米朝合意は日本が変わるための貴重なチャンス

一昨日に米朝首脳会談が行われましたが、これについて、米朝双方にとっては痛み分け、韓国にとっては独り負け、日本にとっては貴重なチャンス到来、と見ることができるでしょう。首脳会談から一昼夜明けたタイミングでもありますので、ここで私自身の考え方を改めて整理して提示しておきたいと思います。

米朝会談、現時点のまとめ

トランプ氏、民主党を盛大にディスる

一昨日の米朝首脳会談を巡っては、具体的な成果が今ひとつ見えてきません。そして、これをどう評価するかがなかなか難しいところだと思います。とくに、具体的な中身がほとんどない米朝共同声明に、ドナルド・J・トランプ米国大統領が署名した理由については、多くの論者も首をかしげているところです。

ただ、私が昨日、ツイッターを眺めていて、トランプ大統領の次のツイートを見て、「はた」と気付いたのですが、要するにトランプ氏はバラク・オバマ前大統領や民主党関係者のことが大嫌いで、「お前たちにできなかったことを俺様が実現してやったんだぞ」という姿勢なのです。

Before taking office people were assuming that we were going to War with North Korea. President Obama said that North Korea was our biggest and most dangerous problem. No longer – sleep well tonight!(2018年6月13日 19:01付 ツイッターより)

意訳すると次のとおりです。

(トランプ氏が)大統領に就任する前、人々は北朝鮮との戦争を覚悟していた。オバマ(前)大統領は北朝鮮がわが国の最大にして最も危険な問題だと主張していた。しかし、解決した。マクラを高くしてぐっすり眠れ!

もちろん、この「マクラを高くして」というのは英語の原文にはありません。私自身の意訳です。しかし、ニュアンスとしては、まさに「オバマ(前大統領)が残した最大にして最も危険な問題を、俺様が解決してやったんだぜ」と強調することで、中間選挙を控え、民主党を牽制しているのです。

ちなみに、米国では「尊敬する」という意味の “respect” に打消しの接頭語 “dis” を付した “dis-respect” という単語を「見下す」という意味で使うのだそうですが、この “dis” の部分だけを抜き出して、最近の日本語では「ディスる」と表現するようです。

この最近の表現を使うならば、「トランプ(氏)がオバマ(氏)や民主党関係者を盛大にディスった」、と述べると、ちょうどぴったりとフィットするような気がします。

「米朝首脳会談」、現時点では5つの特徴

ところで、米朝首脳会談に関する私自身の見解については、『米朝共同宣言のまとめと所感』や『【昼刊】米朝首脳会談、真の成果は「時間稼ぎ」にあり?』などの記事で、三々五々、記載しましたが、この「トランプ氏の民主党に対するディスり」を付け加えてまとめておくと、次の6項目だと思います。

  • ①米朝首脳会談の成果と呼べるものはないに等しいが、敢えて意義を述べるならば、北朝鮮の独裁者である金正恩(きん・しょうおん)を北朝鮮国外で行われる首脳会談の場に引きずり出し、かつ、共同宣言という「文書」に署名させたことにある
  • ②共同宣言では「朝鮮半島の非核化」が盛り込まれたものの、米国や日本が繰り返し求めてきた、核・大量破壊兵器のCVIDに関する記載は一切なく、その意味で日米ともに「勝利」とは言えない
  • ③一方で、共同宣言では米国による北朝鮮に対する体制保障が示唆されているものの、北朝鮮が繰り返し求めてきた国際社会からの「最大限の圧力」の解除に関する合意は一切盛り込まれておらず、その意味で北朝鮮にとっては「勝利」とは言えない
  • ④ただし、北朝鮮が核・ミサイルの開発をさらに進展させようとしたら、その瞬間、米朝合意違反となるため、この状況を日米両国から見れば、北朝鮮の動きを止め、時間を稼いだという側面がある
  • ⑤トランプ氏の記者会見などから判断すれば、米国は韓国から在韓米軍を撤収する可能性が出てきている
  • ⑥トランプ大統領が中身のない共同宣言の策定を急いだ背景には、今年秋の中間選挙を控えて、米国の有権者に対して自分の成果を強くアピールする目的があると考えられる

つまり、この合意をもって朝鮮半島の非核化と米国による北朝鮮支援が実現する、といった単純なものではない、ということです。

また、日本にとっては、トランプ氏が日本人拉致問題を金正恩に対して提起してくれたことが「勝利だ」とする見方があるのは事実ですが、こうした見方は正しくありません。「これから日本が北朝鮮と直接交渉しなければならない」という意味では、正念場はむしろこれからです。

