【夕刊】為替介入について理解しない中央日報の不見識
本日は「夕刊」として、韓国メディアに掲載された、きわめて非常識な「為替介入論」について取り上げてみたいと思います。
為替介入条項
韓国メディアによる非常識な「為替介入論」
韓国メディア『中央日報』(日本語版)に、なかなか良い感じで「ぶっ飛んだ」記事が掲載されています。
韓国、米国に為替操作禁止を約束?(2018年03月29日07時55分付 中央日報日本語版より)
リンク先の記事は500文字少々の短い記事ですが、前半では「米韓自由貿易協定(FTA)改正合意で為替操作禁止条項が含まれる」とするロイター報道の紹介、後半では現在の韓国政府の為替政策について触れられています。
このうちの前半部分については、米国政府関係者が「改正FTAで通貨切り下げを防ぐ内容の付属文書を入れることで米韓両国政府が合意した」と述べたというものであり、これ自体は以前から議論されていた内容でもあるので、特段の違和感はありません。
しかし、後半部分では、次のように言及されています。
「韓国は昨年10月に米財務省が発表した為替報告書で観察対象国にも指定されていた。韓国政府は、最近、外国為替市場介入内訳を公開する案も検討していたことが分かった。韓米FTA改正合意に為替操作禁止問題が含まれれば、韓国は通貨政策で身動きの幅がさらに狭まることが予想される。」(下線部は引用者による加工)
図らずも、韓国通貨当局が為替介入を常態化させていることを認めた格好です。いや、そもそも中央日報の記者は、「変動相場制の国における為替操作が悪いことだ」という当たり前のことを、まったく理解していないのです。
為替介入とは?
ここで、「為替介入」とは、一般に通貨当局(韓国の場合は韓国銀行)がマーケットに介入して、人為的に為替相場の水準を変動させることをさします。そして、為替介入には「自国通貨を安くする介入(売り介入)」と「自国通貨を高くする介入(買い介入)」があります。
為替介入の定義と種類
- 定義:通貨当局がマーケットに介入して人為的に為替相場の水準を変動させること
- 売り介入:自国通貨を安くするために、マーケットで自国通貨を売り、外国通貨を買い入れるオペ
- 買い介入:自国通貨を高くするために、マーケットで外国通貨を売り、自国通貨を買い入れるオペ
そして、この2つの為替介入については、特徴があります。まず、「買い介入」については、外貨準備の範囲内でしか行うことができません。なぜなら、一国の通貨当局といえど、勝手に外国通貨を印刷することはできないからです。手持ちの外貨準備が尽きてしまえば、買い介入をすることはできません。
一方、「売り介入」については、理論上は無制限に行うことができます。なぜなら、一国の通貨当局であれば、理論上は、無制限に自国通貨を印刷することができるからです。ただし、自国通貨の供給量が増え過ぎた場合には、インフレなどの副作用が発生してしまいます。
したがって、「売り介入」、「買い介入」ともに、無制限にできるというわけではないのです。
また、為替制度には、「固定相場制」と「変動相場制」があります。「固定相場制」(あるいは「ペッグ制」)とは、外国の通貨(米ドルやユーロなど)と自国通貨の為替レートを固定するという仕組みであり、「変動相場制」とは、為替レートを市場メカニズムにゆだねるという仕組みです。
香港の場合は香港金融管理局(HKMA)が為替相場を1米ドル=7.75~7.85香港ドルのレンジに設定しています。また、デンマークの場合はERMⅡに従い、1ユーロ=7.46038クローネを中心に、上下2.25%のレンジを設定しています。
為替操作とは?
