豊渓里廃棄報道の「茶番」と「報じ方の問題」

北朝鮮が昨日、豊渓里(ほうけいり)核実験場の坑道を「爆破して放棄する」という「茶番」を演じ、それを韓国メディアは能天気にも「非核化の第一歩」で「米朝会談にも良い影響が出るだろう」と報じました。しかし、米国のメディアはむしろ北朝鮮について突き放した見方が増えているように思えます。本日は、こうした「米韓の言論空間の温度差」がわかる記事を、いくつか紹介してみたいと思います。

豊渓里爆破という「茶番」

北朝鮮の言い分を代弁するだけのメディア

韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)に、かなりおかしな記事が出ています。

北朝鮮 核実験場を廃棄=「完全な非核化」への第一歩(2018/05/24 20:14付 聯合ニュース日本語版より)

これは、北朝鮮・豊渓里(ほうけいり)にある核実験場を北朝鮮が「廃棄する」と称していた問題で、聯合ニュースは1行目で次のように伝えています。

北朝鮮は24日、北東部の豊渓里にある核実験場の坑道を爆破し、廃棄した非核化措置の第一歩を踏み出したもので、6月12日に予定されている朝米(米朝)首脳会談にも好影響を与えるとみられる。」(下線部は引用者による加工)

正直、韓国メディアがここまで北朝鮮の言い分を垂れ流すだけだったとは、驚きです。

まず、以前から世界中の専門家らが指摘してきたとおり、豊渓里核実験場自体、すでに地盤が崩落しており、使用不可能な状況であるとされます(たとえば次のBBC日本語版やロイターなどの報道などもご参照ください)。

北朝鮮の核実験場が崩落・使用不可能に=中国科学者ら(2018年04月26日付 BBC日本語版より)
焦点:北朝鮮が破棄約束した核実験場、すでに「使用不能」か(2018年4月27日 14:09付 ロイターより)

つまり、すでに使い物にならない核実験場の坑道を、わざわざ諸外国のメディアの前で爆破して見せることで、「これで核実験場は廃棄された」と「猿芝居」を打ったのではないか、との疑いを払拭し切ることはできません。

だいいち、今回の「爆破」に立ち会ったのは外国メディア関係者だけであり、原子力の専門家もいませんし、中央日報の報道によれば、記者が持ち込もうとした放射線測定器も北朝鮮当局から没収されたのだそうです。これで「閉鎖が完了した」と断定するのは、あまりにも能天気です。

次に、聯合ニュースは、これが「非核化の措置の第一歩」だと絶賛していますが、果たしてそうでしょうか?北朝鮮が保有する核実験場は豊渓里だけであるとは限りませんし、核実験を行わなくても核開発を続けることはできます。

また、米国や日本が求めているのは、あくまでも核の「CVID」(完全な、検証可能な、かつ不可逆な方法での廃棄、 “Complete, Verifiable and Irreversible Dismantlement” )であって、核実験場を閉鎖しておしまい、ではありません。

さらに、6月12日に米朝首脳会談が予定されていることは確かですが、豊渓里核実験場の坑道を爆破したからといって、米国が「はいそうですか」と納得するとも思えません。聯合ニュースはいったい何を根拠に「米朝首脳会談にも好影響を与える」と判断したのでしょうか?

とにかく、この短い文章にここまでのツッコミどころが含まれるとは、なかなか貴重な記事といえます。

冷静な米国メディア

一方で、この記事を執筆している時点で、米国のメディアがこれをどう報じているのかを調べたところ、次のワシントンポスト(WP)が「北朝鮮が核実験施設を閉鎖したと主張している」、という内容の記事を掲載しています。

North Korea says it has destroyed its nuclear test site (米国夏時間2018/05/24(木) 08:06付=日本時間2018/05/24(木) 21:06付 WPより)

しかし、先ほどの聯合ニュースの記事と違って、「坑道が崩落したのは確かだ」としつつも、「今回の爆破の意図は北朝鮮が米朝首脳会談に先立って、米国との外交交渉を有利に進める狙いがあると見られる」など、非常に冷静な筆致が印象的です。

いや、聯合ニュースが前のめり過ぎるだけかもしれませんが…。

非常に気になるWSJ記事

北朝鮮、ペンス副大統領を「愚か者」

一方、韓国メディアが豊渓里廃棄で浮かれている間に、米国では、こんな記事が注目を集めています。

North Korea Threatens to Call Off Summit, Calls Pence a ‘Political Dummy’ (米国夏時間2018/05/23(水) 22:34付=日本時間2018/05/24(木) 11:34付 WSJより)

米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の記事によれば、崔善姫(さい・ぜんひ)外務副大臣(※)が国営の朝鮮中央通信を通じて、

