少し時間は早いですが本日の「夕刊」です。昨日の『【昼刊】「外貨準備高最高」なのに「日韓スワップ懇願」の謎』に続き、韓国メディアに出てきている「日韓スワップ懇願論」にツッコミを入れておきたいと思います。ついでに、野田佳彦首相(当時)、財務省の清水さん、西畠さん、藤井さん、北村さんの2011年10月における行動が、いかに常軌を逸していたかについても振り返っておきましょう。
目次
2018/05/08 17:22追記
この記事はオリジナル版を10時30分に公表していますが、その後、記事を書き足しています。書き足した部分につきましては末尾をご参照ください。
理解に苦しむ韓国の論説
コリア・ウォッチャーとしての義務?
昨日、『【昼刊】「外貨準備高最高」なのに「日韓スワップ懇願」の謎』で、韓国国内で現在、日韓通貨スワップ協定への待望論が高まっているとする話を紹介しましたが、明日の「日中韓3ヵ国首脳会談」を控えているためでしょうか、こうした話題がしつこく出てきているようです。
私が「愛読」(?)している『中央日報』(日本語版)にも、昨日から本日にかけて、「韓日スワップ」(※日韓通貨スワップ)の復活の雰囲気が「醸成されている」、「韓日スワップ復元なるか」といった論説が相次いで掲載されています。
昨日の記事と内容的には重なる部分もありますが、おかしな論説が韓国メディアに掲載されたときに、これらにツッコミを入れるのは「インターネット・コリア・ウォッチャー」の義務(?)でもあります。そこで、本日も簡単にではありますが、これらの論説についてツッコミを入れておきましょう。
「醸成されつつある日韓スワップの雰囲気」
まずはこちらの記事です。
韓経:【社説】醸成されつつある韓日通貨スワップ再開の雰囲気(2018年05月07日07時47分付 中央日報日本語版より)
中央日報が配信していますが、オリジナル記事は韓国経済新聞のものです。タイトルにある「日韓通貨スワップの雰囲気の醸成」とは、
- 韓国銀行の李柱烈(り・ちゅうれつ)総裁が訪問先のフィリピンで日本との通貨スワップ再開のために努力するなどと発言した
- 最近の南北首脳会談などをきっかけに北東アジア情勢が急変し、気流が変わったと見られるためだ
- 中国とTHAAD(高高度防衛ミサイル)問題でもめていたにも関わらず、中韓通貨スワップは昨年末に延長されたことを勘案すると、日本との通貨スワップも締結できない理由はない
といったものですが、どれも日韓スワップを再開する理由になっていません。
まず、李総裁が訪問先のフィリピンで日韓通貨スワップについて言及したことは事実ですが、フィリピン・マニラで行われた日中韓3ヵ国の財相・中央銀行総裁会議のステートメントを見ても、日韓スワップについてはヒトコトも言及されていません。
次に、最近の南北首脳会談で韓国国内では「融和ムード」が広がっていることは事実ですが、「板門店宣言」では日本が求めていた「核・大量破壊兵器のCVID」 ((CVIDとは、 “Complete, Verifiable and Irreversible Dismantlement” の略語。)) も「拉致問題の解決」も盛り込まれておらず、日本の主張に対してはゼロ回答です(『韓国も経済制裁の対象にすべき』参照)。
どうして日本の主張をまったく織り込んでくれない国に対して、通貨スワップのような支援を与える必要があるというのでしょうか?まったく意味が分かりません。
さらに、昨年、「中韓通貨スワップの延長に成功した」という記載がありますが、これは韓国側が一方的に主張しているだけの話であり、中国側からはヒトコトも「中韓通貨スワップ」についての言及はありません。これを「日本との通貨スワップが締結できない理由はない」と敷衍するには無理があるでしょう。
通貨スワップの「追憶」という珍説
さて、もう1つの記事は、今朝の中央日報に掲載された、こちらのコラムです。
【噴水台】通貨スワップの追憶…韓日スワップ復元なるか(2018年05月08日06時53分付 中央日報日本語版より)
執筆者は「ソ・ギョンホ/論説委員」と記載されていますが、「こんなものが論説委員の文章か!」と呆れる内容です。
記事では2008年の「リーマン・ショック」の際の米韓スワップを「最もドラマチックだった」としています(※余談ですが、2008年に日本が韓国に対する通貨スワップを130億ドルから300億ドルに増加したことにはヒトコトも触れられていないのも、ある意味で韓国らしい記事です)。
通貨スワップの効用、最近の新興市場諸国(アルゼンチン、ブラジル、トルコなど)の資本逃避の事例など、国際金融協力の説明が延々と続きますが、おそらく「ソ・ギョンホ」なる人物が言いたいことは、次の一文に集約されているのでしょう。
「韓国銀行の李柱烈(イ・ジュヨル)総裁が、先週、日本との通貨スワップの再開の可能性について言及した。南北首脳会談で変化した北東アジアの情勢をうまく活用すれば、感情的な争いで途切れた韓日通貨スワップを復元することは十分に可能だ。9日に東京で開かれる韓日中首脳会談と韓日首脳会談がその良い契機になればと思う。」
はて?いったいどこをどう見れば、「南北首脳会談で北東アジアの情勢が変化した」と思えるのでしょうか?少なくとも北東アジアの情勢は韓国にとって好ましい方向に変わったわけではありません。
また、日韓スワップについては「感情的な争いで途切れた」とありますが、これも認識がおかしいです。というのも、正しく表現するならば、日韓スワップ再開交渉が中断された原因は「感情的な争い」ではなく、韓国側の不法行為のためだからです。
少なくとも韓国側が
- 2015年12月の「日韓慰安婦合意」に従い、日本大使館前の慰安婦像の問題を適切に解決すること
- 2016年12月に釜山の日本総領事館前の公道上に設置された慰安婦像を撤去すること
の2点を達成しない限り、通貨スワップの交渉自体、再開することは絶対にあり得ません。
韓国の外貨不足額は1200億ドル?