さて、もう1つ問題になるのが、「為替操作」です。
香港やデンマークの場合は、これらのレンジから外れた時に、売り・買い介入を行っていると考えられます。ただ、香港やデンマークのケースは事前に目標レートと金融政策の方針を公表しているため、これらの国の「為替介入」は、一般に「為替操作」ではありません。
一方、変動相場制を採用している国では、基本的に為替変動はマーケット・メカニズムに委ねられているのですが、リーマン・ショックや東日本大震災などの「異常事態」が発生した場合には、為替介入が行われることがあります。
日本の場合、為替介入が行われれば、事後的に、財務省の『外国為替平衡操作の実施状況』のページで、日付と通貨と金額、売り・買いの別などが公表されます。ところが、韓国の場合、常時、為替介入が行われていて、しかもその日付、内容についてはまったく公表されていません。
冒頭に紹介した中央日報の記事で、
「韓国政府は、最近、外国為替市場介入内訳を公開する案も検討していたことが分かった」
とうい下りが出て来ますが、先進国で市場介入を公表していない方がおかしいといえます。
いずれにせよ、韓国銀行が日々、こっそりと行っている不透明な為替介入を、米国は「為替操作」(currency manipulation)と呼んで批判しています。米国財務省は為替監視レポートを年2回公表していますが、昨年10月に公表されたバージョンでは、韓国について、次のように指摘しています。
- Treasury estimates that over the four quarters through June 2017, Korea on net purchased about $5 billion of foreign exchange (0.3 percent of GDP) to limit won appreciation.(財務省の試算によれば韓国は自国通貨・ウォンの上昇を抑制するために、2017年6月までの1年間で、GDPの0.3%に相当する50億ドルの外貨を買い入れた。)
- The IMF continues to describe Korea’s current account surplus as stronger, and its exchange rate as weaker, than justified by medium-term economic fundamentals.(国際通貨基金は韓国の経常収支について、韓国の中期的な経済のファンダメンタルズから導かれる水準と比べ、経常黒字は多すぎ、為替相場は安すぎると記述している。)
- It is important that the Korean authorities act to strengthen domestic demand and avoid reverting to excessive reliance on external demand for growth.(韓国の当局者は経済成長のために外需に依存し過ぎるのではなく、内需を振興する政策に留意すべきである。)
要するに、「お前たち韓国が為替介入をしていることは、金額も含めてすべて見通しだぞ」、と警告を発しているのです。
韓国は市場経済の敵
さて、『【新春経済講座】為替介入国は市場経済の敵』でも指摘しましたが、どうやら韓国が為替介入を行う目的は、ウォン高やウォン安に誘導するためというよりは、市場のボラティリティを抑制するためだと見るべきでしょう。
そして、韓国が不自然な為替介入を繰り返していることは、なかば公然の事実です。いや、むしろ韓国の通貨当局者の間では、悪びれることもなく、「こっそり為替介入するのは当たり前でしょ?」と開き直っている節もあります。その証拠として、昨年2月の次の記事を紹介しておきましょう。
韓経:韓銀総裁「為替操作国指定・4月危機の可能性低い」(2017年02月24日13時51分付 中央日報日本語版より)
リンク先記事の中で、私が問題だと考えるのは、次の下りです。
「政府と韓銀は、韓国を為替操作国に選んだ英フィナンシャルタイムズに抗議の書簡を送るなど迅速に応している。李総裁は「(当時の)記事は明確にファクト(事実)とは距離があった」とし「為替市場の変動性が拡大する場合、市場の安定のために微細調整をするだけであり、他の目的で市場に介入するのではない」と述べた。しかし李総裁は「中国が為替操作国に指定されれば、中国の成長減速と人民元安で韓国の輸出と景気にマイナスの影響を与えることがある」と懸念を表した。」(※下線部は引用者による加工)
つまり、「市場のボラティリティを人為的に抑制し、市場機能を歪めている」ということを、中央銀行総裁自身が公言している国なのです。果たしてこのような国に、自由主義・市場主義を名乗る資格があるのでしょうか?私は大いに疑問なのです。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
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素人の質問なんですが
「為替介入」と「為替操作」の概念の違いには明確な差があるのでしょうか? グラデーションのように明確な境界は無いと考えるべき?
暴行と正当防衛のように状況で変わる?
