韓国メディアの報道は通貨危機の危険度を知るバロメーター

金融規制の専門家という立場からは、本来、私が重視しているのは「数字」です。しかし、某隣国では資金循環統計などの基礎資料に多くの虚偽が混じっているという疑いが濃厚であり、数字を使った分析がアテになりません。こうしたなか、韓国メディアの報道を見れば、記者が肌感覚として何となく抱いている危機意識の一端を垣間見ることができます。

韓国の通貨危機の「深刻度」

最近、韓国メディアなどで「通貨危機」という単語をよく見かけるようになりました。「通貨危機」とは決して穏当な言葉ではありませんが、いわば、外貨が逃げ出して、最悪、財政や経済が破綻状態になってしまう現象です。

韓国は見た目こそ「準先進国」としてOECD加盟国の一角を占めていますが、私の分析に基づけば、外貨準備をはじめとする基礎統計はウソだらけです(このあたりについては『【準保存版】韓国の外貨準備統計のウソと通貨スワップ』で解説していますので、ご興味があればご参照ください)。

【準保存版】韓国の外貨準備統計のウソと通貨スワップ

要するに、韓国が通貨危機にあるのか、ないのかを分析しようと思っても、そもそもの統計自体がおかしいので、このあたりの判断がつかないのです。必然的に、韓国の「深刻度」を見極めるためには、統計以外の情報についてもあわせて考える必要があります。

ドンスコイ号・金の財宝事件

中央日報「通貨危機と宝船」

こうしたなか、以前、私自身がコメントを禁止されてしまった韓国メディア『中央日報』(日本語版)に、なかなか興味深い記事を発見しました。

【噴水台】通貨危機の時に出没する宝船=韓国(2018年08月01日17時04分付 中央日報日本語版より)

この記事は、前半で「日本が1930年代にアジア各国から宝物を収奪するための『金の百合作戦』を展開した」という、出所のよくわからない話から始まりますが、とにかく「韓国近海に金塊などの財宝を積んだ船が沈んでいるに違いない」、といったエピソードが紹介されています。

(※余談ですが、『金の百合作戦』なる出所不詳のエピソードを紹介する必要があるのか、よくわかりませんが、この辺りは中央日報のことなので「仕方がない」と割り切って読むべきでしょう。)

それはともかく、今回の中央日報の主張の要点は、だいたい韓国が通貨危機に見舞われるころに、財宝探査ブームが発生する、という指摘です。

金塊10トンを積載したまま群山近海で沈没したという「島丸」、1894年西海(ソヘ、黄海)で日本軍に撃沈された清国の「高升号」も探査の対象だった。高升号には銀600トンが積まれていたという説が出回った。

最近はドンスコイ号のせいで世の中が騒がしい。1905年日露戦争の時に沈没したロシアの巡洋艦だ。巷間には「150兆ウォン(約15兆円)相当の金貨・金塊が積まれている」という言葉が広がった。首をかしげるような話だ。金塊150兆ウォンだとしたら、今のレートで言えば3300トンにもなる。昨年の世界の金生産量(3160トン)よりも多い。信じられない量だ。

世相を映す鏡

この中央日報の記事にある「ドンスコイ号」とは、最近、韓国社会を震撼させた一種の投資詐欺らしく、実際、シンシアリーさんのブログにも最近、『ドンスコイ号の謎・・12万人が600億ウォンも投資した?』という形で紹介されています。

要するに、巨額の金塊を積んだ船舶が韓国の近海に沈んでいるので、それを引き揚げるためのプロジェクトのために資金を集めたというものですが、肝心の「同軍艦に莫大な財宝が積み込まれている」という点について、事業主は根拠を示していないのだとか。

別のいくつかのニュースによれば、引き揚げ作業資金を獲得するために、日本円に換算して100億円近い投資資金を集めていただの、仮想通貨を発行していただの、といった情報が見つかります。どうやらこの業者の目的は「ドンスコイ号の財宝」を目当てにする人々に対する詐欺だったようです。

奇しくも中央日報の記事は次のように締め括られています。

奇妙なことに、今回の件は景気がどん底の時に起きた。宝船探査が洪水のようにあふれた通貨危機直後のように。ふと、「経済が華やかに復活していれば…」と思ったりもする。とにかく、経済は再生させなければならない。

韓国メディアのふとした書きぶりを見れば、新聞記者も現在の韓国の経済が相当に深刻な状況にあるということを実感しているように思えるのです。

詐欺はいつでも発生するのだが…

ただし、中央日報に反論するわけではありませんが、この手の詐欺事件は、古今東西を問わず、どんな時代であっても発生します。別に「時代が厳しいから」ではなく、人間の「一攫千金を狙いたい」というよこしまな心理を突く形で、投資詐欺はどこにでもあるのです。

