北朝鮮復興支援に日本は積極的に関わってはならない
本日の産経ニュースに、北朝鮮核問題を「マネー」面から分析した良記事が掲載されています。こうした記事が掲載されることは非常に素晴らしい話ですが、それと同時に、日本が北朝鮮復興に「どのように関わるか」についても、見逃せない論点です。
目次
続・マネーで見た北朝鮮復興
産経ニュース、バランスのとれた「トランプ評」
ときおり、当ウェブサイトでは「マネー面から見た北朝鮮復興」というテーマで記事を掲載しています。
たとえば、6月12日の米朝首脳会談の直前には、『【昼刊】おカネから見た北朝鮮の非核化』と題する記事を掲載しました。また、『日本は北朝鮮復興に関してはむしろ「蚊帳の外」を目指せ』という記事の中では、日本国内で蔓延する「北朝鮮との国交正常化を急げ」といった議論をいくつか取り上げています。
ただ、既存のマス・メディアの報道を眺めていると、冷静な視点から、北朝鮮と戦争をするのか、和解をするのか、もし日本や米国が北朝鮮に支援を与えるならばどういう条件が整った場合なのか、等について論じた記事が、あまり見当たりません。
私などは、こうした既存メディアの議論不足にフラストレーションを感じているクチなのですが、こうしたなか、今朝の産経ニュースに興味深い分析記事が掲載されているのを発見しました。
米朝首脳会談 本当に“不発”なのか… トランプ外交はミサイルよりマネー中心のディール(2018.7.3 06:30付 産経ニュースより)
リンク先の記事は、ウェブページで5ページにも及ぶ長大なものですが、なかなか興味深い内容です。タイトルだけを読むと、「トランプ(氏)は非核化よりも商売を優先した」、といった内容なのかと勘違いしてしまいますが、そういう浅薄な記事ではありません。
むしろ、トランプ氏が主導した「初の米朝首脳会談は看板倒れに終わった」と素直に指摘したうえで、米国の思惑だけでなく、中国、G7諸国などの動きにも気を配った、非常にバランスの取れた記事となっていると思います。
なお、産経ニュースは現在のところ無料で閲覧可能ですし、リンク先の記事は長いものの読みやすいという事情もあり、当ウェブサイトでこの産経ニュースの記事を詳しく紹介するつもりはありません。ご興味があれば、リンク先の記事を直接確かめて下さい。
朝日新聞の説得力のなさ
もともと、当ウェブサイトでは「この新聞の記事のレベルが低い!」「このウェブサイトの論調がおかしい!」、といった「マス・メディア批判」を多く掲載して来ましたが、この産経ニュースの記事のように、優れている記事に対しては素直に「優れている」と申し上げるのが、ウェブ評論家としての本来の役割でもあります。
ただ、朝日新聞を含めた既存のマス・メディアに掲載される記事を眺めていると、米朝首脳会談によって「米朝両国は対話ムードに入った」、「緊張は緩和される方向になった」などと決めつけ、その具体的な道筋についてまったく議論していない、「論評」などとはとうてい呼べないような代物を、多数見かけます。
先週から何度か紹介していますが、次の朝日新聞の社説などは、その典型例です。
(社説)ミサイル防衛 陸上イージスは再考を(2018年6月27日05時00分付 朝日新聞デジタル日本語版より)
この社説のどこがおかしいかについては、昨日も『【夕刊】北朝鮮非核化の停滞は朝日新聞の主張と真逆だ』で詳しく紹介したので、ここでは繰り返しません。ここで重要な点は、朝日新聞が「米国と北朝鮮は対話局面に転じている」、「北朝鮮の脅威は低下している」と主張している、という点でしょう。
現実を見れば、北朝鮮の非核化に関する動きは遅々として進んでおらず、また、北朝鮮の復興支援の枠組みなども、まったく見えて来ません。朝日新聞はたんに「対話局面に転じたから日本も北朝鮮の危機に備えるのをやめろ」と主張しているだけで、説得力はかけらもありません。
リスク管理型外交のススメ
さて、日本が今後、朝鮮半島や中国など、大陸国家とうまく付き合っていくにはどうすれば良いか、という問題は、非常に厄介です。
インターネット上には「日韓断交」、「日朝断交」、「日中断交」などの極論を主張する意見は皆無ではありませんし、また、そうした主張が一定の理解を得ていることもまた事実です。しかし、中国、韓国、北朝鮮が気に入らないからといって、これらの国々と、今後一切の関係を遮断するというのも非現実的です。
まず、世界経済の結びつきは過去と比べて非常に強まっており、貿易の自由化は、深化することはあっても、退行することは考え辛いと思います。こうなってくると、たとえば中国を世界経済から締め出すのではなく、どうやって世界の自由貿易のルールを守らせるかを議論する方が健全です。
次に、地政学的に見れば、中国、韓国、北朝鮮は対馬海峡、東シナ海を隔てた隣国です。海洋ゴミ、環境汚染の問題もありますし、彼らが設置している原発に事故があれば、日本の安全にも大きな影響が生じます。