俗に言う日銀砲とワロス砲の違いは51cm砲と9cm砲の威力の違いは別にして、堂々と撃つか後ろからこっそり撃つか(玄人にはバレバレ)なんでしょうか。
さっそくのコメント、大変ありがとうございます。
「素人の質問なんですが」とありますが、ご記載の内容は、きわめて鋭く、かつ、本質的で重要なご指摘です。あくまでも私の理解ですが、「為替介入」(currency intervention)と「為替操作」(currency manipulation)の間には、大きな違いがあります。
為替介入、為替操作はいずれも、「人為的に為替相場に影響を与えること」という点では、意味合いはよく似ています。しかし、「為替介入」はとにかく為替相場を誘導する行為全体をさすのに対し、「為替操作」には「ズルをする」というニュアンスが含まれます。
米国財務省報告書の「為替操作国」は、貿易を有利にするためにズルをして為替相場を操縦する行為をさしているようですが、別に自国通貨を安くするだけでなく、その逆に、不当に吊り上げる行為も、為替操作に該当することがあると思います。
「俗に言う日銀砲とワロス砲の違い」について、日本の場合、為替介入を行うのは日銀ではなく財務省であり、そもそも正しくありませんが、それでも為替介入を行った場合にはきちんとその日付、通貨、金額、介入の種別などを明示しています。
しかし、韓国の場合は韓国銀行が為替介入を行っているようではあるものの、その内訳については一切公表されていません。これが「韓国の為替介入は不透明であり、実質的な為替操作ではないか」と疑われる∵ではないかと思います。
引き続きご愛読およびお気軽なコメントを賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
お疲れ様です。
新宿会計士様に質問です。
通貨スワップを使用する段階になった時、その国の経済状況は崩壊状態になって場合によってはIMFなどの介入が行われるという事でしょうか?はたまた、スワップ自体が焼け石に水状態になるという事態にはならないのでしょうか? スワップに固執している国にとって保険もしくは何かの足し位になるのでしょうか?よろしくお願いいたします。
poponta 様
コメント大変ありがとうございます。
一般に通貨スワップ(BSA)を発動する局面とは、その国の通貨が売り浴びせられた場合(あるいは資本流出が発生した場合)であろうと考えられます(ちなみに通貨の売り浴びせと資本流出は経済学的にはほぼ同じ効果をもたらす現象です)。
外貨準備が十分な国であれば、わざわざスワップを引き出す必要などありません。しかし、「買い介入」は保持している外貨準備の範囲内でしか行うことができないため、外貨準備が十分ではない国の場合は、外貨準備で足りなかったときに備えて、BSAを締結する、という仕組みです。
なお、スワップ発動とIMF介入は、必ずしもイコールではありません。たとえばCMIMについては、「限度額の30%を超えて引き出す場合にはIMFが関与する(いわゆるデリンク条項)」が盛り込まれているなど、スワップを無条件に発動することができないケースもありますが、逆に発動条項に制約のないBSAもあり、「IMFに関与されたくないからBSAを締結しておく」という国もあるようです。
引き続き当ウェブサイトのご愛読ならびにお気軽なコメントを賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
このコメントをみると、いくつかの国はIMFは何か悪徳の金貸しみたいに思っているのかな。
悪徳金貸し業者とは言うより、救済の代わりに短期的な解決を目指して強制的な改革、政策を行わせるから将棋のコンピューターに近いと思う。cpuは入力されたデータからしか解決策の模索出来ないからその限界と能力がIMFだと自分は思ってます。
実際財政破綻した国にIMFが意味の無い改革、政策をする様に迫って実際に行った国で失敗の原因の一つになった事例が多々あるから批判されてるし韓国、ロシアもそんな国の一つだったりする。なおロシア人食事に困って家畜の餌や工業用アルコール飲むくらい困窮したせいで現代の不況なんて大した事ないと思ってる模様。
解説ありがとうございます。
「日銀砲」(正しくは財務省)が、当時のハゲタカどもを一掃するために
やったのは正当防衛だよなと思っていたのですが、米国債を売って米国債を買うみたいな
素人には理解しがたい論理が、金融って面白いなと当時の感想でした。
韓国の様な介入は、「無神経」なんでしょうね。