無法国家・中国への渡航を警告した米国政府を日本政府も見習え

米国務省は現地時間の3日、自国民に対し、中国に渡航する際の警告情報を更新しました。いわば、「中国では法が恣意的に適用され、出国できなくなることがある」、「中国国内の争いに巻き込まれたり、中国政府の政治的な動きに利用されたりする」といった警告です。そんなリスクがあることはかなり以前から明らかなのですが、翻ってわが国を眺めてみると、残念ながらわが国の外務省さんは、この期に及んで中国に対する警戒レベルを引き上げていません。

米国務省、中国への注意喚起「レベル2」を警告

米国の国務省(U.S. Department of State)は3日、米国民に対し、中国に旅行する際の注意喚起を行いました。

China Travel Advisory / China – Level 2: Excercise Increased Caution(2019/01/04付 米国務省 Travel Advisoryより)

記事タイトルにある “Excercise Increased Caution” とは、「通常時と比べてより一層注意してください(注意喚起レベル2)」のことです。

リンク先の記載の要点は、次のとおりです。

Exercise increased caution in China due to arbitrary enforcement of local laws as well as special restrictions on dual U.S.-Chinese nationals.(中国では国内法を恣意的に適用したり、米中二重国籍者に対する特別な規制がかけられたりしているため、通常時と比べ一層の注意が必要である。)

Chinese authorities have asserted broad authority to prohibit U.S. citizens from leaving China by using ‘exit bans,’ sometimes keeping U.S. citizens in China for years.(中国の当局者は米国市民に対し、「出国禁止規制」などを使って中国国外への出国を禁止することもあり、ときどき、米国市民が何年も中国国外に出られないことがある。)

China uses exit bans coercively:(次のような事例で中国への出国規制がかけられることがある)

  • to compel U.S. citizens to participate in Chinese government investigations(米国市民に対し中国政府の捜査協力を強要するため)
  • to lure individuals back to China from abroad(海外から中国の個人を呼び戻すため)
  • to aid Chinese authorities in resolving civil disputes in favor of Chinese parties(中国の民間人との民事紛争を解決するのを中国当局が支援するため)

とくにこの箇条書きの部分は、中国が法治国家ではないことを示す有力な証拠です。

「海外から中国の個人を呼び戻すため」とは、昨年、華為(ファーウェイ)CFOの孟晩舟(もう・ばんしゅう、Meng Wanzhou)氏がカナダで拘束されたことに対する意趣返しとして、中国当局が複数のカナダ市民を拘束した事件を指しているのでしょうか?

また、中国共産党の権力者などと癒着した中国の個人・企業が、自己のビジネスを有利に進めるため、国家権力の助けを得て米国人や日本人などを拘束するなどの嫌がらせを仕掛ける、という話は、中国ビジネスに携わる人の間では有名なチャイナ・リスクの1つです。

気に入らなければ嫌がらせをする国

米国務省の注意喚起には、まだ続きがあります。

In most cases, U.S. citizens only become aware of the exit ban when they attempt to depart China, and there is no method to find out how long the ban may continue. U.S. citizens under exit bans have been harassed and threatened.(多くの事例では、米国市民は中国を出国しようとして初めて出国できないことに気付く。そして、たいていの場合、こうした出国禁止措置がいつまで続くかを知る方法もない。出国規制を受けた米国市民は嫌がらせと脅迫を受ける。)

ほかにも、「いったん拘束されると領事との面会が制限されることもある」、「中国共産党を批判すると拘束されることもある」など、さりげなく恐ろしいことが色々と書かれています。国務省のホームページの英文はそれほど難しくないので、もし興味があれば、是非、読んでみてください。

ヒトコトでいえば、とんでもない国ですね。

法治国家の場合、なにか犯罪をした(あるいはその嫌疑がかけられた)場合でもなければ、拘束されることは絶対にありません。

そういえば、某隣国の場合も、産経新聞の記者が「大統領に対する名誉棄損」で出国禁止措置を受けたという事例がありましたが、中国も韓国も「法治主義が期待できない国」という意味では五十歩百歩なのかもしれませんね。

日本も米国を見習っては?