では、どうして韓国はここまで必死に日韓スワップを欲しがるのでしょうか?
おそらく、韓国の外貨準備には相当のウソが混じっているからでしょう。以前、『韓国紙「韓国の外貨不足額は1200億ドル」』のなかで、韓国国内で韓国の外貨不足額が1200億ドル程度だとする記事を紹介しましたが、これは私の試算ともだいたい整合しています。
韓国の外貨準備のインチキさについては、『韓国の外貨準備の75%はウソ?』などでも議論していますので、是非、ご参照ください。
野田佳彦首相の異常行動
さて、少しだけ話題を変えて、『通貨スワップ(BSA)こそ日本外交の有力な手段』で紹介した内容を振り返っておきましょう。
日本がアジア諸国に対して提供しているスワップラインは、合計4ヵ国、407.6億ドルです(図表1、ただし、インドネシアを除く3ヵ国とは、相手国から日本に対するスワップライン(合計45億米ドル)も含まれていますが、金額的には僅少であるため、ここでは記載を省略しています)。
図表1 日本がアジア諸国に提供している通貨スワップ(BSA)
相手国 | 金額 | 交換条件 |
---|---|---|
インドネシア | 227.6億米ドル | 米ドルか日本円 |
フィリピン | 120億米ドル | 米ドルか日本円 |
シンガポール | 30億米ドル | 米ドル(※) |
タイ | 30億米ドル | 米ドル |
合計 | 407.6億米ドル |
(【出所】財務省ウェブサイト『アジア諸国との二国間通貨スワップ取極』(ただし2017年10月6日現在)や財務省報道発表等を参考に著者作成。なお、本日時点でシンガポールとのスワップは円建てのものも検討中とされている)
この金額を見てみると、野田佳彦首相(当時)が2011年10月に韓国に対して提供した「700億ドル・スワップ」の規模の異例さがよくわかります(図表2)。
図表2 野田スワップ(2011年10月19日)
区分 | 増額前 | 増額後 |
---|---|---|
円建てスワップ | 30億米ドル | 300億米ドル |
ドル建てスワップ | 100億米ドル | 400億米ドル |
合計 | 130億米ドル | 700億米ドル |
(【出所】財務省『日韓通貨スワップの総額700億ドルへの拡充について』を参考に著者作成)
この野田スワップ、それまで130億米ドル相当額だった金額を、一挙に700億米ドルにまで増額したもので、いわば、「日韓における金融協力の強化」、「金融市場の安定」、「日韓両国経済がともに安定的に成長」することを目的としたものです。
現時点でアジア4ヵ国に対するスワップ・ラインの提供額が400億ドル少々に過ぎないのに、韓国1ヵ国に対して700億ドルもの信用を供与するという行動が、いかに異常であったかがよくわかります。
しかも、財務省はこのスワップについて、「日韓両国経済の安定的成長」と述べており、あたかも日本に対してもメリットがあるかのような言い方ですが、実態はまったく違います。外貨ポジションが強い日本が外貨ポジションの弱い韓国を一方的に支援するという代物です。
では、実際に日韓両国経済は安定的に成長したのでしょうか?実態はまったく違います。それどころか、当時の李明博(り・めいはく)大統領は、日韓スワップの翌年8月に、日本領の島根県竹島に不法上陸し、天皇陛下を侮辱する発言を行っています。
私は、日韓金融協力をぶっ潰したのは韓国側による異常行動だったと見ていますが、それを支えたのが野田佳彦首相(当時)と、この財務省の職員の皆さんだったと見ています。
財務省・国際局為替市場課の清水さん(電話番号:03-3581-4111 内線2892)、西畠さん(電話番号:03-3581-4111 内線5689)、地域協力課の藤井さん(電話番号:03-3581-4111 内線2917)、北村さん(電話番号:03-3581-4111 内線5669)の4名様、もし当ウェブサイトを見ていれば、是非、当ウェブサイトのコメント欄に申し開きをしてください。
追記:韓国メディアの「歓迎」