とくに、日本が自力で北朝鮮から拉致被害者を取り戻すチャンスが巡ってきたことについては、前向きに考える必要がありますし、以前から当ウェブサイトで主張しているとおり、私たち日本国民は拉致被害者の当事者です。拉致被害者の救済は、私たち日本国民が「自分の問題」として考えなければなりません(※この点については後述します)。

北朝鮮の動きを止め、時間を稼いだのは日米の方

ただ、今回の合意に「中身がない」というのは事実ですが、冷静に考えてみると、「朝鮮半島の非核化」という「長期的な方針」で合意した以上、北朝鮮の動きは止められた、という見方もできます。

なぜなら、これから北朝鮮が少しでも核、ミサイル開発を進めようとしたら、米国にとっては「米朝合意違反」として、北朝鮮に軍事侵攻する大義名分ができるからです。その意味で、北朝鮮は、少なくともこれから1~2年の間は、核・ミサイル開発の再開ができなくなります。

いや、こっそりと核・ミサイルの研究を続けようと思えばできるのかもしれませんが、米国の軍事偵察衛星の力を甘く見ることはできません。少しでも核・ミサイルの開発に向けた動きが確認されれば、トランプ政権はただちに「はい、合意違反ね!」とばかりに、北朝鮮に軍事侵攻するかもしれません。

その意味で、「時間稼ぎ」をしたのは、むしろ日米の方だと言えるかもしれません。

とくに、日本の場合は、拉致被害者を1人残らず取り戻すのに、今から急がなければなりませんが、それと同時に国内世論を喚起して憲法を改正し、「国と国民を守るための自衛戦争ができる国」になる必要があります。

極端な話、「北朝鮮の非核化」のために日本国民の血税を使うのならば、「非核化の見返りとして北朝鮮に支援を与える」というカネの使い方ではなく、「金正恩体制を倒すために北朝鮮に戦争を仕掛けるための戦費」というカネの使い方でも構わないはずです。

もちろん、拉致被害者の年齢などを考えれば、一刻の猶予も許されませんが、それとともに、せっかく時間を稼いだのであれば、国内で「もりかけ・セクハラ・日報問題」でひたすら政府・与党の足を引っ張り続ける「国民の敵」を一掃するために、その時間を有効活用しても良いかもしれません。

韓国こそが独り負け

一番分かりやすい負け組は、韓国

一方で、米朝首脳会談を巡り、韓国国内では「ショック」が広がっているようです。韓国メディア『中央日報』(日本語版)に、昨日の早朝、掲載されたのが、次の記事です。

<米朝首脳会談>70年の敵対を乗り越えた日に韓国は「トランプショック」(2018年06月13日07時47分付 中央日報日本語版より)

中央日報の主張の要点は、次のとおりです(ただし、詳しくは直接、リンク先でご確認ください)。

  • 米朝首脳会談の共同声明では、トランプ大統領がこれまで強調してきたCVID ((「CVID」とは、「完全な、検証可能な、かつ不可逆な方法での廃棄」(Complete, Verifiable and Irreversible Dismantlement)のこと。)) の表現が抜け落ちてしまっており、両首脳はいつどのように核を廃棄して検証するのかについても、何も合意しなかった
  • トランプ大統領は記者会見で米韓連合訓練を中断するという爆弾発言をした
  • トランプ大統領は北朝鮮ミサイルエンジン試験場の閉鎖の約束を成果として見せつけたが、これはトランプ大統領が世界の指導者というより米国の有権者を意識する「政治交渉家」だという証拠だ

この3点は、いずれも非常に重要な指摘であり、たとえば日本の日本経済新聞あたりがこれを論じているのならば、非常に説得力があります。しかし、これを中央日報が堂々と議論しても、まったく説得力はありません。

とくに、中央日報は4月27日の「板門店宣言」を絶賛していたメディアです。その中央日報が

CVIDに対する金正恩委員長の確約がなかった点は韓国としては残念でならない

と主張しているのを読むと、思わず呆れ果て、開いた口が塞がらない思いがします。中央日報の記者は、自分たちがわずか2ヵ月前に何を主張していたのか、という点すら忘れてしまっているのではないでしょうか?忘れたのであれば、このご自身の社説を読んでみなさい、と言いたい気持ちでいっぱいです。

【社説】文在寅-金正恩、非核化の大長征の扉を開く(2018年04月28日14時30分付 中央日報日本語版より)

