AIIB巡る時事通信の「虚報」?

本日2本目の配信です。AIIBを巡り、時事通信に少し気になる記事を見つけたので、「ツッコミ」を入れておきたいと思います。

AIIB巡る最新記事

時事通信さん、それは「軌道修正」ではないと思いますよ

今朝の時事通信に、中国が主導する国際開発銀行(MDB)である「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」を巡り、安倍総理が米メディアCNBCに対し「条件次第で参加することもある」と述べた、とする記事が掲載されています。

疑問解消ならAIIB参加も=中韓首脳と7月会談意向-安倍首相(2017/05/16-00:30付 時事通信より)

時事通信は安倍総理がCNBCに語った内容として、

首相はAIIBに関し、(1)公正なガバナンス(2)持続可能な貸し付け(3)環境や社会に対する配慮-の3点について日米で疑問を共有していると指摘。「今は運用を注視している」として引き続き推移を見守る姿勢を示し、今後の対応については「米国と緊密に連携を取り合っていきたい」と語った。

と報じていますが、この3点には何ら新しい点はありません。当ウェブサイトでも、すでに『専門家が見る、中国金融覇権の「無謀」』などで述べたとおり、安倍政権下で財相を兼任する麻生太郎副総理はAIIBについて、5月9日の衆議院金融財政委員会で次のように述べています。

  • アジアで膨大なインフラ需要が存在し、世銀やADBの資金力は足りないのも事実であり、AIIBがそれを支援することは歓迎だ
  • ただし、AIIBが(単独で)融資を行った実績はない点に注意が必要だ
  • 世銀やADB、JICAなどが貸している相手国に対し、持続可能性や環境配慮などを行わずに変な貸し付けを行い、結果的に世界に迷惑を掛けることは控えてほしい
  • 理事会もどこで開かれているのかさっぱりわからないような組織であり、まだまだ実績が不十分だ

いわば、ガバナンスも持続可能な融資体制も不十分で、さらに環境配慮も不十分だと指摘している格好であり、時事通信が報じた安倍総理のCNBCへの回答も、従来の見解から何ら踏み込んだものではありません。それなのに時事通信は、

安倍晋三首相は15日、CNBCなどのインタビューで、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加について「疑問点が解消されれば前向きに考える」と表明した。従来の慎重姿勢を修正した形だ」(太字下線は引用者による加工)

と報じています。「虚報もいい加減にしろ」、と言いたい気分です。

「安倍総理がハシゴ外しを懸念」との勝手な観測報道

昨日、時事通信はもう1本配信、勝手な観測報道も掲載しています。

「一帯一路」対応に変化も=首相側近ら派遣、米中取引を懸念(2017/05/15-22:25付 時事通信より)

こちらの記事は、事実の報道というよりは、完全に時事通信の主観に基づく分析(というか妄想)です。記事冒頭では

中国の「一帯一路」構想をめぐり、安倍政権は北京で開かれた国際フォーラムに自民党の二階俊博幹事長や安倍晋三首相側近を派遣するなど、従来の姿勢に変化を見せている。

とありますが、先ほども申し上げた通り、安倍政権のAIIBや「一帯一路構想」に対する姿勢は全くぶれていません。というのも、いずれも大型のインフラ投資に関する中国のイニシアティブであり、中国がインフラ金融の世界で派手に動けば、国際インフラ金融の世界では日本なども影響を受けざるを得ないからです。

安倍政権がAIIBや一帯一路構想などを警戒し、監視するのは当然のことであり、その意味で、自他ともに認める親中派である二階氏は一帯一路フォーラムに派遣するのには適任だったというだけのことでしょう。それなのに時事通信は、

貿易問題で対立してきた米中が手を握り、はしごを外されることへの懸念があるようだ

と述べています(これについては後述)。それだけではありません。時事通信は最初に引用した方の記事だけでなく、こちらの記事でも、

AIIBについても、首相は15日、条件付きながら参加を前向きに検討する意向を表明した

としていますが、安倍総理の発言を聞いて、「日本政府がAIIBへの参加を前向きに検討」と解釈するのは、明らかに行き過ぎでしょう。

米中交渉と日本

時事通信は、「日本が米国からハシゴを外されるのを恐れている」と述べていますが、これに関して時事通信は次のように述べています。

トランプ米政権が今後、北朝鮮問題で中国の譲歩を引き出そうとするあまり、一帯一路構想でカードを切れば、「日本は置き去りにされる」(政府関係者)との不安がある」(太字下線は引用者による加工)

時事通信さん、本当にその「政府関係者」とやらは実在するのでしょうか?(笑)

「(AIIBという)バスに乗り遅れるな!」という主張は、時事通信や朝日新聞などの「左巻きのメディア」だけでなく、日経新聞、さらには経団連などからも聞かれるものです。MDBといえば、省益や利権の臭いがプンプンします。だからといってAIIBのような怪しい組織に、日本国民の血税や日本がこれまで培ってきた貴重なインフラ金融のノウハウを献上するのは、明らかに筋違いでしょう。