ここから先は2018/05/08 17:22付の追記です。中央日報にこんな記事も掲載されています。
韓国メディア、韓日通貨スワップ「歓迎」…「早いほど良い」(2018年05月08日15時04分付 中央日報日本語版より)
韓国経済新聞、東亜日報、ソウル新聞など韓国メディアがこぞって「日韓通貨スワップの再開を歓迎する」と表明した、というものです。
「いえいえ、韓国銀行の総裁が勝手にそう言っただけで、日本側は何も言っていませんよ?」
とツッコミを入れたくなってしまいますが、それはさておき、ここでは東亜日報の報道を抜粋しておきましょう。
東亜日報は7日、『外交葛藤で途切れた韓日通貨スワップ、再開する時が来た』というタイトルの社説で「李総裁が『政治的問題で中断した韓日通貨スワップを金融協力次元で議論してみよう』と明らかにしたことは、適切な水準のアプローチ法だ」とし「韓日両国が感情的次元を越えて正常な協力関係に復元される時が来たという声が多い」と伝えた。
この「韓日両国に反省すべき点がある」などと平気で言い放つ韓国のメンタリティ、私自身を含めた一般の日本人には理解できない点でしょうね。
「日韓両国が感情的にこじれている」といった誤った認識は、韓国メディアに一般に見られるものですが、正しくは「日韓関係が感情的にこじれている」わけではありません。「日韓関係を一方的に韓国側が壊している」のです。この点を間違えないでください。
そして、「日韓関係を破壊した側である韓国に、『正常な経済協力』など与える必要はない」、「支援が欲しければ韓国側がきちんとした態度を取るべきだ」、というのが、日本の世論の現状ではないでしょうか?
View Comments (14)
< 夕刊の配信ありがとうございます。
< ほお~財務省国際局の皆さま、読んでますか~。異動されててもご返信下さいね~。韓国へのスワップ、130億ドルから700億ドルとは凄い思い切ったもんだ。特に日本にとって何のメリットがあったのか、そこんところヨロシク!
< しかし、この期に及んでまだ日韓スワップを言って来るとは、韓国の厚かましさはエベレスト級ですな。プライドと同じ。よほど韓国は過去の例からいって困窮しているんでしょう。ここで真面目な日本人は『○○をしてくれたら復活させてもいい』とか『他国への露骨なペナルティは日本もしない方が良い』という人物が訳知り顔で折衷案を出してくる。でも、コレには絶対にのってはいけない。特に、朝鮮、中国には。ご褒美を与えず、当初の合意通り進めろでいいと思う。勝手に困っておれ、韓国よ。
>日本との通貨スワップ再開に向け努力 韓国中銀総裁が意向表明(聯合ニュース)
たぶん今の韓国側からしてみれば、居ても立っても居られない心境なんでしょうよ(わらい
>アルゼンチン緊急利上げで政策金利40%!4年ぶり8回目のデフォルトか?
トルコ、ギリシャの政策金利も上がってますし、インドネシアの通貨もだいぶ怪しくなってきています、韓国としては何が何でも日本とスワップ結びたいのでしょうねw
文大統領が反日を控えて日本へ秋波送るのも、アメリカの利上げが本格化して間違いなく東南アジア諸国に影響出て来ている、アメリカへのドル回帰が進むほどに韓国も悪夢の再来が心配になってくるんでしょう。
今度デフォルトに陥っても、たぶんどこの国もまともには助けてくれんでしょうし。
ですから日本だけが救いの神なんですが、日本も最近は普通の隣国関係に格下げしましたし、慰安婦合意も履行していませんからね、助けたいのは財務省ぐらいでしょうが財務省自身それどころの話ではありません、韓国とスワップなどしようものなら財務省解体されかねませんよ(わらい
我々は、どうなるかニタニタしながら様子見してれば、いいんじゃないんでしょうかw
乗ってる電話番号の人達に私達も電話して納税者として過去の日韓通貨スワップのメリットと実際の効果を調べた資料とか存在するか聞いても良いんですよね?
プライドだけは高い上級公務員様ですから明日にでも電話してお聞きしますかね。
無かったら虚偽の説明をしたとして私達国民も財務省に裁判起こしても良いのかな?
