
もっとも、私たち一般の日本国民から見て、安倍総理の対応には、「2島返還で決着を付けようとしているのではないか」、「北方領土返還交渉を諦めるとでも言い出すのではないか」、などの懸念があることも事実でしょう。
しかし、本件については短絡的に考えるべきではありません。
実は、「南クリル諸島は第二次世界大戦の結果、ロシア領になった」という発言を引き出したこと自体、日本の外交がロシアにとって苦慮するものである証拠でもあるからです。
ロシアに言わせれば、千島列島(ロシア語で「クリル諸島」)は、本来、一体のものだったはずです。それを、わざわざ「南クリル」と呼んでいることは、千島列島全体に対する領有権主張にはかなりの無理があるという事実を、ロシアが理解している証拠でもあるのです。
すべては国内問題
ロシアの焦りは日中関係と関わる
いずれにせよ、「反安倍界隈」の人たちは、安倍政権が何をやっても、とにかく「安倍批判」につなげるチャンスとしか考えていないように見えます。
たとえば、中国との関係を巡っては、本来、私たちが議論しなければならないのは、「どうやって中国の海洋進出を防ぐか」、「どうやって中国に国際法を守らせるか」という議論であって、日中友好そのものを自己目的化することではありません。
また、ロシアとの関係を巡っても、本来、私たちが議論しなければならないのは、「私たちの固有の領土をどうやって取り返すか」という点であり、「安倍が北方領土を諦めた」だの、「ロシアに屈した」だのと大騒ぎすることではないはずです。
この点、安倍政権の外交はなかなか巧みです。
安倍総理は昨年秋に中国を訪問。安倍政権発足以来、日中関係は(見た目は)最も良好になりましたが、ロシアが急に日本に対して強硬な発言をし始めたのは、おそらく日中両国の関係改善が明らかになりつつあるからではないでしょうか?
日本としては、基本的に中国とロシアを同時に敵に回すべきではありませんし、うまく両国を牽制し、可能ならば、両国が利害対立する状況を煽り、利用するくらいの狡猾さを身に着けるべきでしょう。
重要なのはロシアが領土放棄せざるを得ない状況を作ること
ただ、実は私自身も、安倍総理が在任中に北方領土問題を解決しようと急いでいるように見えることについては、深く危惧しています。
ロシアとの平和友好条約が成立するならば、それはそれで良い話ではありますが、「あらゆる犠牲を払ってまでそれをする」というものではありません。どんな国との関係を議論する時も、必ず「国益」が先に来るからです。
正直、私自身、北方領土問題については「棚上げ」が一番マシな選択肢だと考えています。
ロシアの理屈では、「この領土は戦争によってロシアが獲得した領土である」というものであり、ロシアがその考え方を捨てない限りは、日本としては、
- ①ロシアが考え方を捨てない以上、日本はロシアの言い分を呑んで北方領土を諦める
- ②ロシアが考え方を捨てない以上、日本はロシアに戦争を仕掛けて領土を奪い返す
のどちらかしか選択肢がないからです。
しかし、これらはあくまでも「ロシアが領土に関する自説を曲げない場合」の発想です。言い換えれば、ここでもう1つ、
- ③ロシアに「戦争によって獲得した領土」という考え方を捨てさせる
という選択肢もあるのではないでしょうか?
このように考えていくと、北方領土が日本に返ってこない根源的な問題点に行き着きます。それは、「戦争放棄」という日本国憲法です。
もっと言いましょう。
ロシアから見て、日本が絶対にロシアと交戦状態にならないというのは、とても安心感があります。ロシアとしては、日本に対しいくら挑発をしても、憲法の制約上、日本はロシアに手出しできないからです。
ということは、北方領土問題の前に、まずは「国民を守らない欠陥憲法」をどうにかすることの方が先ではないでしょうか?