もちろん、日本がAIIBに参加しない中で、米国がAIIBに参加してしまうリスクはあります。ただ、米国がAIIBに参加しようがしまいが、日本は日本独自の判断で、AIIBへの参加の可否を決めれば良いだけの話です。

明日の予告:一帯一路について触れたい

明日の当ウェブサイトでは、この「一帯一路フォーラム」について材料を集めてみたいと思います。ただ、「集めてみたい」と申し上げた理由は、現時点でそれを執筆することが可能かどうかわからないからであり、もしかして他にテーマがあれば内容を変更するかもしれません。ただ、このテーマについては深く触れておく必要があると思うため、何とか執筆したいところです。

引続き当ウェブサイトをご愛読くださいますようお願い申し上げます。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. めがねのおやじ より:

    マスコミはなぜ与党を貶める報道スタンスなのでしょう。
    普段、ADBや世銀、JICAなどはヒマネタみたいな扱いしか
    しないのに、AIIBとなると、「なぜ日米は参加しないのか」「これからはADB、世銀だけでは資金不足。中国のAIIBに乗るべきだ」みたいな論調を見受けます。または憶測で水面下では決まっているみたいなガセネタも。米国は
    様子を見てる段階、危険と思えば入らない。日本は中国主
    導というだけで、やめた方がよい。危険臭が匂います。特亜三か国とは袖も触れない程度でいいのですが、いかんせん擦り寄ってくる(笑)。

  2. 通行人 より:

    いやね、マスゴミが言う関係者って、ホントに存在してんの?って話。

    酷い時には大蔵省を取材してるだけの記者とか、その記者の親戚とかを大蔵省関係者って言うらしいからね。

    まあ、それだけマスゴミの劣化が激しいって言うことだ。

    AIIB?やめとけって言うことだ。

  3. 国際人 より:

    中々面白いブログですね。色々参考になります。ただ、少し気になったのですが、「新宿会計士」さんは中国が嫌いなのでしょうか?嫌中バイアスがかかっているあまり、少し客観性を欠いているようにも思えるのです。
    一帯一路構想は決して争いのためのものではありません。あくまでも平和的手段で地域の連携を図る構想であり、もう少し中国政府の発表をきちんと読んだ方が良いと思います。
    中国の人民は日本の人民との平和と友好を望んでいます。日本が中国嫌いのあまり亜州基礎施設投資銀行に参加しないのはアジアのためになりません

    1. ふなむし より:

      政府の言葉がそのまま実行されるのであれば、それは素晴らしいのかもしれませんね。

      なにか勘違いされてるようなので、一言言いたく、横から失礼させていただきます。

      そもそも外交は国益と国防のために行うものです。条約を結んだり、友好関係を作ろうと走り回るのはそのせいです。
      尖閣諸島、東シナ海の現状はご存じですか?
      中国が友好なんて言葉をはくこと事態信用なりません。日本は今、中国にも北朝鮮にも脅かされています。中国の拡大を防ごうとしたのは、日本の国防のためでしょう。なにも、憎くてやってる訳じゃありません。
      国益にもたいしてならない、一帯一路に参加して、友好ですか?尖閣諸島で未だに挑発を繰り返しているのに?反日教育もずっと続けていると言うのに?なんの冗談でしょう。日本は中国のためにある国ではないので、付かず離れずのご近所付き合いでお腹いっぱいです。

  4. まみあな より:

    誰か教えてください。AIIB、一帯一路、とは??

    昔日本の軍隊(日本の指導者)は同じようなこと
    を言っていたのかな????。
    その結果として植民地はなくなった、のは事実
    だが、現在の世界で何を求めているのか???
    私の考えは間違っているのかな??。

    1. porter より:

      昔の満州を生命線とか言ってた日本の愚かな指導部がいたっけ。AIIBはADBに対する当て付けだろ。一路一帯は現代版シルクロードと言いながら支那が石油を確保するためのラインを確保する構想だと思う。地図を広げてみてみればわかるがマラッカ海峡を封鎖されたら現在の支那は石油が枯渇する。(これは日本も同じだが)。支那は現在パキスタンからパイプラインを引いてマラッカ海峡を通らなくても中東の石油を入って来るようにしようとしているし、パイプラインでシベリアや黒海の石油を手に入れたいという思惑が在り在り過ぎる。こんな支那による支那のための構想に日本がカネを出す必要なし。売国奴の2Fは帰って来なければいいのに。

  5. 通行人 より:

    自称「国際人」へ。

    工作乙。「嫌中バイアス」も「客観性を欠いている」も意味不明。

    そういえば時々このブログに「嫌韓ブログだ」と批判するコメントが沸くがそれと同じ様な物。

    お前こそ客観性を欠いているぞ。

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