ちなみに米国務省がある国に渡航するかどうかを巡って注意喚起をする際、その水準は、次の4階層に分けられます。

  • レベル1:通常の注意を払ってください(Excercise normal precautions)
  • レベル2:通常時と比べてより一層注意してください(Excercise increased caution)
  • レベル3:渡航を再考してください(Reconsider travel)
  • レベル4:渡航しないでください(Do not travel)

米国は中国を「レベル2」に設定しているのですのですが(下図でいう黄色)、北朝鮮については「レベル4」(下図でいう赤色)だそうです。

この、「自国民に対して注意喚起を促す」という制度は主要国が導入しており、たとえば日本の場合も外務省の『海外安全情報』のページで次の4段階にわけて注意喚起をしています。

  • レベル1:十分注意してください
  • レベル2:不要不急の渡航は止めてください
  • レベル3:渡航は止めてください(渡航中止勧告)
  • レベル4:退避してください。渡航は止めてください(退避勧告)

しかし、日本の場合は「注意喚起」自体が出ていないケースもあるため、事実上、レベルは5階層ということです。あえて私の責任で日米の注意喚起対応表を作成すれば、次の図表のとおりでしょうか。

図表 注意喚起の日米の違い
区分米国日本
通常の注意喚起レベル1(とくになし)
通常以上の注意を促すレベル2レベル1
渡航の再考を促すレベル3レベル2
渡航禁止レベル4レベル3
退避勧告(とくになし)レベル4

(【出所】著者作成)

この点、日本の外務省の対応は非常に甘いと言わざるを得ません。というのも、中国に関しては新疆ウイグル自治区とチベット自治区を「レベル1」に設定していますが、それ以外の地域については注意喚起が出ていないからです(つまり米国でいうレベル1)。

しかし、中国では日中で何らかのトラブルが生じた際に、日本人を拘束したという事例が過去にいくつもあります。実際、菅直人元首相が2010年に尖閣諸島沖で発生した漁船衝突事件のハンドリングを間違えた際にも、日本企業の関係者4人が中国本土で拘束されたという事件が発生しています。

このあたり、日本も米国を見習う必要があるように思えてなりません。

中国と韓国は「レベル1」以上が相当

米国は中国全体を「レベル2(通常時と比べてより一層注意してください)」、北朝鮮全体を「レベル4(渡航しないでください)」に設定していますが、日本もこれに倣い、北朝鮮については「渡航を自粛してください」ではなく、「レベル4」とすべきですし、中国については「レベル1」以上が相当です。

ついでに、日本に対してレーダー照射事件や徴用工判決など、さまざまな無法行為を仕掛けてくる韓国についても、「レベル1」が相当ではないかと思います。

重ねて申し上げますが、日本の外務省の役割は、まず第一に、日本国民の利益と安全を守ることにあります。「日中友好」「日韓友好」を大切にするのは結構ですが、くれぐれも優先順位を間違えないでほしいと思う次第です。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

    

読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    韓国にはレベル3が穏当と思いますが・・・。

  2. めがねのおやじ より:

    更新ありがとうございます。

    中国はレベル2適用、韓国も2該当。北朝鮮は勿論4しかない(笑)。危ない国には、外務省はしっかり安全情報を出しなさい。ホント、まともに仕事しろよー。

  3. 韓国在住日本人 より:

     韓国で暮らしている小生としてはこの渡航注意喚起の話は悲しくもありますが、全て韓国の自業自得と考えております。実際に現地で知り合いになった韓国人の1%程度は日本人から見ると変人の領域に入りますが、その人々を除けば意外と普通です(変人というのはマナーがなってない人も含み、小生が距離を置きたいと思う人達の事です)。無論、小生が韓国語を理解することが分かっているので、小生の前で日本の悪口は差し控えているのかも知れません(何故か安倍首相の悪口はよく聞きます)。

     駄文にて失礼します

  4. 保守太郎 より:

    事なかれ主義の日本政府には無理。もし出来たら逆立ちしてあげます。

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告