むるむる 様
いつもコメントを賜り大変ありがとうございます。
財務省の役人の皆さんに電話をするのはまったく問題ありません。なぜなら、財務省自身が担当者の部署、名前、連絡先を開示しているからです。
もっとも、役所のことですから、人事異動のためにいなくなっている可能性も十分にあると思います。しかし、その場合であっても、財務省内で引継ぎが行われているはずなので、「現在の通貨スワップの担当者」と指名すれば良いでしょう。
何より、日韓通貨スワップを復活するつもりがあるのかないのか、もし復活するつもりがあるのならその理由について、問いただす権利は私たち国民ひとりひとりにあります。なぜなら私たち国民は日本の主権者だからです。
少なくとも私はそう考えています。
以上、読者コメント欄のお目汚し、大変失礼しました。引き続きご愛読ならびにお気軽なコメントを賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
あの、、、通貨スワップって当事国の政府なり中央銀行なりが相互に合意して成立するものですよね?
新聞記事に書いたら直ぐに成立するものじゃないですよね?
ご紹介頂いたかの国の記事を読んで自分の頭がおかしくなったと一瞬思いました。
まともに読んでると頭痛くなってきたり自分の思考の方に違和感感じる様になって大変なので、韓国の記事自体が最初っから逝かれていると思って読まれた方がいいですよ。
毎日韓国の記事と反応を翻訳している韓国ウォッチャーの方達でさえ精神に異常を起こしたり、メンタル維持で苦労しているので基本流し読みが一番です。
なんだよ「スワップの追憶」って
正しくは「スワップの無念」
もしくは「スワップの悪夢」
あるいは「痛恨のスワップ」
だろ?ん?ホントにもう
拙者がおもちゃ屋さんなら
「ほんとにモ~」って牛のぬいぐるみ作っちゃうぞ
いろいろ分かりやすく数字で具体的に示していただけるので過去仕出かされた矛盾を知ると皆さんと同じ思いです。そんな判断決定する人たちにも無駄に血税が使われているのかと思うと、、仕事を サボる野党の人たちにも
こんにちは。経済オンチの素人です。
今は11月下旬ですが、最近見たニュースで、
韓国は日本で1200億円のサムライボンドを売って
9月の「支払い」を乗り切ったらしいとの話を聞きました。
円ドルの換金は簡単だそうで、おかげで円安ドル高になり、
日本の輸出業者も喜んでるとかどうとか。
このブログでは5月時点での韓国の外貨不足が1200億ドルといわれており、
その額に比べると小さくて、今必要なお金をかき集めた感じです。
しかし約束を守らない館国に対して政府がスワップを拒否しても、
民間でこれやったら意味がないような?
それに必要なのは米ドルだから、他の国でドル建て債券売ればいいのにと思いますが、
どうなんでしょう。
小生はこの話を聞いたことがないです。韓国内では情報統制されているのかも知れません。なにせ、日本の株に投資をすると親日派と呼ばれるお国柄なので。
しかし、1200億円程度の債権を売却して果たして効果があったのでしょうか? もしこの話が本当なら、韓国はいつデフォルトしてもおかしくないと思われます。ここ最近外貨準備高の話が出ないのもそのためかと思う次第です。
ただ、昨今の日韓関係をみていると、日本関連のものを所持しているだけで叩かれる感があります。そのためにサムライ債を売却したとも考えられる。さらには自治体の日本製備品を国産に変えろだとか、訳の分からない話が多くなってきました。
駄文にて失礼します
韓国在住日本人さま
私が、愛読している中央日報に記事がありました。
6月22日の韓国経済新聞社コーナーです。
日本の金融機関名は書いていませんが、韓国輸出入銀行が起債しました。
みずほが、やまれず行ったのですかね?
定年碁打ち 様
情報ありがとうございます。小生が聞いたことがないのではなく、小生の見落としでした。失礼いたしました。
>円ドルの換金は簡単だそうで、おかげで円安ドル高になり
え、たったの1200億円で、円の相場が動くとか?!
南アフリカランド・円ですら一日の出来高30億ドルですよ。
かの日銀砲では一日1兆円を使ったそうですが、個人が企業会計の規模を想像しにくいのと同じで、たかだか1企業のサムライ債如きで先進国の通貨のスケールは語れません。
民間のやることは民間ですからね。
日本がパンダ債の発行を止められないのと同じ事です。
企業の起債する債券がデフォルトになっても、それはその企業がダメージを受けるだけです。
それがよりにもよって日本の大銀行だからパンダ債が問題になるわけで。
>意味がないような?
私もその様に思います。
当然、国内の銀行が取り扱ったので、株主が株主総会で
リスクが大きいと、糾弾すればいいなと考えています。
相手国の銀行は、あまり良い状況ではなさそうなので、返済できるのかな?
たぶん、他の国の金融機関は相手をしなかったのかも。