また、この手の投資詐欺事件を発生させた韓国のことを嘲笑するのは簡単ですが、この点については日本も人のことはいえません。実際、わが国にも仮想通貨を巡っては「ICO(Initial Coin Offering、仮想通貨の初上場)で儲けましょう」、といった投資勧誘が後を絶たないのも事実です。

しかし、私が関心を持ったのは、今回の事件は単なる投資詐欺案件であるにも関わらず、これを「通貨危機」と絡めて論じる中央日報の報道姿勢です。別に聞かれてもいないのにいきなり「通貨危機」という単語が出てくるということは、いわば、現在の韓国の状況が深刻であるという証拠でしょう。

通貨危機の発生とは?

簡単に復習しておくと、通貨危機とは、その国の通貨が売り浴びせられ、その国の企業、銀行、政府などが外国からおカネが借りられなくなることです。したがって、日本のようにそもそも外国からほとんど借金をしていない国の場合、通貨危機なるものは発生しません。

韓国の場合は、統計から確認できる数字では

  • 外債(長短合計)…128兆7050億ウォン(約13兆円)
  • その他の外国債務…148兆5330億ウォン(約15兆円)

と、少なく見積もって28兆円程度の借金を抱えています。これに対して外貨準備高は公称4000億ドル(44兆円程度)ですので、通貨危機が発生し、28兆円の借金を全額返したとしても、外貨準備のなかから十分に手当てできる計算です。

ところが、この「外貨準備高」の多くは、中央銀行の「その他の外国債権」(362兆0690億ウォン、約36兆円)に計上されているらしく、どうも内訳がよくわかりません。さらに、米国のTICレポートなどの関連統計と突合したところ、韓国が保有しているはずの有価証券は、どう考えてもこの金額に足りません。

このことから、おそらく韓国が自称する「巨額の外貨準備」の多くが、すでに不良債権化してしまっているのではないかとの疑いを、どうしても払拭することができないのです。

私の試算では、韓国の外貨準備高は多くてもせいぜい18兆~20兆円程度、下手すると5~10兆円程度しかありません。そして、通貨危機というものは、得てして突然に発生します。

トランプ政権が韓国を見放しつつあるなかで、この国の経済がいつ「突然死」しても慌てないよう、私たちも普段からリスク管理を怠らないようにしなければならないでしょう。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. りょうちん より:

    >余談ですが、『金の百合作戦』なる出所不詳のエピソード

    山下将軍が外地で集めた金塊を、運び込んだ将兵・現地人150名もろともトンネルを爆破して隠したとされる、いわゆるM資金伝説のヴァリエーションの一つです。
    別に知っていても何の得にもならない知識ですが、M資金詐欺を持ち込まれたときには役に立つかなあw

    イシマタラといい本当に韓国の方は日本の文化に興味津々ですねえ。

  2. めがねのおやじ より:

    < 更新ありがとうございます。

    < 全くオフザケが過ぎるというか、『ドンスコイ号』の金塊話など、さすが韓国人の思考回路は違いますね。その前に『日本が1930年代、アジア各国の宝物を収奪するため【金の百合作戦】を計画した』には、ぶっ飛びました(笑)。

    < 世界の財宝、稀少価値のある財産を奪っていったのは、第一にイギリスだよ。それが大英帝国の美術館に鎮座している。日本など当時は周回遅れを取り戻し、やっと列強のベスト3〜5位に入ったぐらい。

    < 嘘、捏造は得意だね。日本が欲しがったのは、まず東南アジアの油田権利、ゴム、鉄鉱石だ。国富は働いて備蓄するもの、収奪する事は頭にないよ。

    < 日本軍で【金の〜作戦】なーんて名前、ありません。【金】などはその黄金色、価値を有り難がる中国、朝鮮民族がしきりに使います。日本軍は『あ号作戦』『ろ号作戦』暗号は『ニイタカヤマノボレ』『トトト』等です。

    < ドンスコイ号の話って、韓国でも最近らしいですね。仮想通貨の詐欺事件?(笑)ドンスコイ号が沈没して110年以上。5,800トンの装甲艦に3,300トンの金塊が積めますかね。乗組員500人、燃料の石炭850トン、真水も大量に必要だ。こんな計算も出来ないからセォウル号のように横転する。

    < 韓国の外貨準備高は『4,000億ドル』(約44兆円)というなら、中央日報もわざわざ報道する必要ないでしょ。ホントは書きたいけど、廃刊、発禁処分が怖いとみる。ハッキリ言えば?『消息筋の話として、我が国の外貨準備高は500億ドルしかないという確信的報告が入った』(笑)。

    < 廃刊の前に国が破綻するわ。オメ。 以上。

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