私自身は日本国民の1人でもありますから、日本のことを公然と侮辱する国を「好きになれ」と言われてもそれは無理であり、嫌いな国は嫌いです。しかし、「嫌いだから断交する」という発想は、冷静さを欠いていることは間違いありません。
金融規制の世界に、「リスク管理」という考え方があります。これは、簡単に言えば、巨額の損失が発生する可能性がある取引(たとえば債券、株、為替、デリバティブなどの取引)をするときに、「どんなリスクがあるか」を見極め、巨額損失が発生しないように管理する、という手法です。
国の外交も「リスク管理」の考え方で説明が付きます。近隣諸国、とくに中国や韓国、北朝鮮は、油断すると日本を騙そうとしてきますし、日本の権利を侵害し、日本の名誉を傷つけるようなことを仕掛けて来ます。
そうならないように、相手の性格を見極め、うまくお付き合いしていく、という考え方こそが、「リスク管理型外交」なのです。
北朝鮮復興巡るカネの使い方
日本の出張は本当に快適
冒頭に紹介した産経ニュースでは、北朝鮮復興や北朝鮮の核放棄を巡り、現実的にどのような問題が生じるか、という点について、冷静な議論が展開されています。こうした議論を読んでいて、気になるのは、「北朝鮮が西側諸国並みの生活水準になるために必要な投資額」について、です。
私は前職(※会社名や職種、業種については申し上げられません)で、全国各地を頻繁に出張で訪れていました。移動する手段は飛行機か新幹線が多いのですが、多くのケースは日帰りか、泊ったとしても、せいぜい1泊2日です。
この、「日帰りで頻繁に東京と地方を往復する仕事」という事例は極端すぎるかもしれませんが、それでも、私が地方出張をする中で思ったのは、少なくとも道府県庁所在地に関していえば、東京と日帰りで往復できない場所は、日本には存在しません。
いうまでもなく、新幹線という世界に冠たる高速鉄道が全国の主要都市を結んでいるからであり、また、新幹線が通っていない場所であっても、空港が各地にあって、飛行機で地方に到達できるからです。さらに、高速道路などの高規格なインフラも整っています。
地方出張をしていて、急な雨に降られた場合などでも、行く先々にコンビニエンスストアがありますし、現金がなければATMが各地にあります。このように考えていくと、日本国内は本当に便利であり、さまざまなインフラが整っているのです。
北朝鮮の脆弱なインフラ
さて、これをそのまま北朝鮮に作るためには、いったいどうすれば良いのでしょうか?
朝鮮半島全体の面積は日本の本州とほぼ同じであり、韓国の面積は北海道とほぼ同じです。ということは、北朝鮮の面積は、本州の面積から北海道の面積を引いたくらいだと考えて良いのですが、これらの地域には、現在、どんなインフラがあるのかを考えるのが手っ取り早いでしょう。
まず、道路、鉄道、港湾、水道、電気などのインフラは、今から70年以上も前、日本が第二次世界大戦に敗戦して朝鮮半島から撤退した時点のものが、ほぼそのまま残っていると考えて良いでしょう。いわば、「日帝の遺産」を食い潰して生きて来たのが、北朝鮮なのです。
逆にいえば、日本には自分自身でインフラを整え、メンテナンスする力がありますが、北朝鮮にはそのような力はありません。だからこそ、「日帝支配」から70年以上も経った現在、周辺国から食糧を恵んでもらわなければ生き永らえないほどに劣化したのでしょう。
そう考えていけば、北朝鮮の人々が、まともな生活を送れるまでのインフラを作るためには、まずは70年以上も前のインフラを修理する必要がありますが、それだけでは足りません。70年前の日本には存在しなかった、高速道路、新幹線、空港などの施設が必要であり、これらを新たに建設する必要があります。
さらに、北朝鮮が自力でこれらのインフラをメンテナンスすることができるようになるためには、人材教育も必要ですし、発電所、送電設備などを改めて作り直すことも必要です。「日帝支配」後に作られた建物は、耐久性に問題があるものも多いため、これらの修繕、建て替えも必要でしょう。
いずれにせよ、現在の北朝鮮は70年前の日本がメンテナンスされずに放置されていて、荒れるに任せた状態だと考えるとわかりやすいと思います。いっそのこと、建物や道路などをすべて取り壊し、一から作り直した方が早いのかもしれません。
以前、『日本は北朝鮮復興に関してはむしろ「蚊帳の外」を目指せ』のなかで、「北朝鮮の復興需要は今後10年間で440兆円(!)」という説を紹介したことがあります。本当に必要資金が440兆円なのかどうかは知りませんが、莫大な金額であることは間違いないでしょう。
どうやってファイナンスするのか?
では、これらの莫大な金額を、どうやって調達するのでしょうか?