こういうのを「ダブル・スタンダード」とでもいうのでしょう。

韓国の親北派は大歓迎、保守派は慌てふためく

さて、米朝首脳会談に対しては、韓国の「保守系」とされるメディアにはさまざまな困惑が溢れているのが確認できます。中央日報の例だと、上記の解説記事以外にも、たとえば「非核化の費用負担を押し付けられる」という懸念や、「米韓軍事演習の中止」への恐怖が見て取れます。

<米朝首脳会談>トランプ大統領「非核化費用、韓国・日本が支援」(2018年06月13日09時10分付 中央日報日本語版より)
<米朝首脳会談>韓国専門家「トランプ氏、韓米訓練を罪悪視するような表現…衝撃的」(2018年06月13日10時22分付 中央日報日本語版より)
【社説】あまりにも低いレベルの合意、非核化の道は遠い=韓国(2018年06月13日14時37分付 中央日報日本語版より)

一方で、米朝首脳会談を最も「歓迎」しているメディアといえば、「韓国に存在する北朝鮮のメディア」ではないかと思ってしまうほど北朝鮮寄りの論調で知られる『ハンギョレ新聞』です。とくに、昨日掲載された次の社説を読むと、米朝首脳会談に対する期待で一色となっています。

[社説]手を取り合った金正恩・トランプ「巨大な変化」が始まる(2018-06-13 18:27付 ハンギョレ新聞日本語版より)

ハンギョレ新聞は米朝首脳会談の最も大きな成果が、共同声明に両首脳が直接署名した点にあると指摘します。

6・12朝米首脳会談の最も大きい成果は、共同声明という形で「完全な非核化と体制安全保証」の約束を盛り込み、両首脳が直接署名したものということができる。これとともに両首脳は「新しい北朝鮮と米国の関係」を樹立していくことにした。このような内容を込めた共同声明を両首脳の名前で出したことだけでも、今回の会談は成功として記録されるに値する。

この下りの前半は、私自身の見解とまったく同じです(もっとも、後半部分については「何を能天気なことを言っているのか」と呆れ果ててしまいますが…)。

このことから、米朝首脳会談を巡っては、韓国の親北派が強く歓迎していて、韓国の保守派が慌てふためいている様子が、くっきりと浮き彫りになっているのです。

ずばり、米韓同盟破棄はあるのか?

ただ、いくつかのメディアの報道を眺めていて抱いた違和感があります。それは、トランプ大統領が在韓米軍の段階的削減に言及したという情報に触れている韓国メディアの記事が、あまり見当たらなかった、という点です。

米国内のメディアでは、たとえば、昨日の日本時間午前中にウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)電子版が報じた次の記事では、在韓米軍の撤退にハッキリと言及しています。

Trump, Kim Begin New Phase of Diplomacy (米国夏時間2018/06/12(火) 19:58付=日本時間2018/06/13(水) 08:58付 WSJより)

WSJは当日のトランプ氏の発言を引用しつつ、在韓米軍撤収の可能性について、次のように指摘しています。

Mr. Trump said that reducing the number of U.S. forces in South Korea isn’t part of the negotiation, but that he would eventually like to bring home the 28,500 U.S. troops based in South Korea to save money.(トランプ氏は南朝鮮に駐留する米軍の数を減らすこと自体、今回の協議の議題ではないとしつつも、費用削減の観点から現在28,500人の米兵を少しずつ撤収させる意向を示した。)

もちろん、トランプ氏が「米韓同盟を破棄する」と明言したわけではありません。しかし、普通に考えて、トランプ氏の発言は、次のような連想を生むはずです。

  • 韓国に米軍を駐留させるのにはコストが掛かるため、費用削減の観点から、段階的に在韓米軍を撤収させるべきだ
  • →そのためには米朝対立を緩和する必要があるが、シンガポールの米朝会談で北朝鮮との緊張が緩和された
  • →よって、在韓米軍を駐留させる必要がなくなった

この三段論法に、論理的な妥当性があるかどうかは、この際、関係ありません。トランプ大統領自身が今年の中間選挙対策で有権者に説明するためのロジックとして通用していれば良いだけの話です。韓国の保守系メディアがこの「在韓米軍撤収」の可能性に触れないのは、やはり、それを恐れているからでしょう。