何より、ロシア経済は石油との関連が強すぎますし、経済的に見ればこれといった産業もなく、国内の高齢化も進んでいます。いわば、放っておけばジリ貧になる国でもあります。日本がこうしたロシアの窮状を逆手に取らない手はありません。
そして、日本が憲法を改正し、現在の日米同盟を「アジア版NATO」に拡大するなどして国防態勢を整えたうえで、ロシアとの間で最低限、軍事的な衝突を防ぐ枠組みを構築し、領土問題と平和条約については先送りにしつつ、ロシアの衰退を待つ、というのが現実的な対処法ではないでしょうか?
そのことを、私は改めて申し上げておきたいと思います。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
北方領土については、過去の外務省の対応ミスが本当に痛いですね。
ゴルバチョフ時代に金で解決できる絶好の機会を逃してしまいましたよね。
ロシアにとってオホーツク海は軍事戦略上手放せない海域ですから
今後も解決するのかどうか・・・。
まあ、「ロシアとの平和条約」ってそもそも存在価値があるのかどうかも疑問なんですけどねw
ロシアとは、まあ殺し合っていなければ、非常に良好な関係にあるというレベルで考えていた方が無難。
ロシアの極東管区とシベリア管区はロシア衰退と並行して中国に食われそう。
中国の人口圧力は凄まじい。
日本はそれまで棚上げできるのか。
先日、個人的にモンゴル共和国と親密になりたいと申し上げたのは
対中国、ロシア戦略の一環でもあります。
ロシアのカムチャッカ地方の少数民族やロシア連邦内自治州や共和国と
交流を増やすことはできないものか。
戦前ですけど、ロシア帝国が倒れたとき、極東共和国という国がシベリアの端に出来ました。すぐにソ連軍に潰されましたけど、この極東共和国が復活すれば、第2の満洲国として日本が実質的に千島列島を丸ごと所有することが可能になります。まあ、夢ですけど
* 更新ありがとうございます。
* 日本にすれば、手っ取り早くロシアと中国が小競り合いでも局地紛争でも起こしてくれれば、一番良い状況ですが、最低でも片方は親日(或いは敵対国でなければ)良いです。そしてどちらも心を許せない相手である、と言うのも事実です。北方領土は100年単位で取り戻すつもりでないと。
* ところで、今の安倍政権嫌いの人、反保守の人、リベラル、左傾人は、安倍首相の書き方を「アベ」と言いますね。「アベはもう駄目だ」「アベは日本を破壊する」とか、、。せめてちゃんと漢字で書けよ!(笑)。
* 先週、『北方領土奪還』を旗印にした某ブログに安倍首相のヘイトスピーチがビッシリブログ主によって書き込まれてました。あまりに酷いので反論を送ったところ、『あなたの言ってるアベ擁護はおかしい』『アベが外交で何か実績を上げたのか。実例を言え』などと、罵詈雑言、何度も問答になりました。で、その方の目標必達は「北方領土を返せ」です(笑)。オカシイやろ(笑)。
* ほんに、日本の周りは中国、ソ連(あ、ロシアね)、韓国、北朝鮮と愚連隊国揃い。こんな中でピストル1発威嚇できないとは、そら相手に舐められます。できれば核ミサイルを持てばおとなしくなる。撃たなくとも、持ってるだけで周りは静かになります。まずは普通の武力行使ができる国への改憲です。以上。
私はロシア脅威論者なので(ロシアという国や国民やイデオロギーや体制や露軍ではなく、ただただプーチンという存在が怖い・・・黙示録の獣がいるとしたら彼でしょう)プーチンさんが存命の間はあらゆることは先送りでよろしいと思ってます。あの方に交渉で上回るとか、悪魔をペテンにかけるほうが簡単に思えます。
もし可能性があるとしたら、北方領土を返さないともう一度鳩山を総理大臣にするぞ。あるいは北方担当北方領土返還特命大臣に任命して、返還するまで永遠に派遣し続けるぞと脅せば、プーチンさんといえども震え上がって即時返還するかもしれません。
くだらねぇw 軍事力無き国に対外外交何ぞあると思うなよ 基本撤退して行く以外に何の道も無い 理屈だけでどうにかなると思うのが間違いだ