一番わかりやすいのは、韓国が全額負担すべきである、とする考え方です。なぜなら、本来、北朝鮮は韓国にとって同一民族の国家であり、「北の片割れ」だからです。同じ民族である以上、同じ国家を作り、北の同胞たちを助けるのが筋合いです。
しかし、そのような原則論を申し上げたとしても、おそらく韓国に北朝鮮を統一するコストは負担できません。なぜなら、韓国自身が外貨ポジションも脆弱な国だからであり、また、重要なインフラ建設技術にもさまざまな疑問符が付く国だからです。
そうなってくれば、周辺の大国である中国か日本かロシアが北朝鮮の復興資金を負担する、という期待が高まって来ます。いや、少なくとも日本に対しては、「歴史問題への反省」という観点から、韓国側では「日本が北朝鮮復興資金を負担する」ということが、なかば当然視されていると言っても過言ではありません。
しかし、日本は1965年の日韓国交正常化時に、事実上の「賠償金」を、北朝鮮の分も含めて韓国に支払済みです。「戦後賠償」なる概念は存在しませんが、万が一、日本が北朝鮮に何らかの「賠償金」(?)を支払えと言われても、日本は「韓国からもらえ」と言えば済む話です。
それでも敢えて、もし日本が北朝鮮に何らかの支援を行うならば、次のような「3段階の支援」が妥当でしょう。
- 第1段階:北朝鮮の非核化のためのコストを日本が肩代わりすること
- 第2段階:北朝鮮に対する人道支援を行うこと
- 第3段階:北朝鮮の近代化のための投資を実施すること
第1段階は北朝鮮に対する支出ではありません。国際原子力機関(IAEA)や米軍などに対する支出です。その意味で、北朝鮮に対する「インフラ投資資金」の支出ではありません。また、第2段階は、北朝鮮に対する「お恵み」の一種です。これも「インフラ投資資金」ではありません。
第3段階になって初めて、北朝鮮のインフラ投資資金が出てくるという格好ですが、これは、「北朝鮮に対する贈与」ではありません。あくまでも「投資」です。「投資」とは、リターンが得られることを前提とした行動です。
ここで、以前も紹介した事例を再度、指摘しておきましょう。たとえば、日本の民間企業(たとえばJR東海)などが、1兆円を投じて北朝鮮に新幹線を作ったとします。この1兆円は、「北朝鮮に差し上げたおカネ」ではありません。「投資したおカネ」です。
投資した以上は、投資主にとっては、この1兆円が将来、1兆円以上になって帰ってくる必要があります。たとえば、北朝鮮で新幹線事業を運営し、毎年2000億円の利益をもたらせば、1兆円の投資元本は5年間で返って来ますし、20年間運営すれば、利益は4兆円(つまり投資額の4倍)です。
当然、投資主にとってもカネは虎の子ですから、ちゃんと採算が取れるのか、何年で投資元本が回収できるのか、そもそも建設できるのか、あるいは災害はどうなっているのか、事故があった場合にはどうするか、など、事業の不確実性については厳しくチェックする必要があります。
それだけではありません。投資とは、「相手の国がきちんと約束を守る」ということを前提にしなければ成り立ちません。
北朝鮮のような国に投資する場合、重要なのは、法的な安定性です。北朝鮮は独裁国家であり、金正恩(きん・しょうおん)の意のままに、契約がひっくり返され、せっかく新幹線を建設したのに、それを取り上げられてしまっては意味がありません。
ということは、「どうやってファイナンスするか」という論点とは、「北朝鮮がファイナンス条項を守ってくれる国であるかどうか」という問いかけとまったく同じである、ということです。
北朝鮮に必要なものとは?
そもそもインフラ整備ではない!
このように考えていくと、そもそも北朝鮮が必要としているのは、インフラ整備ではありません。きちんと法と約束を守る体制を作ることです。
北朝鮮の人々は現在、金正恩(きん・しょうおん)という恐るべき独裁者の圧政に苦しんでおり、金正恩の意向に背いた人たちは強制収容所に送られるなどの人権侵害を受けている、という話も聞きます。
そのような人々が、自由を謳歌し、平和と繁栄を手に入れるためには、インフラを整備することよりも前にやることがあります。それは、
「金正恩の排除」
です。
考えてみればわかりますが、金正恩体制こそが諸悪の根源です。核・大量破壊兵器・ミサイル・贋札・麻薬など、人類に対して仇なすような製品をせっせ、せっせと作っていますし、せっかく日本が整えてあげたインフラを70年間、食い潰してきたような体制です。
北朝鮮が契約なり、約束なりを守る国であるかどうかを判断するためには、過去の6ヵ国協議を含め、ウソをつき、核開発を続けてきたという実績を見るだけでも十分です。このように考えていけば、北朝鮮が必要としているのは、インフラ整備よりは独裁体制の除去です。
決して日本の方から動くな!
日本人拉致問題について、日本国民が納得できるように問題を解決する義務は北朝鮮側にあります。また、それらの問題が解決したとして、日本が北朝鮮の支援に乗り出すかどうかについても、「絶対に約束を守ります」と北朝鮮に約束させたうえで、その時に初めて、日本が判断すればよい話です。
北朝鮮支援については、あくまでも北朝鮮側から要請させる話であり、決して日本の方から提案してはなりません。
そのことを、改めて強く申し上げておきたいと思います。
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