もし6月12日の米朝首脳会談が中止されれば、米国は『核と核との対決』に直面するだろう

米国はかつて経験したことがない、そして想像すらできない悲劇に見舞われる

などと述べたのだそうです。

(※日本のメディアでは、彼女の肩書は「外務次官」となっていますが、WSJはvice minister of foreign affairsとありますので、ここでは「外務副大臣」としています。余談ですが、WSJによると彼女の人名表記は “Choe Son Hui” とありますが、「崔(さい、チェ)」は韓国では “Choi” (チョイ)と表記することが一般的です。非常に申し訳ないのですが、人名のローマ字表記では、支離滅裂な韓国方式と比べ、北朝鮮の方がはるかに分かりやすいです。)

さらに、崔副大臣はマイク・ペンス米副大統領のことを「政治的な愚か者(political dummy)」と呼んで批判。米国の出方次第では北朝鮮が米朝首脳会談の場に現れない可能性がある、ということを、強く示唆した格好となっています。

なお、この件について、日本のメディアも大々的に報じているのに、わざわざWSJの記事を引用した理由は非常に明快です。冒頭でも申し上げたとおり、「米朝の言論空間の温度差」を紹介するという目的だけでなく、WSJの記事は背景の記述が非常に充実しているからです。

たとえば、WSJでは火曜日に訪米した文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領の前で、トランプ大統領が「米朝首脳会談の可能性はフィフティ・フィフティだ」と言い放った、という話題(当ウェブサイトでは『【速報】トランプ大統領「米朝首脳会談延期もあり得る」』で既報)も紹介されています。

(※ちなみに、非常にどうでも良い話題ですが、「ホワイトハウス通信局(the White House Communcations Agency)が、まだ実施すらされてもいない米朝首脳会談の記念硬貨を製作したと発表した」のだそうですが、この話題も、私はこのWSJ記事で初めて知りました。)

そのうえで、WSJは崔副大臣の発言直前まで、トランプ大統領は米朝両国が会談実現に向けて動いていると述べた、などとしており、日本のメディアと比べたときには、WSJの取材が非常に精緻でレベルが高いものに見えてしまうのです。

米国は「譲歩ゼロ」を明言

そのWSJは記事の末尾の方で、ポンペオ長官が北朝鮮の非核化を巡り、

米国にとっても国家安全保障上の最大の優先課題だ

と述べています。そのうえでポンペオ氏は平壌(へいじょう)を訪問し、金正恩(きん・しょうおん)と会談した際、金正恩側からは経済援助の要望があったことを明らかにしつつも、今のところは北朝鮮に「譲歩する余地はゼロだ」と断言した、としています。

このあたりは日本のメディアがハッキリと報じてくれませんが、トランプ氏のツイッターやWSJ、ワシントンポスト(WP)あたりを読んでいると、米国が北朝鮮の核のCVID以外に譲歩するつもりがないことが伝わってきます。

日本のメディアは「安倍(総理)が率いる日本は北朝鮮問題で蚊帳の外に置かれている」と必死に印象操作をしているのですが、米国の姿勢を見ている限りは、現在のところ、そのような兆候は確認できません。

崔副大臣のペンス副大統領に対する批判

一方で、崔副大臣は木曜日、朝鮮中央通信に対し、ペンス副大統領が非核化をめぐってリビアに言及したことを強く批判。これについてWSJは「2011年に殺害されたカダフィの話題は北朝鮮ではタブーだ」としつつも、崔氏が次のように述べたとしています(カッコ内は引用者による意訳)。

Ms. Choe added that, if the U.S. continues to offend the North’s “goodwill,” she would tell Mr. Kim to reconsider the Singapore summit with the U.S.(崔氏はもし米国が北朝鮮の「善意」を踏みにじる行為を続けるならば、金氏に対し米国とのシンガポールでのサミットを取りやめるよう促すと付け加えた。)

私はこの下りを読んでも、「会議を取りやめるなら取りやめたら良い」としか感じません。米朝首脳会談が中止された場合、おそらくその後に来るのは、日米がガッチリと協力して、ますます北朝鮮を締め上げるという、「最大限の圧力」作戦の継続です。これに加え、韓国が「セカンダリー・サンクション」(二次制裁)の対象になる可能性もあります。

また、北朝鮮が首脳会談をボイコットした場合、米国にとっては「北朝鮮と話し合いをしようとしたが、北朝鮮が話し合いにすら応じなかった」というアリバイ作りにもなります。そうなれば、軍事的オプションを含め、なにかと政策の選択の幅が広がることも事実でしょう(といっても、米国が直ちに北朝鮮攻撃に踏み切るとは限りませんが…)。