日本にとっては大きなチャンス

翻って、先ほども少しだけ申し上げましたが、今回の米朝首脳会談については、あくまでも考え様によっては、日本に多大なチャンスが巡ってきたともいえます。

まず、米朝共同宣言が生きている間は、北朝鮮としては大っぴらに核開発やミサイル発射実験を行うことができません。このことは事実でしょう。ということは、日本にとっては、「北朝鮮の核ミサイルが今日、明日にでも飛んでくるかもしれない」という心配を、とりあえずはしなくても良くなった、と言えなくはありません。

そうなってくれば、日本がやるべきは、「北朝鮮との拉致問題解決の交渉」ではありません。「北朝鮮を武力で脅すための体制整備」であり、もっといえば、そのために安倍政権がもっとも力を注がなければならないのは、次の3点でしょう。

  • 放送改革(例:放送法第4条第1項の改正、電波オークション制度の速やかな実施、NHKの解体…など)
  • 日本国憲法第9条第2項の無効化
  • 日本経済の体力を奪う悪法の廃止(例:消費税の税率引き上げの無期限延期など)

見方によっては、トランプ政権のおかげで、日本にも少しだけ時間的な余裕ができた、という言い方もできます。よって、消費税率の引き上げの無期限凍結などを争点に、年内に解散総選挙に打って出るのも良いかもしれません。

幸い、マス・メディアは今年も「もりかけ問題」などでは盛大な政権攻撃をしてくれましたから、「もりかけ・セクハラ・日報問題などを巡って国民の信を問う」といえば、マス・メディアの側が「解散総選挙の大義名分がない」とは言えませんし、言わせるべきではありません。

もし勢いが付けば、日本国内に巣食う反日勢力を一掃し、余裕があればパチンコ利権や朝鮮総連解体などに踏み切っても良いでしょう。そして、日本が自力で北朝鮮に軍隊を派遣し、金正恩一味を逮捕・拘束するだけの体制が整えば、それだけで金正恩は失禁し、日本に対して許しを乞うてくるかもしれません。

いずれにせよ、拉致事件の解決は軍事力を背景として行う必要があります。

米朝首脳会談は日本にとって、拉致被害者を取り戻すチャンスであるとともに、北朝鮮から「中途半端な解決」で騙され、カネをむしり取られて終わるだけとなる危機でもあります。しかし、同じ分岐点に立っているならば、日本が日本の国益を最大化するように動くべきです。

そのことを、ウェブ評論家の1人として、強く訴えかけたいと思います。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 岡山県民 より:

    いつも拝見させて頂いております。

    在韓米軍の縮小化には、朝鮮半島の非核化のためにアメリカとして先行したとの考え方はどうでしょうか?
    それによって北朝鮮にも非核化を促す。つまりボールは北朝鮮側にありますよというある意味脅迫のような一面はないでしょうか?

  2. 匿名 より:

    憲法改正とおっしゃいますが、現行の国民投票法でまともな選挙ができるのか、きちんと不正を防ぐ手だてができているのか、大変危惧しております。もっとも私は法律の専門家ではありませんので、以下皆様の参考までにウィキペディアの項目『日本国憲法の改正手続に関する法律』から関連しそうな部分を抜き出しておきます。

    投票運動
    ●選管委員や職員及び国民投票広報協議会事務局員に限定して国民投票運動を禁止する(101条)。
    ●公務員や教育者の、地位を利用した投票運動を禁止(103条)。罰則は設けないが、公務員法上の懲戒処分の対象にはなる。
    ●公務員の国民投票運動及び意見表明に関する、国家公務員法及び地方公務員法上の政治的行為に対する規制については、賛否の勧誘が不当に制約されないよう法制上の検討を行う(附則11条)。
    ●憲法改正の予備的国民投票については、その実施の有無及びその対象について検討を加える(附則12条)。
    ●テレビ・ラジオによるコマーシャルは投票日の2週間前から禁止(105条)。ただし、罰則を設けない。

  3. 謎田謎也 より:

    世間には、「北が核を放棄する見返りは、アメリカが北朝鮮を狙えるグアム等の核を放棄することだ」という論説が多いのですが、まったくの謎ロジックです。

    韓国に核が存在しないことを証明するだけで北と釣り合いが取れるはずだからです。

    もしも北を狙うアメリカの核をすべて排除することが北の核廃絶の条件として求められるのなら、韓国を狙う中国ロシアの核も同時に完全に排除されねばなりません。

    しかし、もしもそうであるなら、いったいいつ、中国とロシアが米朝に交渉の全権を委任したのでしょうね。

    マスゴミの世論誘導かも知れません。
    ご用心ご用心。

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