いずれにせよ、この問題からはまだまだ目が離せない展開が続きそうです。

報じ方の問題

私は公私にわたって、米韓両国のメディアの報道に接することが多いのですが、「北朝鮮は核放棄に応じる」と素直にはしゃぐ韓国と、北の脅威が強く認識されている米国の報道の落差が、最近、ますます酷くなっているような気がします。

聯合ニュース、WP、WSJの記事を並べてみれば、こうした温度差は一目瞭然でしょう。もちろん、私はWSJやWPが絶対に正しく、聯合ニュースが絶対に間違っている、などと申し上げるつもりはありません。単に「米韓の報道には大きな温度差がある」という事実を紹介しただけのことです。

また、本日は冒頭で韓国メディア『聯合ニュース』の能天気な記事を紹介しましたが、報道の在り方が歪んでいるという点に関しては、日本のメディアも同じ、いや、もっと酷いかもしれません。

以前から当ウェブサイトでは、日本のマス・メディアの報道の在り方に疑義を呈しています。というのも、「もりかけ・セクハラ・日報問題」など、国民生活にとってはとうてい「プライオリティ」とは呼べないような話題を強引にふりまき、北朝鮮危機から国民の目を背けさせようとしているようにしか見えないこともあるからです。

ただ、日本の場合、非常に幸いなことに、インターネット言論空間が確立しつつあります。今般の北朝鮮危機においても、旧態依然とした8社のオールド・マス・メディアを無視する形で、国民レベルで日本の先行きに関する議論が進んでいるのです。

私は、このことに大いなる希望を感じています。もちろん、インターネット言論空間もまだまだ未成熟であり、フェイク・ニュースを垂れ流すウェブサイトもあるため、油断はできません。しかし、それと同時に現代はインターネット言論空間の黎明期にあるとも言えます。

当ウェブサイトとしても、できるだけ客観的で公正な議論に務めて参りたいと思います。

読者コメント一覧

  1. Strange Stranger より:

    既にご存知かとは思いますが、米朝首脳会談がお流れになったようです。ソースは産経新聞。

    http://www.sankei.com/world/news/180524/wor1805240053-n1.html

    本文を見る限り、蹴ったのは北朝鮮ではなくアメリカからだったようですが、少なくともこれで北朝鮮は制裁解除のチャンスを失ったことになりますね。

    下手に出ないといけないほど追い込まれていたはずなんですけどね。それで困るのは自国だけで、こっち(日米)は全く困らないってのに。強かなのか、アホなのか。

  2. めがねのおやじ より:

    < 毎日の更新ありがとうございます。
    < 北の隠蔽体質は全く変わりません。むしろ世界中を敵に回して、ボロを徐々に曝け出してます。嘘をつくほど、それの上書きの嘘を塗る事になる。前からですが北朝鮮にまともな話し合いは通用しませんね(南も同じや!)。
    < 茶番劇の核実験場爆破に立ち会った5か国のメディア関係者は耐被曝服も酸素マスクもヨード剤も用意されず、線量計もIAEAの専門家の立会いも拒まれ、本当に大丈夫なんでしょうか。
    < 北京ででも、早急に体の精密検査、体内の異常を調べるべきです。まさにこれは【人体実験】。爆風、砂、チリが当たり、高温を浴びたそうです。とても危険。
    < 米国もビキニ環礁、ニューメキシコ、ネバダの原爆水爆実験初期の頃、どのように人体に被害があるか分からず、多数の犠牲者を出してます。実験後の海域で泳いだ水兵は足が大きなダイコン型に異様に膨れ上がり、別の兵士は顔(頭)が大のスイカのように膨張したり、そんな画像を見た事ありませんか?実験に無防備、無知で参加した軍人は皆亡くなってますよ。もちろん米軍は公式に核による被曝が主因とは認めてませんが。
    < 北がやった事は悪意のある隠蔽工作、未使用の坑道など再開可能です。
    < 米国は譲歩ゼロ、CVID以外はあり得ない(拉致被害者解放も)。とうとう昨日、6月12日の米朝会談中止を北に届けました。それでも南北の報道の温度差は大きい。半島側は米国に不満、日本の旧式メディアでさえさすがに今日の1面に掲載してますが、これ以後の話は会計士様の昼刊(急報)のコメ欄に書かせていただきます。ただ、今すぐには無いが、北の『無礼な振る舞い』が続けば、米軍の実力行使もありえます。
    < 失礼します。

※【重要】ご注意:他サイトの文章の全文引用はお控えください!発見次第、削除します。

コメントに際しては当ウェブサイトのポリシーのページなどの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。